部屋のドアに鍵を掛けながら、シャンクスは私を降ろしてくれた。私はそれにありがとうと言ってから部屋の中を見てみる。
無駄に大きなベッドが1つと、向かい合わせに置かれたソファ席が異様な存在感を示している。けど、この世界は名のある人には大きな人も多いから仕方ないのかな。
いくつかあるドアは、恐らくお風呂とかそういった物だろう。ベッドサイドに置かれている電伝虫は見た事の無い種類で、もしかしたら船内専用の電伝虫なのかなと思いつつ視線を動かす。
冷蔵庫やら何やらが置かれているのを見て、普通に高級ホテルと変わらないのだなと思う。悪趣味な感じにはなってないだろうと思ったけど、本当に良かったわ。
窓の外に見えるのは、確かに海だけで……どうやら本当に陸から離れているらしい。だから最低3日はお楽しみいただきますって書かれていたのかと、どうでもいい事を考える。
ポットに用意されているお湯とかは問題無さそうで、私はこれならお茶くらいは飲めそうねとホッと息を吐き出した。備品として置かれている茶葉が無駄に良い物なのは、シャンクスが招待客だからなのかな?
「それにしても、ベッドひとつかぁ……。シャンクス、タオルケット1枚借りていい?」
「なァに言ってんだ。ナミは俺と寝るに決まってるだろ。……いつもそうしてきただろ」
「あれ?いいの?」
「…………あァ、ナミがいた方が安眠できるからな」
そんな風に言ってくれたシャンクスに笑ってから私は、ならとりあえずお風呂借りるわねーなんて言ってドアの奥を確認する。ドアは今入ってきたのを除いて3つ。
曇り硝子のコーナーがお風呂かな。だとしたらその手前のここが……?
そう思って開ければそこが脱衣所で、隣のドアが洗面所になっている。という事は開けてないところがトイレか。
何処かに着替えになりそうなものは無いかなと見れば、バスローブが用意されている他、ドレスとかがコインで用意されるとわかり成程と1人頷く。ならばとコインで下着を用意して貰い、その間にお風呂にお湯を溜めていく。
「……ナミは本当に自由だな。まァ良いが。なにか呑むか?」
シャンクスの手の動きでそれが酒を示していると分かれば、頷く事は出来ない。それ以前にもう少し稼ぎたかったのに……少し休んだらシャンクス付き合ってくれるかな。
「まだ流石に早いわ。寝ないで稼ぐつもりだったのに、どうしてくれようか」
「あの勢いで当てるとは思わなかった。どんな手を使ったんだ?」
「普通に回転速度と玉の投げ方と角度から何処に入るかを計算してただけよ。ルーレットは玉が投げられてからのbetだから、集中すればそれが不可能ではないのよ」
「ポーカーとかはどうだ?」
「ディーラーが好きに出来るじゃない。まぁ、やるなら勝つわよ。……あー、でも」
「ん?」
「ベックには勝てないかな。あれって運だけじゃなくて頭脳も使うし心理戦だから」
「……チェスを、ベックがまたやりたいと言ってたぞ」
「嫌よ。絶対勝てないし、疲れるんだもの」
私がべーっとやればシャンクスは可笑しそうに笑い、ベックが嘆くぞなんて言うけど、あの人とやるのはある意味拷問だから!
たまに〝勝たせてくれる〟けど、そんな勝利少しも嬉しくない。それに、こっちが真剣に必死でやってるのにベックは、余裕綽々なのよ!?
