運び込まれた部屋で、当然のようにベッドに降ろされた私は、抵抗出来ないままにまた犯されるのかと体を震わせていた。けど、私に覆いかぶさってきたのは、ドフラミンゴのふわふわとしたピンクのソレで……。
私から手は離れて、モフモフのそれが無くなると随分と細身に見えるななんてどうでもいい事を考えてしまう。そのくらい、私は混乱していた。
「え?」
「……化粧してても青ざめてると分かる程になっていて、手を出せるか。……抱いて欲しけりゃ抱くが?」
「望む訳、無いじゃない……」
「分かってるが、そう言われるとキツイなァ。……ナミは少し寝てろ」
「ドフラミンゴは、どうするの?」
言葉と共に見せられた背に思わず問いかければ、ドフラミンゴはサングラス越しにも分かるほどにわかりやすく驚きを示した。それからベッドに腰を下ろして私の頭を撫でて来る。
その手が驚く程に優しくて、泣きそうになる自分に動揺する。……どれだけ、弱ってんのよ、私。
「……こんなに弱ってるナミを見たのは、久々だな。良いから、寝てろ。今は何もしねェ」
「ドフ……」
名前を呼ぼうとして、ロシーの事を思い出した。ロシーは私が2人を可愛がっていたと、そう言っていたわ。
なら、私は2人の過去にいつか出逢うのかな。その為に、その未来の私を覚えていて、ドフラミンゴは私に執着してるのかな。
「……ドフィ、と、私は呼んでいたの?」
「……ナミ!?」
驚きと動揺を隠さないドフラミンゴに、私は内心で焦りながら言葉を紡ぐ。誤魔化せれて、くれるといいけど。
「夢でね、小さなドフラミンゴを見たの。だから、聞いてみただけ。気にしないで」
「……呼んでいた。お前は、俺を……ドフィと、呼んでいた。だから、これからはまた、そう呼べ」
切ない声でそう言ったドフィに、私は小さく笑い頷いて……そのまま眠った。体よりもきっと、心が疲れていたんだろうと……そう思える程。
眠れる筈もないと思っていたのが嘘のように、何故かぐっすりと眠ってしまった。それは、夢を見ない程に深く眠っていたのと、夢に魘される度に誰かの優しい手が私の頭を撫でてくれた事にあるだろう。
目が覚めると何か本を読んでいたらしいドフィが即座に反応して、栞を挟んでから歩み寄って来た。その様子に、本当に大切に思ってくれてるんだなと、何処か客観的に思ってしまう。
「顔色は随分マシになったな」
「化粧してるんだから、そんなもの……」
「肌が荒れるだろうから落とした。必要なら後でまた自分で化粧はし直せ」
顔を触れば確かに素肌で、それにより嘘なんて無いのだと理解した。ドフィは、そんな私を観察しているかのように見ている。
「……ありがとう」
「ん?」
「休ませてくれて、ありがとう。正直、助かったわ」
普通に考えて、これまでの事があるから私の反応は当然だったとは思う。でも、今回の事だげ言えば、態度最悪な女にドフィは随分と親切だ。
そう思って言ったのに、ドフィは眉間に皺を寄せると呆れたように溜息を落としてみせる。それに僅かにイラッとした。
「……お前、俺にこれまで何されたか分かってるか?頭弱いのか?」
「失礼ね。分かってるけど、今回助けられたのは事実だもの。……だから、その分はありがとう」
私の答えにドフィはフッと笑うと、先程読んでいたらしい本を私に差し出して来て……それを見て固まる。知ってる過去の話だからとドフラミンゴの話も確かに出版したけど……誰が本人がそれを読んで私に差し出してくると思うのか。
いや、ロビンにもやられたけど。だからこそ、叫ばずに済んだんだけどね。
「俺の判断では、過去に俺を助けたのはナミだが、今のナミじゃねェ。未来で何かがあり、お前は過去に飛びそこで俺を助ける。……その筈なのに、どうしてお前はこんな話を書けた?」
声を出せずに視線を逸らすとドフィはまァ、実際とは随分違うがななんて言う。何が違うのかと見れば、ドフィは静かに笑う。
「この本にはナミがいねェし、母上はもう少し生きた。父上も俺が撃ち殺した訳じゃねェ……だが、ナミが居なければこうなっていたかもな」
「違ってるの?なら、なんでドフィは〝悪のカリスマ〟で〝JOKER〟で〝国王〟なの?もう少しその歪んだ性格が変化しても良かったんじゃない?」
「……成程、ナミは別なルートの俺の過去と未来を知っていて、散々俺に犯されたにも関わらず〝子供〟だからってだけで俺達を庇ったのか」
「あ……」
失言をしたのだと気付いたけど、ドフィはそれを責める様子はない。それどころか、納得した様子を見せるのだから不思議なもの。
それから懐かしそうに私を見て、ドフィはそっと私に手を伸ばすと壊れ物を扱うように優しく抱き締めてきて、それにより動揺する。いつもは無理矢理間髪入れずに襲いかかってきたのに……!
