※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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新たな仲間

 何となく喋り方とかに覚えがあるような2人組は、サンジ君に嬉々として語り出す。サンジ君がゾロの身代わりになろうとした、その後の事を。

 少しの距離があって聞き取りにくい所は、座ってるのもあって見聞色の覇気を利用してるので、問題は無い。口を挟めない今の状況は、ある意味よかったのかもしれないわね。

 

 「俺達は意識はあったんだが、動けなくてよ。見てるしか出来なかったんだ……」

 

 俺達は目の前で起きている恩人達のそれに、参戦する事も出来ずにただ見ていた。麦藁を売るなんて選択肢はいくら弱い俺達でも無かったが、助ける事も当然出来ない。

 コックの兄ちゃんが崩れ落ちたからって、俺達が間に入るのは色々な意味で無理があった。その時動いたのは剣士だけだった。

 

 「後生の頼みだ……」

 

 そう言って剣士が刀を瓦礫に投げ捨てると七武海は麦藁に手を出せば自分が恥をかくと言って、麦藁へと手を伸ばした。それに剣士は恩に着ると返事を返したが、想定外の事が起きちまった。

 魔法使いのような戦い方をしていた可愛い姉ちゃんが、麦藁に抱き着いたまま離れようとせずにいたんだ。声を掛けても反応は無く、既に意識はほぼ無いのだと誰の目にも明らかで、それなのに麦藁が持ち上げられても離れようとしない。

 

 「ナミ!離れろ!」

 「泥棒猫、麦藁に手出しはしない。離れろ」

 「……っ……!」

 

 もう、姉ちゃんには何も聞こえていないのだろうってのは嫌でもわかった。それでも、離れないその姿に七武海も剣士も1瞬言葉を失い、それから七武海がゆっくりと麦藁に手を当てたんだ。

 その時麦藁から飛び出した何が姉ちゃんにぶつかると、姉ちゃんが甲高い悲鳴をあげた。傷があった所はそれが広がり、無かった所も裂けてその白い身体から赤い体液が流れ出ていく。

 それにより、姉ちゃんの足元は1気に血溜まりになっちまった。服も血液の為に体に貼り付いていて、生きてるのが不思議に思えるような状態だったんだ。

 その内に姉ちゃんはガハッと言って吐血し、その様子に剣士が絶叫した。噎せ返るような血の匂いがその辺に充満して、なのにそうなっても尚、姉ちゃんは麦藁から離れようとしない。

 

 「熊!俺の命をやると言ったんだ!ナミに……仲間には、手を出さないでくれ!」

 「離れないのは〝泥棒猫〟の意志だ。〝麦藁〟には手を出していない」

 

 その瞬間剣士が吼えた。絶望を滾らせたその声により、目覚めた者も居たかもしれない。

 それでも、誰も動けはしないだろう。そんな中で船長を守ろうとする三人のクルーがいるその事実に、俺達も船長をしっかり守ろうと思わされる。

 

 「ナミが身代わりになったりしたら、俺が生き残ってもルフィに合わせる顔がねェ!頼む!ナミに手を出さないでくれ!!」

 

 剣士の慟哭のようなそれを受けて七武海が口を開いた時、剣士は続けた。それは、仲間の1人としてでは無く愛している女なのだと叫んでいるのと何が違うのかと、そう思わされる言葉。

 

 「……俺にとっても、ルフィにとっても、ナミは自分よりも大切な存在なんだ!頼む!ナミだけは、これ以上傷付けないでくれっ!!」

 

 姉ちゃんは再び血を吐き、そのまま体がゆっくりと麦藁から離れて行く。足元には既に血溜まりが出来ていたので、そこに落ちた事でビチャリと嫌な音が辺りに響いた。

 

 「ルフィ……に、も、仲間……にも、手は……」

 

 そう言いながら床で姉ちゃんはその体から力を抜いて、そのままピクリとも動かなくなった。死んだのかと思う程に、動かない姉ちゃんに剣士は転がるように近付き、姉ちゃんの名を何度も呼びながらその首に手を当てる。

 その様子を見ていた七武海は苦痛の塊のようなそれの残りを作り上げ、弾き出す。その説明を受けた剣士は姉ちゃんが耐えたのはそれの何割くらいなのかと確認して、それから愛おしそうに姉ちゃんの頭を軽く撫でてから立ち上がった。

 流石の剣士も少し触れただけで、物凄い叫び声を上げていた。それにもかかわらず、優しげに姉ちゃんに視線を向けて、1言言葉を残してから移動したんだ。

 

 「ナミ……死ぬなよ……」

 