そんな会話をしていたら頼んだものが運ばれて来たので、よしよしとそれを確認してからお風呂に向かう。必要な物を抱いて、シャンクスに悪戯に笑いかけて見る。
「覗かないでよ?」
「……ん?あァ、覗く必要ねェからな」
「……?よくわかんないけど、それならいっか。後でね」
私はそう言って、持って来ていたバスグッツでゆっくりとお風呂を楽しむ。お風呂から出て、バスローブに着替えるとシャンクスが何故か頭を押さえていて……。
「頭痛い?少し寝る?」
「ん、いや良い。俺も、風呂はい……いや、止めとく」
「どうしたの?」
「……気にするな。それより、なんか食うか?」
「だから、稼ぎ足りないんだって……」
はぁと溜息を落としたら、シャンクスがニンマリと笑って1言。それにうんもすんもなく反応したのは、仕方ない事だと思う。
「俺の奢りで」
「果物食べたい」
「飯を食え飯を!っとに」
そう言いつつもシャンクスは適当に、料理と果物の盛合せを頼んでくれた。それを相変わらず優しいなと思って見ていたら、シャンクスに頭を拭かれて、その途中で化粧してないと本当に幼いななんて言われる。
どうやら化粧してる姿で随分驚かせてしまったらしい。肉体の元が良いから、ちょっとした工夫で幾らでも姿を変えられるのよね。
シャンクスが髪を整えてくれて、それに振り向いてありがとうと笑えば変わらねェなと苦笑されて、そのまま唇が降ってきて重なった。……え?
ちょっと待って!?
慌ててその肩を押してみるけどビクともしない。頭を振って逃げようとしたら簡単に抑え込まれて、より深く舌が口内を蹂躙して喉の奥まで攻め入って来る。
痛い程に吸われて、どちらのものかも分からないものが唇の隙間から零れるとシャンクスの唇が漸く離れる。そのまま逃げようとしたら零れたものを追うようにして、シャンクスの唇が顎に、喉に、胸にとゆっくりと降りて行く。
「はっ……ぁ……や、だ!止めて……シャンクス、やだぁ……!」
「最初に言ったろ。2人で楽しもうってな」
「んっ……ゃ……!私、そんなつもりじゃ……!」
「分かってる。分かってて……やってる」
その言葉を聞いて、私は分かってるならどうしてとシャンクスを見るけど、シャンクスはそれ以上語るつもりは無さそうだった。いやいやと首を振っても、シャンクスは私を軽々と抱えて無駄に大きなベッドにその身を沈めて来る。
「やだ!シャンクスなんか……!「大好きだろ。それも知ってるし、分かってる」」
バスローブが今にも脱がされるってタイミングで、ドアがノックされて食事を頼んでいた事を思い出す。シャンクスは小さく舌打ちすると、時間切れかなんて言って解放してくれた。
けど……安全な筈のシャンクスの腕が、実は安全じゃなかったのかななんて、そんな事を思う。小刻みに震える体を深呼吸して抑え込むと、運ばれて来た料理と数枚の小皿を見て、少し首を傾げる。
1人1つの料理じゃないんだ?
「……ナミ、今は襲わねェから何か腹に入れとけ。1応昼は過ぎてるからな」
「……そうなの?」
「お前ルーレット何時間やってたと思ってんだよ」
そう言われてまだ早朝だと信じてた私はてへっと笑う。それに対してシャンクスは、誤魔化されてやれねェぞなんて言いながら先にそれぞれの料理を少しずつ食べ始めた。
……どうして、そんな食べ方?
私、教えてない。シャンクスに……先に誰かが食べた物じゃないと手を出せないなんて、教えてない。
アーロンにより諸島全域が奴隷にされてたのは伝えたけど、毒とかについては1切話してないのに、どうして……?
思い返してみても、空島では食事を1緒にした記憶も無いのに。シャンクスは何を思ってそんな事を?
