徐々に人が集まり、私達はゾンビの中で呼吸を押し殺すしか選択肢がなくなる。それもその筈よ、だって私達を助けてくれる予定だったルフィが捕まっているのだから。
でも、その状態でもルフィは私達の事をゾロやサンジ君よりも先に呼んでくれた。それだけで、泣きそうな程に嬉しくなる。
捕まっただろうと思われる順番だとか、命の危険度的な意味合いだろうとは思うけど、それでも嬉しい。ウソップの名前が最初だった辺りが、本当に愛しく思えてしまう。
そのまま中から話を聞いていると、強さレベルトップの3人が捕まったとの話が聞こえてきて、ルフィの上げた名前が素直にそういう事かと理解出来た。そうなると、先程サンジ君のだけでも影を解放できた事に、喜ぶしかないだろう状態に息を呑む。
そして、今目の前に捕まっているのは我らが船長ルフィ。どうにか助けたいけど、ここにいるメンバーを考えたらそれは無理。
こちらはウソップ、チョッパー、私、そして捕まってるルフィ。対してあちらさんはゲッコーモリアを含む四怪人と、シンドリーちゃん。
人数が同じでもキツいのに、人数が足りてない上に囚われてるのが使えない私じゃなくて、1番戦力になる筈のルフィだと言うのだから。……隙を見て助けたいけど、どうしたらいいかしらね。
ゾロのゾンビには会っていないけど、それならこの船のどこかに既にいるのだろう。となればと考えて視線を向けると、ルフィは今まさに影を切り取られる所だった。
慌てて名を呼び動こうとする私の口を塞いで、ウソップが耐えろと言う。確かにここで騒いで見付かるのだけは、避けなきゃいけない。
ブルックの事を考えれば、影を取られても死にはしない。だから、今は耐えなきゃ……って、それは、頭では分かってるのに……!
困ったものだと思うのは、自分の事か、ルフィの事か。それすらも分からなくて、ルフィを助ける手立ても見付からない。
そもそもルフィ達を捕まえられるような奴ら相手に、私達がどう戦えば勝てるというのか。私1人で誰か1人をって言うならまだ何とかなったとしても、この実力の海賊をこの人数ともなれば無謀に過ぎるわ。
こうなれば隙を見つけて助けるしかないだろうと決意して様子を見ていると、巨大なゾンビにルフィの影が入れられて、動き出した。それの発言は明らかにルフィで、けれどもその声の大きさと見た目から悲鳴を抑えきれなかった二人が見つかり、連鎖的に私も見付かってしまう。
チョッパーの口を塞いでいたけど、効果がないような衝撃だったのだから仕方ない。そこでルフィゾンビが肉と叫び、そちらに敵の視線が向いてる隙に私達は走り出す。
今捕まったら終わりだわ。これだけクルー全員がバラバラになっているのならば、当然それぞれが持ってる情報が違う筈。
それならば、この同じ情報を持ってる三人の内誰か1人でも、他のメンバーと合流して情報の擦り合わせをする必要がある。可能なら、それを元にロビンかサンジ君が纏め役をしてくれると助かるんだけど。
少なくとも私達が得ている情報は有益だし、揃ってた方が戦い方も色々可能性が広がるというは大きい。なら、最悪の時は、私が囮になればいいわよね。
そんな事を考えつつ逃げていたら、逃げながらもチョッパーはホグバックについて憤り、嘆く。ウソップはそんなチョッパーを宥めつつ、皆を助けられるのは今自分達だけなのだと言って頷き合う。
会話の様子からサニーに、影を取られた三人は戻されるだろうと推測して、三人をまずは助けに行こうとサニーを目指して走る。その途中、階段を降りて行こうとしたその時、背後から感じた攻撃の気配に私は足を止めた。
振り向きざまにウソップを蹴り飛ばして、チョッパーの背後に立つ。少しばかり乱雑な扱いになったのは、許して欲しい。
「ってェ!ナミお前っ!」
「ナミ!!ウソップ!?」
驚きと非難の声を出した二人は、けれども私がクリマタクトで応戦してる姿に状況を理解すると、即座に戦おうと構える。だから私は叫ぶ。
敵が他の奴等なら共に戦って貰うべきだけど、今こいつ1人なら私が足止め出来る。何せこいつの狙いは……私なのだから。
「二人は逃げて皆の所へ!私は大丈夫!」
殺されさえしなければ、どうにでもなるわ。お願い、早く逃げて……!
