私がルフィから離れずに居るからか、皆も集まって来たのに会話が無い。その沈黙を破ったのは、チョッパーだった。
「ナミ、ルフィの手当するから、その……」
「うん、ごめんね。離れるから」
そう言ってルフィをそっと床に寝かせると、私は漸くルフィから離れる。その瞬間ロビンの腕が伸びて来て、私を胸に抱き込んだ。
「ウブッ!」
「ルフィにだけだなんて、狡いわ。私にも、ね?」
「ロビン……」
「それとも、私が無事だった事は嬉しくない?」
「ロビン、無事で……良かったっ!」
強く抱きしめるとロビンが優しく頭を撫でながら、ゆっくりと唇を動かした。それはウソップとチョッパーをロビンとフランキーが間一髪で助けた後、サニー号での話。
私が居ない事で苛立ったまま、ロビンは三人の男達と共にサニーへと戻った。そこには食料品が失われ、ゾンビにデコレーションされて寝かされている三人の少年の姿があったと言う。
「……私のお宝は?」
「相手さんに見つからなかったみたいよ。だから無事だったわ。宝箱だけ無くなってたけど」
「え!?あの中には……!」
書きかけの原稿と、皆から貰った物が……。空島に行く前にサルベージした時に拾って来たとサンジ君が言ってた貝殻とか、ロビンがくれた花から作った栞とか……そんな物が入ってるのに。
「あれ、何が入ってたの?」
「……中身は、その……」
言える?皆から貰った物を捨てられなくて、全部枕元の宝箱に保存してましたって、言える!?
言える訳が無い。顔が、燃えてるみたいに熱い。
「ナミ?」
「っ!……執筆中の、原稿とネタ帳が入ってるのよ。まだ、書きかけだから、見られたら……恥ずかしい」
「そうだったの。厳重に閉まってるから、何かと思っていたわ」
そう言ってロビンは笑ってから三人の少年が起きなかった為、フランキーが吹き飛ばそうとしてウソップの言葉で事なきを得たと話してくれる。それから私が居ない理由について話し始めると、三人は1気に臨戦態勢となったのだと……。
「いいか!これから取り返さなきゃならねェもんは大きく分けて2つだ!!」
「〝飯〟!!〝ナミ〟!!……後、〝影〟もだろ?3つだぞ」
「おお……意外なもんが最初にランクインしてた。……ひとまず〝ナミ〟と〝影〟の話をさせてくれ」
そうしてウソップが説明している途中で、チョッパーが泣き出した。俺達を庇って捕まったんだと言って。
それを聞いたルフィは静かに眼を伏せると、ナミらしいなと口の端を上げた。それに全員の視線が集中する。
「昔からそんなんだよ、あいつは。ガキの頃から、俺は兎も角さ、俺なんかよりずっと強いエースやサボ、シャンクスの事も庇うんだ。自分より強いとか、弱いとかじゃなくて、あいつは大切な相手を損得抜きで助けちまう」
「ルフィ、でも、俺はナミを守るって決めてたのに、そのナミの言葉を疑って、すぐに逃げようって言ったナミを疑って……!」
ルフィは泣くチョッパーの頭に手を置いて、身を屈めつつ視線を合わせると、にししっと笑う。屈託のない、明るい笑顔だと誰もが思った。
「ナミは、それ絶対ェ欠片も気にしてねェし、チョッパーは反省したんならそれで充分だ!次は、守ってやってくれよ。ナミはすぐに無理するからよ」
「ルフィ……」
「ナミは、女子供年寄りを見たら無条件で助けちまうし、大切な人達の為なら簡単に命捨てちまう。でも、俺は……俺達が居るからか死ねないって思って欲しいんだ。だから、連れ帰したら少し怒らないとな!」
「……ナミを虐めるのは駄目だぞ。今回、変な男に結婚するって名目で連れ去られたんだから!」
ルフィの言葉に慌てた様子で止めに入ったチョッパーだったが、それ故にその場の空気が1瞬で切り替わる。ルフィ、ゾロ、サンジの声が重なり、追従するように微笑むロビンがそこにはいた。
「「「あァん!?」」」
「チョッパー、それ、詳しく教えてくれるかしら?」
三強とロビンの殺気立ったその様子に声を失ったチョッパーの代わりにそれを説明したのはウソップで、話を聞き終えたサンジは燃え上がり叫ぶ。ゾロは無言でバンダナを頭に巻き付け、ルフィは静かに黒い笑みを浮かべた。
「どいつもこいつも、ナミは俺の女だってのによ……」
「本当に、ねェ。私のナミに何をしようっていうのかしら?」
「いや、ロビンのじゃねェから……」
ルフィと良く似た笑みで真っ黒な炎を滾らせたロビンの言葉にフランキーが突っ込みを入れた。……が、直後に何か言った?と微笑まれたフランキーはその後……1切の言葉を発さなくなる。
この瞬間ロビン最強説が生まれたがその辺は割愛する。その後も会話は続き、ウソップが言葉を続けた。
「そのゾンビだが、ルフィのは巨人になっちまって、サンジのは開放できてる筈だ」
「あァ、確かに。コックは影があるな」
ウソップの言葉にゾロが頷くと、ウソップはナミがそれを教えてくれたのだと言う。同じ情報を得ていたフランキーとロビンはブルックから聞いたとして、フランキーがその時にラブーンとの約束の為に生きているのだと言う事も伝えられたと語る。
その話を聞いて反応したルフィ達を見て、ビビ達に食料として狩るようにサー・クロコダイルが命じた鯨であると気付いたロビンは、暫し無言になる。そして喜びブルックを仲間にすると叫んだルフィにロビンは笑って賛成し、他のメンバーも次々と賛成の意見を口にする。
