説明するより見せる方が早いと言うのと同時に、フランキー1家がその場に全員の手配書を広げた。そう……〝全員〟の手配書を。
そこに広げられた手配書には、こう書かれていた。無論書いてない情報もあるけど、2つ名の紹介の関係上先に役職も書くとするならば、こうなるだろう。
船長〝麦藁〟のルフィ、懸賞金3億ベリー。
戦闘員〝海賊狩り〟のゾロ、懸賞金1億2千万ベリー。
航海士〝泥棒猫〟(作家)〝宝玉〟ナミ、ONLY ALIVE懸賞金3千2百万ベリー。
狙撃手〝狙撃の王様〟そげキング、懸賞金3千万ベリー。
料理人〝黒足〟のサンジ(写真入手失敗)懸賞金7千7百万ベリー。
船医〝綿飴大好き〟チョッパー(ペット)懸賞金50ベリー。
考古学者〝悪魔の子〟ニコ・ロビン、懸賞金8千万ベリー。
チョッパーが船医だと知られてない記載があるのでお分かりかと思うが、冒頭の役職は私の脳内に勝手に追加された物で、その先が実際に書かれている物になる。即ち……私の手配書がおかしい。
航海士である事を知られていないのは有難い事かも知れないけれど、作家宝玉は余計な記述だわ。……それとも、女神ちゃんとか書かれてなくて良かったと思うべきなのかしら?
ルフィは懸賞金が上がったと大喜びして、ゾロも満足そうにしている。私はその場に頭を抱えて座り込み、サンジ君は魂が飛び出して原型を止めていない状態に陥っているのが視線の端に映ってるけど、私には慰める余裕等無い。
「誰だ」
「ゴジュ」
チョッパーはそういう鳴き声を出す動物かと言いたくなるような状態でゴジュと繰り返し、ロビンは穏やかに微笑んでいる。十人十色、桜梅桃李等言い方は様々あるけどそんな事はどうでも良い。
今問題なのは、私の懸賞金額が世界政府の旗を撃ち抜いたそげキングより高い事と、私だけ生け捕りのみである所だわ。その上この手配書の写真はあの時、街の雑誌って……!
「なァナミ!見たか!?そげキングにも、ついてるぞ!」
可愛く楽しそうに笑うルフィに返事をする余裕も無い。なんでこんな事に……。
落ち着いて考えるのよ、私。……ミホークは七武海だけどだからと言って何かある訳じゃなくて……なら、ドフィかと気付く。
この場合海賊の王であるだけのシャンクスは、何かしたかもなんて考慮に入れるまでもない。……いや、待って、私はシャンクスに関する正しい情報なんて殆ど持ってないわ。
シャンクスのファミリーネームも、シャンクスの生い立ちも知らない。ルフィの恩人である筈の彼なのに、その情報は限りなくゼロに均しい。
それでも確実に発言に効力を持つのは、この中ではドフィだけだわ。ドフィ……いったい何したのよ!?
「ま……まァ、心中お察しすると言うか……色々言いてェ事は有るだろうがその……ま、待ってくれ!」
そう言って取り出されたのはもう1枚の手配書で、それを見たルフィがフランキー!?と叫ぶ。そして、子分達がルフィに頼み始める、兄貴を連れて行って欲しいと。
船大工〝
これで、麦藁の1味全員の手配書が揃った事になる。確かこの先で仲間になる人は全員、手配書が既に発行されている人だから、1味全員に手配書が出ている異例さは継続される事となる筈。
フランキー1家とフランキーに関するところは男達に任せる事にして、私はフラフラと幽鬼のように動き出して、荷物を纏めに行く。荷物を纏めながら、ブツブツと呟いてしまうのだけは勘弁して欲しい。
「騙されたわ。街の雑誌の記者だって言ってたのに。写真全部確かに送ってくれたし、ギャラも貰ったし、服も貰ったけど……無垢な美少女を騙すとかって、海軍がしていいの?」
「ナミ、多分そうだろうなと思ってて黙ってたから私も同罪ね」
「ロビン分かってたの!?」
「タイミングを考えたらそうかなと思ったのよ。どうせ手配されるのなら、ナミには可愛い姿でと思ったから止めなかったの」