「……凛々しく美しいな。流石はおいらの花嫁になる女!」
「「ナミー!!」」
「お黙り!私の男は世界にただ1人、それはあんたじゃない!それに、か弱い女が趣味なんじゃなかったの?……二人共急いで!」
最後だけは二人に向けて、他は変態に向けて言葉を発する。それにより、ウソップがチョッパーを説得してくれるのが聞こえて来た。
「チョッパー、行くぞ!」
「ウソップ!?」
「ナミの言葉はいつも〝正しい〟!ここで俺達まで捕まってどうなる!?」
「……っ!……ナミ!必ず迎えに来る!助けに、来るから!!」
チョッパーの涙声が、ウソップの苦しげな声が背後から聞こえて、気配が遠ざかる。それに手を向ける男に、私はクリマタクトで挑みかかった。
勝てるとは思わないけど、負けるとも思わない。ただ、今ここであの二人を追わせない!
けれども腕力そのものが違い過ぎて、私は簡単に男の腕に囚われてしまう。もう少し、時間を稼がないといけないのにっ!
「仲間に、別れを言いそびれたな。弱く、美しく、気の強い、人間の女……おいらの理想通りだ!か弱い方が楽しみやすいってだけだ……はっ!そんなにおいらの好みを気にして!?晴れて両想いか!!」
「違うわよ!そもそも私はルフィのもので……私は、アンタのものにはならない!」
「……少し、黙れ」
睨んでも殴っても効果が見られない。不快感と嫌悪感でいっぱいになるのは、私が敵と認識しているかならなのか。
気安く触るなと心から思いながら暴れていたら、突然頭に衝撃が走り、意識が沈んで行く。
「ルフィ……」
消えゆく意識の中で、影を切り取られ意識を失ったルフィの姿が思い出されて、早く助けに行かなきゃいけないのにと思う。更に深く沈む途中で、ルフィが私を呼んだような、そんな気がした。
それからどれくらいの時が経過したのかは分からないけど、ルフィが私を呼んでる気がして私は必死で意識を取り戻す。すると目前に迫っている謎の不気味な唇。
寒気とおぞましさから、咄嗟に身を捩って悲鳴と共に逃げ回る。なんなの、何が起きてるのよー!?
「ええい観念しろォ!!この〝誓のキス〟で晴れてお前はおいらの伴侶となるのだ!!」
「やだっつってんでしょ!?この変態!透明猛獣!!私はまだまだ冒険したいお年頃なのよー!!」
そんなお年頃があるかはさておき、本気で逃げている事だけは間違いない。耳の真横でチュバッと聞こえる度に鳥肌が立つ。
「黙って喜べ!!お前は〝墓場の王〟の妻!!〝墓場の女王〟となるのだ!!」
「嫌よ!!何それ!?」
「おんどれナミゾウー!!」
そこへ突然襲い来る声と風圧。弾き飛ばされた私が見たのは、怒りに燃えるローラの姿。
咄嗟に言い訳していたら、私の姿がいつの間にかウェディングドレス姿になっている事に気付く。ドレス自体は素敵だけど、本当の結婚式以外でウェディングドレスを着ると結婚が遠ざかるってのは有名な話だから、私は少し切なくなる。
勿論今は結婚なんて少しも考えてないけど、行き遅れのフラグが立つのは流石に切ない。冒険もしたいけど、行き遅れも嫌だなとは思うから。
相手がルフィじゃ、もしかしたら永遠に結婚なんて無いかなとか思わなくもないんだけどね。……それでも、やっぱりいつかはなんて、思っちゃったりするのよ。
ルフィの正装って、案外格好良い事を知ってるから、余計に……って、そうじゃないでしょ私!?
