……正直厄介だわ。ルフィの俊敏さを持つ、巨人って事でしょ?
それも、通常の巨人族よりも大きな特異体だった筈で、そうなれば当然力も普通よりも強い。それが痛覚や疲労と言う感覚を失っているゾンビとなり、その行動がルフィだと言うなら、厄介すぎる。
……でも、それよりも、その前に宝物庫よ。場所は前もって確認済みなんだからー!
コレだけ怖い目に合って、危険な目に合って、なのに手ぶらで帰れますかっての。え?語尾にハートがついてる気がする?
気の所為よ、だってそんなもの何処にも書かれてないでしょ。だからハートなんてついてないわ。
「ここだわ!!鍵も開いてるー!」
そう、ハートがついてるのではなく、ハートは私から飛び出して乱舞してるのよ!私のお宝、愛しいお宝、ルンルンルン。
けれども開け放った宝物庫は空で、私は1瞬その場で立ち尽くしてしまう。どうして……私のお宝が無いの?
その時近くにいたゾンビを締めあげれば、サニーに全てを積み込み逃げると言う。それを聞いた私は更に締め上げ、燃やし尽くされたくなければと言って近道も
色々な意味でゴーストプリンセスとゾンビ達を許せず、私は更に足を早める。サニー号と私のお宝を奪われてたまるかってのよっ!!
その途中、造りばかり立派で頑丈な妙に細い橋を駆け抜けていたら、後から騒音が聞こえて更にはひっくり返っているルフィゾンビが見えた。どうやら既に、戦いは始まっているらしい。
でも、戦いに勝っても船が無ければここから出られなくなる。だからとりあえず今は、サニー号へ戻らなくてはと先を急ぐ。
サニー号に到着と同時に、私は弁慶の仁王立ちのようなポーズで叫ぶ。船も宝も、盗られてなるものかっ!
「ちょっとあんたァ!!」
ゾンビと女の子の視線が集まるのが解る。いつもなら逃げたい気持ちが湧き出るだろう。
でも、今は少しも逃げたいとは思わない。むしろ、逃がすものかと思う。
「私の財宝をどうするつもり!?そして、サニー号を!!」
戦う気満々で女の子を見れば、女の子は私の存在とドレスに気づいて何やら戯言を言うから、簡単にそれに答えてから雲を発生させていく。ゾンビにも雷は有効なのが既に分かってるし、女の子にも雷は効くだろう。
けれどもその矢先に女の子の後に巨大な人影が見えて、闘争心よりも驚きに心が支配される。あの姿は、覚えがあるわ。
ミホークやドフィと同じ王下七武海の1人で、元はルフィのお父さんの部下。ルフィのお父さんの元部下でも、王下七武海なのだからルフィの味方とは限らないけど……確か名前は……。
「バーソロミュー・熊」
言葉が勝手にこぼれ落ちる。女の子は熊に挑むけど、即座に熊に消されてその場から姿を消してしまう。
嫌な汗が背中を伝う。どうしたら良いのかと考えていた時、その巨体からは想像も出来ない速度で移動して来て簡単に背後を取られる。
心臓が煩いくらい脈打つ。これは、危険。
「〝泥棒猫〟と〝宝玉〟の名を持つ〝麦藁〟の仲間だな」
「そうよ……。〝元革命軍〟の〝暴君〟さん」
「麦藁の船にいる女2人が船の
私はその場から少し飛び退り、真正面にその姿を捉える形で対峙する。それに熊は小さく頷くと、平然と問い掛けて来た。
「モンキー・D・ルフィに兄が居ると言うのは、本当か」
「……居るわよ。2人。それが?」
「2人?」
その時になって熊が初めて、興味を私に向けたのが分かった。今迄は石ころにでもなった気分だったけど、今は本にでもなった気分だわ。
つまり、その程度の差でしかないって事なんだけどね。それでも、私には大きな変化だ。
「貴方が私の質問に答えない以上、私もこれ以上の情報は渡さないわ。ルフィに何の用!?目的は何!?」
「……抹殺命令が出て居る。だが、従うかは、まだ決めかねている。答えたぞ」
ルフィの、抹殺命令!?
