チョッパーが私を背負って、近くに見えてる屋敷まで逃げ込んでくれる事で話が決まった。けど、追いかけて来るゾンビの足の速さには驚かされる。
悲鳴を上げて逃げていたら、ゾンビは体力切れでゼーゼー言っているのが見えて、何とかなるかなって思わされる。そのゾンビとは思えない速さの代わりに、彼等は体力を失ったのかなと思う程。
屋敷の直前でゾンビ達が追いかけて来なくなったので、3人で少し話をする。チョッパーの背中から降りて、噛まれたからゾンビになるのだと落ち込むウソップの頭にチョップしておく。
「怖がりの癖に変な本読み過ぎなのよ!」
「ナミが用意したり、書いたりした本もあるからな!?」
「……私ホラー系出してた?」
「数冊だけどな。だから、俺だけのせいじゃねェ」
そんな会話をして少し笑ってから、私は脳内で色々と情報を整理して行く。襲って来たゾンビも、あの蝙蝠も、ケルベロスでさえ番号があったわ。
そして、影を取る能力者がいるのは間違い無い事なのよね……。奪った影をどう使うのか、どうしたら使えるのかを考えた時……導き出せる答えは1つ。
あのゾンビを動かす為に与えられているという事。だとするならば、医学の天才と呼ばれている人はそいつらの仲間になっているか、使われているか、はたまた元凶か。
だけどとりあえず、このまま今来た道を戻るのは賢明とは言えないので、チョッパーの会いたがってるホグバックが住む屋敷へと向かう事にした。元凶では無く、仲間でもなく、使われてるだけだと助かるんだけどな。
チョッパーが悲しむ結末で無ければ良い。優しいチョッパーが、傷付かなければいい。
そんな事を思いながらも、薄気味悪い雰囲気のお屋敷を見上げる。その禍々しい建物を見て、ただオバケとかゾンビとかが居なければ良いけれどと不安に身を震わせながら、3人で屋敷へと向かい歩き出す。
その頃のルフィ達は行方不明の三名を探しつつ三名がつい今し方逃げ回ったりしていた相手をボコボコにしている。だが、そんな事を知らない3人は敵の待ち構える中心部へと自ら足を進めていたのだった。
フランキーを除く全員が殺気立ち、そんな周りの様子にフランキーは心中で、小娘にだけは妙な事をするまいと心に誓う。小娘に何かあれば、世界を本気で滅ぼしかねない勢いに身震いするような気持ちで歩いていたが、そんな事はどうでもいいのでナミ達に話を戻そう。
建物の前で私達は声を出してみる。屋敷まで来てみたはいいものの、扉は完全に閉ざされていて、そもそも人が住んでいるのかさえ怪しく思えて来たから。
旅の船乗りですと言って、ドクトルホグバックが在宅中なのかを確認しようと声を出す。後ろからゾンビに襲われても笑えないので、後ろも警戒しながらなので中々に神経が磨り減る。
建物の真ん中がトンネル状態になっている事を確認して、返事は無いけれど勝手に敷地内に入らせてもらう。そうしなければゾンビの待ち構える中へと、帰る他に道が無くなってしまうもの。
トンネルの中を進むと、明かりが見えた事で3人で顔を見合わせる。明かりがあるならば、人がいる可能性は高い。
それにしても、古井戸を明るく照らし出しているのは何か意味があるのかしら?
古井戸に近付くと斜め下からの明かりを受けた、生々しい傷跡や縫い目のある女性が現れて、正直怖い。ウソップとチョッパーは仲良く悲鳴をあげているのに、私は恐怖が1周回って落ち着いた感じだ。
女性はお皿をウソップに投げ付けるけど、私とチョッパーには無害だ。何が起きているのか分からずにいれば、女性が私とチョッパーには建物の中に入っていいと言ってくれる。
けれどもウソップはダメなのだそうで、お皿が容赦無く叩き付けられている。私はウソップを守りたくても、状況が分からず困惑するばかりで行動に移せない。
ウソップだけ残して行くなんて選択肢は無いから、私は取り敢えず女性とウソップの間に入るように立つ。それからこれは私の弟なのよと言えば、女性はお皿を投げるのを辞めてくれた。
そこに来て1人くらい特例で認めると言う言葉が聞こえてきたので、そちらに視線を向ければ変な姿をした丸っこい……卵のような体型の変な人が立っていた。何だろう、ゾンビの仲間?
