次の曲を演奏する為にブルックがバイオリンの弦と弓を合わせた時、ゴーストが船内に姿を見せた。それに悲鳴をあげるブルックと、仲間達。
私とブルックがお化けが怖すぎて腰を抜かした直後、大きな音と振動が起きてその場を更なる混乱の渦へと突き落とす。けれども私は先程見ていたものの関係もあり、ふらりと立ち上がると、サンジ君の城へ侵入して塩をいくつか丸めて用意していく。
そしてそれを慌ててブルックに差し出すと、ブルックは丁度状況把握を終えた所だったらしく受け取りながら私を真っ直ぐに見て来る。表情が分からないから、何を考えているかもよく分からないけど、ブルックのその視線から逃げる事が出来ない。
「……お嬢さん、貴女は……。いいえ、どうか皆さんご無事で逃げ出して下さい。これは海を彷徨う〝ゴースト
その言葉に思わず
「恐怖を与える、船……。だから、記録指針も反応して無いのね」
「そうです。だからこそこの島には2度と辿り着けないのではないかと思っていました。……!!しかし、今日は何という幸運の日!!」
ブルックは笑ってぴょんぴょんと跳ねるように移動すると、お礼を言って、感謝を示しして、挨拶を残して……軽い調子で海へと飛び降りた。そのまま海を走って移動する姿に、ルフィが煌めく。
「ルフィ、どうする?ブルックの言ってた通りに脱出する?」
「……ん?なんか、言ったか?」
「「行く気満々だァー!!」」
ルフィはワクワク、ソワソワとしていて、それを見たウソップとチョッパーが叫ぶ。でもね、ルフィが楽しそうだからそれでいいと思うのよ。
「ナミも行きたくねェよな!?」
ウソップの言葉にそれはそうだと頷く。誰が好き好んで、お化けがいると分かってる島に行きたいものか。
しかもさっき見えた物が正しいのならば、ここには大量のゾンビまでいるのよ。嫌に決まってるじゃない。
「オバケコワイ、オバケコワイ」
チョッパーが泣きながら震えているのを見て仲間だわと思わず抱き締めたその横で、ルフィは虫取り網や虫籠を装備している。その装備に、どんな効果があるのかは不明だけど。
「よし!じゃ、船つけろ!!」
「『冒険準備万端病』かお前は!」
ルフィの言葉にウソップが叫ぶ。そのままルフィを説得しようとして、そんなやり取りの中で虫籠でゴースト捕まえて飼うつもりでいると解れば少しでは無く困ってしまう。
「ルフィ、あのゴーストは壁をすり抜けたから、カゴに入らないと思うわ」
「突っ込みポイントが間違ってんだろ!何言ってんだナミ!!」
え?……カゴからオバケ出てくると怖いからヤダって意味なんだけど、なんか違った?
「……あ!そうよね」
「分かってくれたか」
「ルフィ、飼うなら男部屋で飼ってね。私お化けとか虫とか怖いもの」
「おう!わかった!」
「ちっがァう!!」
ルフィは晴れやかに返事をしてくれたのに、ウソップは怒り狂う。……カルシウム不足かしら?
「何より、大切な仲間を連れ戻さなきゃな。サンジ!!海賊弁当ー!!」
ルフィの言葉にウソップは反対だと言うけど、無駄よねと小さく笑う。そこでロビンがサンジ君からお弁当を受け取ったと言うので、思わず声が出る。
「ルフィとフランキーはともかく、ロビンも行っちゃうの!?」
「好きなの、スリル。……でも、私の可愛いナミを守るナイトが居ないのは困るわね」
「俺が残りますから大丈夫ですよ、ロビンちゃん。ナミさんとは料理について等、話したい事もありますから」
「それなら大丈夫ね」
そんな話をしていた時、フランキーがソルジャードックシステムについて語り出す。それを聞きながら私は慌てて、人数×5~6個の塩を作り手荷物に入れる。
皆が出発する時に持たせようと決めていたら、残る組は来いとフランキーに呼ばれてそちらへ向かう。向かった先には、何も無いと言っていたチャンネル2があり、そこに待っていた物を見て私とウソップ、そしてチョッパーは大喜びで飛び乗った。
「「「メリー!!」」」
「おうよ!買出し船、ミニメリー号だ!俺様は上で待ってるから、お前らはそれで出て来い。皆の反応が楽しみだぜ」
「……本当にフランキーって優しいわね」
「はァ!?」
思わず口にした言葉にフランキーが動揺するから、ルフィがそう言ってたと伝えれば何だかんだ気恥しそうにしている。そうして私達3人はミニメリーに乗り、サニーの周りを1周する為に飛び出した。
この場所が敵のテリトリーであり、波も含めて自由にある程度操作出来る可能性をすっかり見失って浮かれていた私達は、波に煽られ大はしゃぎのままで岸に乗り上げてしまった。その結果私達は塀の中……堀の底へと落下したのだった。
私は何とか着地したけど、ウソップとチョッパーは痛そうにしている。……なんか、ごめんね。
見上げれば6~7m程は落下したらしいと分かり、どうしたものかなと思うけど、済んでしまった事は仕方ないわよね。足元に落ちている髑髏に助けられたらしいと分かり、手を合わせて冥福をお祈りしてから立ち上がる。
私1人なら登れない事は無いけど、2人を連れてでは無理。脚力じゃなくて、腕力的な意味で不可能だわ。
痛がりながらも状況把握出来ずに戸惑っている2人に状況を簡単に説明してみたら、ウソップに叱られた。……グスン。
まぁ、冗談はさて置き海面より低い位置に居るのは皆に見付けて貰いにくいからと、海岸を目指そうと話が纏まった。けど、そこに現れたのは……ケルベロスだ。
え?ケルベロス!?
