ルフィのばァか
宴の日の夜。宴が落ち着いた頃になって、測量室をちゃんと見てないとルフィが言ったので、私はルフィと共に測量室へと向かった。
ルフィ以外全員の本が置かれたそこは、下から梯子で登るしかないので、お風呂に行きたい人が必ず通過するポイントでもある。それを見たルフィが、フランキーって優しいなと呟いた。
その発言に間違いは無いと私も思うけど、どうして突然そんな事を言ったのか。……あ、このソファの下にも本を収納できるように、今度フランキーにお願いしてみようかな。
「それは、そう思うけど、突然どうして?」
「多分、ナミが食事とかしないで描き続けるのを防ぐ為だぞ、この造り。これなら俺とか、ゾロ、サンジ、ロビンならナミを強制的に抱いて部屋から連れ出せるし、風呂入ろうと思った時誰かが使ってたら時間潰すのにここにいれば良いだろ」
言われてから人を抱いて梯子とか危ないんじゃと考えたけど、メインマストの所、即ち蜜柑の木の所に出てから芝生の甲板に降りるのならば、確かに人を抱いててもできるかななんて思う。それなら、納得だわ。
そんな風に考え事をしていた私に、ルフィが抱き着いてきて、へ!?と思っていたらぐるりと設置されているソファに押し倒された。そう、正に私が本の収納できるようにとか考えていたソファである。
「る、ふぃ?」
「後でって、約束しただろ」
その言葉に、言われてたけど、でも、ここって鍵とかかけられないからと焦る私。そんな私に、ルフィは残酷に微笑む。
「頑張って、声抑えとけ」
結局ルフィを拒める筈もなくて、私はルフィが満足する迄測量室兼図書室で、激しくも意地悪に抱き潰されたのだった。まぁ、後半は泣きじゃくる私を風呂場に連れて行って、ここなら鍵も掛けられるとか言って続けられたんだけどね。
それも逆上せないようにと、体を洗ったりするような事はしなかった。つまりはただ音の反響する空間だった訳で……終わってから綺麗に洗われたから、臭いとかは問題ないと思う。
それが終わった直後と言うかの翌朝、食事の途中でそれは突然始まった。因みに私は1睡もしていないのよ……ルフィのばァか。
それは見張りの順番やら、網の扱い方等についての話し合いだ。私は今度こそ、なぁなぁにされてなるものかと会話に参加する事を決める。
「俺は今まで通り、サンジとナミには見張りをさせない方がいいと思うんだ。島にいる時ならともかく、船が海にいる間は2人に全て掛かってるから」
チョッパーがそんな事を言えば、何故かウソップもそれに頷いて同意する。それに私が異議を申し立てるとロビンが悲しそうな顔で、心配なのよなんて言うから言葉に詰まってしまう。
ロビンの悲しそうな顔の破壊力を考えて欲しい。逆らえると思う?
「ナミ、航海士のそれが必要になれば、何日でも眠れない日が来るわ。そんな時だけじゃなくて、見張りで疲れていたら異変に気付けないかも知れない。……お願い、ナミは見張りをやらないで、私達に任せて」
「ロビン……」
私が言葉を失ったその隙に皆は話し合いを進め、私とサンジ君が見張りをしない事が決定してしまった。妙に連携したそれに少し膨れていたら、見張りに入る前にその人が網を設置して行く事で話が纏まってしまう。
翌朝寝る為に部屋に帰る時に、網をあげて中身を生簀に入れる事になった。そうすれば無理にその時全てを食べなくていいと。
その明らかなる利点に皆は喜ぶけど、確かにそれは嬉しいけど……。なんか、またやり込められた気がするわ。
毒のある魚とかは、後でサンジ君が逃がす形を取れば良いから、魚を無駄に弱らせなくて良いから助かるなんて話になれば、もう私の意見は通りそうにない。でも実際昼間は何も居ない海域程、夜は海面近くまで烏賊等が浮上する楽園みたいな海域だったりする事が多い。
なので、昼間の釣りだけでなくそれが出来たら食糧事情は随分安定するのだ。だからこそ夜網を設置して魚を得て来たけど、朝1番で全て処理しなければならなかった。
その為にサンジ君にかかる負担が大きかった。それを今度からは生簀もあるので問題が解決して、尚且つ泳いでいる姿を全員が好きに眺められるのだから素敵だろうと思える。
そんな訳で、その日は昼間だけど網の扱い方について説明する為に網を降ろしておく事になった。それを見れば意外と簡単で助かったなんて皆が言うので、良かったと思って笑い……あれ?
もしかして……私の仕事、減った?
