この人……金獅子とルフィが会うのは、アニメオリジナルストーリーとかかな?だとしたら知らなくても仕方無い。映画やアニメは初期の頃しか見てなかったのだ。
その後は仕事が忙しくて単行本になったら買ってたけど、途中からは買うだけで読めない日々が長かった。その為に私が知ってる話はそんなに多くない。
サンジ君の過去についてだって周りの人から聞いた感じだった。後は……この世界で夢で見たり、頭痛と共に知ったり、新聞や書物を読んで得た情報だもの。
そんな私だから、この有名な海賊とルフィがどう関わるのかが全くわからない。この先の展開が全く分からないという本来ならば普通の事が、こんなにも不安だとは思わなかった。
その間にもルフィ達は金獅子に遊んでもらい、打ち解けた頃に金獅子がお礼にもてなしたいと言い出した。けれどもルフィは、東の海に行かなくちゃいけないからとそれを断る。
私も含めて驚く面々に、ルフィは冒険はいくらでもやり直せば良いのだと言う。確かに若いメンバーが殆どのこの船ならば、やり直しは可能だろう。
1番年齢を重ねているブルックは、もう既に不死かも知れない勢いだし、他はまだまだ若者だ。そう考えたらルフィの判断は間違っていないように思える。
だから私は、ルフィの言葉に納得して頷く。ここから東の海へと帰るには逆向きのログポースが必要になるのかなと考えながら、自分の持つログポースに視線を向ける。
シャンクスかローラに、こんな時どうしたらいいのか聞いておけば良かったなんて思う。この際ミホークに聞いておくのでも良かったかなとか、そんな事を。
金獅子はそんな私達に、気に入ったから送ってやると言ってくれた。それならここ迄また戻るのはそう難しくもないかも知れないとは思うけど、何故だか不安になる。
金獅子の能力なら連れ帰ってくれるのは簡単だろうし、ここまで来られたのだから当然ここ迄戻るのは簡単だと分かってる。……同じ進路をルフィが選ぶのであれば、だけども。
それにブルックとラブーンが1度会ってからまた旅立てるから、そういう意味では良いのかも知れない。もし違う進路を進んでも、私の世界地図を描く夢に近付くだけだから、それもアリかなと考える。
それなのにどうして、こんなにも嫌な感じがするんだろう。微かに震えそうになる体をギュッと自分で抱きしめて、ゆっくりと、深く呼吸をして気持ちを落ち着かせれば震えは止まった。
そうして私は1歩引いた所でルフィ達を微笑ましく眺めていたけど、その間に金獅子が能力でサニーが浮かび上がらせてくれていた。サニーが空を飛んで、それに合わせてルフィ達は戦闘準備と称して私以外の全員が着替えを済ませる。
でも待って、戦闘準備って、着替えの事なの?
助けを求めるように視線をロビンに向ければポニーテールになっていて、それがまた似合う。ボーダーのワンピース姿のロビンを見て、何着ても美しい人は似合うと感心して頷いていたらロビンににこやかに微笑まれてしまった。
とりあえず私は、少しこの後どうするべきかを考える。今は船の中だからと、クリマタクトしか武器を身に付けてないけど、どうするべきかなと。
やっぱり短剣とかも身に付けておくべきかしら。でも、予定では船を降りないのよね。
それでも不安になるのは、やる気になってる皆がいる現実があるからかしら?そうは言っても、私までそう急いで準備する事もないわよねとそのままでいれば、皆のはしゃぐ姿につい笑みがもれる。
「ナミ、風が気持ち良いな!」
「そうね。今は変な風も感じないし、安心して過ごせるのが助かるわ。……ルフィ」
「ん?」
「……なんでもないの。なんか、呼びたくなっただけ」
なんで、今本当に呼んだんだろう。ただ、ルフィと僅かにでも離れるのが妙に不安だったのは確かで……。
「ナミ、ちょっと預かっててくれよ。帽子」
そう言われて渡された帽子を見れば紐が切れかけていて、私は小さく頷くと芝生甲板の所にある木陰のベンチに腰掛けて紐を付け直す。少し長い紐にして、顎の所で縛ったりして調整出来るように直すと、冒険用に新たに被っているそれの上から被るのでも問題ないかなと思えて嬉しくなった。
「ルフィ」
「ナミ、どうした?」
「紐、付け直してみたから被ってみて」
被ってみた姿を見れば、思ったより紐が長くて、もう少し調整した方が良いかなと思った時、チョッパーが何かに気付いたようで、その声に反応してルフィが船縁へと移動してしまう。ウソップやチョッパーと騒ぐ姿はまだまだ少年で、日本人ならルフィはまだ高校2~3年生の歳なのだと気付かされる。
紐は、また後で直してあげようと思って笑うと、立ち上がりルフィの元へと足を進めた。その瞬間、金獅子が着いたかと呟いたのが聞こえた。
その時、何故かゾワリとしたものを感じてしまい、直後にハッとする。だって……そうよ、東の海へ行くのに、金獅子の本拠地へ来て、本拠地ごと移動する必要なんて無い。
なら、当初誘っていた事を思えば、この本拠地にルフィを連れて来たい何かがあるんじゃないか。そう思えてしまったから。
「ここはメルヴィユ!!冒険好きのお前らには、うってつけの島だ!!存分に遊んで来るがいい!!」
金獅子がそう言った直後、私に伸ばされる太い腕に咄嗟に反応出来なくて……私はその腕に囚われる。1度囚われてしまえば、私の力では逃げ出せないと言うのに。
「離して!」
「おいッ!!」
「どっこいしょ!!」
