※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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先を見据えて

 朝日が登るより少し早い時間に、鈍痛なんてレベルじゃない痛みに少し苦しみながらも、私を抱いて離さないでいるルフィに少しばかり笑みが浮かぶ。……寝る前にちゃんと、その、お風呂入ったし、だから……もう少しこうしていたい。

 動けないのもあるけど、明らかに言い訳。いつもなら何がなんでもお風呂に朝は入りたいと思うのに、今日はまだ、もう少しだけこうしてルフィの腕の中で幸せに浸っていたいの。

 

 「ナミ……?起きたのか?」

 「あれ?起こしちゃった?」

 「ん。ナミ、起きてる時と寝てる時、少し匂い変わるから……」

 

 寝ぼけながら言われたそれに、嘘でしょと思う。何それ、既に私人間じゃないの?

 匂いが変わるって、何それ!?

 作注:体温変動により体臭や瞳の色に変化が起きる体質の人は実際に居ます。怒ると瞳の色が比喩ではなく変わる人がいるのも、これが理由です。

 

 「ん……。抱いてる時とかも、香り強くなるし……だから、ナミは匂いで怒ってる度合いとか分かるんだよ。まァ、戦う時はナミ冷静になっちまうから、匂い減る事もあるんだけどよ」

 

 ……これは、ルフィの嗅覚がおかしいの?

 私が人としておかしいの?

 少しでは無く不安になりながら悩みつつ、ルフィは起きたのに起き上がりたくないなって思ってしまう。そんな私に、ルフィの方が不思議そうにする。

 

 「ナミ、風呂いいのか?」

 「ルフィから、離れたくないの」

 「……このまま抱き潰したくなるから、煽るなって。どうすんだよ、また元気になっちまったじゃねェか」

 

 少し悪戯に笑ったルフィを見て、体が痛いのに私はつい言葉を口にしてしまう。とりあえず、今はまだルフィから離れたくない。

 

 「……ルフィが、望むならいいわよ?」

 「……マジでヤリ殺しそうだから、止めとく。俺は、ナミを処理する為に使うとか、そんな気はねェからよ」

 「ルフィ……」

 

 ルフィの言葉が嬉しくて思わず名前を呼べば、優しく笑ったルフィにそっと頭を撫でられて、自然と唇が重なる。それなのにルフィは本当にそれだけで体を離すと、顔を少し赤くして立ち上がった。

 

 「ルフィ?」

 「……ナミが可愛すぎる」

 「ルフィは、寝てる間に頭を打ったと「打撃は効かねェよ!それに可愛い事は自覚しとけ!」」

 

 いや、肉体が可愛いのは自覚してるよ?

 そう思って首を傾げたら、ルフィは小さく舌打ちしてシャワー浴びてくるとか言うので珍しいと思ってつい驚きの声を上げたら睨まれてしまう。……解せぬ。

 

 「ナミの体力戻ったら覚えてろよ……」

 「へ?」

 「ナミの反応で、体力無くなってるのは分かってるから……精一杯加減したんだから、褒めて欲しいくらいだって話だよ。ナミのばァか!」

 

 真っ赤になって叫ぶように言うルフィに、私が首を傾げる。何だかいつもと逆な気がするわ。

 

 「ルフィになら、何されてもいいのに」

 「…………ナミ、もう少し寝てろ。頼むから煽るな」

 

 そう言ってお風呂場に向かうルフィを見送り、ベッドから降りると、本当に普通に立てる自分に少し驚きを隠せない。そこに来て漸く私は、ルフィがどれだけ気を付けてくれたのかを知る。

 考えてみれば、ここ最近夜は寝てたけど、昼間はずっと抱かれていたわ。だから、体力も少なくなっていて、ルフィはそれに気付いて優しくしてくれたんだと分かれば、有難いような、悲しいような、恥ずかしいような、でも……嬉しいような、そんな複雑な気持ちになる。

 体にある跡は、本当に全て塗り替えられたんじゃないかなって思えてしまう。そんな事を考えながら視線を上げれば鏡台が見えた。

 その鏡に映る自分を見て、昨夜ルフィに言われた言葉が甦り勝手に涙が零れ始める。ルフィが、どうして中々挿れてくれなかったのか、わかった気がしたから。

 

