ザワつく海軍船を見ながら、砲弾を斬り捨てて私は精一杯時間を稼ぐ。皆は今、この船の名を決めているから。
「こんな時に船の名前!?」
「そうさ。名もねェ船じゃ出航に勢いがつかねェだろ」
フランキーの言葉にルフィがうーんと唸ってから言う。もう、そこからはウソップとの漫才だ。
……2人で仲良く漫才コンビとしてデビューしたら良いと思うわ。まぁ、そんな事しても売れないだろうけど。
「『何とかライオン号』みてェな感じか?……よーし!強そうな名前考えた!『熊!白熊!ライオン号!!』」
「そんな変な名前の船あるかァ!!」
その後も、動物の羅列を辞めろとか、ライオンが名前から消えたとか言って騒ぐそれをフランキーが鎮める為なのか、ゆっくりと口を開く。それは、この船を作っていた時の回想とも言える思い出話。
それを聞いていたら、ロビンが
「その時の会話としてはこうだ……。
「ンマー、お前らが間違うのは無理もない。だが、未来の海賊王の乗る船だ。そういう願いを掛けたんだろ?フランキー」
「そうさ!猛獣だらけのこの海へ乗り出しその頂点を極めるに相応しい……」
「いい〝太陽〟だ」
「違うわ馬鹿!」
「過酷なる〝千の海〟を〝太陽〟のように陽気に超えて行く船……。あいつらにピッタリだ「違うっつってんだろバカバーグ!!」」
「こういう船の名はどうだ、フランキー。海賊船『サウザンド・サニー号』」」
フランキーの言葉が終わると歓声が上がる。ルフィの考えていた〝ダンゴ・ゴリラ・ライオン号〟だとか、ゾロの頭を過ぎったらしい〝ライオネル親方〟とか言う阿呆なものより良い。
それには勿論ロビンの案である〝暗黒丸〟や、サンジ君の〝ムッシュ向日葵〟なんかよりも断然である。と言うか、皆気は確かだろうか。
「千の海を超える船って……素敵ね〝
ロビンの言葉に皆が頷く中で、フランキーはまだ語り続ける。もう誰も聞いていないフランキーの案は〝ニューバトルフランキー『ライオンギャングチャンピオン号』〟であったが、そんな訳で当然の如く受け入れられる事は無かった。
「アイスのおっさんの奴で行こう!!気に入った!」
ルフィの言葉にサンジ君が頷き言葉を発する。船は今、時折砲弾に揺れる他は至って平和だ。
「『サウザンド・サニー』か。いい名前だ!!」
私は砲弾を斬り裂いて振り向く。私も参加しておかないといけないだろうから。
「私も賛成よ!」
「名前が決まると出航の気が引き締まるもんだな!」
「宜しくな、サニー!!」
私の言葉に続いてゾロとチョッパーが言えば、ブー垂れているフランキーにサンジ君が喝を入れて、ゾロがそれに追い打ちをかける。大概いつも大切なところでは、この2人の意見は揃うのだ。
「分かったよ。うるせェ!!」
怒鳴るようにフランキーが言ったのを聞いて、飛んで来た砲弾を切り裂いてから甲板に戻るとルフィがお疲れなんて笑ってくれる。それに話が纏まって良かったと答えれば、ルフィが私の額にそっとキスをしてそのまま耳元に唇を寄せるとそこで囁くように言う。
「続きは、後でな」
「続きって……!」
「ん?フランキー迎えに行く時、寂しそうにしてただろ。だから、後でな」
そう言ってルフィは男の顔で笑うから、私の顔は自然と赤くなってそのまま動けなくなる。そんな私からルフィが離れるのと同時にフランキーは島を見収めておけと言うので、私はとりあえずロビンの元へと向かった。
ルフィはフランキーの言葉を受けて船縁へと移動すると大声でガープさんとコビー君を呼び、その後で誰かの名を呼ぼうとして諦める。そんなルフィにガープさんが玉が残ってると言うけど、フランキーを仲間として無条件で信じているルフィは迷う事無く宣言する。
「無駄だ!……こっから俺達、本気で逃げるからな!!また、どっかで会おう!!」
そんなルフィにガープさんが怒り狂ってる様子が遠目に確認出来るけど、ルフィはそんな事は既に気にしてなくてアイスバーグさん達に挨拶している。その声は恐らく届いていないけど、あちらの声もここ迄は聞こえないけど……きっと皆笑ってくれているだろう。
フランキーはサニーにエネルギーを注ぎ込む。……それにしても、こんなにも不思議な船をフランキーは説明も無しに別れたら、扱いきれないだろうとどうして分からなかったのか。