「止めてよ。そこは止めて……」
私の言葉に首を傾げたロビンは、どうして?という。勇ましい薄汚れた姿の手配書よりも同じ手配されるなら、可愛い方がお得でしょと笑うけど。
「それならロビンもこんな戦闘中の姿じゃなくたって!!」
あの時は2人揃って誘われたのに、ロビンは自分だけ逃げたじゃない!どうしてー?……と言って泣きたくなる。
「私は良いのよ。でも、ナミには家族がいるもの。可愛い姿見せてあげたいでしょ。手配書から戦いを連想させるよりいいと思うわ」
なんか、ロビンに言いくるめられそうだわ。でも、それも問題だけど、それよりも……。
「問題は正直写真じゃなくて手配金額と、このONLY ALIVEよ。多分ドフィが何らかの形で関わってるんだとは思うけど、それにしても……」
「……ドフィ、ね。……国王だったわね、彼。空島に行く前に襲われたあれの他に、関わりがあるの?」
ロビンの言葉に、私は小さく頷く。アレが初めてでは無かったし、今回の事もあるし、私にはそれだけだけど、ドフィから見たら他にもあるんだろうとは分かるから。
でも、それを今上手く説明する事は出来なくて、だから……声が出せなくなる。そんな私にロビンは言う。
「あの時、お風呂でナミは前にも〝された〟と言っていたけど、その時もその先もついさっき呼ぶまでずっと〝ドフラミンゴ〟と呼んでいたのに、今は〝ドフィ〟だったわね。その辺、後で教えてくれる?」
今は男達もいるからと視線で言われれば、頷く他なくて……やっぱり、皆に伝えておかなきゃかなと思う。だってこの先、エースの事もあるから……。
皆の過去を知っている事、まだ見ぬ未来の1部を知っている事、そして……知識を思い出そうとすると襲ってくる頭痛。曖昧過ぎるその情報達を、私はどう伝えたら良いのかと悩んでしまう。
伝える事で、怯えられたり、利用される可能性は、少しも無いと信じられる人達だけど……嫌われるかもしれないと、どうしたって怖くなる。それに、何よりも……皆がそれを知る事で私を守ろうとして傷つく可能性が高まるのが、恐怖なのよ。
だって、皆は生きて前に進むべき人達で、私は……本来なら居ない筈なんだから、守って貰ってたら駄目なのに……ナミちゃんのやっていた事だけじゃ足りない。だって、私はナミちゃんが居るべき立ち位置にいるのだから、ナミちゃんのやっていた事は当然として、それ以上の事が出来なかったら……傍に居させて貰う資格なんて無いじゃない。
私は私として生きて行くと決めたし、ルフィを愛してる事は間違いようのない真実だわ。仲間達を大切に思ってもいるけど、だからこそナミちゃん以上に役立たないと……存在する資格がないじゃない。
「……ナミ?」
呼ばれて顔を上げると心配そうにしてるロビンがいて、ゾロがウソップの件で念押ししていたらしいと知る。私がそれに関して何も聞いてなかったと理解したロビンは、重い物はもう運んであるからと笑いながら言って話題を終わらせてくれた。
それに甘えさせて貰いながら、手荷物だけを手に私達は揃って船へと向かう事になった。ロビンに確認してみると、食料品等保管に気を付けなくてはならない物の他は、昨日までに全て運び終えてくれていたらしい。
ふと視線を向ければ、サンジ君は今も落ち込み腐っていて、ゾロと不毛な争いをしている。灰になりそうな様子のサンジ君は少しでは無く可哀想だけど、逆の事態ならサンジ君はそれこそ笑い者にされてたと思うから、気にしなくていいと思うのよ。
自分の迂闊さが呪わしいわ。私こそ、絵が良かった。
チョッパーは泣きながらルフィに抗議してるけど、ルフィに言ってもどうにもならないと思うのよね。それにしても、私を捕まえるよりチョッパーを捕まえる方が難しいと思うのに、この金額差……理不尽だわ。
そうよ、チョッパーと私の手配金額逆なら良いのに……!それならチョッパーも私も大喜びよ!
