※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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宝の持ち腐れ

 ルフィの元へ帰る為には……少しでも情報を得る必要があるわね。今のままでは、逃げる事も出来ないし、逃げてもまた連れ戻されて終わる。

 そうならない為にも、情報収集しなければと思うけど、ならまずはどうするべきかな。……可能なら、建物の中を見学させて貰う必要があるのは確かね。

 その為には、あまり大きくは逆らわないでおいた方が良いのかも知れない。今は金獅子も私を仲間にしたいと考えているのだから、私の意見を全て無視するとは考えにくいもの。

 私は金獅子を睨んだままで、どう切り出すべきか考える事にした。けれどもいくら睨み付けても効果の見えない金獅子に、そりゃそうよねと言う思いと共に溜息を落として、私は単刀直入に言葉を向ける事にした。

 

 「考慮する要素が無いわ。食事に薬を盛り害するつもりは無いと宣った男を、どうやって信用しろというの?……本気だと言うなら、そうね……私を必要とする理由……航海士達に会わせて」

 「まずは失った信用を回復するに務めろって事か?……本当に頭は悪くなさそうだな」

 「……私は弱いもの。頭くらい使えなかったら、他に何も無いじゃない」

 「本気で、言ってるのか?ベィビーちゃん」

 

 何故か驚いた様子でそんな事を言われれば、私としても怪訝な顔をしてしまうは無理らしからぬ事だと思う。でも金獅子は私の反応を見て、楽しそうに笑った。

 その顔が何かを企んでるとかじゃなくて、純粋に可笑しそうに笑ってるように見えて、私は動揺する。何がこの男の琴線に触れたんだろう?

 

 「ジハハハハ……!ベィビーちゃん、その容姿で、その声で、その能力で、頭の良さが無ければ価値が無いなんて思わせるようなガキの元に居るのは惜しい。……俺なら、そんな悲しい勘違いさせねェぞ」

 「どう言う、意味よ」

 「ベィビーちゃんは、良い女だ。流石に俺には乳くせェが、女に自信を持たせる事も出来ねェガキの傍に居たって、いい事ァねェ。ベィビーちゃんの価値は恐ろしく高い。その事を自覚しろ」

 

 思っても見なかった金獅子からの言葉を受けて、硬直する私に小さく聞き取れたのが奇跡のような声で金獅子が声を発した。宝の持ち腐れだな、あの小僧共と……確かにそう呟いた。

 意味が分からなくて戸惑う私に金獅子は真っ直ぐに視線を向けると、溜息をこれみよがしにつかれてしまう。その上で、呆れを隠しもせずに通常の声量で言葉を向けられる。

 

 「……ベィビーちゃん、お前ェ何をそんなに生き急いでんだ?」

 「え?」

 「世界の全てが敵だとでも言いそうな勢いで、警戒してるな。その若さで抱えるには大き過ぎるもんを背負って生きて来た代償ってところか」

 「な、にを……」

 「ベィビーちゃんはまだ未熟で良い。完璧なんざ目指す事ァねェ。今のお前さんに必要なのは〝自分を許し認めてやる〟事だ」

 

 私はその言葉に揺れそうになる心を自覚する。敵の筈なのに、どうしてこの男は……。

 流されるな!この男とは、この後戦う事になる筈なんだから。

 自分に言い聞かせなければ、長く海賊として生きてきたが故に持っている説得力と、長くトップに君臨して来たカリスマ性に飲まれる。私がそうして葛藤している間に、金獅子は納得した様子で1人頷いていた。

 

 「……自分より本当に劣るかを確認しなければ、考える事すら出来ねェと言うのは1理あるな。良いだろう。来い」

 「どうして?」

 

 急な話題変化についていけないという事ではなく、素直に……敵である私にどうして成長を促すように言葉を向けてくれたのかと思い思わず問い掛けた。そんな私に、金獅子は振り向いて巫山戯たような笑みを浮かべる。

 小馬鹿にされてるよりイラつくそれに、思わず眉を寄せれば独特の笑い声を響かせながら当然のように言われた。その声が、妙に優しい。

 

 「俺はベィビーちゃんを敵だとは思ってねェ。敵として見るには、ベィビーちゃんは弱過ぎる。それにな」

 「それに?」

 「俺はベィビーちゃんを〝仲間〟にと誘っている筈だぜ?」

 

 ……そうだった。って言うか、私が金獅子を敵として認識してるのには、ちゃんと気付いてたんだ。

 金獅子はそう言うと私の返事を待たずに、私に背を向けて歩き始める。私は何かで拘束されたりするでもなく、自由に歩かせて貰えている。

 その事が実力差を感じさせるし、アーロンの元にいた時の事を思い出させるけど、そんな所でじっとしていてもなんにもならない。震えそうになる体に力を入れて、私は金獅子の後に続いて歩き出した。

 金獅子の後について歩きながら、私は建物の間取りを頭に叩き込んで行く。そんな私の様子に気付いていないのか、気付いていて放置しているのかは分からないけど、金獅子は時々通り掛かる場所が何であるのかを平然と私に教えていく。

 本気で私を航海士として受け入れる為に、建物の構造を教えてるって、そんな可能性もあるのかしら?