「ケル……ケルベロスって、実在するの!?」
「してるじゃねェか!今まさに俺達の後ろに!」
3人で泣きながら逃げ惑うのは、最早自然。その途中で鳴き声のおかしさに気付いたウソップが狐が混ざってる事を指摘したら、怒り狂ったケルベロスに私達は全力で追い回されて木の上に逃げる事となった。
木の上に逃れた私達は疲れ果てていた。肉体よりも、精神が。
犬なのに臭いにそこまで敏感では無いのは、やはりゾンビである証拠なのだろうと息を吐く。……あれもゾンビだと思えば、理解も出来るわ。
「大分森へ入り込んじゃったわね」
「うん。でも、あんなのが歩き回ってるなら、目立つ場所で助けを待つのも大変だぞ」
チョッパーの言葉に頷いて、内心は本当に怖くて泣きだしそうになっている。もうやだ、どうしてこんな事に?
最弱トリオと、敵の存在しない様子である程に強い人達全員……という別れ方になったのは何かの嫌がらせなのか。こうなってはもう、顔を引き攣らせて笑うしか出来ない。
そこへ会話に飛び入りして来た蝙蝠もどきに、ホグバックの屋敷へと招待された。チョッパーは大喜びだけど、私はその顔にあるNo.が気になって仕方無い。
こうなると、この蝙蝠もゾンビと考えるべきね。でも、この場で逆らっても良い事は無さそうだし……どうしたらいいかしら。
勿論2人は大騒ぎにはなったけども、それは仕方ない。チョッパーもドクターに会いたがってるし、私達だけでは危険過ぎる島なので仕方ないかと諦めて、私は2人と共に好意で勧めてくれた事になっている馬車へと乗せて貰う事にした。
チョッパーは馬車の中で、ホグバックの事について嬉しそうに語る。その様子が可愛くてニコニコと見ていたら、ウソップに何故か呆れたような視線を向けられた。
蝙蝠から提供されたワインを、蝙蝠が口にしてから私も続くようにして呑む。ワインは水分補給と同時に栄養補給も出来るから比較的良いのもあるし、この体はアルコールに対して免疫が多いらしいから酔う事も考えにくい。
私は暫くのんびりと馬車に揺られていたけど、何か目印になるものは無いかと思って外を見て、息をのみ固まってしまった。その様子に気付いたウソップとチョッパーも、それを見て悲鳴を上げる。
そうして私達は危険過ぎるから1度皆の所に帰ろうと、蝙蝠に馬車を反転して貰うように頼み込む。けれどもそれには良い返事が貰えず、押し問答となってしまう。
それでも何とか御者に話を付けて貰える事になり、私達はホッと息を吐いた。チョッパーには、皆と合流してからお願いしてホグバックに会いに行こうと宥めたからか、すんなり頷いてくれたので取り敢えずは解決だ。
何と、ここに居る3人は最弱トリオなだけでなく全員お化けとかがダメな辺りが、この島との相性の悪さを物語る。……ルフィに、どうしたら居場所を伝えられるかしら。
けれどもその答えなんて出る筈も無くて、溜息が落ちる。その上待てど暮らせど馬車が動く事は無くて、不安になった私達が表を見ると、馬も無くなり御者も姿を消している事に気付く。
墓場の中央に置き去りにされている現実に、気が遠のきそうになる。身動きをどう取っていいか分からないけど、この馬車が安全とは言えないので、私達は馬車を出て自力で帰る事を試みる事にした。
最弱トリオであるのだから、いっそ大人しく中にこもっていたら良かったのだと言う事に、この時の私達は欠片も気付かなかった。救いを求めて飛び出した先で、待つものを私達はこの時、知る由もなかったのだから。
馬車を降りて方向を確認しようとした時、私達の周りからボコボコという音が聞こえて来て、嫌な予感に苛まれる。いや、既に予感なんてものじゃない。
墓場から出てくるのは人間の形をした、ゾンビ。悲鳴を上げて逃げ出そうにも、足首を掴まれて転倒してしまった私には、既に力で逃げ切るのは困難だ。
「嫌っ……!」
咄嗟にルフィを呼びそうになって耐える。流石に甘えるにも限度があるでしょ、私。
ゾンビに絡み付かれて押さえ付けられて、噛み付かれる。ぞわりと全身に鳥肌が立つけど、チョッパーとウソップもそれぞれが必死で誰かの助けに入るのは難しい。
ゾンビの手が服の中に入って来て、私の反応を楽しむように手を動かされると想像を絶する恐怖で、吐き気迄して来た。体が、恐怖に震える。
「いやぁぁぁ!!ルフィぃぃ!!」
「「ナミッ!!」」
自分達もゾンビに襲われてるのに、ウソップとチョッパーは即座に私に振り向くとゾンビに攻撃を仕掛けてくれる。ウソップが火を放ち、それによりゾンビは離れるけど、怖さとおぞましさで動けない私をチョッパーが回収しに来てくれた。
「ナミ、俺に捕まってろ!逃げるぞ!」
「うんっ!怖かった……」
チョッパーの背中で震えていたら、ウソップが驚いたような顔でこっちを見る。そして、少し嬉しそうに笑った。
「いつも守られてたから、たまにこうして守ってやれると気分いいな。……てか、そんなにゾンビが怖いんだな」
「ああああ当たり前でしょ!?お化け系統と虫は、本当に駄目なのよっ!!」
ガタガタと震える私に、2人は何だかんだ知らないけど笑い合って、今は守りながら逃げてやると言う。ここで戦うとか倒すって言わない辺りが、この2人らしくて本当に愛しいと、私の頬も自然と緩んだ。