それともハンプティダンプティの仲間?
そんな事を頭の隅で考える。しかし話を聞いてみれば、女性はシンドリーというメイドさんで、もう1人の方は男でご主人様らしい。
それもこの卵……いやいや男性が、チョッパーの会いたがっていたホグバックという人物らしいとなれば、怪しすぎてどうしたらいいのか分からなくなる。……もう少し情報があれば、確信できるんだけど……。
チョッパーから聞いていた人物像と、目の前にいる阿呆が同一人物とはどうしても思えなくて、チョッパーにあの人阿呆っぽいわねと素直に言ってみたら怒られてしまった。……解せぬ。
それからどうぞ中へとメイドさんに言われたので、言葉に甘えて中に入ると、その流れで椅子を勧められたので大人しく座らせてもらう。座ってみると体は疲れていたのか、体がどっと重く感じた。
気を抜いていい状況に無い事は理解しているのに、体は休みたいと我儘を言うから、情けない気持ちでホグバックの話に耳を傾ける。けれども彼の発言にはおかしい所しかなく、どうやらあのゾンビの関係者で間違いは無さそう。
何よりも部屋の中にある色々な物がゾンビだろうとわかるもの。これで騙せると思われるのは流石に心外だわ。
チョッパーは感激していて気付いていないだろうから、後でウソップと共に話し合う必要があるわね。チョッパーをどうしたら傷付けずに済むかしら……。
そう思っていたらお風呂と宿泊を勧められたので、お礼を言ってお風呂を借りる事にした。その際1人だとゾンビに襲われたばかりで怖いからと理由を付けて、2人に見張りを任せる形をとり話し合う時間を作る。
下手に部屋に等に入れば、何をされるか分かったもんじゃない。お風呂場まで案内してくれながら、サイズは合うと思うと言ってシンドリーちゃんが差し出してくれた服を受け取ると、露出の少ない可愛いデザインの物で、それに少し嬉しくなる。
……それにしても、この服見覚えがあるわね……スカート丈が異様に短くて、上は露出が無くて……。あ、原作でナミちゃんが着てた物だわ。
「良いの?」
「汚い状態で居られたくない。それに〝ご主人様〟がその服を嫌うから私は着られない」
「……有難く、着させてもらうわ」
返せるとは思えないから、借りるのでは無く貰うつもりで言葉を向ければ、無表情だったシンドリーちゃんが微かにその表情を緩めた。それが何処か悲しそうで、理由を知らないか忘れているのか、どちらとも言い難い私にはその理由までは分からないけど、どうしたらいいだろうかと思わされる。
それから去って行ったシンドリーちゃんの背を見送り、お風呂に入る事にすれば、風呂のドアの前で2人は大人しく待っていてくれる。なので、シャワーを浴びながら会話をする。
でもウソップがその時にお風呂に入るのが怖いのならば、入らなければ良いなんて言うから、呆れてしまう。まさか本気で、私が怖くて連れて来たと思ってるのかしら?
