※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

163 / 462
喜び

 混沌としたその場は、けれどもキッチンで食事をする事になってとりあえずの落ち着きを見せた。そこでもブルックは大はしゃぎで、その理由を知る私にはそれがまた物悲しく感じる。

 椅子に腰掛けてブルックの話を聞いていると、突然頭痛が襲って来て、何だか恐ろしく久々だけど来たかと思う。今回はなんだろうと思っていたら、見えるのは塩で影が開放される事と、七武海が2人居るところであり、その他には何故か……猪ゾンビの姿が映る。

 え?……何この猪。

 頭痛の中で見るからか、余計に苛つく。と言うか、頭痛の為に嘔吐感が危険水域に達してるのが問題だわ。

 ……食事、今回は無理かも知れないわ。あー……赤紫蘇のジュースだけ貰えたら助かるかも。

 そう思って顔を上げたらルフィと視線が合って、直後近付いてきたルフィにヒョイッと抱き上げられた。そのままソファに移動させられると、そっと頭を撫でられる。

 その指が優しくて、その熱が愛しくて、ホッと息を吐き出すとルフィは私の額に軽くKissをして来た。そして、優しい声で言う。

 

 「食事の支度が出来るまで、休んでろよ。楽器をどこに置くかとか、話しておくからよ」

 「ルフィ……ありがとう……」

 「……やっと、こういう時に休ませてやれるようになったな。もう今までみたいに、1人で抱えんなよ」

 

 そう言ってからルフィはここに居るからと言うので、そっとルフィの手を掴んでお願いしてみる。体調が悪いからかな、心細いんだもの。

 今までは誤魔化さなきゃとか、隠さなきゃとか、1人でどうにかとか、耐えろって思って気を張って来た。だから耐えられたし我慢出来たの。

 けど、優しくされて、休んでいいと言われると途端に弱くなる。この温もりを、離したくない。

 

 「……手を、握ってて欲しいの」

 「ナミ……」

 

 ルフィは呟くように、喘ぐように私の名を呼び、そのまま頭を抱えた。それから掴んでいるその手を強く握り、私の顔を隠すように麦わら帽子を被せると、寝てろなんて言う。

 それに素直にお礼を言って返事をしたら、頭痛の原因と向き合う事に専念する。見終わらないと頭痛は収まらないから。

 そこで集中すると見えたのはゾンビの群れ。半泣きで震えながらルフィを強く握るとルフィがそれに気付いて、頭を撫でてくれる。

 その中で、ここには作られたゾンビが大量にいるのだと言う事が理解出来た。それを解放するのには、塩が必要なのだと言う事も含めて。

 この恐怖映像と早く別れる為にも、私は塩を大量に用意しようと決める。更に見て行くと、ピンチの時に友達が出来るのだと言う事を知る事ができた。

 それが先程見えた猪のゾンビらしいけど……正直怖い。そもそも何故に猪?

 そう思った時頭痛が落ち着いたので、今回の島にはゾンビがいることくらいだけど少し分かり、魚人島の前にやはり島があったわねと少し思う。

 

 「ルフィ、ありがとう」

 「もう、良いのか?」

 「うん。大丈夫よ」

 

 優しく心配してくれるルフィに、違和感なんか抱かれないように気を付けて帽子を返しながら笑ったのに、何故か余計に表情を引き攣らせるルフィに小さく息をもらす。何故か信用されずに心配されてるとわかるから、困ってしまう。

 ブルックも首を傾げているけど、恐らくは事態が読み込めないだけでなく、心配もしてくれてるのだろう。……表情が無いから、イマイチ分からないけど。

 私が見た事柄についてどう語るべきか考えていたら、サンジ君が食事を運んで来てくれたので、1旦黙ろうと決めて私もルフィと共にテーブルへと戻る事にした。けれどもそこに来て、ルフィとブルックはまだ自己紹介もしてなかったと気付き、唖然としていたらゾロがそれに突っ込んでいる。

 どうやらゾロはツッコミ体質らしい。そんなやり取りを見ながら、ブルックを含めた全員でワイワイと食事をしていく事になり、私も頭痛が落ち着いていたので有難く食事を開始した。

 サンジ君の料理は美味しくて、本当に幸せだわ。それにしても、折角魚が手に入ったのにどうやら今日は肉料理らしい。

 ブルックは食事の途中で、のんびりとした様子でヨミヨミの実の能力者だと話し始めた。そこから彼は語り出す。

 骨になってしまった理由を。だから私はブルックを見て口を開く。

 

 「……鏡に映らず、影も無くなってしまった理由をヨミヨミの実の説明と合わせて、ルフィ達にしててくれると嬉しいわ」

 

 驚きを隠さない仲間達の事もあるので、手鏡を向ければブルックは観念したようにその事は悪魔の実とは無関係なのだと語る。そして、どうにもならないのだと。

 私なら、どうしただろうかと考える。仲間と共に海へ出て、約束して残して来た小さな生き物を思い、死ぬ事も出来ずに居たならばと……。

 ……ブルックは、強いわ。怖がりだけど、本当は強いし、何よりもその精神力は賞賛に値する。

 

 「ナミ、どうしたの?」

 「……ヨミヨミの実って、呪いみたいだなと思ったら、悲しくなってきて……」

 「確かにな」

 

 心配してくれるロビンを誤魔化す為に言った私の言葉に、ゾロが同意を示すとウソップとチョッパーも騒がなくなってきた。その後も続くブルックの言葉にそれぞれ思う所は有るだろうけれど、ブルック自身がそれを明るく笑い飛ばすから、重くならないで済んでいるに過ぎない。

