どれ程眠ったのか。いつもならば30分もすればいつもの夢を見て飛び起きるのに。
夢の中ではいつも、アーロンにベルメールさんが殺される所を見て、絶望する私を連れ去ろうとするアーロンに攻撃しようとする。それに失敗した私が、拷問を受けると言った流れのそれを……。
私は随分と深く眠っていたのか、そんな悪夢を見る事は無かった。意識が浮上して、私は近くにこの男達が居たから眠れたのだと自覚する。
なのに感謝したくないと思うのは、寝てる私の傍で口論しているからだろうか。本当に何が起きてこの3人が同じ空間にいるのかは知らないけれど、確かに今私のいる部屋にはシャンクスとミホークとドフィがいる。
そして、私が起きたと認識すると同時に声を掛けてくれて、何故だか泣きたくなった。嬉しいのか、呆れてしまったのか、ホッとしたのか……とりあえず力が抜けてしまいそうになったのは分かる。
「「「ナミ」」」
「ハイハイハイ!何なのよ、どうして3人が揃ってるのよ?」
3人に返事と思ったので3回返事をしたらミホークは笑い、シャンクスは唇を尖らせ、ドフィは肩を竦めた。そして、シャンクスから順に返事をくれた。
「天夜叉が鷹の目の部屋に入るのを見掛けて、ついて入ったら鷹の目が帰って来た」
「……帰ったら2人がいた」
「ナミの顔を見に来たら、赤髪が着いてきた」
自由人共め!全く。
私はとりあえず1人になりたいと心から思って、寝起きであるにも関わらず言葉を口にする。それで素直に、この三人が引き下がるとは思っていないけどね。
「顔は全員見たわね。私はこれから部屋に帰って寝るから、邪魔しないで」
「ナミは1人だと寝れねェだろ」
私の言葉に間髪入れずに口を挟んだシャンクスを睨めば、ミホークが笑う。そして、言う。
「ここは俺の部屋だ。二人とも出て行け。……ナミは、ここで寝かせる」
「この船は俺の物だ。どこにいるかは俺の自由だろ」
「俺はナミの船長をやめたつもりはねェ。クルーの安眠を守るのも俺の仕事だ」
どうしよう、地味にウザイ。私は体を起こす時の感じから立てるだろうと判断して、無言で立ち上がるとバスローブを着て、着いて来ないでと言い捨てて借りている部屋に向かう。
とりあえずシャワー浴びたい。でも、あの3人に
私がそそくさと部屋を出てから何があったのかは知らないけれど、お風呂を出て身支度を整えてカジノへ行こうとドアを開けたら3人が廊下で待っていた。なので、ドアを閉めて部屋に戻った。
いや、ほら、あの3人が居るのって……ね?
色々な意味で威圧感が……。ルフィに会いたいなぁ。
部屋にあるポットでお湯を沸かして、窓の外に視線を向けたら何故か呼んでも居ないのに料理人さんが入って来て何かお作りしますと言う。なので、材料だけ置いて言って欲しいと頼んでみた。
それに料理人さんは頷いてくれたので、持ってきてくれていた物から何かを作ろうと材料や道具を確認していた。そんな時、何故か3人が料理人さんと入れ替わりで勝手に入って来る。
「こら、ここは私の部屋よ?」
「俺の船だ」
「俺のクルーだ」
「俺の想い人だ」
「……ちょっと全員黙ろうか」
それから勝手に喧嘩を始める3人に、大人しくしてなさいと怒鳴れば即座に落ち着いたので良しとする。全く、イキナリ3人の息子が出来た気分だわ。
どれ見ても今の私から見たら倍近く生きてるのに、どうしてこう子供なのかしら。それにしても、何作ろうかな。
最近お粥とかそんなのしか食べてなかったから、何かちゃんと食べたいのよね……。うーん。
