私が意識を取り戻したのは、モリア討伐から1日が経過した後だった。意識を取り戻しても、自力で動くのは困難で、でもだからと言って状況把握してお金の管理をしない訳にもいかない。
あの時運び込まれていた宝の事もあるし、この船で他に金銭管理をしてくれる人はいない。それに私にはその他に、航海日誌に帳簿の管理とやるべき事は多い。
航海日誌はロビンが基本的な所を書いてくれて、それに専門的な所を私が追記するようになったので、楽にはなったけれど何もしなくて良いとはならない。そうは思うのに、指の1本を動かすのもキツくて……待って、ルフィは何処?皆は無事なの!?
「ナミ目が覚めたのか!」
ルフィの元気そうな声と姿に、良かったと思いながら笑って頷くとルフィが真剣な顔をする。その瞳が何かを問いかけているのは分かったけど、私にも状況がよく分からないのだから、何も話せない。
だから私は笑って手をルフィに伸ばす。その時に走った激痛と呼ぶのも烏滸がましいような痛みに、手が力無くベッドに落ちると、その手をルフィが掴んでくれた。
「ルフィ……無事で、良かった」
「……何が良かったんだよ!?ナミがこんな大怪我してて、何が良かったんだ!!」
叫ぶように言うルフィは私に覆いかぶさるようにして、私の体を抱き締めた。ルフィの体が小刻みに震えていて、それを抱きしめ返そうと思ったのに、体が……上手く動かせない。
ルフィの声が震えていて、でも、ルフィは暖かくて……生きていてくれた事が幸せで……。悲しんでるのか、怒ってるのかも定かじゃないルフィの様子に戸惑いながらも、私はやっぱり嬉しくなってしまう。
「何で……ナミとゾロだけ、こんなに大怪我してんだよ!!」
……言える筈が無い。でも、何も言わないなんて、そんな事も出来る筈はない。
だから私は平然と笑う。わかる範囲の事を、なんでもない事のように伝える為に。
「……あれ?ルフィ聞いてないの?」
「何をだよ」
「もう1人、王下七武海がこの船に居たのよ。それでね〝モリアが海賊に敗北〟した事を知ってる人間が居たら困るって、全員を抹殺しようとしてきたんだって事をよ」
答えながら考える。何処まで話して大丈夫なのかと、そして現状はどうなっているのかをだ。
ルフィは私とゾロが〝大怪我〟していると言っていたから、ゾロも無事に生きているらしいとわかる。……あの時、私はルフィを守りたくてしがみついてたけど……何が起きてこうなったのか実は分かってないし。
「……モリアみたいなのが、もう1人……?」
「えぇ、それでまぁ、簡単に言うと皆が1斉攻撃されてほぼ同時に意識を失ったんだけど、私とゾロとサンジ君が何とか意識を保ってて……」
「ん……」
ルフィは小さく頷くと続きを促してくる。だから、少し違う話しを……ここからは騙る。
「私がルフィを守ろうと頑張ってたら、その攻撃から庇ってくれたサンジ君が意識を失って、その後もその前もずっとゾロが1人で戦ってくれてて……私はルフィに張り付いてるしか出来なかったけど……でも……」
「でも?」
「その後よく覚えてないの。ルフィを守ろうと思って戦ったのは間違いないんだけど、多分……私がゾロより先に倒れて、その後ゾロが1人で戦ってたんだと思う」
私の言葉にルフィはそっか……とだけ言うと、その後は黙ってしまった。そんなルフィに私はお願いしてみる。
今居るのが明らかにサニーの女部屋だというのもあり、頼む事にしたんだけどね。必死で腕を動かして、その痛みを悟らせないように笑いながらルフィに抱きつき、その耳元で言う。
「お願い、ルフィ」
「な……んだよ……」
「甲板まで、連れてって」
「………………分かった。じっとしてろよ」
長い間を置いてからルフィは頷いてくれて、ヒョイっと私を横抱きにすると甲板まで運んでくれる。そんなルフィの顔を見上げて、随分成長したんだなって心から思う。