 その後移動した先で剣士がそれに挑むのを確認した七武海は、静かにその場から姿を消した。

 

 「……って訳なんだよ!俺ァ悪ィが、命はねェと思ったね、あの剣士も姉ちゃんも」

 「だから泣けちったよー」

 「マジ泣けちったよー!!」

 「成程、それでルフィが元気になってゾロがああなったのか。そしてナミさんも……。……っ!無茶、しやがる……」

 

 サンジ君の言葉を聞いて、話が終わったのだと理解した私は結局何の役にも立てずに無駄にゾロの心を傷付けたのだと言う事だけ理解した。……帰ろう、ここにいると、心配かけちゃう。

 

 「「よーし!麦藁の1味仲間の美談と愛!皆に話して来よう!」」

 「待てっ!!」

 

 サンジ君の怒気の篭ったその声に、私まで動けなくなる。海賊の2人はサンジ君の方を振り向き、その動きを止めている。

 

 「野暮な真似するな!!……あいつもナミさんも、恩を売りたくて命張った訳じゃねェ!!」

 

 ……サンジ君は、事情を知ったらもっと怒るかと思ってた。なのに、冷静に事実としてそれを受け止めてくれている。

 

 「特に……自分の苦痛で仲間や恋人を傷付けたと知るルフィの立場はどうなる!!……それとだ、人の恋路に嘴挟むもんじゃねェぞ」

 「「え……え~!!!?」」

 

 不満そうにする2人にサンジ君は1喝して、煙草を咥え直す。その姿が妙に大人びて見えて、あれで19歳だと言うのだから、男の子って分からないわと思う。

 

 「皆無事で何より……それで良いんだ。さァ、飯にするぞ」

 

 そんなサンジ君の声が聞こえて少しすると、サンジ君が私の傍に来てしまい、座っている私に驚いたような顔をした。私は少し気恥しいような、情けないような気持ちでサンジ君を見上げる。

 

 「……リハビリ兼ねて歩いてきたら、動けなくなっちゃったの。チョッパーの所まで、運んでくれる?」

 「……喜んで。失礼しますよ、レディ」

 

 そう言って横抱きに抱えてくれたサンジ君の首に腕を回して重心を真ん中に持って行けば、サンジ君が笑った。その笑顔が先程までと違って本当に幼くて、料理の話をしてる時の笑顔だなって気が付く。

 

 「ナミさん1人くらいなら、重心がどこにあっても問題ありませんから、楽にしていてください」

 「でも……重いでしょ」

 「寧ろ、軽くてビビってます。ナミさん用に、カロリーの高い食事とデザート考えときますね」

 「え、やだ。何それ酷い」

 

 そんな事を話しながら皆の所を通過して、チョッパーの元へ戻る。それから私をチョッパーにくれぐれもと頼んでから、サンジ君は忙しそうに動き出した。

 本当は何か手伝いたいけど、今は動くのが少しつらい。……大した事無いと思うのに、情けないなぁ。

 ゾロに視線を向けて、心中で謝る。迷惑かけてごめんねと、そんなつもりは無かったのよと。

 その時背後で大勢の声が重なり、頂きますと言って食事が始まった。その直後にロビンが私とチョッパーに食事を運んで来てくれて、私がありがとうと笑ってそれを受け取ると、ロビンに頭を軽く叩かれてしまう。

 

 「……心配ばかりかけて……悪い子ね」

 「ロビン……」

 「次は、許さないわよ。……こんな無茶したら」

 「……聞いてたのね」

 

 私の言葉にロビンは困ったように笑うと、何も言わずに去って行った。サンジ君は私が居た位置を考えて、恐らく話を私が聞いていたとは思ってないだろう。

 でもロビンは、耳だけで情報を得たから私のいた位置が分かってないのだろう。その間に、いつの間にかその場は宴の会場へと姿を変えていて、それなのに起きないゾロをチョッパーと二人で見詰める。

 そんな空気を破壊する為か、何も考えていないのか、ルフィが突然姿を見せてゾロに酒を呑ませようとする。それをチョッパーと二人がかりで止めて居たら、ブルックが演奏を始めた。

 それに私が視線を向けると、ルフィは私の頭に麦藁帽子を突然被せて来て、なんだろうと顔をルフィに向けた瞬間……唇が重なった。軽く触れ合う程度のそれは即座に離れて行くけど、ルフィはにししっと笑い帽子を回収して自分で被ると、耳元に唇を寄せて来る。

 

 「早く治せよ。……俺は、ナミが早く欲しい」

 「る、ふぃ……」

 