見てみると豆腐があるので、豆腐なら胃腸にも優しいし良いかなと手を伸ばした所でミホークの声が聞こえて来た。それに視線を向ければ何か変な意図がある訳ではなく、純粋に疑問なのだと分かる。
「何か作るのか」
「えぇ、色々材料も道具もあるから何作ろうかなって考えてるところよ」
「南瓜の物を食べたい」
「……え?ミホークも食べるの?」
想定外である。私は自分の分だけを、適当に作る予定だったのに。
「無論」
いや、全然無論じゃないから。作るの私だから。
「……嫌よ。南瓜硬いから切るの大変だし、そんな事に覇気を使いたくない」
「そうだな、まな板まで切れるな」
「もうっ!まな板だけじゃなくて、キッチンごと切れるわよ!」
楽しげに笑うシャンクスに膨れつつ、豆腐の水切りを始める。コレは時間が必要なので先にやっておくのだ。
その横でひじきを水につけて、それとは別な豆腐を切り始めれば、ミホークが悲しそうに此方を見ている。豆腐をレンジに入れながら、私は深く溜息を落とした。
「……南瓜を切るところをやってくれるなら、作るわよ。ミホーク、手伝ってくれる?」
「うむ。手伝おう」
「俺は串物食べたいな。アレ食べやすくて好きだ!」
続いたシャンクスの言葉にコラーと思う。串物ねぇ……揚げ物は後片付け面倒だし、ここは船だから嫌なのよねと思って焼くなら良いかと考えて頷いてからドフィに視線を向ける。
「ドフィの希望は?」
「……良いのか?」
「2人の意見だけ聞けないでしょ」
ここまで来たら同じだし、なんか大人しいドフィが少し心配だったりする。懐かしそうに私を見て、それから嬉しそうに食べたい物を答えるドフィに頷く。
「肉が食いてェな」
「……了解。何か考えるわ。その間大人しくしてて」
よし、こうなったら揚げ物も作るか!
レストランで出るようなものじゃないけど、文句は言わせない。元々私1人で食べる予定だったんだから。
煮物と揚げ物を豆腐で作り、雑穀入りのご飯を炊きつつ南瓜で肉団子ならぬ南瓜ボールを作る。肉だけ拾って食べそうなシャンクスに野菜を食べさせる為に、トマトとアスパラを肉で巻いて串に刺したら、豚肉で甘酢餡掛けを作る。
この時アスパラの筋を取るのを忘れてはいけない。忘れると噛みきれなくて苦労するのだ……普通の人は。
辛子醤油、ケチャップ、マヨネーズを器に入れてそれぞれの席に並べてから、雑穀米をよそえばドフィが運び始めた。それに対して何事かと思ったら、ニヤリと笑われる。
「働かざる者食うべからずだろ。本当にナミは、怖いもの知らずだよな」
そっか、そんな事言って働かせたのか私。ドフィが天竜人だと知っててそれって、私凄いわね。
シャンクスはと思って煮物をそれぞれ用に器によそいながら見ていたら、お酒を選んでいた。……串物の希望はその為ですか。
ミホークは南瓜を切るのを手伝ってくれたから、良いかなと思いつつ、他はそれぞれ大皿に乗せて行くと妙に楽しくなって来た。
何かを作るって楽しいのよね。例えば薩摩芋が大学芋になるのは理解出来ても、スイートポテトになるのは子供の頃不思議に思った。
小麦粉からクッキーやケーキが作られるのは、既に想像の範囲を超えていたし、牛乳がバターやチーズになるは本当に理解不能だった。ヨーグルトはまぁ、まだ理解の範囲内だったわ。
そう考えると料理も科学も似ていて、魔法みたいに思えて楽しかったりする。よし、と完成した料理を見て頷くと3人も何だか嬉しそうにしているのが分かった。
「汁物の代わりがこの煮物か?」
ドフィの言葉に曖昧に頷いてから、素直に忘れてたわと言えばシャンクスが酒あるから良いだろなんて言う。確かに、飲み物あれば問題にならないかな?