それに、何より……。1度、強く唇を噛み締めてから声を向ける。
「ゾンビに触られたのよ!?よく平気で居られるわね」
「どうせまたすぐに汚れるからな」
何度汚れようとこの先どうなろうとも、噛みつかれたりしたのに平気でいるのはおかしいと思うのよね。だいたい、部屋の中に飾られてるものも全て体に数字が入ってた時点で、置物や絵画も含めてゾンビだと思って間違いないわ。
ゾンビの条件が揃い過ぎている。ここまで来たら、怪しいなんてもので済ませてはいけないレベルの話なのに、どうして2人はこんなにも平然と呑気にいられるのかしら。
本来ならば、早く出発しないといけないと思うけど、掴まれたところや噛まれたところが気持ち悪くて、いつもより洗うのに時間がかかる。服の中に手を入れられたりした事が、今更体を震えさせて、止め方さえもう分からない。
まだ身体中に感触が残っている気がして、時折吐き気すらする。けれどもそれを悟らせないように声を作る事には慣れてしまってるから、タチが悪いのよね。
もう少ししたらここを出ると宣言すればウソップはドアを開けて抗議するので、状態を悟らせない為に手桶を投げ付ければすぐにドアを閉めた。それから私が気付いた事を伝えて行けば、ウソップは確かにと納得してくれてる様子だった。
それでも、チョッパーは納得したくないのかあまり反応が無い。そんな話の途中で、何やら聞きなれない声が聞こえた気がして辺りを見るけど、風呂場には私の他に誰の姿も無い。
少し集中してみると、誰かがいる事が解る。見聞色の覇気様様である。
問題はどこにいるのか理解するには集中しなくてはならず、集中していると、対応出来ないところかしらね。先読みみたいなものならば、もう少しまともに機能する見聞色の覇気も、居場所を探ると言う意味では上手く出来ない。
敵の居場所を探るのはいつも隠れている時だから、集中しなければ探れない事に不都合さを感じなかったのだ。でも、今は困るわね。
そう考えていた時、突然腕を掴まれて引き上げられるような感覚に陥り、内心慌てつつも咄嗟にウソップとチョッパーを呼ぶ。その瞬間壁に押さえつけられるような感触と、息遣いを感じる。
これは、何?
気配はあるし、見聞色の覇気でも存在は確認出来てるけど、ミラージュテンポ等の技と近いものであるなら、このお風呂場では不向き。何せ空気が動くし、熱が移動するもの。
幽霊にしてはしっかりした感触があり過ぎる。動揺する私に、見えない何かは言葉を発した。
「船に居た女より……おいらの好みだ」
……船に居た女?
ロビン!?
こいつロビンに何したの!?
「貴様……おいらの、花嫁になれ……!」
文句を言おうとした私の口を見えない何かが塞ぐ。その時私の助けを求める声に応じて入ってきた2人は、笑いながらであったけど、私の姿に動揺してその笑いが止まった。
でも抑えられている私を助ける必要性に気付いていないようで、特に動きがない。こうなれば仕方ないと、男ならここが急所だろうと足を振り上げれば案の定力が緩んだので咄嗟に叫ぶ。
「ここに誰かいる!」
「本当だ!匂うぞ!」
チョッパーが反応してくれるのに、ウソップがボケていて話にならない。窓が勝手に開くと騒ぐウソップに、その窓から逃げようとしているのだと言えば、見えない相手にも関わらず攻撃をしてくれる。
けれども、見えない相手がいた事を恐怖から認めないウソップと、ホグバックが好きすぎて現実の見えないチョッパーでは、話し合いも纏まらない。被害を受けたのが、私だけだったのも大きいのかも知れないわね。
チョッパーは半泣きで失礼だと私に言うけど、状況証拠は揃い過ぎている。人に本心を隠す技術ばかり高めて来たから、本当の話をする時はどうしたらいいのかよく分からなくて黙る私に、チョッパーは視線を向けて来て……顔色を変えた。
「ナミ!その手首!!」
「……押さえられたから。でも、大丈夫よ」
「……手当するから、着替えてくれよ。ごめんな。ナミ、怖かったよな」
チョッパーに言われるままに着替えれば、即座に手首に残る青アザを治療してくれる。ありがとうとそれに笑うと、チョッパーは小さく首を横に振り、今度はちゃんと守るなんて言ってくれるから思わず抱きしめしまう。
「いつも、守ってもらってるわ。ありがとう」
「ナミが珍しく頼ってくれたのに、ごめん。……ごめんな……。でも俺、ホグバックに憧れてて……」
「分かってる。チョッパーは悪くなんてないわ。大丈夫よ」
「二人とも、俺も居るって忘れてねェか?」
透明人間は居ないと言い張っていたウソップが、流石にこの空気に耐えられなかったのかそう言って溜息を落とす。それから小さく……真面目にこの先の事を考えた方が良さそうだなと呟いた。