降って来たのはどうやら人だったようだ。頭から瓦礫に突き刺さったそれは下半身丸出しの様子だけど、有難い事にこちらからは正面は見えない形になっている。
降って来た人物……フランキーを罵倒する声と、呆れる声、そして心配するスクエアシスターズの声が重なる。そんな何とも言えない空気を生み出している中で、チョッパーとルフィがサニーへと帰って来た。
帰り着くのと同時に抱き着いてきたルフィは、そっと掠めるようなキスをしてからチョッパーが咥えていたパンツを手に、船縁に立つとそれを天高く掲げた。その状態にアイスバーグさんは呟く。
「ンマー……何だこの状況」
私もまた、内心でそれに同意しながら唇を抑えてその場に座り込む。今、何が起きたの?
Kissも、それ以上の事だって何度もされてるのに、ルフィが相手だと私はたちまち何も知らない少女のようになってしまう。ルフィからの軽いキスひとつで、立ってる事も出来ないくらいになってしまう。
フランキーはうがァ!とか言いながら立ち上がったけど、私はまだ立ち上がれそうにない。もう、ルフィが好きすぎて可笑しくなりそう。
「フランキー!!」
ルフィが呼ぶとフランキーはプラプラさせた状態で振り向いたらしい。私はまだ立ててないので、それを見なくて済んでるけど。
「船!!ありがとう!!最高の船だ、大切にする!!」
「ああ、お前らの旅の、無事を祈ってる」
フランキーの声が、微かに震えていて……旅に出たいと言う個人的な感情と夢、そして、自分で自分に課した罪の十字架の狭間に居る事が伝わる。もし、私がベルメールさんを生かす事が出来なかったとしたら……。
ノジコやゲンさん、ドクターまでもを喪っていならば……。きっと私は〝アーロンに殺されようとした〟だろうと思う。
だから分かる。自分が大切な人を傷付けた罪と、その為に喪った現実と、取り戻す為の力が足りないと思い知らされる絶望の中で、この場に立ち止まるしかないフランキーの気持ちが、分かってしまう。
「このパンツ!!返して欲しけりゃ、俺達の仲間になれ!!」
ルフィの声が高らかに響き渡り、外野がフランキーに野次を飛ばす。その野次の中で、ルフィとフランキーは譲れないものを胸に秘めて、睨むように互いを見詰めている。
恐らくは、無言の時はそれ程長くはなかったと思う。それでも、フランキーは〝サングラスをせず〟にルフィを見ているのだから、その本気度合いが伝わろうというものだわ。
「パンツを返せ!!麦藁!」
「じゃ、仲間になれ!!」
その瞬間、フランキーをよく知る人達は微笑ましそうにそのやり取りを眺めていて、私は漸く立ち上がれるまでに回復した。……ルフィのばぁかと、内心で小さく毒づきながらだけど。
「馬鹿言え……パンツ取ったくらいで!!俺を仲間に出来ると思うなよ!!」
フランキーはそう言うと瓦礫の中で堂々と立つと、下半身丸出しでポーズを決めた。それには街の人達の最悪だ!!と言うコメントに対して、本当にね!!と、私は心から同意する。
いやね、読者だった頃は良いのよ。変態ねって笑っていれば良いんだから。
でも、今は現実な訳で、好きな人の以外はキュウリとかヘチマと変わらないけど、出来るなら見たくない訳よ。……分かる?
「なんのその。男は裸百貫の、波に向かって立つ、獅子であれ」
「甘かった……!!なんて気が強ェんだ。あいつ!男の中の男だ!!」
「ただのど変態でしょうが!!」
思わずルフィを叩いたのは許して欲しい。恐らくは今、私の顔はナミちゃんの原型を留めてなかったと思う。
ごめんね、ナミちゃん。折角可愛い顔なのに。
「手荒でよければ、手を貸しましょうか?」
ロビンが〝微笑んで〟問い掛けたのに対して、私は何故か1歩引いてしまい、ルフィは首を傾げて、チョッパーは喜びにその表情を変えた。それを受けてロビンはフランキーにニッコリと笑いかけてから、その能力を使った。
「〝
その時近くに居た人達は、太股にその手が生えた事で何が起きるのかを察知した。それも動きが明らかにその場所を狙って動いているのだ。
「〝グラップ〟」
ロビンはクロスした手をそのままに、掌をギュッと強く握った。それと同時に響き渡るフランキーの断末魔。
変態だけど、鶏を絞めたようなその声に、血の気の失せたその顔に、微かな同情心が芽生える。だけどそれよりも、確か……感覚あるのよね、ロビン。
……まぁ、いいか。ロビンとフランキーは多分想いあってるし、もしフランキーの片想いでロビンは嫌がってるなら、最悪フランキーのなんて切り落とせばいいし、そう考えたら何も問題無いわよね。
ロビンがフランキーを受け入れるなら、上手く収まると思うのよね。あ、フランキーがロビンを想ってないって可能性は皆無なので悪しからず。
チョッパーとルフィが叫び、痛がる。私はロビンの綺麗な手が穢れるんじゃないかと、それだけが心配になるのよ。
フランキーのそれがもげたとしてもロビンがやるなら構わないけど、蜜柑で喩えないで!全く、失礼しちゃうわ。
「おい、ロビン!俺はフランキーを男のまま仲間にしたいんだよ!!取んなよっ!!」
「見てるだけで、イテテテテテテ!!」
