金獅子
宴は深夜まで続いたらしいけど、私は途中で切り上げて
「ナミさん、この膨大な量の譜面を全て貴女が書いたんですか?」
「そう……なるわね。でも、何年もかかってるんだからそんなに凄い事でもないわよ」
例えば月に5冊の本を買うのだとして、年間に直せば60冊になる。つまりは、10年あれば600冊になるのだから、書いてるのだって同じ事。
それに、私のは盗作だから。確かに編纂して出してるものもあるけど、1から……いいえ、ゼロから生み出してる人達とは全く異なる。
「この〝宝玉〟と書かれている書物は全て、そうなんですね。こんなにも可愛らしい船なのに、本が多くて……まさか譜面がこれ程豊富にあるとは思いもしませんでした!ヨホホホホホホ」
「ここにある本は、必要なら好きに持ち出して良いのよ。ただ、海水にやられたら困る本とかはここで読んでね。……どうしてもの時は買い直すか何がするけど、もう手に入らない物なら、冷蔵庫に入れてから私が写本するから」
「冷蔵庫?」
「濡れた紙は破けてしまうから、読めなくなるでしょう?それを冷蔵庫に入れて数時間置いておくと紙に負荷を殆どかけずに乾燥させて、また読めるように出来るのよ」
言えばブルックは納得したのか確かに頷いて、それから何を書いてるのですかと図面を覗き込んで来た。霧が深くて全てはわからなかったけど、わかる範囲で、自分達の通った範囲だけでもと思って描いていた海図をブルックは見て硬直してしまった。
何か間違ってたかなとた見てみるけど、おかしな所は見当たらない。私が描き上げた数枚の海図を手に、ブルックは声を震わせる。
「本当に……天才っているのですね」
「この船には天才しか居ないわよ」
「え?」
「確かに私は海図と地図に関しては、多分その域だと思ってるけど……ブルックは音楽に関する天才だし、チョッパーは医学の天才。サンジ君は料理の天才で、ロビンは世界で唯一、ポーネグリフを読める人よ」
私はそこで言葉を1度切って、脳裏で笑う皆を想う。ロビンに教えられてるから、私も少しは読めるようになったけどね。
それでも、まだまだ書けないし……辞書片手じゃないと読み解けないんだから読めると言うのは烏滸がましいかもしれないわね。そう考えたら、ロビンの賢さってと思わなくも無い。
「フランキーは物作りの、ウソップは狙撃の天才。ゾロは、世界一の大剣豪を目指してるだけの事はあるような実力者でしょ。……ルフィはね、何かの分野において天才としか呼べないような人だけを集めて冒険してるの」
「ヨホホッ!贅沢な1味ですね!」
「そうよ、その代わり誰か1人でもいなくなると、どうにもならなくなっちゃうんだから」
「……この船の事に関しては、サンジさんではありませんが、本当にナミさんがいればどうにかなると思いますよ」
軽口を言うブルックに、何言ってんだかと思いながら乗る事にした。ここで否定しては、きっと変な空気になってしまうから。
「過労死するし、私がいなくなったら終わるんじゃ何の慰めにもならないわよ。それよりも……ようこそ、ブルック。麦藁の1味へ。歓迎するわ」
「ありがとうございます。ですが、そろそろお休みになられた方が宜しいかと」
言われて窓の外を見れば月が沈もうとしていて、またやっちゃったかと思う。どうしても何かを描き始めると、時間の感覚を失ってしまうのが困りものだと思ってはいるのよね。
私はもう少しで描いてるのも区切りだから、それが終わったらシャワー浴びて寝るわねと言って机に向かう。すると背後でブルックがバイオリンを演奏し始めた。
驚いて視線を向けると、区切りがつくまでお付き合いしますと言って、演奏した事の無い筈の曲をブルックは楽しそうに弾いていく。好きなCDをかけながら描いてるような気分になりながら、私は急いで描きあげてしまおうと決意して机に向かう。
いつもならもう少しゆっくり描いてる所だけど、ブルックを付き合わせてると思うとそうもいかない。それを狙ってるとしたら、ブルックも侮れないわね。
描き上げてからそれを干すと、ブルックに1声かけてからシャワーを浴びて
ロビンに抱き枕のように抱きしめられたまま、私は深い眠りへと落ちて行った。翌朝、ロビンが植物にお水をあげに行くタイミングで目を覚まして、私もロビンに続いてベッドを降りる。
「もう少し寝ていたら良かったのに。昨夜も遅かったでしょ」
「んー、でも朝だもの」
ロビンとそんな会話をしながらも動き出すと、ロビンに心配そうな顔をされてしまった。ロビンは私に対して過保護だと思うわ。
チョッパーに傷や疲労の消えるという試薬を渡され、昨夜飲んだので早速その結果を1応メモして置く。その薬のおかげで随分回復した状態になった私は、最低限のやる事を終えてからクーちゃんを呼んだ。
クーちゃんに次の原稿を渡して、そのついでに新聞を受け取る。その流れでお金や完成した新作、推敲された原稿に問題が無いか等を確認して返したり、書類にサインをしたりしてから完成した本と新聞を眺めた。
完成したのは童話と農業の本だったので、チョッパーとロビンに渡す為に歩き出す。その時朝食の匂いが香り初めて、ブルックの演奏が聞こえてくれば朝なんだなと思いながら、2人に本を託して蜜柑畑へと移動する。
蜜柑の手入れをして、フランキーが網を上げているのを眺めつつ少し蜜柑を収穫すると、ルフィが物欲しそうにこちらを見ているのに気付いてしまう。仕方ないなとその中から蜜柑を1つだけルフィに投げ渡して、皆には内緒よと囁くように言う。
「おう!ありがとう!」
隠し事のできないルフィに、全くと笑いながらキッチンへ向かえば起きてきたばかりのウソップが私を見て、少しは休む事も覚えろよな!なんて言い出した。その時サンジ君が食事が出来たぞと言えば見張りだったらしいゾロが酒瓶片手に降りてくるのが見えて、今朝も皆が揃っている幸せを噛み締める。
揃って朝食を食べて、少しそれぞれがやる事をやり、特に大きな問題も無い状態により、何となく甲板にて皆が集まり出して風に当たったりしているのを微笑ましく眺める。そこへ来て、新聞をちゃんと読んでなかったと思い出した私は新聞に目を通し始めるけど、それに書かれていた内容に自然と眉が寄るのが分かった。
思わずその内容を声に出せば、ルフィが珍しく真面目な声で問い掛けてきた。それにより、私はもう1度新聞の記事を音読する。
「
「『襲いかかる脅威!突如消えゆく街の謎』……〝東の海〟で1夜にして次々と街が滅びてるみたい」
言いながら新聞をルフィに差し出せば、ルフィが真剣な顔でそれを見て、そこへウソップが駆け寄って来ると2人で新聞を見ている。なので私は簡単に内容を皆に伝える為に声を出す。
「今の所私達に関係のある島は無事みたいだけど……それもいつまで続くか……」
ノジコやベルメールさんのいる故郷は大丈夫かな。そんな事を考えていたらチョッパーがブルックに私達の出身地を話して、情報共有をしてくれている。
その事に安堵していたら、突然影って何事かと上を見れば島が空を飛んでいるのが見えた。皆が船首へと移動しその島が空飛ぶ海賊船である事を確認して騒いでいると、妙な風を感じた。
……この風はサイクロン。今の方向は……!
