誰かに揺さぶられながら名を呼ばれて、私の意識は浮上する。体は妙に痛みを訴えるけれども、見た限り服も破れていないから峰打ち系の技だったのだろうと分かり、かなわないなぁと自分の無力さを痛感してしまう。
どうやら私を起こしてくれたのはチョッパーだった様子。お礼を言ってから辺りを見てみれば、雨が降った後の外だと解る。
チョッパーが事情を説明してくれるから、だいたいの所は理解出来た。なので、辺りを見たりして簡単に調べてみれば、現在位置はどうやら建物と建物を繋ぐ渡り廊下らしいと分かる。
それを2人に話してから、どうやって逃げるのが良いかと話し合う。けれども、どうにも納得出来ない事があるのよね。
これだけ追い回され、手痛い目にも合ってて、お風呂も覗かれて、それに何より散々怖い思いさせられて……
そこまで考えて思い出すのは、シンドリーちゃんの部屋にいたゾンビの言っていた言葉。あのびっくり箱は、確かに言ったわ。
『財宝置き場はここじゃねェよ!』
となれば、どこかに財宝置き場があるのだ。やられたからには、何かその分手に入れなきゃ割に合わない。
この先の事を考えたら、お金はいくらあっても足りないわ。万が一に備えて船にある現金は全て隠して来てあるから、盗られる事は無いとしてもよ。
ルフィの食費と魚人島へ行く為に必要なコーティング、その他諸々の諸経費が必要だわ。……なら後は、少しでも多くの収入を入手するのみ。
ロビンとは同じ花なら食べられる物をと話して、ハーブや野菜を共に育ててる。網もフランキーやウソップが居るからとこの間から改良してるし、改良前のそれを使って毎晩漁をしてるわ。
それでも、食料はいつも不足気味。……この先船をコーティングして貰うには、億単位のお金が動くし、確か……思い出せないけど、他にも何かでお金が必要になるのよ。
それが何だか本当に思い出せないけど、大金が必要になるのだけは覚えてる。だから、どうにかしなきゃいけないのよ。
そもそも嫌がる私達を無理矢理招いたからには、お土産くらい貰わなくてどうするのか。そう思いそれを口に出せば、ウソップはその途中でそれ以上何も言うなと言い、チョッパーは兎に角逃げようと言う。
「な、何考えてんだナミ!?」
「聞くな!チョッパー聞いちゃダメだ!ナミ、逃げるぞ!!」
「馬鹿ね、分かってるわよ!!私だって怖いんだから!!」
でも、財宝欲しい……。こんなに酷い目にあったのに1銭にもならないなんて、そんな理不尽な事があって許されるの!?
「……じゃ、聞くけど、どっちへ逃げる?前?後ろ?」
「迷う所だ。……屋敷へ引き返して、またあの侍に会うのも嫌だしなァ」
私の問いかけに、ウソップは悩ましげな態度を見せる。それに引き続き、チョッパーは不安そうに言う。
人型になっていて大きい体格になっていても、チョッパーは相変わらずチョッパーだなと思わされる位、怯えているのがわかる。でも、二人ともこれでちゃんと強いんだから凄いわよね。
「だけど前に進めば、もっと怖い奴が居そうだ」
「それよ。……来た道を戻れば侍が居る。でも、ルフィ達が追いかけて来てくれてるかも知れない」
「「あ!」」
ならそっちでと言い出しそうな二人を制して、私は言葉を続ける。そうしなければ、私がそう言ったからって事になりかねないもの。
どちらの道にも希望とリスクがある。それだけは伝えておかないと。
「そして、前に進めば運ばれる予定だったんだから、敵の親玉とかがいるかも知れない。でも、途中で隠れたりできる場所や宝物庫があるかも知れない」
「「おォ!!」」
「最悪の場合、宝物庫で待ってれば皆が助けに来てくれるかも……?」
「成程……って、待てよ。それ、ナミが宝物庫に行きたいだけじゃ……?」
チョッパーが首を傾げた時な音が聞こえて視線を向ければ、三体のゾンビペンギンが姿を見せた。後ろ姿が可愛くて、おぉ!!と思った自分を殴りたくなるとも知らずに、少しばかり喜んでしまう。
そんな事に気を取られている間に、私達は無数のゾンビに囲まれていた。……万事休す?