その時ロビンが笑って問い掛けた。その言葉で確信する。
あぁ、ロビンもフランキーの事が好きなんだって。そうでなければその単語は出ない。
「〝宝〟を目前にした海賊に『手を引け』と言うのなら、それなりの理由を言って貰わなきゃ、引き下がれないわよ」
ロビンの心は、既にフランキーに盗まれている。だからこそ、フランキーがロビンにとっての〝宝〟なのだと分かるから、私は船内に入りキッチンへと向かうと簡単に飲み物を用意しようと決めた。
蜜柑と蜂蜜と塩、それにクエン酸と水を合わせると簡単なスポーツドリンクになるのよね。でも、今回は赤紫蘇で作ろうかな。
冷蔵庫を確認したら炭酸水があったから、ジュースにしたいのよね。紫蘇は大量に入手出来てるみたいだし、ジュースにしておくと便利なのよ。
りんご酢が無いからクエン酸で作ろうっと!そう思って鍋でお湯を沸かし始める。今頃フランキーは、必死に言葉を連ねて言い訳をしているだろう。
鍋に葉を入れながら、そんな事を思う。そしてきっと、兄弟子としてアイスバーグさんがその背を押してくれるだろう。
それを見なくても覚えているのと、この先の事を思えば大量にあるこの赤紫蘇を処理する方が大切だと思えた。キッチンに積んであるって事は、何かに使うつもりなのだろうけど、これは流石に使いきれなくて腐らせるだけだわ。
……あ、街の人から貰ったのね。サンジ君がどうしたらいいか、レシピ本を読んでメモに使える方法を書いているのを見付けたので、そう判断する。
ザルを使ってそれをこしながら、表が騒がしくなったわねと思う。そこで更に、フランキー1家の野太い声が聞こえてくる。
こした液をまた鍋に戻して、砂糖を加えながらかき混ぜればフランキーの怒号が中まで聞こえて来た。互いを想うからこそ、ぶつかる事もある。
何だかいつも、私だけ場違いだわ。私は、いつも傍観者でしか無い。
砂糖が溶けたのを確認して粗熱を取るように火から下ろしたら、クエン酸を用意だけして表に出る。粗熱取れないと後は何も出来ないもの。
これはなんと、無事に完成すれば半年程保管できるのだ。ロビンと私にはあって損にならないシロップだからと、微かに笑いながらさり気無くロビンの隣に立つ。
紫蘇の葉は乾燥させてふりかけや醤油漬けにする事で、捨てる事なく全て使いきれるのよ。ふりかけにすると、有名な赤紫蘇のふりかけの塩分が無いバージョンを作れるって訳よ。
「ナミは、これから仲間になる人の話なのに聞かなくて良かったの?」
「えぇ、中で聞いていたから大丈夫よ。それに……この後どうせ宴で皆色々と語り合うでしょ」
「それもそうね」
その時少し離れた所から、サンジ君とゾロがルフィを呼びながら走ってくるのが見える。私はロビンに視線を向けて、出航の準備をと小さく伝えるとロビンもまた無言で頷いてくれた。
「さァ、乗れよフランキー!俺の船に!!」
「へへへ……生意気言うんじゃねェよ!!ハリボテ修理しか出来ねェ、ド素人共め!」
フランキーは嬉しそうに笑いながら、サングラスをかける。ゾロとサンジ君が階段を登ってくる。
「これだけ立派な船に、大工の1人も居ねェとは、船が不憫だ」
私は海に視線を向けて、短剣に手を伸ばす。ガープさんの大砲なら、もう斬るしかない。
当たればフランキーの腕でも確実に直せる保証がないもの。私は、動物を斬るので無ければ迷わないわ。
「仕方ねェ!世話してやるよ!!おめェらの船の〝船大工〟!!このフランキーが請け負った!!」
歓声が沸き起こる。仲間だと、新しい仲間だと喜ぶそれに耳を傾けながら、見え始めたガープさんの船を私は思わず睨み付けていた。
フランキーは多くの人達に見送られながら挨拶して、ゆっくりと船に乗り込む。私はガープさんの船に向かって叫ぶ。
「くぉらぁー!約束が違うじゃない!お爺ちゃんの嘘つきぃーー!!」
いつも歌っている私の声量を舐めないでよね。私のこの声は、絶対に届いてる。
その証拠にガープさんが拡声器持って前方に姿を見せて、スマンと叫び出した。そうなるとルフィも私の隣に立って叫ぶけどまだ距離があって声が届かないらしく、船を近付けるから待ってろと言われる。
それを聞いたルフィが出航と声をあげたために、チョッパーがルフィを止めに入る。だってまだ、ウソップが帰って来ていないのだから。
「本当に良いのか、麦藁。〝もう1人〟待たなくて」
フランキーが問い掛けると、ルフィはフォアマストを囲うように設置されたベンチに腰掛けて、作り笑顔を浮かべる。芝生甲板の所にあるマストはメインマストでは無く、フォアマストなのよ。
つまり、メインマストは蜜柑の木の所にある、後方のマストの事です。間違えないようにね!
「待ってたさ!サンジからあの話を聞いてから俺は……」
ルフィの言葉が不自然に途切れる。泣きたいのを我慢して笑うルフィは、少し痛々しい。
そこに飛んでくる砲弾。私は短剣を足から引き抜くとそれを用いて砲弾を切り、空中で爆発させる。
……船は、傷つけさせないわ。今はまだ、もう少しだけ待ってあげたいし……。
その時ガープさんの声がこちらに届き始めた。どうやらここからが本番らしいと、私は短剣を強く握り気を引き締める。