ルフィ、ゾロ、サンジ君が即座に反応して駆け寄ってくれる。逸早く気付いたルフィの手がもう少しで届くという距離で、私は金獅子の腕の中に囚われたまま金獅子の能力で不本意に浮かび上がり、サニー号ごと皆が落下して行くのを見ているしか出来ない。
「あ……!!」
「航海士は貰った!!」
「ナミ!!」
腕ごと囚われていて身動きが取れない私は、ルフィに手を伸ばす事も出来ない。その代わりとでも言うように、ルフィの腕が伸ばされてもう少しで届きそうと言う時に、金獅子はサニーをその能力で回転させ、皆をその遠心力を利用して吹き飛ばされてしまえばそれ所では無い。
「ルフィ~!!皆~!!」
叫ぶ私の頭上から金獅子の独特な笑い声が響く。それをキッと睨み付ければ、金獅子はニヤリとその口元を歪める。
この男、間違いなく〝金獅子〟だわ。能力も文献にあったものと同じだし、特徴も前に情報として得たそれと相違無いもの。
何よりも、この海賊らしい笑い方が〝あの時代〟を生きてきた海賊だと教えてくる。シャンクスも、バギーも、クロッカスさんも……皆、海賊としての顔をする時はこの笑い方だった。
連れ去られて行く中で、皆の無事を祈るしか出来ないで、ろくな抵抗も出来ない自分の弱さが許せない。でも……必ず皆の所へ帰ってやる。
「俺の船の航海士になりな。ベィビーちゃん」
誘拐しておいて何を言うのかと睨み付けるが、金獅子は楽しげに笑うばかりで意に介していない事が良くわかる。ここで短気を起こしても、何も解決しないけど……だからって大人しく捕まる事を是とも思えない。
高すぎる位置を飛ばれているからと、抵抗しない理由にはならない。きっと、こんな時の為に私は剃や月歩を身に付けたのよ。
金獅子の腕から逃れようともがくも、強靭な筋肉に覆われたその腕はピクリともしない。けれども足をばたつかせて金獅子を蹴れば、少し興味を持ったのかこちらに視線を向けて来た。
「もう着くから、少し大人しくしてな。ベィビーちゃん」
「嫌よ!私を帰して!」
しかし、抵抗虚しく連れて行かれた先には部屋が用意されていて、その部屋に投げ捨てるように入れられた私は、すぐさま閉められたドアを破ろうと試みる。けれども何で出来ているのか、ビクともしない。
やっぱり短剣とか持ってくるんだったわね。そうすれば逃げ出せたのに。
鍵穴も内側からは見当たらないから、それを使って逃げ出す事も出来ない。どうしたらいい?
鍵穴さえあれば、私に開けられない物なんて無いのに……!忌々しい……!
他に何かないかと視線を窓に向ければ、窓には鉄格子がハメられていて、ううむと少し唸る。布はあるし、クリマタクトが棒になるから、鉄格子を破るのは可能だろうけど……。
少し冷静になる。これだけの実力差があるのならば、変な逃げ方をしないで逃げ道を用意してから、誰かが助けに来た時に1緒に逃げた方が安全では無いかと。
……それならついでに、金獅子の狙いを探らないといけないわね。この規模の海賊が私を欲しがる理由を知り、ルフィ達をハメた理由を知らなければ、何処までも追われる可能性があるわ。
ただ、私を攫うだけならルフィ達をこの上空まで連れて来る必要は無かった。恐らく何か目的がある。
もしくは、物質を飛ばすのと自分が飛ぶのでは制限が違う可能性もあるわね。物質には制限が無くて、本人は制限があるとか?
……でも、それなら本船に私を連れ込んでしまえば手は届かないもの、どうにでもなった筈よ。どうして、ルフィ達をここに連れてきたのかしら……?
部屋に用意されている物を見て、とりあえず飲み物を作ってみる。無臭の毒とかで無い限り、毒も入れられてはいない様子だと分かれば本当に害する気は無いのかしらと思わされる。
ソファに腰を下ろしても、何かが仕込まれていて攻撃される様子も無ければ拘束もされない。お茶を口にしてみても、問題のない物のようだ。
……分からないわ。もう少し、情報を集めないと、下手に動きにくい。
これ迄海賊として生きてきた中で、私を小娘呼ばわりする海賊は多くいたわ。でも、流石にベィビーちゃんは初めてね……。
これだけの年齢差と実力差があれば当然かも知れないけど、そう考えるとシャンクスが対等に扱ってくれたその懐の大きさには脱帽する。あんなヨチヨチ歩きの幼女だった私を、良くもまぁあれだけ大切にしてくれたものよね。
金獅子から見て私が子供どころか赤子扱いなら、そういう意味では狙って無いと分かり、ホッと息を吐き出す。私は窓から見える景色が、雪で覆われているのを不思議な気持ちで見つめていた。
雪は全ての音を吸収し、静寂を作る。1人だとそれが妙に際立って感じられてしまい、早く皆に会いたいと少しだけ気弱になってしまう自分が情けない。
今は
足跡が残るし、慣れない人間は足を取られる。寒さは筋肉を硬直させて、実力を出せなくなるし下手をすれば凍死する事になるわ。
私が今ノースリーブのシャツと、ショートパンツ姿なのがどうしたって問題よね。逃がさない事を考えれば、上着を用意するなんて事は有り得ない。
チョッパーの薬が効いて、動けている事が唯一の救いね。逃げられないなら、今出来る事を考えないと。
ただ、捕まった事を嘆く悲劇のヒロインなんて、ナミちゃんの立ち位置で生まれた私には似合わない。そんな事を考えながら、それでも早く助けに来てと祈るように仲間達を想っていた。
雪は降り続く。それぞれの想いを降り積もる冷たい雪で、包み隠そうとでも言うかのように。