 「ナミ……この跡は全て、俺が付けたんだ。間違えるなよ」

 

 そうか……ルフィは、私が私を責めないように、どの跡が誰からの物かなんて私が考えないように……執拗に全身に……。ロープの跡に沿って幾度と無く跡を付けられたのも、きっと同じ理由。

 ルフィは、どうしてこんなに優しいんだろう。私は、ルフィに何も出来てなんか居ないのに、愛を貰ってばかりで……。

 

 「ナミ?」

 「ルフィ……」

 

 お風呂から帰ってきたルフィは私を見て不思議そうに名を呼び、振り向いた私を見て困ったような顔で私を抱き締めて来る。それから、驚くくらい優しい声で言う。

 

 「1人にして、悪かったな。……大丈夫だ。俺はナミの側から離れたりしねェから!」

 

 寂しがってると思われたのかな。でも、とりあえずルフィの言葉に頷いて、もう少しこのままで居たいと言えば、なんの為に水浴びたと思ってんだと呟かれたけど、よく分からなくてルフィを見上げる。

 それにルフィはたじろぐから、服を着たいのかと理解してそっと手を離す。服を着るのに、私が抱きついてたら邪魔よね。

 

 「我儘言ってごめんね。着替えたいわよね」

 「……そうじゃねェよ。まァ、うん、ナミらしいっちゃらしいけどな」

 

 それから前髪をかき上げたルフィは、男みたいな顔で笑って妙な言葉を口にした。それにより私は、よく分からない動悸に苛まれてしまっている。

 

 「惚れた方が負けなんだから、俺がナミに勝てる筈ねェって事だよな」

 「ルフィ……なんか、最近急に成長した気がする」

 「……背は伸びてねェと思うぞ?」

 

 ルフィは天然だと、この時私は認識した。それから軽く朝食を済ませてから、ルフィと共に皆の元へ帰ればウソップ以外の全員が笑って待っていてくれる。

 お帰りと言われて、ルフィがおぅ!と答えると奥にいたココロさんが私にログはどうなってるかと確認して来る。なのでサンジ君に勧められるまま椅子に腰掛け、ログが貯まった事を伝えれば次の島は〝魚人島〟だと教えられた。

 それに違和感があるのはどうしてなのか。そして、魚人島の前に色々行く筈なんだと思い出したけど、でも確かにログは魚人島を示していると気付く。

 どういう事だろう。古い記憶過ぎてよく分からないわ。

 

 「魚人島……か。複雑」

 「そうだなァ。お前の村の事があるからなー」

 

 脳裏でアーロンが高笑いした時、ルフィが私に視線を向けてそう言ってくれて、それだけで何だか救われた気持ちになる。ルフィの声で、言葉で、脳裏に居たアーロンの影が消失する。

 その時少し離れた所でサンジ君は興奮していて、チョッパーがそれに微かな怯えを見せる。その様子を眺めながら、ゾロがありゃ海賊だろと冷静に言うので、それはそうなんだけどねと思う。

 

 「……アーロンの家族は、そこに住んでるのよ。魚人島じゃ、アーロンの妹は有名人らしくてね。……美しい人魚だって聞いてるわ」

 「ナミ……家族の事とか聞いてたのか」

 「長い、付き合いだもの」

 

 実際は読んでたから知ってるだけなんだけどね。ただ、私が知ってるのはドレスローザ編迄だから先にゾウへ向かったメンバーがどうなったのかとか、その辺は既にわからない。

 その上、もう20年近く前の知識だから記憶は薄れて曖昧になってる。最期の頃は読んでなかったのよね……だから、サンジ君の過去は本当に夢で見たのと、人から聞いていた程度の知識なのよ。

 ハートを振り撒きながら、バカの癖にィー!とゾロに言っているのを眺めれば、この世界で有名な書籍に出て来るヴィンスモーク家の王子には見えないけれど。サンジ君は浮かれた後ココロさんを見て勝手に打ちひしがれて、ココロさんに怒鳴られている。

