お風呂から戻ったばかりだからか、ルフィは私からタオルを奪い取ると髪を拭いてくれながらベッドに座るよう指示して来る。それに従って座れば、ルフィは手を休める事無く言葉を口にする。
「ナミはなんでも器用にできるのに、どうして髪だけこんなに拭くの下手なんだ?」
「……出来なくても、死なないもの」
「いや、船がカビたら死活問題だろ」
ルフィの言葉は確かに正しい。カビが人体に与える影響というのは馬鹿に出来ない。
カビはアレルギー等を引き起こす可能性を秘めている。アレルギーの症状が鼻に出れば鼻炎……つまり花粉症の代名詞の症状となる。それが皮膚に出ればアトピー、目に出れば結膜炎なだけで結果全て同じアレルギーによる症状なのだという事に違いは無い。
当然呼吸器に出れば命に関わるのだから、カビさせるなんて訳にはいかない。なので私はむむむっと少し考えて、シリカゲルってどうやって作れたかなと記憶を掘り起こしながら考える。
シリカゲルを作る原料は、石英やケイ砂などのSiO2だった筈。作り方としては、それにNaOHやNa2CO3のような塩基と反応させて、ケイ酸ナトリウムを生成する必要があって…………ダメだわ。
私の記憶ではいくらナミちゃんの頭の良さを利用しても、思い出せないし、作れない。そっちは専門外だもの。
……ウソップなら、作れたりしないかしら。今度相談してみようかな。
「ナミ、今お前髪を上手く拭く方法じゃなくてカビさせない方法考えてないか?」
「なんでわかったの!?」
ルフィの言葉に驚いて振り向くと、呆れたような顔をされた。……解せぬ。
「ナミがブツブツとケイサンナンタラがとか言ってたからだよ。明らかに髪を拭く方向性見えねェだろうが」
ムッ……声に出てたのか。気を付けないと。
そう言えばノジコにも言われた事があると思い出す。何やら記憶を掘り返しながら考えてる時、何回かに1回だけど声に出しながら考えてる時があって、聞き取れないくらい小さな声だし、聞こえたとしてもほぼ呪文だから分からないけどって。
聞こえても呪文だって事は数式とかの時に口に出してるのかな?今回は化学記号だったし。
そんな事を考えていたら、ルフィが終わったぞと言ってくれたので、ありがとうと言って髪を梳かす。それを見ていたルフィが当然のように言う。
「髪、切るなよ」
「……なんで?」
「俺が、ナミの髪好きだから」
「……わ、かった……わ。極力、切らないようにする」
少し赤くなるのは許して欲しい。髪でもなんでも、好きだと言われただけで、赤くなる自分が少し情けないけど。
「極力ってなんだよ」
「戦いの途中で1部でも切れたり焼けたりしたら、切り揃えないとおかしくなるじゃない」
言えばルフィがわかったと言うから、納得したのかと思ったら少し違ったらしい。私の髪を弄り、そっと口付けながらルフィは言葉を落とす。
「なら、髪も含めて俺がナミを守れば良いんだな」
「……まぁ、そうね。よろしくね、キャプテン」
そんなに切られたくないのか……その内引き摺る事になるんじゃないかな。それに定期的に枝毛とかの対策で切りそろえたいんだけど、それも駄目なのかなと少し不安になる。
既に背中まではあるのだから、このまま伸びたらと考えると少し面倒だなと思う。髪は伸びれば伸びた分、洗う手間が増えるのだから。
正確にはトリートメントの時間と手間だけど。結果は同じだと思う。
「なァ、ナミ。ゾロの手当したあの日、何があった?」
「え?」
ルフィの言葉に反応して心臓が嫌な音を立てたのを、聞いた気がした。だってあの日は、その直前に……。
でも、全員別行動だったし、サンジ君は跡を遺してないもの……分かる筈が……。そう思うのに、サンジ君の手の感触を思い出して体が小さく震える。