「ねぇ、なんで皆して私から仕事取り上げるの!?」
「「「「「「「ナミ(さん)が働きすぎだから」です」よ」」」」」
なんて、フランキーまで含めた全員が声を揃える。それには私もむぅっとなって、そんなに働いてないわよ!と抗議してみたけど、なら船にいる間ゾロは、ルフィやウソップは何してるなんて言われたら黙るしか無くなった。
チョッパーなら、薬作ったり皆の健康チェックと言える。ロビンは本を読んだりして情報集めてくれてる。
サンジ君は料理をして、フランキーはまだ分からないけどサニーのメンテとかしてくれてるだろう。……ゾロは寝てるだけで、ルフィとウソップは釣りをしてるか遊んでるかで……。
「でも、船長って何もしないのが普通だし!そこは仕方ないと「ウソップとマリモは船長じゃねェですよ」」
サンジ君が苛立ち紛れに変な口調でいうので、すみませんと謝るしかなくなった。案外サンジ君は怒らせると怖いのよ。
そうして私は仕事を減らされた分執筆や調べ物、ストレッチ等に時間を配分しようとしたら、ロビンにお茶に誘われると言う謎現象が起きている。とは言え、空いた時間は1日換算で2時間位なんだけどね。
設置して網をあげて、魚を得る行為は意外と時間と労力が必要なのだ。網のメンテナンスについては聞かれなかったので、私が1人で行っている。
仕事取られない為にその事を指摘しなかったとかじゃないわよ?聞かれなかったから言わなかっただけよ?
内心で言い訳しながら網の手入れをしていたら、ルフィが何してるんだと言って来た。それに何も考えずに答えたら、いつの間にか皆が集まって来ていて緊急の話合いが持たれてしまう。
その結果、網のメンテまでも皆に奪われて私はいじける事となった。……ルフィのばァか!
それから数日後、ルフィ1行の新海賊船サウザンドサニー号で、私は波を被ったの言い訳に入浴を楽しんでいた。その間にルフィとウソップが釣りに勤しみ、その釣られた魚を眺めながらロビンとフランキーが寛いでいる。
サンジ君はそんな2人に飲み物を提供していて、チョッパーは医療室という独自の自室に歓喜している。ゾロは見張りをしているが、実際それら昼寝とトレーニングを目的としているのは暗黙の了解である。
今度からは見張りも船内で行える為、寒暖対策が不要になった事は概ね好評である。筋トレが命のようなゾロなんかは、トレーニングルームを兼ねたその場所に日中も率先して登っているようになった。
船は現在順調に航海を続けている。そう言えばマルコさんは……エースを連れ帰れたのかなと、そんな事を考えながら私はお風呂を出た。
脱衣場を兼ねているその場所で髪を絞り、洗面台の横にある窓から船内に風を取り入れる。……やっぱり1人で入るのって良いわと、先日鍵を閉められない場所でのソレを泣いて嫌がった事で、後半はこのお風呂場だった事を思い出して少し顔が熱くなる。
……もう、ルフィの馬鹿。暫くはキスだってさせないんだから!と内心で叫んでみても、実際の所求められたら拒めるかは不明である。
洗面台の真向かいに当たる位置に設置されている愛しき洗濯機に、使い終えたばかりのタオルと入浴前に着ていた物を入れる。……後でサンジ君が使ったタオルとか入れて回して貰おうかな、まだ回すには洗濯物の量が足りないもの。
その時ゾロの声が船内に響いた。それを受けて外に出れば海神御宝前と書かれた樽が浮かんでいるのが見えて、珍しい物があるわねなんて思う。
その樽を見たルフィ達がお宝かと騒いでいるのを見て、真実を伝えるといつの間にやら全員が集まってきていたので、海神御宝前の樽について説明する事となった。皆はそれを受けて酒を飲もうとの意見で纏まり、ルフィが樽の蓋を開ける。
けれどもその樽は空で、中から酒ではなく何故か赤い光が飛び出した。それを見てロビンが、不安そうに言葉を口にする。
「……ただの悪戯なら良いけれど……もしかして……この船はこれから、誰かに狙われるかも知れない」
その言葉にウソップとチョッパーが反応するけど、とりあえず即座に何か見える訳では無い。それから開いた樽をどうするかって話になれば、飲んでないのに酒を入れるのも嫌よねと笑っていたら、ルフィが蓋の上に足を置いた。
「俺は、海賊王!」
それに皆1瞬動きを止めて、私は小さく笑ってゾロに視線を向ける。それによりゾロは動くと、ルフィと同じように樽に足を乗せた。
「俺ァ、大剣豪に」
「待てよ、それ俺が最初だったろ。……俺は、オールブルーを見つける為に。まァ見付けたらそこでどんな魚料理でも、望まれるままに作ってやるよ」
サンジ君が乗ってくれて、そんな事を言うから私もそれに加わる。当時を知らないメンバーは首を傾げていたけど、私の動きを見て何かを考え始めた様子だった。