……ここで、ミホークやドフィと同等の強さである筈の男に勝てるかと言われたら、勝てない。なら、決めかねてると言うのならば、味方に引き込めるかを試すしかないわよね。
「……1人は革命軍の参謀総長、サボ。もう1人は白髭海賊団1番隊隊長、エースよ」
「サボの、弟?」
……そうか、同じ革命軍だったんだから、サボと親しかった可能性だって充分に有り得る。なら……何とか味方に出来ないかな。
ドラゴンさんと仲が良かったのならば、そして幹部である顔の大きなオカマ……ちょっと名前思い出せないけど、あの人も知らなかったのに、この人はルフィがドラゴンさんの息子だと知っている。それだけ近しい存在ならば、この行動だって不本意かも知れない。
「サボの喪われていた記憶の中にあった、兄弟の情報。それは取り戻されてるから、サボもちゃんとルフィの事を弟と理解しているわ」
「……思い出したのか。ドラゴンに拾われる前の事を、サボが」
「えぇ、私と会った事で思い出したみたいよ。……ねぇ、時間があるなら少しだけお話しましょう」
「……そうだな。少しならば」
そうして私は熊を仲間に引き込む為、サボとエースとルフィの関係性について話す。すると熊は、ならば革命軍も敵としてその場に現れかねないのかと呟き、真っ直ぐに私を見た。
「鷹の目と天夜叉、四皇の赤髪を袖にした天才作家が、こんな小娘とは思わなかったが、これだけの事を俺に話した目的はなんだ」
「ルフィの抹殺命令を、既の所で逃げられた事にでもして貰いたいと思ってるの。……それをお願いできるだけの、価値のある情報だったと思うわよ」
「……少し、確認したい事もある。それ次第だ」
「なら、この先へは、行かせられないわ」
私がそう言いながらクリマタクトを構えると、熊は首を横に振った。そして、淡々と言い捨てる。
「今のお前では俺に勝てん。無駄死にとなるぞ」
言われなくても、分かってる。でも、私はルフィを傷付けたくないのよ!
けれども熊は、言葉を失い立ち尽くすしか出来なくなっている私の横を当然の事として通り過ぎて行く。その背を見る事さえも、私には出来なかった。
体が勝手に震える。死が、目の前に見えたのは1度や2度じゃないのに、私はこれ迄感じた事のなかった〝恐怖〟により、震える自分が許せない。
同時に、気付いてしまった。大切な人が増えて、皆に守られて、私は〝死にたくない〟と〝生きたい〟と思うようになっているのだという事に。
だけど……震えてる場合じゃないわ。アレは、このまま放置していたら良くない。
皆に、早く伝えなくちゃ。ルフィを、守らなきゃ。
動きにくいドレスから、いつもの様相に着替えると私はすぐさま皆の元へ急ぐ。騒がしい所へ行けば、それが正解だと言うのは、嫌でも分かってる。
探しやすくて大変結構。取り敢えずは、ルフィとゾロ、そしてブルックの影を取り戻さなきゃ!
サンジ君の影はあの時、ウソップとチョッパーが取り戻してくれた。そして三強の影を奪ったと話していたのだから、他のメンバーは影を取られていないと考えて間違いないと思う。
出逢った時点で取られていたブルックの影は、でも……確か、そうだわ。ゾロが奪い返してくれてる筈。
なら、残るのは暴れてるルフィゾンビがいるから、ルフィと、そしてゾロだけね。……良かった、それなら探すのも何とかなるかも。
皆の状況を見渡せる所へと出ると、皆は戦闘の真っ最中で、私は姿を隠しつつ雷を落とせるように準備を進める。雷を落とせる状況が整う頃には、フランキーが踏み潰されそうになっていて、私は慌ててルフィゾンビに雷を落とした。
本物のルフィじゃないから雷がある程度有効で、内心ホッとする。悪魔の実の能力まで受け継いでいたらどうしようかと思っていたけど、杞憂だったみたいね。
私が落雷させた事で皆に私の無事が伝わったようで、ホッとした。それと同時に騒いだサンジ君のおかげで、私も敵に見付かったのは頂けないけどね。
見付かっても距離があるから、1回目の攻撃は届かない筈。……と思っていたら、ルフィゾンビの腕がゴムじゃないのに何故か伸びて、しっかりと届いてしまう。
それにより当然のように、私は空中に投げ出されて落下していく。それでも空中で反転して月歩を用いて着地を果たせば、それを見ていた皆が本物の猫かとか言ったけどそんな訳あるか。
どう見ても普通より随分可愛い人間の女の子じゃない!……てか、この世界の人だったらこの位普通よね?