 言葉を失った私を見て、男の顔で笑ったルフィはブルックの元へと駆けていく。私はその背を見送り、椅子から滑り落ちて床に座り込んだ。

 

 「ナミ!?どうした、顔真っ赤だぞ!!少し休め!」

 

 チョッパーはそう言って、私をゾロの横に用意された簡易ベッドに寝かされてしまう。その状態で、暫く怪我が治らない事を切に願ってしまった。

 だって……体も、心も、持ちそうにないから。突然、男にならないでくださいなんて、心の中でルフィに向けて呟いてしまうくらい、私はルフィに参ってる。

 ビンクスの酒が流れ始めて、いつの間にか始まった宴に全員が盛り上がりを見せた。そこにルフィの声が混ざって聴こえてくる。

 どうやらブルックを誘っているようだ……と思えたのは何故なのか。ラブーンと似た頭を持つブルックが、そんなルフィの勧誘を断れる筈は無いので、仲間になるのは分かっている。

 でも、今は普通に誘っているのではなく、ただラブーンと会った事を話しているのだろうなと微かにしか思い出せない知識もあって思う。その時、本人の他は多分もう、私しか知らないブルックの体験が、脳裏を掠める。

 50年……海を、1人でさ迷っていた孤独と絶望は、考えたくもない。正確には40数年だとは言っても、それはもう同じだと思う。

 誰にも会わずに、ただ食事等が定期的に用意されるような生活をどれだけの期間続けて行けるのかと言う研究が行われた事があった。被験者はただベッドやシャワー等の必要な物だけ用意された、防音の部屋に隔離される。

 それによれば1年持たず全員発狂したとある。せめて音があれば、他の人の気配を感じられればもう少し持つらしいが、それもないとなると……人は狂うらしい。

 その理屈で行くと、ブルックはどれ程強靭な精神力の持ち主なのか。苦しすぎるそれに、同情する権利すら誰も持たないだろうと思わされる。

 男達がブルックの周りで会話しているのが見える。ラブーンと会ったと話しているのだろう。

 見聞色の覇気を用いれば全ての会話を聞けるかも知れないけど、残りの体力的にそれは難しい。それに……ブルックにシンクロして泣きそうだから、聞きたくないのもある。

 新しい仲間に私は笑みを浮べて、ベッドの上からそれを眺める。ブルックは頭から取り出したトーンダイアルを使って、音楽を鳴らす。

 ブルックの仲間の声が、楽器の音が響く。後半では声と種類が減っていく筈だからと、私は体を起こして腰にある鉄笛で演奏に参加する。

 曲は盛り上がり、宴は最高潮になったかに見えた演奏終了時に、ブルックの声が響いた。震えるその声が、魂の慟哭を伝えて来る。

 

 「私……生きてて良かったー!!」

 

 その言葉の、何と重い事か。私は動きを止めてブルックに視線を固定する。

 ルフィはそんなブルックを嬉しそうに見ている。そうだ、ルフィは誰かが前向きでいる時はいつも嬉しそうに笑っているのだ。

 ルフィは太陽みたいだと思う。暖かくて、明るくて、どこに居ても照らしてくれて……でも、決して誰か1人のものにはならない。

 近付きすぎると傍迷惑で、でも遠いと寂しくて……。だけど皆が惹かれる。

 そんな事を考えていたら、ブルックは言う、仲間になっていいですか?と……ルフィは応える。おういいぞ、と。

 そんな簡単すぎるやり取りで、ブルックは正式な仲間になったのだった。それにより、念願の音楽家だとルフィが笑い、喜べば皆も同じように笑い喜ぶ。

 会場は盛り上がる。祝い事はいくつあっても良いものだと、皆が笑い合うこの空間は、目眩がしそうな程に、明るくて優しい。

 ルフィを含めた男達はブルックを歓迎する。大騒ぎで収集がつきそうにない。

 そんな中でブルックはルフィの前に突然膝をつくと、盛大に仲間入りを宣言する。パンと床に叩き付けられたのは、恐らくはブルックが船長だった頃の手配書だろう。

 

 「改めまして!申し遅れました!私!!死んで骨だけ名をブルックと申します!フダツキでございます!」

 

 その潔くも礼儀正しい加入の言葉は素敵に思える。他にこんな加入をした人は、私の知る限りにおいてはいない。

 

 「通称〝鼻唄〟のブルック!懸賞金3300万ベリー」

 

 ブルックの挨拶をルフィは心底嬉しそうに聞いている。だから、それでいい。

 ルフィが幸せなら、それだけでいい。私は心からそう思って、ブルックを歓迎した。

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