「俺にこのまま素直に抱かれるなら、お前の部屋を用意してやっても良い」
「チップで普通に借り……「それが、通常ならできねェんだよ」」
意味がわからなくてドフィを見れば、私を抱いたままドフィは話してくれる。それは何とも男尊女卑なシステムだった。
話を纏めると、招待客にしか部屋は用意されていなくて、招待客は全員男。女は誰かのパートナーだけだから、男と同室だと言うのだ。
だからってシャンクスの所に戻る訳にはいかないし、でも部屋無しで3日過ごすのは少しつらいのは確かな事。でも、たかだか部屋の為に抱かれる馬鹿が何処にいるというのか。
「気にしないで結構よ。ずっとカジノで稼いでるから」
「お前の体を、今夜好きにさせるなら、部屋の他に金も支払うが?」
「巫山戯ないで!私は、娼婦じゃないわ!」
「海賊の女なんてのは、娼婦以下の扱い受けてるのが普通だろうが」
……そんな事、分かってるわ。でも、私にはこの体を無意味に傷付ける権利は無いと思ってるから、そんな扱いは受け入れられない。
弱ければ、負ければ、男は命を、女は体を奪われる。女の身である事の、それ故の苦しみが敗者には待っていると知っているけど、そんなもの受け入れられる筈も無いからとドフィを睨む。
「……そんな事教えて頂かなくても知ってるわ。年齢の問題もあるから、海賊歴はドフィに及ばないけど、私は5歳の時から1人で海に出て生きてきたの。6歳から海賊だったわ」
「それなのに、その甘さか……」
「そんなに、甘いかな」
思わず零れた本音にドフィは笑うと、私の頭をそっと撫でて来た。その手は優しい。
「甘ェな。だが、ナミはそのままでいい。多分直らねェだろうし、俺はそんなナミを愛している」
「……へ?」
「なんだ、伝わって無かったか。あんなに抱いたのに。お前本当に鈍いな」
その言葉に何よと睨み上げた瞬間、ドフィの唇が私の唇を塞いだ。咄嗟にクリマタクトに手を伸ばしたら、唇が重なっている為にドフィが笑った事がダイレクトに伝わり、腕を捻上げられた。
「っ!んっ」
それでも唇を離されることは無く、私もまたクリマタクトから手を離さない。このままでは多分折られると分かっても、私がクリマタクトを握り締めたままで居たらドフィは唇を離して呆れたように溜息を落とした。
「ナミは、そんなに無理矢理されるのが好きか?」
「そんな訳ないでしょ!?私は、ルフィ以外に性的に触れられたくなんか無いわよ!!」
「……やはり、ルフィか」
「あ……」
多分私の顔色は1瞬で、紙みたいに白くなっただろうと見なくても分かる。ルフィの名を、まだ出しちゃいけなかったのに……!
そんな私にドフィは薄く笑うと、知ってたから怯えなくていいと言う。……待って、知ってたって、何?
「……俺は、俺の過去で未来のナミと会っている。その時に散々ルフィルフィと惚気られてるからな。だがまァ……今んとこ、その〝ルフィ〟に何かするつもりもねェ」
「本当に?」
「……今は俺の方が格が上すぎて、戦いにならねェんだろ。そんな雑魚の内に叩いても何も楽しくねェし……使えそうなら、手を組むのも視野に入れてやる」
ルフィとドフィが手を組む?