今から作るのは他のが冷めそうだしと思って諦めて、私も席に向かう。その時になってドレス姿で料理してたと気付き、何してるの私と少し思う。
そうして私達は4人で食事を開始した。ケチャップ等を見てミホークが首を傾げているから、簡単に言葉を口にする。
「
「餡掛けの餡を付けても良いのか?」
「ご自由に」
ミホークはどうやら豚こまで作った、肉団子の餡掛けが気に入ったらしい。ドフィの言葉で作ったのにと思えば不思議な気持ちになるけど、喜ぶならなんでもいいかしらね。
「やべェ、煮物が美味い!手抜き感満載なのに」
「実際手抜きだもの。茸と豆腐と挽肉しか入ってないのよ、この煮物」
シャンクスの言葉に答えれば、シャンクスがベックが喜んで騒ぎそうだと言ったけど、私としてはベックはがんもどきの方を喜びそうだなって思ってる。ひじきを入れて作ったこのがんもどきは、私のお気に入りのひと品なのだ。
低カロリーで柔らかくて、温かい。食物繊維も豊富で、これならずっと食べていられる気がするのよね。
そして、串物は豚バラで野菜を巻いて串に刺して焼いただけだけど、肉と野菜の両方を1気に取らせられるのと、おツマミでもオカズでも問題ないから便利で好きだったりする。今回は塩胡椒で味付けて、ポン酢置いて各自必要なら使えってしたけど、焼肉のタレで元々は作ってたのよねなんて、遠い過去の事を思い出す。
「……美味いな。……ナミ、豆腐のこれ、チーズ入ってるのあったろ。それは今回無いのか?」
「焼売の方かな?それとも、揚げ物の方?」
「揚げ物だな」
「まだ油暖かいから作れるけど、作る?」
「いや、良い。……充分だ」
ドフィはそう言うとただ無言で食べて行く。懐かしそうにしながら食べるそれに、少し……申し訳無いような気持ちになるのはどうしてかな。
食事の途中で出されたお酒を呑みながら、それぞれが各自の前に置かれたものの他は食べたいものを食べたい人が食べて行く。1応大皿の物は12人分ずつ作ったのに、綺麗に消え去り何だかおおお!って言いたくなった。
多分私は1人前まで食べてないけど、そこは問題ないと思う。食べ終わったそれを重ねていたら、シャンクスが洗っとくと言うので任せてしまう。
どうやら作る時とかに手伝わなかったのを、シャンクスなりに気にしていたらしい。それにクスリと笑ってから、私はよしっと気合を入れ直してカジノへ向かおうと立ち上がるけど、それをドフィに糸で止められてしまう。
「ドフィ?」
「どこへ行く」
「カジノ」
「俺も行こう。まァ、見てるだけだがな」
「邪魔しないなら、構わないわよ」
さぁ、稼ぐぞー!そう思って歩き出せば、シャンクスが後から行くと言い、ミホークは自然とついてきた。
狼も沢山居ると牽制し合うらしく、私は今の所平穏に時を過ごしている。でも、折角お湯を沸かしたのに、お茶飲むの忘れてたわねと思えば少し残念に思えた。
カジノの会場につくと、そこは私の戦場。飢えてる子供達の為にも、稼ぐと決めてきたのよ。
結局ルーレットと丁半でそれぞれ数時間ずつ過ごし、それを皆の所へ届けて貰うようにドフィに言えばフッフッフッと笑われた後で、お前位だよと言われる。それに首を傾げれば、俺をスタッフ扱いするのはお前だけだ……と言われて腰を抱かれた瞬間、シャンクスに助けられる。
そのシャンクスの腕をミホークが斬ろうとして、結果私は無事にその場をおさめられた。……もう、ずっと3人で仲良く喧嘩してたらいいと思う。
「部屋に帰るわ。少し寝ないと。明日には帰らなきゃだもの」
「俺が添い寝「懲りろ、貴様は」」
シャンクスの言葉をミホークが遮り険悪な雰囲気になると、私はいい加減疲れていたので、ニッコリと笑いかけて言葉を返す。本当に、静かに寝かせて下さい。
「部屋に居るのは良いけど、ベッドに近付かないで。私は1人で寝る。邪魔しないで」
結果、有り得ないような3人の大物が私の寝ているのと同じ部屋の中にいて、しかも無言で酒を飲み続ける事となる。そんな中で私だけが、安眠を貪るという奇跡が発生した。
早く、皆の所に帰りたいなぁと、心から思いつつ……3人が居てくれるおかげで、私は悪夢を見る事無く安眠する事が出来た現実に情けなくなる。結局私は、この歳上の息子達3人を、本気で嫌ったり憎んだり出来ないのだと思い知らされてしまった。