なんて呆気に取られてる暇は無いので、応戦しようとクリマタクト取り出して構える。ウソップは火をゾンビに浴びせかけ、私は雷雲を作っていく。
そんなウソップにペンギン達が攻撃を仕掛けて、ウソップを助けに行ったチョッパーが巨大鉄球に沈められる。それを見て慌ててチョッパーを助けようと足を踏み出した時、私にかかる影が刀を振りかざしているのに気付く。
即座にクリマタクトに覇気を纏わせ、それで受けようと構えた。けれどもその瞬間、私を攻撃をしてこようとしていた筈のゾンビは、ペンギンゾンビによって蹴り飛ばされた。
そのペンギンゾンビは、明らかにサンジ君としか思えない言動をしているから、私は慌ててウソップとチョッパーの名を呼んだ。それだけで二人も気付いたようで、それぞれが手に塩を準備する。
あんなに強いサンジ君が影を取られるとは想定外だけど、サンジ君ゾンビなら塩を口に入れる隙は作れるかもしれない。……このピンチを脱してからなら。
そんな時災難は災難を呼ぶのか、正に泣きっ面に蜂と言うに相応しい状態になっていると言えるだろう。巨大な斧を振り回す猪ゾンビに、目を付けられてしまったのだから。
振り下ろされる斧に、確実に受け切れないと判断して躱そうとする。けれども周りには他にも大量のゾンビがいて、躱しきれない。
そもそもこの猪ゾンビって、友達になるじゃなかったの!?
脳内でいくら叫んで見ても無駄な事。ただ分かってるのは、やられる訳にはいかないって事よ!
私の命は、ルフィの為かプライドを守る為以外の理由では、失うつもりなんて無いのよ!!
小さく舌打ちして作り途中だった小さな雲から雷を落としてみるも、背後のゾンビは減らせても目の前にいるゾンビには雷が届かない。
当然だ、作っていた雲とは離れた場所にいるのだから。しかしそれもゾンビペンギンにより、事なきを得た。
「サンジ君……」
「サンジ?いや……俺はペンギン3号だぜ、レディ」
「助けてくれて、ありがとう」
「レディを守るのは、男の義務だ。だから、気にしなくてもだっ」
ゾンビサンジ君が猪ゾンビに吹き飛ばされたのは、その瞬間だった。猪ゾンビは私に泥棒猫と言って、何とかは渡さないと言ってるけど……誰かと勘違いしてるのだと思われる。
「確かに泥棒猫は私の二つ名だけど、誰も取ろうとなんてしてないわ!!」
「アブ様は私のモノよー!!」
「だか……きゃぁぁ!!」
猪の攻撃を受けずに済んだ間に、私は透明人間に攫われそうになる。それ……透明人間は何をとち狂ったのか私を嫁にすると言っているのを聞きながら、ウソップとチョッパーに助けを求めて声を出す。
「離せ!!あんたね、風呂場にいた透明人間!!」
言いながら殴り付けても特にダメージを与えられてる気がしない。チョッパーとウソップは飛んでるとかって驚いてるから、手足をばたつかせて透明人間を攻撃しつつ攫われてるのだと言ってから、続けて叫ぶ。
「サンジ君に!」
それだけで通じたのか、ウソップが壁に沈むサンジ君っぽいペンギンの口に塩を見事に入れてくれた。それを確認しつつ私は、とち狂ってる透明人間に苛立ちを込めて攻撃を仕掛ける。
黙って拐われて、良いようにされるなんて……そんな訳に行くかっ!!ナミちゃんはそんなヒロインじゃ無いし、四皇でも七武海でも超新星でも大将でも無い男に、私が全力で抗って勝ち目が無いなんて思えない。
この場所にルフィと来たのならば、ボス以外は私達クルーが倒すべき相手。それに、そもそもね……。
「私の体は何も、変態野獣の為に日々磨いてる訳じゃないってのよ!」
サンダーチャージで攻撃して、手の力が緩んだところでウソップ達の方へと駆け出す。そんな私達を追って来るのは透明人間では無く、何故か頭痛によると助けてくれる筈の猪ゾンビだ。
でも現状は明らかに敵だから、私は必死に逃げて、躱して、けれども私が転んだ時猪ゾンビは刀を私に振りかざす。逃げてる間に猪ゾンビの話を聞いた限りにおいては、どうやら透明人間をこの猪は好きらしいとわかるけど、どうしたら良い!?