「この方向は不味いわルフィ!もうじきサイクロンが来る!!」
「何!?そうか!!じゃ、あいつらにも教えてやろう!!」
ルフィはそう言って、真上を飛ぶ船に大声でそれを知らせようと叫ぶ。ルフィが大声で何度か呼び掛けると、その船から何かがゆっくりと落ちてきた。
落ちてきた物を取ったルフィは1瞬不思議そうにした後で、即座にそれを私に向けて投げた。その様子をウソップは少し怯えた感じで見てるのがなんか、微笑ましい。
「ナミ!」
「え!?」
なんで私と思いながらも投げられた物を受取り、それが何であるのか確認してからルフィを見れば、再び名を呼ばれる。私は頷いてその
「すぐにサイクロンが来る!進行方向より9時に逸れて!」
吹き込み終えると音声貝は勝手に上空へと戻って行く。どんなシステムだろうと考えるより早く、まずは私達が避難しなくてはと進路を変える。
皆は私の吹き込むその声に合わせて即座に動いてくれて居たので、見事にサイクロンから逃げる事に成功した。ゾロとサンジ君は音声貝を見て只者じゃないかもしれないと警戒していて、やっぱり似てるなぁなんて思う。
この2人は近いから反発するのよね、きっと。磁石のS極同士ではくっつけないのと同じように。
サイクロンから逃げて、私達が落ち着きを取り戻した頃、空から人が降りてきた。どうやって降りてきたのか分からないその人物について、私は特に見覚えも無くて内心で首を傾げる。
未知のものに対する警戒心はあるけど、ルフィが側にいるからそれ程切迫した事になるとは思っていない。いざとなった時、私もチョッパーの薬のお陰で普通に動ける今なら大丈夫だと言う思いもある。
呆気に取られる私達を見て、降りてきた男は自己紹介をした。どうやら〝金獅子〟の二つ名を持つシキと言う名の海賊らしい。
ん?……待って、よ?〝金獅子〟のシキって、まさか……!
幼少期にこの世界の事を知りたくて、読み漁った本の中にあった名前。確かまだゴールド・ロジャーとか海賊王と彼が呼ばれるようになる以前の話として、記載されていた筈。
海賊大艦隊の船長としてその名を知られていた〝金獅子〟のシキと後の〝海賊王〟ゴール・D・ロジャーが激突したエッド・ウォーの海戦。それは痛み分けとなり、終焉を迎えた。
その3年後〝海賊王〟が海軍に捕まったとのニュースが世間を駆け巡り、それを信じられなかった〝金獅子〟が単身マリンフォードへと斬り込んだ。それにより始まったのは、その時まだ大将だった現在の元帥〝センゴク〟とルフィの祖父である〝ガープ〟の2人を相手取った〝金獅子〟の戦い。
この三者の戦いはマリンフォードの町を半壊させる迄に及び、金獅子のインペルダウン投獄と言う形で決着した。つまり、金獅子は今インペルダウンに居る筈である。
「で……〝音声貝〟の声の主は?」
「……私、だけど……」
皆の視線も集まったし、素直に挙手すれば金獅子のシキはほぅと興味深そうに私を見る。それよりも、本物の〝金獅子〟なのかな。
本人だとするならば、インペルダウンを脱獄するのは、不可能じゃないのかなと今囚われている筈のエースを想う。見れば、その足には足首が無く、代わりに存在するのは剣。
確か、金獅子が愛用していたのは〝
それならば、彼は脱獄してその名が風化する迄大人しく上空をさ迷っていた?そして、たまたま声を掛けてきた少年の所へ挨拶に?
分からないわ。どうしたって、判断材料になる情報が少な過ぎる。
「ベィビーちゃんが……礼を言う!」
けれども続いた言葉は単なる礼だったので、害はなさそうだと思いつつ気にしないでとの意味を込めて返事をすれば、ルフィとの会話に移行した。私を
それにしても、ルフィと会うのならば少し位知ってても良さそうなものなのに。1瞬の邂逅で終わるという事なのかと、微かな不安を抱きながら私は静かにその巨体を見上げていた。