正気に返った私は、私へ向けられている怒りに燃えてる筈のローラの攻撃が、何故か当たらないどころか掠りもしない事に気付く。思わずローラに視線を向けると、攻撃の合間に逃げろと小声で言ってくれて、助けに来たのだと言われた私は泣きそうになってしまう。
ローラのそれに感謝して背を向ける。そうして私が駆け出すと、その直後に物凄い音と共にローラが吹き飛ばされた。
黒焦げとなり床に倒れているローラの姿に、思考が停止しそうになる。……何が、起きたの?
「ローラ!」
思わず叫ぶ私に気付かない男は、ローラを見下ろして舌打ちをした。……ローラ……。
黒焦げになって倒れているローラに、私は自分の理性が切れる音を確かに聞いた。よくも、ローラを……。
逃げようと思っていた気持ちが、1瞬にして切り替わるのを感じる。脳内には助けに来たと言うローラの言葉が谺して、私はクリマタクトに手を伸ばす。
接近戦は、腕力の関係で不利だもの。それならまずは遠距離で、それしか無くなったら、男の証を短剣で切り取ってやるわっ!
短剣はそんな使い方されると知ったら泣いて嫌がるかもしれないけど、そんなの構ってられない。私はクリマタクトを手に、透明人間を睨み付ける。
予報なんて告げてあげるつもりは無い。女の子を、平然と攻撃する男なんて、存在する価値もない……!!
『助けに来たのよ!!マイフレンド!』
ウインクしながら笑ったローラを思い出す。ずっとここに居たのなら、ローラが勝てる筈もない事は分かっていた筈なのに、それでも助けに来てくれた……。
ローラは、本気でこの男を好きなのかも知れない。でも、それよりもローラは多分〝友情〟を優先してくれた。
その証拠に、初めからこの透明人間に飛びかかるのではなく、私を引き離してくれた。私と意思疎通をしてから透明人間に向かったのは、私を安全に逃がす為と理解出来る。
「よくも、ローラを……!」
怒りで目の前が赤く染まりそうになるのを耐える。冷静さを失っては勝てるものも勝てなくなるから。
それでも抑えきれない怒りで、微かに手が震える。許さない……!
透明人間に向かい、クリマタクトをサンダーチャージした状態で走り出す。例え効かないのだとしても、ローラを攻撃した事を後悔するような目に合わせてやる……!
「風速計!!!」
電撃が全身に多少でもダメージを与える事を期待して、次の攻撃に備えるためクリマタクトを握る手に力を込める。迫って来たら短剣に持ち替えて、イチモツを切り捨ててやるわ!!
「どうせ効かないんでしょ!そんな事分かって……」
言葉は最後まで続かなかった。だって……透明人間がゆっくりと倒れていく。
そっと足音を忍ばせて確認してみたけど、どうやら意識が既に無い様子だ。倒せた理由は全く分からない。
分からないけど、勝ったのは勝ったのだからと私はローラの元へ急ぐ。ローラを揺すり、声を掛ければローラの意識が回復した。
「ローラしっかりして!ありがとう!私を助けに来てくれて……!」
「何言ってんのナミゾウ……。友達じゃない」
私は罪悪感と安堵からローラに告げる。勝手に涙が溢れそうになるのを自覚して、必死で耐えながら。
「だけど私!あの時アンタが怖くて嘘ついたのよ!ごめん!私本当は〝女〟なのよ!」
「馬鹿ね。知ってるわよ」
「ローラ!ありがとう、ローラ!」
「……あんた、本当に可愛いわね。私が男なら確かに、ナミゾウが欲しかったところだわ」
何言ってんのよと笑って、ホッと息を吐き出す。その時、ローラは透明人間に襲い掛かった。
意識はなくてもこれで1応は結婚成立だろう。何せ同じ方法で、私との結婚を捏造しようとしたのだから。
だから私は絶対にある筈だと、近くを探して瓦礫の中から見つけ出した婚姻届けをローラに投げ渡す。ローラはそれを受け取ると透明人間に吸い付いたままで、現状を教えてくれた。
その時に私が着ていた衣服について聞けば、すぐ隣の部屋にあると言う。ローラにお礼を言うと、婚姻届けの方が重要だと喜んで相鼓だと言ってくれたので、少し肩から力が抜ける。
私はそれを受けて走り出す。時間を無駄には出来ない事だけは、間違いないから。