怖かった、嫌だった、何よりも……悲しかった。でも、私はアレを水に流した筈で、気にしてちゃ駄目なのに、こんな些細な事で思い出してつらくなるなんて……。
「あの日、ナミの様子おかしかったから気になってた。んでもって……サンジも、な」
「……そう?私ちょうど病気の元をそこで貰ったから……その関係で、体調悪かったのかもね」
笑って言った私に、ルフィはへェ?と言いながら私の腕を掴むとそのままベッドに縫い付ける。ルフィを見上げる形になった私に、ルフィは暗い笑みを浮かべて噛み付くようなキスをして来る。
「あっ……る、ふぁ……っ!」
ルフィが、怖く感じた。それでも、ルフィからのそれを拒む気にはなれなくて、ただルフィの激しくも悲しい口付けを受け取る。
「ナミ……あの日、サンジに何された?」
「なに、言って……」
キスの合間に問い掛けられたそれを惚けようとする私を許さないと言うように、ルフィは私の服を剥ぎ取りながら問い掛けてくる。その表情はまるで、全て分かっているかのようで。
「サンジから、ナミの匂いがした。……もう1度だけ聞いてやる。何を、された?」
私は答えに詰まる。無理矢理だったのは間違いないけど、抵抗しきれなかった私にも責任はあって……それに、ルフィの大切な仲間がある意味で、そんな裏切り行為をしたなんて事……。
でも、恐らくルフィはその答えを知っていて、私が素直に話すかを多分……確認してる。でも、どうしたら……?
「ルフィ……」
縋るように名を呼べば、ルフィが私を見て頭を抑える。それから小さく、だから卑怯だろそれなんて言うけど、なんの事か分からない。
「……前に話しておいたけどよ、手加減は出来ねェから、それだけは覚悟しろよ?」
「なっ……ルフィ!」
「待たねェし、辞めねェよ。……それとも、お仕置きされたいのか?」
何を……するつもりなのか。それは分からないけど身の危険を感じて、怯えそうになる。
それなのに、怖い筈の相手なのに、私は咄嗟にルフィに抱き着く。縋り付くように、助けて欲しいと言うように……矛盾してるのは、分かってるけど私には他に選べる選択肢が無かった。
「優しく、して……」
「……ホント、卑怯だよな」
言いながらルフィは私の体を愛撫していく。それが本当に私の弱い所を的確についてくるから、声を必死で抑えるしか出来なくて……。
そんな私にルフィは楽しそうに笑うばかりで、けれども愛撫のそれでは絶対にイかせないと言うように、時折ピタリと動きを止める。何度も直前で止められて、呼吸が荒くなる私にルフィはにっこりと笑う。
「イキたいか?」
「も……いじわる、しないで……」
「優しくしてるだろ?痛みは無い筈だ」
そう言ってルフィはまた、私の体を簡単に高めて行く。見悶える私を視姦するように見つめながら、ルフィは平然とした様子で、私の体に優しく触れる。
私を玩ぶようにルフィは弱い所に息を吹き掛け、指先で弄り、舌を這わせて……。その度に私の体は素直に震えるのに、高めきる直前でその動きをピタリと止めて、ニッコリと笑いかけて来るのだ。
「ルフィっ……お願い、もう……」
「ん?」
「挿れて……」
プライドとか、羞恥心とか、そんな事は気にしていられなくて、爆発しそうなのにそれを許して貰えない熱が、思考を奪って行く。今はただ、早く解放されたくて……哀願する。
ルフィはそれに嬉しそうに笑うとすぐさま侵入して来た。迷う素振りさえ無く私の中に入って来たルフィは、その熱さで私への想いを伝えて来る。
いや、欲望の強さを伝えているのかも知れないけど。そんな事はどうでも良くて、ただこの時の私は……ルフィの全てが欲しかった。
「ルフィ……ルフィ……っ!」
何度も繰り返し愛しいその名を呼ぶ。それに合わせてルフィは何処か切なそうな、嬉しそうな顔で笑う。