ゾロは1足先に船を降りて、奪い返すもんが増えたんだろと笑った。それが、ナミのいない間に起きたサニーでの出来事。
「そうだったの……」
説明を聞き終えた私は呟くように答えてから、ラブーンはブルックが生きている事を知っている状態で待ってると思うと言葉を付け足す。クロッカスさんにその事を、あの時に伝えておいたのだと言う事を含めて。
この時ブルックは少し離れたところにいて、私達の会話を聞いていないから、きっと後でルフィに言われて喜ぶ事だろう。ちなみに双子岬に居たクロッカスさんと同じクロッカスと言う花があるけど、それの花言葉は〝青春の喜び〟と〝切望〟で色別の花言葉を見ると、紫は〝愛の後悔〟黄色は〝私を信じて〟である。
だから、彼の頭は紫と黄色なのかも知れないが、そこに関する推察や考察は皆様にお任せしようと思う。……ラブーン、やっとブルックに会えたよ。
その後ルフィを心配する皆の言葉が続き、私もそれに続こうとした所で、はたと気付き声を上げた。すっかり忘れてたわ。
「皆聞いて!戦いが終わったばかりなのに悪いと思うけど、今この船にはもう1人七武海がいる!」
気を緩めるなとの意味を込めて叫ぶも、ルフィの意識は今も無い。ルフィを診察しているチョッパー以外は、全員臨戦態勢で辺りを見る。
そこで誰かと連絡を取っている男の声に導かれるようにして、存在に気付く。けれどもその内容は物騒で、誰も彼もが怒りに燃える。
「皆気を付けて!〝暴君〟熊、彼はあらゆるものを弾き飛ばすニキュニキュの実の能力者で、サイボーグのパシフィスタよ!」
私の言葉にクマが視線を向けてくる。サングラスで、その瞳そのものは確認出来ないけれど。
「随分と情報通だな〝泥棒猫〟ナミ……いや〝宝玉〟と呼ぶべきか?成程、その情報を元に予報をしているのか」
私は何も答えない。教える必要性を感じないのよ。
この人は、私に問い掛ける体を取っておきながら、実際は問い掛けている訳では無いと分かるから。相手は王下七武海、ミホークやドフィと同じ肩書きを持つ人で、サボの友人かも知れない人。
……怖くないと言えば嘘だわ。でも、今ここで逃げる訳にはいかない。
ルフィを背にクリマタクトを握れば、被害者の会の人達が代わりにと言って挑みかかってくれた。けれども簡単に倒されて行く彼等を見て、心が凍るような寒さを感じる。
彼等が打ち倒されていく事が、心底嫌だと思ったのは私の甘さなのか。そこにゾロへ指名が入る。
「〝海賊狩り〟のゾロ。お前から始めようか」
「汚ェぞ畜生ォ!!今麦藁達が、どれ程の戦いを終えた後か知らねェ訳じゃあるめェ!!」
被害者の会の人達が叫ぶ。それに合わせたように叫ばなかった人達も、いきり立ち武器を手に吠える。
「分が悪くても、元気の余ってる俺達が相手だ!!七武海が何だってんだ!!」
「お前なんてさっきのオーズやモリアに比べりゃデカくもねェや!!」
「いいから下がってろ、お前ら!!ご指名は俺だ!!聞こえなかったのか……!?」
殺気立った様子でゾロが言えば、それには善意であれそれ以上の言葉は紡げない。でも、ゾロは立ってるのだって限界な筈なのに!
ゾロに恥をかかすなと言われては、手出しも出来ない。その様子に熊は試すように言葉を口にする。
出来の良い子分が数名いると言われて全員が照れるという珍事を超えてから、ゾロは熊と戦い始める。その途中でフランキーが強くないんじゃないかなんて宣った直後に倒され、ゾロも少なくないダメージを受けてしまう。
……だから〝あらゆる物を弾き飛ばす〟って言ったのに!そう思いながらも、私は雷雲を生み出してサポート体制を整えて行く。
このままだとゾロが危ない。そう思った直後にゾロの真後ろに熊が立ってしまう。
まだ雷雲は未熟で、威力が足りなさ過ぎるのに……!そんなあわやと言う時にゾロを助けに入ったのは、普段は〝仲良く〟ケンカしていてもやはり親友なのだろうサンジ君だった。
サイボーグと分かっていても強度は分からなかったのか、それとも想定を超えていたのか、サンジ君が蹴りを入れた筈なのに足を抱えて倒れ込む。その姿を見た熊はサンジ君を〝黒足〟だと認識する。
……そうね、あの手配書はそれくらい分かりにくいわよね。寧ろ本当に私の手配書は手描きで、サンジ君の手配書が写真なら良かったのに。
そんな2人を見ていられなかったのか、ウソップが援護射撃をすると、熊はウソップを〝狙撃の王様〟だと認識したらしく、大それた名前だと揶揄る。それにより弾かれた攻撃がこちらに向かうのと同時に、私は熊に雷を落とす。
それもまた弾かれたけど、僅かに出来たその隙でゾロとサンジ君は体制を整えてくれたから、無駄ではないだろうと思う。それでも、戦いにならない私達を見た熊は、つまらないと言いながら爆弾を大気で作り出す。
その爆弾に関する理屈は分かる。分かるからこそ、それの恐ろしさも理解出来てしまう。
けど……それでも、その作り出された爆弾を片手に命を助けて欲しければルフィを差し出せと言うそれに、従える筈は無い。潮風に乗って砂埃が舞い上がる中、熊以外の意識のある全員の気持ちは1つだった。
怒りで血液が沸騰するんじゃないかって思うような状態である今を、きっと、怒り心頭と言うのだろう。恐怖なんて、それを凌駕した怒りが全て吹き飛ばしていたのだから。