身長が伸びたとかじゃなくて、ただ、その心が、成長してる。戦いの面でしか、読んでいた時は確認できなかったそれが、こうして近くにいると日常の中でもその成長を感じられる。
「ルフィ」
「ん?」
「もしかして……心配、した?」
「当たり前だ。目の前が真っ暗になったぞ」
その言葉に顔が熱を持つ。どうしよう、不謹慎かも知れないけど、私……今……物凄く、幸せかも。
悲しませたのは良くないし、苦しめたのも悪かったと思うけど……でも、ルフィが私を想ってくれてる事がダイレクトに伝わって来て、泣きそうな位幸せだなって思える。ルフィは、どうしてこんなに優しいんだろう。
他愛ない事を話しながら、ルフィは私を甲板へ連れ出してくれて、それを見たサンジ君が意味が分からないという顔で私を見る。その直後私とルフィに気付いたチョッパーが、ナミを無駄に動かすなと叫ぶ。
ロビンも心配そうに近付いてきてくれるけど、フランキーとブルック、ゾロはこの場に姿が見えない。ウソップは心配そうにしながらも、お宝を運んだのは私だと思ってるようで、少しだけ怯えた様子だ。
甲板にはお宝が多くあって、私はそれの所に降ろして貰うと周りを見渡してから、被害者の会の人に視線を向ける。どうしてここにいるのだろうと思ってじっと見れば、その人物は私に言う。
「恩人から物を取ろうなんてしないから大丈夫よ、ナミゾウ」
「え?今、なんて?」
その呼び方、まさか……ローラ、なの?
あれは影でしかなかった筈。でも、何年も離れていたのなら、その間に影が経験した事だって本体に少しは影響を出してる可能性はあるわ。
だから、期待してしまう。もしかしてって……。
「ん?口をついて出ちゃったわ。ナミゾウって誰?……そう言えば、変なのよね。……あんたとは何故か初めて会った気がしなくて……」
「もしかして……ローラ!?」
「そうよ?名前言ったかしら?」
その瞬間、体が痛いとかそんなの全て忘れて私はローラに飛び付いた。力が入らないし身長差もあるから、縋り付いてるみたいになってしまっているけど……。
ローラに会えて嬉しいのだと飛び付いた状態で言うと、ウソップがその名前に1歩引いた。そんな私をよく分からない様子で、けれど倒れないように支えてくれるローラに、やっぱり優しいと心から思う。
私は宝の山から、値打ちのありそうな物をいくつか選んでローラに手渡す。今回ペローナ達が運び込んでくれた宝だから、渡しても痛くないと言うのもあるけど、本当に感謝しているのよ。
「これはお礼よ!詳しくは後から話すから、今は素直に受け取って!!」
それからゾロはまだ中庭の所で寝かせてあるとチョッパーから聞いて、私は男だらけの所では治療も出来ないからとサニーまで連れてきたのだと教えられた。ロビンに確認したら、私の宝箱は帰って来ていたので部屋に戻してあると言われたので、ホッと息を吐き出した。
宝を検分しながらローラに事のあらましを伝えて、それを聞いてルフィが流石ナミなんて呟いてるのを聞きながら、再会出来た友人と、新たな友情を育んで行く。その時サンジ君が静かな声で問い掛けて来た。
「ナミさんは、この食料と宝の事何か知ってますか?」
「えぇ……知ってるわ。この宝はここの宝物庫にあったもので、ゾンビ達に運ばせたの。食料もお化けの女の子の建物にあったものは全て持って来てある筈よ。他の食料庫は分からないけど」
「……他の、食料庫?」
「えぇ、1応結婚式の会場横にあった物置部屋でこの船の
その瞬間全員の恐れ慄いたような視線が向けられた。言葉が足りてなくて、まるで私がゾンビ達を従えて働かせたかのように思える発言をしていたと言う事に、全く気付いていなかったのだから仕方ない。
なので首を傾げてから、サンジ君に食料庫の場所を伝えると船からは食器や調理器具を持っていくだけで済みそうだなと笑い、他の食料庫を経由しながら中庭へ向かう事で話が纏まった。ルフィが欲しがった腕輪を見て、宝石としての価値は無いから自由にしていいと言うと、ウソップも宝を漁り剣を手にしては宝石がついてると落ち込む。