それでも見てるだけって訳にはいかないからと小皿等の食器に手を伸ばして、そっと臭いなどを確認しつつ毒や仕掛けが無い事を理解してから使い始めれば、シャンクスがその瞳を僅かに細めた。それは1瞬で、気のせいかなって思って見逃してしまいそうな変化だったけど……。
どこで見たのかとか、気付かれたのかは知らないけどこんな時シャンクスは普段巫山戯てるだけで本当に賢いんだって事を痛感させられる。その時突然シャンクスの声が耳に入って来た。
「……味は悪くねェな」
「え?あ、うん。そうね」
「なんだ。口に合わないか?」
考え事してたから反応が鈍かったのもあるけど、実際何か違和感があるのよね。毒とかじゃなくて……嗚呼そうか、サンジ君の料理じゃないからだ。
「何時もの食事が美味しすぎるのよ。ルフィが選んだ世界一の料理人がクルーにいるから、舌が肥えちゃったのね」
私の言葉に成程なんて言ってシャンクスは笑う。明るくて暖かなそれは、何時もの彼だ。
他愛ない会話をしながら食事を進めて、果物を切って食べていたらシャンクスは昔と同じように私の髪で遊び始めた。指に絡ませたりするそれは、相変わらず優しい瞳で見詰めながら行われている。
「シャンクスは、果物食べないの?」
「……後で残ってたら少し貰う。だがまァ……食えそうなら、全て食ってもいいぞ」
「仕方ないなぁ。はい、アーン」
ちょっとしたお巫山戯で持っていた葡萄の房から1粒摘んでシャンクスに差し出すと、シャンクスが当然のようにそれを食べて無駄に色気のある顔で私を見て来た。それにより何故か危機感が刺激されて、咄嗟に言葉を口にする。
「シャンクス、私は、ルフィの「その先は、言うな」」
ビクリと体が震えた。シャンクスの声がいつもより明らかに低い。
「……ルフィの事は可愛いし、友達だと思ってる。だがな、俺はナミを男として求めてる。俺の理性を砕くような事は言うな」
「シャン、クス……」
怖い、シャンクスが。そう思って腰を引くとシャンクスが私の顔を見て、嗤った。
即座に葡萄をお皿に戻して立ち上がったけど、シャンクスはそんな私をその場で押さえ込んで、ソファに沈めてくる。何をされてる訳でもないのに、汗が吹き出すのが分かる。
逃げなきゃ……いけないのに、そう思うし分かってるのに動けない。頚椎に歯を立てられた兎の様に、見詰めてくるシャンクスの視線から逃れられずに震えるばかり。
「ナミ、お前は余り怯えた顔を人に見せない方が良いな」
「シャンクス……?」
「すっげェ……唆られる」
言ってシャンクスは私の髪にそっとキスをすると、残酷な言葉を口にした。それは、いつもの軽い様子で忘れさせられていたけれど、シャンクスがこの世界の海を統べる王の1人なのだと言う事を、認識させられるような重圧を持っている。
「この場で俺に犯されるか、ベッドで俺に買われるか……好きな方を選ばせてやる」
「シャン……」
冗談ではないのだと伝わってくる。選ばせると言いながらも、これは決定なのだと……どちらにしても辞めるつもりは無くて、どちらにしても好きに扱うと宣言されたのがわかる。
「や、だ……!シャンクス、嫌よ!私は……!」
私はシャンクスをそういう意味で好きなんじゃ無いのに……!
「ナミが自分から求めれば、金も払ってやるし、優しくしてやる。だが、抵抗を続けるなら……喰らい尽くすぞ」
「シャンクス、お願い、止めて。私は……!」
「鷹の目は、それで止めてくれたのか?」
ビクリ、と体が震える。あの時助けを求めた筈の相手が、私を襲う、の……?
……勝手だわ、私。違う船に乗った海賊同士であるのだから、信じたのも甘えたのも、私の勝手なのだから、落ち込んだりする権利なんてある筈も無いのに。
涙が、流れ落ちるのを感じる。こんなのは嫌だと、心が叫ぶ。
「ミホークとの時は、私は誰とも付き合ってなかったわ!今は、裏切れない相手がいるの。シャンクスの事は勿論大切だし、シャンクスか私かなら、迷わずシャンクスの命を優先する位には大切に想ってる」
私の言葉にシャンクスは動きを止めると、そっと手を離して私を真っ直ぐに見詰めてきた。実力を考えたら、逃げられるような距離じゃないけど、先程までのそれとは空気が違う。
黙って聞いてくれるシャンクスに、私は言葉を重ねる。私はルフィにならば殺されるとしても笑って居られると分かってるけど、それはシャンクスだって同じなのだ。
「私はシャンクスを愛してるわ。でも、それは恋愛じゃないの。お願い、わかって……!」
「……馬鹿だな、ナミは」
「え?」
「ンなことは、分かってる。だからこそ、俺の本当に欲しいものを寄越さねェんだから……今は体だけで良いから寄越せって言ったんだ」
苦笑するシャンクスにそんな事出来る筈ないじゃないと言いながら首を横に振れば、シャンクスは私の手首を掴み手の甲にそっとキスをして来た。手の甲にするキスの意味は〝敬愛〟である。