 

 「〝死んで骨だけ〟ブルックです。どうぞ宜しく!!」

 「散々だなお前の人生。なんで明るいんだよ」

 

 サンジ君はそんな言葉を口にして呆れた様子だけど、空気を暗くしない精一杯の言動なのだろうとわかる。サンジ君は優しいから、皆を守る為に、情報収集もしているのだろう。

 

 「なのに〝コツコツ〟生きて来ました。骨だけに!!」

 「「五月蝿ェよ!!」」

 

 ブルックの言葉にサンジくんがとフランキーがツッコミを入れると、ブルックは突然笑い出した。両手を上げて踊り出したのだ。

 ブルックは、ただ、今幸せなのだと語る。人に会えた事、食事を共に出来た事、それだけで幸せなのだと。

 それに誰もが言葉を失う。息を飲み、言葉を飲み込むしか無くなる。

 だってね……それだけ重い言葉だから。微かに震えるその声が、ブルックの慟哭を伝えて来るから。

 ……泣くな、私。私には泣く権利はない。

 

 「貴方が私を仲間に誘ってくれましたね!!本当に嬉しかったのです。どうもありがとう」

 

 ルフィはそれに嬉しそうににししと笑う。ついでブルックは私を見て言う。

 

 「貴方は私を迷わず受け入れてくれました。〝音楽〟を愛していると、言ってくれました。音楽家では無く、航海士だと言うのに……!どれ程嬉しかったか……!」

 「俺も歌好きだぞ!!海賊は歌うんだ!!この船に乗ってる奴は、皆歌が大好きだ!」

 

 ルフィがそう言うと、ブルックはルフィにその顔を向け直して、ありがとうと呟いた。そして繰り返す〝皆さんは私の喜び〟だと。

 胸が……苦しい。音楽を愛する仲間を喪い、音楽を愛する人に出逢えて、受け入れると言われたブルックの気持ちを思うと……どうにも言い表せないような気持ちになる。

 

 「だけど、本当は断らなければ!!」

 「おい!!何でだよ!!」

 

 そうして説明されるとルフィは怒り出す。水臭いと言って協力を約束するルフィに、そのやり取りを微笑みながら眺める以外何が出来るだろうか。

 それから音楽家である事を明かすブルックに、ルフィはどうしても仲間にしたいのだと言い切る。容姿に対して1切の偏見を持たないのは、ルフィの美徳だろう。

 恐らくブルックはルフィを逃せば、この先誰かの仲間になって海へ出る事は出来ないだろう。それはブルックも分かってる筈で、だからこそ幸福の時をくれた人達に対して、ブルックは自分の為に命を捨ててくれとは言えないのだと理解できる。

 ブルックが音楽を奏で始めると、自然と皆の表情が和らぐ。本物の、天才が努力を重ねればこうなるのかと思わされて、悔しいなんて感じる隙もない。

 

 「楽譜があれば、他の曲でも、もしくは知らねェ曲でも演奏出来たりするのか?」

 

 曲が終わったところでゾロが問い掛けると、知らない楽譜があるならば見てみたいと言い出すブルックにウソップが言う。それは当然の事であるかのように自然に。

 

 「何十年も海にいたなら〝宝玉〟って呼ばれてる天才作曲家を知らねェよな?その宝玉の作品全部揃ってるぜ」

 「ちょっと、ウソップ止めて!」

 「そのスーパー!な作曲家がクルーだからな」

 

 私の静止を無視して今度はフランキーが言うから、つい睨み付けるとブルックがもしやと言って私を見るから居心地は最悪になる。だってね、私のそれは盗作だから……。

 私はブルックのような、本当の音楽家じゃないもの。ただの……趣味で……それどころか金儲けの1環で……。

 そんな私の頭をルフィがぽふっと撫でるから、泣きそうな顔でルフィを見てしまう。そんな私にルフィは明るく言う。

 

 「恥ずかしがる事ねェだろ。だからナミは手配書も〝生け捕りのみ〟なんだしよ。いっそ誇って良いと思うぞ、俺は」

 

 実力じゃないのに、誇れるか馬鹿者!……とは言えないので、俯いてしまう。

 そんな私の様子を見ていたメンバーの中で、ロビンだけが冷静にその能力を用いて行動を起こしていた。そして、運ばれて来たのは私の発売した譜面達。

 

 「これが〝宝玉〟作曲の音楽よ。全て知らないと思うから、見てみたらどうかしら?」

 「仲間になれば、いつでも見て好きな時に演奏しても良いんだぞ!ナミは中々歌ってくれねェんだ。忙しいのもあるけど、恥ずかしがり屋なんだよな」

 

 ロビンの言葉にルフィが続くとブルックは震える手で譜面に手を伸ばして、恐らくは未知の音楽だろうソレに触れると、小さく言葉を口にする。それは聞き取れたのは奇跡じゃないかと言う程に、小さな声だった。

 

 「涙が、枯れていなければ……」

 

 それにチョッパーが首を傾げて言う。チョッパーのその言葉は、恐らく他意等何も無いだろう。

 

 「泣いてたら、楽譜見れねェぞ。それでブルックは、何か演奏してくれるのか?」

 「では、最初に手に取ったこの曲を、演奏させて頂きましょうか……」

 

 そう言ってブルックが見せたのは『IMAGINARY LIKE THE JUSTICE』だった。それは、確か、ボカロでミクちゃんの曲だった物の筈ねとそれを見て思う。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。