 そんな楽しげな様子を眺めながら、深刻になる事も出来ないなんて幸せな事だわと、唇には自然と笑みが浮かんだ。そんな私に差し出されたのは1部の新聞。

 そこに書かれているものを見れば、ルフィがどうした?と視線で問い掛けてくる。なので私は新聞を読み上げる。

 

 「今月もまた14隻……船が消えた」

 

 それについてココロさんが〝魔の三角地帯(フロリアントライアングル)〟だと説明してくれる。……この魔の三角地帯は地球にも実在する。

 この地帯は海も勿論空でも行方不明となる場所であり、その理由が現代の科学を持ってしても解明されていない。その為船もそうだが飛行機もこの場所だけは通らないように航路が組まれているのだ。

 ロビンはそんな話を聞いて、魚人島が海底にある事を気にしていたのか嘘のように晴れやかに、楽しそうねと言い出した。ルフィは生きた骸骨に会えると喜び、チョッパーは怯えて、ゾロはルフィに呆れを隠さない。

 ……ルフィは、正しい。本能なのか何なのか。

 生きた骸骨に会えるわ。それも、望み通り仲間に出来る筈よ。

 でもね、生きた骸骨はブルックだから良いけど、ホロホロのゴースト娘とかゾンビがいたと思うのよ。記憶違いかな?

 ……駄目だ、怖い。体が震えて涙目になってる自覚があるけどどうにもならなくて、そんな私をルフィが大丈夫だと言って抱き締めてくれるけど、でも、怖い。

 

 「お化け、怖い」

 「……すっげェ可愛いよな、ナミのこういう所」

 

 ルフィはそう言って頭を撫でてくれるので、ルフィに抱きついて行くの止めようと訴えようとしたその時、ロビンが言った。クスクスと笑いながら。

 

 「商船や海賊船の成れの果てであるゴースト船には……〝宝船〟の伝説がつきものよね」

 

 魚人島へ行くためにはコーティングが必要で、確かに相場は2~3億ベリーだった筈。勿論腕のいいコーティング屋に最短で頼むのならば、だけどね。

 それを考えれば宝はいくらあっても足りない。魚人島へ行く時と、魚人島を出航する時にそれぞれかかるのだから、それだけで6億見ておかなければならないのだから。

 

 「皆!〝ゴースト船〟を探すのよ!!」

 「任せろー!!イエーイ!」

 「えー!嫌だー!!」

 「宝船か。……刀もあるかな」

 「ただの遭難なら、食料は充分に用意して有るから大丈夫だ。心配ねェ」

 「ふふっ、賑やかで良いわね」

 「……ま、頑張んな」

 

 私の掛け声から始まり、ルフィ、チョッパー、ゾロ、サンジ君、ロビンと続いた言葉の締めにココロさんが呆れたように呟いた。その時外からルフィを呼ぶ声が聞こえて、私達は視線を向ける。

 どうやら私の記憶にあったように、今日出航する事になるらしい。〝夢の船〟が完成したと息を切らせる双子の姉妹スクエアシスターズと、チムニーとゴンベを見て、ルフィ達が大喜びではしゃぎ出す。

 そこへ続いて聞こえて来たのは、野太い声。これは、フランキー1家ねと視線を向ければ、何故かゾワっとしたものが全身を駆け巡った。

 ……あれ、もしかして、私……も、懸賞金かけられちゃうんじゃない?

 ベルメールさんやノジコに、迷惑が掛からないだろうか。戸籍上では私と何も繋がりのない2人や故郷だけど……それでも、不安になる。

 青ざめているだろう私にルフィは気付かずに、フランキー1家に何があったのかと聞いている。手配書を見たかと言われて、皆が首を横に振るとフランキー1家は鬼気迫る表情でルフィの懸賞金が上がり、他のメンバーも追加手配されていると言う。

 喜ぶ男達の中で、私だけが血の気の引く思いで足をふらつかせると、ロビンが支えてくれた。そして、ロビンも楽しそうにしているのが分かり、救いは何処にと思わず空を見上げたのだった。

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