想像つかないし、無理だと思う。ドフィはルフィが嫌いなタイプだから。
「ルフィは、ドフィとは考えが違いすぎるから無理よ」
「だろうな」
そう言ってドフィは私を解放すると立ち上がる。そして、台に置いてあった林檎を投げて来た。
何も考えずにそれを受け取ると、なんも仕込んでねェから食っとけと言われた。なのでお皿を探して視線を動かしたら、ほらよとお皿を差し出される。
私がそれを受け取るとドフィは楽しそうに笑って、1つ俺にも剥いてくれなんて言う。だからそれに小さく頷いて、短剣で林檎を切って剥いていく。
何も考えずに兎にしてから、あっと思ったけどドフィはそれを私から当然のように奪うと普通に口に運ぶ。それからじっと私を見て来る。
「白湯なら、飲めるか」
「……えぇ、飲めると思うけど?それより、なんで突然林檎?」
「果物なら食えるだろ。今キスして分かったが、少し脱水になりかけてる。水分と栄養を取れ」
あ……汗かいたし、お風呂も入れられたから、かな。そう思ったら、とりあえず続きを剥いて林檎を口にするしか私に選択肢は無くて、そこではたと気付く。
最初のそれを食べたのって、まさか私の為?
未来の私も毒味をしていた可能性は高いわよね。なら、その為なの?
「……ナミは、昔から林檎を俺に剥く時兎にしてたが、この頃からなんだな」
「林檎の皮って栄養沢山だから食べた方が良いのよ。でも皆皮を剥いちゃうでしょ。そういう意味では兎って良いのよ。それに、可愛いでしょ」
「……ナミ、俺に可愛い物を寄越してどうなる。お前らしいとも言えるがな。ほら、サイドテーブルに置いとくから飲め」
そう言ってサイドテーブルに白湯の入ったカップを置く直前にやはり1口それを飲んでからで、それを見れば思わず声をかけてしまう。そんな私に、変わったのは俺の方かなんてドフィは寂しそうに笑うと、ベッドの近くにあるソファに腰を下ろした。
「ナミとは共に過ごしたからな、誰かが食ったりした後じゃねェと何も食べたりできない事は分かってる。だから気にしなくていい。だが、ナミは変わってなかったんだな」
「どういう事?」
「ナミが俺をドフィと呼ばねェのは、ナミが変わったんだと思っていたが……変わったのは俺で、その為にナミは俺をドフィと呼ばないだけなんだって事に最近思い至ってな。その仮説はどうやら……正しかったらしい」
私はドフィの話を聞きながら林檎を齧る。林檎は美味しいけど、未来で私は本当に何をしでかすんだろうかと、少し不安になる。
ロシーには憎まれて、ドフィには執着されるって……本当に何が起きるのか。それでも、ドフィがロシーの前で父親を殺さないのならば、未来の私がする事はきっと私に出来る最善なのだろうと思える。
大好きな兄が、大好きな父を殺す所なんて……見たくないよねと思いながら私はそっと息を吐き出す。それから、サイドテーブルに皮とかの乗った小皿を置きつつ、その流れで白湯のカップに手を伸ばした。
そっと口を付けると本当に何も仕込まれて無かった。そう言えばドフィは本とか読むシーンあったし、意外と努力もしてるし真面目なのよねと思う。
「ドフィ……ありがとう」
「……飲み終わったら寝るぞ」
「え?」
「今夜は、何もしねェから腕の中にいろ」
ドフィのその言葉を信じていいのか1瞬考えたけど、私はドフィの言葉に笑って頷いていた。だって、ドフィの瞳が不安に揺れているのがサングラス越しにも分かったから。
カップを戻してからドフィを見上げればドフィは私をただ抱き締めて、それから小さく言葉を落とす。苦しそうな様子は、何処か迷子を思わせる。
「お前には、嘘は言わねェよ。今夜は、何もしねェし、守ってやる。だから……その顔色早く治せ」
「ありがとう」
心配してくれてるのだと分かれば、何だかほっこりした気持ちになって、私はドフィの腕の中で眠りに入る。ドフィに守られるようにして瞳を閉じれば、思考はシャンクスに彩られる。
シャンクスはどうしてと少し考えて、でも……確かに空島で告白されていたのは間違いない事。なのに、男である事を失念して甘えていたのは、私の勝手な訳で……それでも、抱かれた事もだけど、人にそれを見せていた事がつらい。
そんな私の頭をドフィは優しく撫でながら、何も考えるなと囁いて来る。今は、眠れと……あやすように言葉を紡ぐ。
私はその言葉に導かれるように、思考を止めて夢もみずに深く、深く眠った。その日、ドフィは本当に何もして来なかった。