「忘れ物すんなよー!!船とフランキー貰って、出航するぞ」
ルフィの声に私は頷くと動き出す。いつまでも嘆いていても、悩んでいても解決はしないから。
スクエアシスターズやチムニーと会話を交わしていても、サンジ君を中心に騒ぐ男達の様子に気付けば、全くと笑う他ない。……いつも、こうして自然に笑わせてくれる皆に私はいつも救われている。
廃船島に向かいながらも皆は楽しそうに笑っていて、それにつられたように私も笑う。そこでルフィが私の顔を覗き込むから、少し驚く。
「どうした、ナミ。手配書、ホンモノには劣るけど、可愛く写ってるじゃねェか」
「写真写りの話じゃなく……今、なんて言った?」
「ん?」
ホンモノには劣るけど、可愛くって……ルフィ、私の手配書もちゃんと見てたんだ。それにしても、ルフィ、そんな事言えたのね。
「……顔赤いけど、大丈夫か?」
「なっ!ルフィが、突然……!」
「ん?」
「可愛いとか、言うから、その、照れたと言うか……」
「……ナミはいつも可愛いから、あんまり言わなかっただけで、いつも可愛いと思ってるぞ?今朝もだから我慢するの大変だったんだって、いい加減理解しろよ。ナミが可愛いのなんて、初めて会った頃からずっと変わんねェ事だろ」
……ルフィは、私をどうしたいのか。泣いて逃げ出したい気分になっていたらルフィがあ!とか言うからどうしたのかと視線を向けると、違うなと言う。
何が違うのよ。やっぱり可愛くないとか言ったら流石にへこむけど!?
「ナミは、昔は可愛いだけだったけどよ、今は綺麗だもんな!昔は優しくて、今は甘くなった!だから前と違うな、少しだけど」
私がその会話に耐えられなくなって、ロビンに抱き着いたのは不可抗力だと思う。そんな私を見て、疲れて熱が出たと判断したチョッパーに背中に乗るように言われてしまい、押し問答の末、人型のチョッパーに抱き上げられて運ばれています。
……おかしい。色々おかしいわ。
そんな私達が廃船島へ到着した時には、私はスクエアシスターズから生暖かい視線を向けられていた。そんな騒がしい私達ではあったけれど、スクエアシスターズが廃船島に到着と同時に大声で呼び掛ける。
すると、船大工達が死んだように寝ている姿が見えて何だか微笑ましくなる。それなのに、呼ばれた事でモソモソと起き出すのだから凄いなと思うのだ。
海には布のかけられた大きな物があり、ルフィが大喜びで声を出すとチョッパーは漸く私を降ろしてくれた。そんなルフィを出迎えてくれたのはアイスバーグさんで、ルフィは興奮を抑えられない様子で叫ぶ。
「おーい!来たぞー!フランキー!!船くれーっ!!」
「ンマー」
「アイスのおっさん!」
そうしてフランキーが居ない事を伝えられたルフィだけど、アイスバーグさんがその分説明してくれる。世界の果ても夢じゃ無いとアイスバーグさんが言う程の船であるとなれば、期待に震えるのは何もルフィだけじゃ無い。
私も会いたかった。アニメの映像と、漫画の絵でしか知らなかった、2次元でしか無かったサニーに、実際に会えるのだ。
私の記憶が正しければ確かサニーはスループ船だった筈よ。でも、1般的に知られる通常のスループでは無いのは確かね。
通常のスループ船とはヨットのような物で、ここで造られているスループ船は明らかに戦闘用の帆走スループだもの。この船は、スループ・オブ・ウォーとも呼ばれ、地球では18世紀から20世紀まで用いられた、フリゲートとコルベットの中間に位置する軍艦であり、1層の砲甲板に10から20の大砲を搭載していたとされているのよ。
これは砲門の数で定義されていて、マストの本数や帆の種類は問わないのが地球での定義だったの。マストが2本のものをブリッグ・スループ、3本のものはシップ・スループと分類するが厳密な帆装の区別ではなく、帆の種類も縦帆・横帆を問わないわ。
主に船団護衛艦や沿岸警備艦として用いられたとされるけど……多分この説明続けても誰も喜ばないからここ迄にしておくわね。ルフィ辺りなら寝そうだし。
つまりは、私も大興奮です。そんな私達の前でアイスバーグさんは、かけられている布にゆっくりと手を伸ばした。