その時ウソップとチョッパーが猪ゾンビに飛び掛り、動きを抑えようとしてくれた。二人共、怖い筈なのに、まるで当然のように守ろうとしてくれる。
その行動が、泣きたくなるくらい嬉しくて、同時に情けない。切り抜けなきゃ、ただ守られるなんて嫌よ!!
「止めてくれ!殺すな、仲間なんだ!」
「コノヤロー!コノヤロー!止まれー!!」
「アブサロムは私が婿に貰うのよー!!」
「「ナミ、早く逃げろー!!」」
けれども二人が弾き飛ばされて、お化けに囲まれていた恐怖からか上手く足が動かなくて縺れて転んでしまう。そこへ、両手に刀を握り締めた猪ゾンビが襲いかかって来る。
「さァ、観念しやかれェ~!!」
ここで死ぬ訳に行くかっ!だからこそ、私は賭けに出るしか道が無かった。
だって相手はゾンビとは言え女の子だし。ただ、恋をしているだけだもの。
嫁になれない理由があれば良いのよね。か弱過ぎるからサイボーグって訳には行かないから……なら……!
「待って!私……実は〝男〟なんだぜ!」
……これで何とかならないかなぁ。正直こんな方法しか思いつかなかった、己の想像力の少なさに泣けてくる。
けれども猪には効果があったので、畳み掛けてこの窮地を脱すると決めた。行ける……!
「そ、そうよ!オカマなの!……それに!あんたと獣男とってもお似合いよ!私、心から応援するわ!」
口調は唯一知ってるオカマを真似てるつもりだけど、なんだろう少し切ない。でも、この猪ゾンビ……素直だわ。
「えェ!?本当!?」
「本当よ!」
猪は私の言葉に泣き崩れた。それを見た私はチャンスとばかりに微笑みを浮かべて立ち上がり、泣き崩れる猪に手を差し出す。
「顔を上げて!マイフレンド!友情ってこういうものでしょう。私は〝ナミゾウ〟。ナミって呼んで」
咄嗟に名乗ったそれは、自分の名前に身近な男の人の名前を付けただけという安直な物。咄嗟に思い浮かんだのが、だって……ゲンさんだったんだもん。
そうして友達となった猪からの相談を受けて、私は思い付いた解決策を伝える。上手く倒して結婚でもなんでもしてくれたら、私は狙われなくなるなんて言う打算も勿論あるけど……この猪ゾンビの性格が可愛くて本気で応援したくなるのよね。
そのついでに宝物庫の場所を聞き出したら、ウソップにナミゾウ呼ばわりされたのは少しイラッとしたけど仕方ないわよね。ただ、そのおかげか猪ゾンビことローラは、信じてくれた様子であるので今は不問とする。
しかし透明人間も追いかけて来ており、私はローラにチャンスよとけしかける。その隙に私達は揃ってその場を駆け出して行った。
あんな奴に捕まる訳にはいかない。それに、私はあんなのの嫁になる気は無い!
もし叶うなら……ルフィのお嫁さ……ええいこんな時に何考えてんのよ私!!逃げなきゃ、隠れなきゃ!
そんな事を考えながら走って逃げていると、チャックのついたゾンビを発見して咄嗟にその中へと飛び込む事を決断した。森の中に隠れるには、少しばかり問題が有りすぎるもの。
三人で頷き合って、ウソップが狙撃して隙を作り、私がチャックを開けて中に入るとチョッパーが背後からそれを抑えている間にウソップも入る。ゾンビが暴れだした瞬間にチョッパーが小さないつもの姿に戻ると、それを私が中に引き込む。
その直後ウソップが、チャックを内側から閉めてくれた。本当にウソップって器用よね。
チャックを開けてその中に隠れるという方法しか考え付かなかったけど、やってみれば意外と名案だった気がしなくも無い。勿論この熊が誰かに話してしまえば、それ迄なんだけどね。
その時、透明人間の声が聞こえてきた。私達を探していると分かるその言葉に、ゾンビが私達について教えてしまおうとしているのがわかる。
止めてと祈るように思った時、少女の声が聞こえて来て、ゾンビに黙るように命じてくれた為に助かった。なので、中で三人揃って同時に小さく笑う。
その後も何とか、奇跡的に誤魔化せている様子に肩から力が抜ける。私達は中から情報を集めつつ、暫しの休息にホッと息を吐き出したのだった。