「私は世界地図を描く為!その為にも、ちゃんと何処へだって導いて見せるわ!!」
「俺は、勇敢なる海の戦士になる為だ!」
そこへチョッパーが寄ってきて、混ざろうとすればゾロが抱き上げて足を乗せさせる。それによりチョッパーが嬉しそうに加わつた。
「俺は、何でも治せる医者になる為!」
「ふふ、私は空白の歴史を知る為に!」
「俺は……トムさんを超える為にだ!!」
あの頃は居なかったメンバーも加わり、進水式に必要な酒のない空樽に私達の夢を代わりに押し込んで、空の樽を揃って割る。そもそも進水式は船に向かって酒瓶を投げるものであって、夢を語り樽を割るものでは無い。
そうと分かっていて、私達はこれを行うのだ。全員の笑い声が……谺した。
でもそこで、まるで測ったかのように気圧が変わったのを感じれば笑ってばかりも居られない。樽はとりあえず中に片付けて、皆には持ち場へと指示を飛ばす。
こうなれば敵の姿が見えないからと安心も出来ないけど、まずはこの
「南南東へ逃げるわよ!大嵐が来る!5分後よ!!」
「見えねェけど、あいつが言うんだから、また急に来るんだろうな……。ナミ進路は!?」
ルフィの言葉に私は迷わずに答える。これが私の仕事だし、存在意義だもの。
「二時へ真っ直ぐ!」
誰も疑わずに動いてくれるから、本当に助かる。1人でサニーを動かすのは、不可能ではないけどなかなかに骨だもの。
けれども悲しい事に、
良くない傾向に私は海を睨み付ける。それでもどうにかしなきゃと、気ばかりが焦り思わず呟く。
「……!駄目だわ、完全に向かい風」
「オイ!この船の力はこんなもんか!?」
そのフランキーの言葉にハッとする。確かにアレならこの窮地も乗り切れる筈!
「そっか!皆、帆を畳んで!〝
「おお!アレか!!」
「うおー!アレ格好良いから好きだ。やれー!!」
皆の賛同も得られたのでチャンネルゼロのコーラを消費しての移動にはなるけど、パドルシップとなる船に凄いわと思う。パドルシップとは〝人力〟では無い動力船の初期型である。
大航海時代にあった多くの大型船はほぼ全てが人力で、動かされる物だった。海面に面した位置の船の中は何十本もの巨大な
それに対応して海賊は航海士やコック、医者等特殊な知識を持つ者を除き平等に交代制で漕いでいた。なので富豪の商人や貴族を除けば、海賊の方が生きやすい時代だったのだ。
海賊は大所帯になればなる程秩序があり、統率も取れていた。そうしなければ纏まりも無く、不平不満が募り上手く機能しない為である。
この世界では自由を求めて海に出るケースがあるが、地球では地図を作り新たな島を発見し大金を得るのを目的に、そして何よりも生きる為に海賊になったケースが多い。その為に商船や貴族船の奴隷が反逆して海賊になったケースも多くあるが、その辺は割愛しよう。
そんな訳で私達は、何とか嵐を乗り切る事に成功した。でも、嵐を抜けたら深い霧の中に突入してしまい、私はゾッとするような寒気を感じて我が身を抱き締める。
本当にお化けダメなんだってばー!
「……もしかして……例の海域に踏み込んだって事かしら……まだ、心の準備が……!」
「……ナミ、お前ェは永遠に心の準備出来ねェだろ。怖いなら来いよ。護ってやる」
「ルフィー!!」
ルフィに飛び付くとウソップがなんだ?と言って魚人島に着くのかと楽しそうに笑う。そう言えば、あの話の時ウソップ居なかったわね。
カタカタと震えていたら、ルフィが私を抱き締めてなんか嬉しそうにしてる。理由はわかんないけど、とりあえず守ってくれるらしいから離れないんだから!
そんな私とは違い、情報の無かったウソップを揶揄う為に皆が色々と言い始める。それによりチョッパーとウソップが怯えてるけど、私はなんか落ち着いてきたわ。
そうよ、お化けだってルフィ相手ならどうにもならないわ。ルフィはどうせ、お化けだって仲間にしようとするに決まってるんだもの。
その時音楽が流れてきて、もしかしてと視線を向ける。その瞬間、恐怖は1瞬霧散した。
戦えるメンバーが船に何かいると、必要であれば戦う為に相手を探す。約1名、私を守る筈の男だけが楽しそうにしていて……役に立ちそうにない。
ルフィのバァカ!ばぁーかー!!
今の私には、気丈に振る舞う余裕なんて皆無である。ブルックは怖くなくても、あの船には毒とかウイルスとか色々あるのよ!?
そうよ、怖いのは毒とかウイルスとかであって、ブルックの死んだ仲間がお化けとして居るかもなんて、そんな事は考えてないんだからァァァ!!
1瞬見えたブルックの骨が、赤とか黒の色じゃなくて本当に良かったわ。そんな事を思った私は、酷い奴だろうか。