「腕が伸びるなんて驚いたわね……。大丈夫?ナミ」
「えぇ、逃げたりするのは得意なのよ」
心配してくれるロビンに小さく笑って答えるけれども、皆との再会を喜び合う隙も無ければ、熊の事を話す暇も無くい。私達はただ、ルフィゾンビからの攻撃を躱していくしか今は出来ない。
ルフィ本人が見当たらないから、騙されてどこかで迷子になってるのだろうと思う。けど……ルフィを待っている時間なんて無いわ。
皆の足元を見ると、ゾロとサンジ君には影が戻っているから、今影を取られているのはルフィだけのようだとわかる。でも、そのルフィが問題なのだけどね。
ルフィのように伸びるようになったゾンビが本当に厄介で、反撃の手段を考えながら逃げるという無茶振りを余儀なくされている。その上お馬鹿なルフィにより何とかなっていた所に、知恵を与えるゲッコーモリアがついていては、俊敏で攻撃力の高い巨人族である為になかなかに厳しい戦いだと言えるだろう。
そんな時ルフィゾンビの体が伸びるようになった理由をモリアが説明してくれて、ほぼ全員が揃って舌打ちする。……厄介な事してんじゃねェよ!と、私達の心の声は揃ったと思われる。
「ねぇっ!!所でルフィは何処なの!?」
ルフィの姿が見えない。私の力じゃ海楼石の短剣使ってもオーズ相手じゃ役に立てないから、頼りはクリマタクトになるけど、本来クリマタクトって遠距離とかサポート用なのにどうしろって言うのよ!?
「モリアに騙されて、どっか行った。やられてやしねェだろ」
ウソップの言葉に小さく舌打ちがもれる。どうしよう、皆に言うべきかしら。
……こんな状況で?
この島にもう1人王下七武海がいて、ルフィの抹殺命令を受けてるって?
……言えるか、そんな事!!
「……待って、じゃぁ、これって、もしかして……まずルフィゾンビ倒して、更にモリアも倒さなきゃ、被害者全員の影は戻らないとか、そういう状況!?もう朝になるわよ!?」
「いいえ、後私達の中で影を奪われているのはルフィだけだからオーズを倒して塩を口に押し込めばどうにかなるわ!」
私が叫ぶように言えばロビンがそれに答えてくれて、それにより作戦を考えようとした時、突然ブルックが声をかけてくれて、作戦を言って来た。それに乗るのは構わないけど……それは、ブルックにかかる負荷が大き過ぎるんじゃ?
でも、代案もないのに否定だけなんて出来ない。だからこそ、私は頷く。
「……ブルックが望んだ事だから構わないけど、私は責任持たないからね!」
言いながら私はクリマタクトを振り回して、雷雲を用意する。今の私に出来るのは、これくらいだと言うのが悲しい。
ブルックはウソップやロビンの協力も受けて、ルフィゾンビへと攻撃を仕掛ける。それに引き続きゾロが攻撃をすると、ゾンビの死因を調べたとチョッパーが言う。
死因を聞いて全員で右腕に攻撃を集中していけば、それなりにダメージは蓄積されている様子なのが見て取れるようになる。けれど、ルフィゾンビもやられっぱなしでは居てくれなくて、1人、また1人と仲間達が倒されていく。
私に、今、出来る事は……?
そうして私が頭を悩ませてる間に、ロビンはモリアを抑えようとして逆に影を取られてしまう。意識を無くしたロビンをルフィゾンビが狙い、慌てて駆け出した私がロビンに覆いかぶさる。
すると背後でサンジ君が、オーズの迫っていた両手ごとオーズを蹴り飛ばしてくれた。それに驚く暇も、お礼を告げる隙もなく、サンジ君が叫ぶように言う言葉にウソップが反応する。
「今のうちだ!ロビンちゃんを遠くへ!!」
「任せろ!!」
ウソップはそう言ってロビンを連れて逃げてくれる。私はクリマタクトを握り、ふらりと立ち上がるとオーズを睨む。
よくもロビンを……。……あんなの、ルフィだなんて私は認めない。
私は、アイツを倒す。そう決めた私の髪を、風がそっと揺らした。