「ウソップは、剣とか使わないでしょ?」
「護身用の物はいくつあっても足りねェよ!!それに、ナミも使わねェのに持ってんだろ!」
「……私、使えるわよ?」
「へ?」
ウソップの前でそう言えば剣を使って戦った事無かったかしらねと思いながら、私の剣はシャンクス仕込みでそれなりに使えるのだと言えばウソップが呆れたように私を見た。それから、短剣の贈り主がベックだと言う事に何故かローラが騒ぎ、そう言えば彼等は四皇だったと思い出す。
でも、多分だけど、ローラのお母さんって四皇よね。新世界で有名な凄い女海賊なんて、そう多くはないし、その人を〝ママ〟と呼んでる時点で確実にそうだろうと思う。
「ナミゾウの人脈って凄いわね」
「シャンクスに限って言えば、事故よ。私シャンクスに初対面で殺されかけて、そのお詫びに修行付けて貰ったんだもん」
「……それ、初めて聞くぞ」
ルフィの声にそうだっけ?なんて笑って、シャンクスとの出会いより以前から1人で海に出ていた事から順番に話せば、勝てる筈なかったんだななんて大人びた顔で言われてしまう。それから宝石のついてない短剣をウソップに投げ渡して、今度扱い方教えましょうか?と問い掛けたら、まずは怪我を治してくれと言われてしまった。
でもそれはまぁ、尤もな意見かも知れないわね。そして、後でこの宝達をまたベッドの下に片付けておこうと決めた私は、とりあえずゾロが心配でゾロの所へと運んで欲しいと頼む。
それにチョッパーが頷いて、これから様子を診に戻るところだと言うから、チョッパーに運んでもらう事になった。瓦礫の中を抜けて進むと、屋敷としてかろうじて形を留めているそこに、私なんかよりもずっと重傷なゾロが寝かされているのが見える。
そんなゾロの近くに降ろされて、私はそっとゾロに手を伸ばす。触れてみれば確かに暖かくて……生きているのだと、ホッとするのと同時に結局何があったのか、私も当事者の筈なのに分からない事が苦しくなる。
「ゾロ……何があったの?」
「俺、それはナミにも聞きてェよ」
チョッパーはゾロの手当をしながら私にそんな事を言ってきて、皆の視線が集まるのを感じた。でも、嘘偽り無く、本当に分からないのよね。
「……ルフィだけは守るって、渡すもんかって思って、しがみついてたのは覚えてるんだけど……その前の爆発で既に意識が朦朧としてたから、その……よく覚えてないのよ。途中でルフィに抱き着いてた私をゾロとサンジ君が助けに入ってくれたのは覚えてるというか、分かってるんだけど、私あの時は、ルフィが生きてる事だけが重要事項だったから……」
「…………ナミ、ルフィが茹だってる」
「へ?」
チョッパーに言われて視線を向けると、ルフィが恥ずかしそうにしていた。……私、何か、変な事言った?
小首を傾げたらルフィが帽子を深く被って顔を隠そうとするけど、私座ってるから普通に無意味と言いますか。……とりあえずルフィが可愛いです、まる。
そんな時にその1部始終を見たと言う男達が現れて、サンジ君がそれらを連れ出して行く。私はこの場にいても何も出来ないし、真実を知りたくて立ち上がるとそれを追い掛ける。
「ナミ!どこ行くんだよ!?」
「リハビリ兼ねて歩いてくるわ」
チョッパーの焦る声に答えてから、クリマタクトを杖として歩き出す。もう、痛いとか苦しいとか、そんな事言ってられない。
真実が知りたい。あの時、何が起きてたの!?
少し移動しただけで息が上がる。血が足りてないとチョッパーが言ってたけど、血が足りてないならその分体重は軽くなってんだから動きやすくなるべきだと私は思うのよ!
なのにどうしてかな。動くのが物凄くつらい。
何とか話が聞こえる程度の位置で体力の限界を感じた私は座り込んでしまい、距離は結構あるけどそこで話を聞く事にした。それにしても、鎮痛剤効いてないんじゃないかな……?なんて、チョッパーが聞いてたら怒り狂いそうな事を本気で考えながら。