小さく、甘えてくれるのはこんな時だけかと呟かれた気がするけど、思考の溶けきった私にはよくわからなくて、ただ……独りには戻りたくなくて、暖かな温もりを強く抱き締める事しか出来なかった。それから本当に、1睡も許される事無く空が白む迄続いたそれに、私の体は限界を遠に超えていた。
それでもルフィは、まだまだ余裕の様子で……けれども仕方なさそうに辞めてくれた。荒い呼吸の中でルフィを見れば、妙に優しく頭を撫でられる。
「とりあえず、少し寝てろ。後はやっといてやるから」
何かを答えようと思ったのに、私の体は疲労とか諸々で意識を簡単に手放した。その途中で、少しやり過ぎたかなんて呟きが聞こえた気がしたのは、願望だろうか。
それから暫くして目覚めた私は、体の痛みとかはあるけどベッドも衣服も整えられていて、中にある筈の物も清められているのに気付いて赤くなるのを止められない。本当に、全てやってくれたらしい。
そしてベッドの横に視線を向けると心配そうなチョッパーがいて、声を出そうとして咳き込んだ私に水と薬を差し出して来た。それを疑いもせずに飲んだのを見て、何だか妙に嬉しそうに笑われた。
「ナミが初めて、毒味しないで飲んでくれた。すっげェ嬉しい」
「……ぁ……」
「いいよ、無理して声出さなくても。ルフィの事はちゃんと叱っといたからな。あ……他の奴には聞かれないように、2人で話したから心配しなくても大丈夫だぞ」
チョッパーの言葉に小さくなる私を、労わるようにチョッパーが私の背中を撫でて、もう少し寝てるように言ってくれる。小さくても、可愛くても、幼くても、チョッパーは名医なのだと痛感させられて……同時に、ルフィが仲間に選ぶ相手の質の高さに驚かされる。
「皆には風邪って事にしといたから、大人しくしてろよ。本読む程度なら良いけど、何か書いたりしちゃダメだからな」
そんな言葉に私が小さくなって頷くと、チョッパーは私の横に本を何冊か持って来てくれてから、静かにドアを閉めて部屋を出て行った。少し本を読んでいたら、気付いた時には寝ていたようで、目が覚めると表が異様に騒がしい事に気付く。
恐らくはまた、ビビがルフィ達を叱り飛ばしているのだろうと気にもとめず、もう少し寝ようかもしくは本の続きを読もうかなと思った時、ビビが室内に飛び込んで来た。どうやら寝ていられる状態に無いらしい。
「ナミさん来て!正面に何かあるみたい!」
その声に促されて私が甲板に出ると、騒ぎを聞き付けたチョッパーとサンジ君も甲板に姿を見せた。様子を見て海底火山だとわかったので、安心するように言うけど安心出来なさそうだったので、少し考えてから海底火山について説明をする。
それを受けて、ビビはその瞳を輝かせるから、私もつい笑ってしまう。話が落ち着いた頃、私は興奮冷めやらぬチョッパーとビビをその場に残して船内に戻った。
そこへサンジ君がミカンゼリーとオレンジティーを作って持ってきてくれたから、それを有難く受け取る。
「ビビには良いの?」
外に行く気配もなく目の前の椅子に腰掛けるサンジ君を見て意外だったので聞いてみれば、サンジ君が困ったように笑った。
「この蜜柑はナミさんのだからって、ビビちゃんは食事以外は断るんですよ。だから、気にしないで下さい。……それに、ナミさん朝食も食べれてないでしょう。ゼリーなら食べやすいかと思ったんです」
そういう事ならとゼリーを食べながらサンジ君を見れば、ニコニコと楽しそうにしている。その姿に少し悪戯心が刺激されて、ゼリーをスプーンですくった後それを差し出してみる。
「はい、あーん」
言われるままに口を開けたサンジ君にそれを1口食べさせて、再び残りは自分で食べる私の目の前で、乗せられたサンジ君が悶えている。何だか酷く平和で、ホッとしてしまい、突然の眠気に私は抗えなくてその場で眠ってしまった。
そんな私を誰かが支えてくれた気がしたけど、深く考える事は出来なかった。