……つまりは、そういう事なのよね。フランキーは初めから1緒に行くつもりであり、託すと決めた時、そして、それを受け入れてもらえた時、フランキーの心は既に決まっていたのだろう。
怒り狂ったガープさんが巨大鉄球を投げて来て、ぶつかれば粉砕だろう物が飛んでくるのが見える。私は咄嗟に甲板の床を蹴りそれを切りに行こうとしたけど、それを突然掴んで来たゾロに阻まれた。
どうしたのかとその顔を見上げれば、その瞬間フランキーの声が響き渡った。珍しくサンジ君迄もが焦ったような顔をしている中で、何故か鉄球を斬る事を許さないゾロに離してと言おうとした時、体が比喩ではなく浮き上がりゾロの腕の中に抱き込められる。
「〝
船が、サニーが空を飛ぶ。その事をゾロが知っていた筈はないのに、当然のように庇ってくれたのだと分かれば小さく謝るしか出来なくて、そんな私の頭を撫でてゾロは皆の方へと歩いて行く。
その手が、気にするなと言ってくれていて、私はゾロって良い奴よねと心から思い視線を向けた。フランキーは宣言するように、高らかに……歌うように楽しげに、言葉を紡ぐ。
後方では私達のいた所に鉄球が沈んでいくのか確かに見えて、新たな冒険が始まったのだと理解する。コーラ樽3個の消費で1キロ飛べると言われて、即座に脳内で算盤が踊り出した私はどうなんだろう。
だって、でも、ほら、フランキーを〝起動〟とか〝活動〟させるにもコーラは必要じゃない?
船が海面へと着地すると、フランキーはおもむろに私に歩み寄りほらよと言って何かを手渡して来る。それを無意識で受け取り、そして……涙が、零れた。
渡されたのは、両手に収まってしまうくらいの小さなメリー号で……ハリボテの修復跡まで見事に再現されている。指でその木を撫でれば、その優しい感触を体が覚えていた。
「……細部まで全て、俺の見た記憶を頼りにだが、注意して造った。間違っちゃいねェだろ」
「あり、がと……」
「木の部分は全て〝メリー〟で造ってある。どこに置くかは、小娘に任せる」
「……ナミの、製図台がある窓辺に置いたらどうだ?」
聞こえてきた声に顔を上げれば、ウソップが笑っていた。私はキッチンがいいんじゃないかと思ってたのに、そんなの許されるの?
「その〝チビメリー〟が絶対に破壊されない安全な場所で、皆が見れる場所だろ。ルフィ以外は皆の本が集められてんだからよ」
「そうですよ。それにメリーに見てて貰わねェと、ナミさん食事も忘れそうですからね」
ウソップに続くようにサンジ君が言えば、ロビンまで笑いながらそうねと言う。それにより意見が欲しくてルフィを見れば、何故かその腕が文字通り伸ばされて、絡みつかれて……強く、抱き締められた。
咄嗟にチビメリーを庇ったら、ルフィは頷いてナミの机に置いとけよなんて言うから、それに甘えさせてもらおうと思えた。だって、船長がそう言ってるんだもの。
「俺、そのメリーが近くにあったら、壊しそうで怖ェ」
「スーパー……ありそうだな」
ルフィの言葉にフランキーが答えると皆が笑いだして、それからルフィが言った。宴をやるぞと。
そうして始まる準備の合間に、私はチビメリーを置きに行く。そのメリーを机の前にある窓辺に置いた時、船首の部分が笑ったように見えた。
その頂きに流れ出る。伏流の水、美しく。
鳴り響くのは、職人気質の槌の音。トンテンカン、トンテンカン。
町の活気にリズムを合わせ、かんな、木槌を打ち鳴らす。
煙噴く、鉄の列車に願いをのせて。振り返らざる……その島の名は〝水の都〟『ウォーターセブン』
「ナミー!何してんだ!宴やるぞー!」
「ハイハイ、今行くわよ!」
大切な人達が揃い、笑っているその場所へ、私はゆっくりと視線を向ける。やはり、伝えておこうと心で小さく決意して。
ブルックが仲間になってからとか言って逃げていたら、きっと私は伝えないで終えてしまう。それがいけないなんて事は無いと思うけど……。
信じて欲しいなら、信じなければ。頼って欲しいなら、頼らなければ。
皆と本気で向き合おうと決めて、チビメリーに軽くキスをした後で私は漸く歩き出す。さて、まずは何から話したらいいかしらね。
そんな事を考えながら、暖かな人達の待っている場所へと。図書室の出入口は、鍵を閉められない造りである事を微かに不思議だなと思いながら。