 脳内で図面を描きつつ、そんな事を考えていたら航海士達のいる場所に到着した。大きな扉から外に出られるようだけど、そこは空を飛べなければ単なるバルコニーでしか無い様子で、脱出経路にはならなさそうだと認識する。

 気持ちを切り替えて航海士達を見てみれば、忙しなく働いている姿を確認できて自然と私は目を細めていた。環境としては、最新技術を使ったモニター等が用意されていて、目の前に大きく開かれたドアがある為、外の風を感じられる上に目視も出来るので最良と言えるだろう。

 ここは航海士としてのみの仕事に集中出来る上に、環境としては申し分無い。これでは予想を外す事の方が難しいだろうなと思えば、想像していたのよりもずっと充実した仕事が出来そうな空間に少し驚いてしまう。

 もう少し劣悪な感じかと思っていたから。航海士達はチームで分担して仕事をしているらしく、1人1人の負担は物凄く少ないのも、職場としてのみ見るなら素敵だわ。

 航海士ってのは、本来1人でやるべき仕事ではないし、こうして分担するのが当然だからこれがあるべき姿よねと思う。それでも、ここにはルフィも皆もいない。

 初めから金獅子の仲間になるかを考えるつもりなんて無かったけど、やっぱり私は皆がいないなら航海士として海に出るつもりは無い。私は〝ルフィの航海士〟だから。

 

 「ベィビーちゃん、どうだ?」

 「設備は十分ね。環境も申し分無い。これでは予想を外す方が難しいと言えるわ」

 

 航海士の人達が少し殺気立ったような視線を向けてくるけど、事実だから他に表現のしようがないのだから勘弁して欲しい。金獅子はそれを楽しそうに笑って見ていて、けれども彼等もこれまでずっと航海士をして来ただけの事はある手馴れた様子で機械を操作している。

 風は今のところ穏やかね。サイクロン等の傾向は見えないから、釣りとか洗濯日和だわ。

 

 「ここで航海士として働きたくならないかい?ベィビーちゃん」

 「ならないわね」

 

 即座に答えるも、もう少し言い方変えて色々確認した方が良かったかと内心焦る。でも、口から出た言葉は訂正できないから、表面上は何事もないように振る舞うしかない。

 少しづつ自分の感覚が、アーロンといた頃に戻っていくのを感じる。素直に感情を揺らせるようになり、表情を無理に作る必要なんて無くしていたのに、自分から表情が消えていくのを感じてしまう。

 

 「……測量室もここで兼ねてるの?」

 「ああ、壁側の机がそうだ」

 

 金獅子の言葉を受けて視線を向ければ、成程と思うのと同時にこんなに人数がいたら邪魔になりそうだと思ってしまう。私が1人でやってる事を数十人でやってるなら、1人1人の負担は少なく、肉体的にも精神的にも随分余裕があるでしょうね。

 これなら、経理とかに充分な時間を使えるし、世界地図をのんびり描いたり、航海日誌をつけるのも難しくは無さそう。適当に書いて終わりにしなくて済むのは助かるわ。

 ……って、ルフィの所ならやる事でもここの環境なら、それは関係無い。それに航海士以外の仕事は、ここで働くのならば割り振られないだろう事に遅れて気付く。

 毒されてるなぁなんて、少し思いつつもそれでもルフィの傍がいいと思うのだから、不思議なものね。その時ふと皆が脳裏に浮かび、胸が傷んだ気がした。

 ゾロは、目の前で私が連れ去られた事に責任とか感じてないかな。実力はあるからそういう意味では心配してないけど、真面目だし、優しいから……そっちが心配。

 ウソップは、1人じゃないと良いけど。皆バラバラに飛ばされたから、接近戦の出来ないウソップがどうしても心配になる。

 サンジ君は必要以上に嘆いて、何も出来なくなってたりしないかな。あの女に弱い姿は、パフォーマンスかと思ってたけどどうやら違うみたいだし……どうしてるだろう。

 チョッパーは大丈夫かな。泣いてないかな。

 本気になれば強いけど、基本的に優しくて、なんか幼いイメージだからチョッパーの安否がどうしても気になる。どうにか安否だけでも、知る事が出来たらいいのに。

 ロビンは私の事を可愛がってくれてるから、荒れ狂ってそうだなと思う。……帰ったら、その分離れなくなりそうで怖くもあるけどね。

 ロビンは、喪う事に馴れる事が出来なかった位に、優しくて強い人だから。ロビンは私を大切に想ってくれてるから、別な意味で心配だわと思う。

 フランキーとブルックは大人だし、戦えるし、変に責任感じたりしてないだろうから心配ないと思うけど……どちらも上に立つ事に慣れてるから、弱い私を心配してるだろうな。早く、安心させてあげたい。

 ルフィ……は、暴れてそう。そう言えばルフィは、ちゃんと自分でご飯とか食べてるかな?

 怪我とか、してないといいけど……。ルフィに、会いたいな。

 

 「ベィビーちゃん、何を考えている?」

 「アンタに関係無いわ」

 

 金獅子に視線を向けると、金獅子は楽しげに笑った。そんな私と金獅子のやり取りを、周りの人達が恐る恐るといった様子で見て来ているのが、妙に苛つく。

 

 「ベィビーちゃんは、穏やかに笑ったりしながら百面相していた自覚は無いんだな」

 

 金獅子のその言葉で、私は皆の事を思い出しただけで感情が動いて、表情に出ていたと気付く。だからこそ、そうならない為にルフィの事を考えないようにしてたのに、それでも最後にはやっぱりルフィを想い考えていたのだから情けない。

 ……気を付けないと、金獅子に喰われる。気を引き締めないと、簡単に飲まれてしまう。

 気を抜けば、弱者である私に勝ち目はない。気を引き締め直してフッと笑えば、金獅子は驚いたような顔をする。

 

 「私の頭の中に迄、入ってこようとしないでよね。……誘拐犯さん」

 

 金獅子は少し黙って私を見てから、ニンマリと笑った。それは私を敵として認識していないとわかるもので、寧ろ玩具かペットとしてしか見てないとわかるからこそ、力が抜けそうになってしまう。

 

 「いーい、女だなぁ。ベィビーちゃんは」

 

 そんな状態で向けられた揶揄いを全面に押し出した言葉に、背筋がぞわりとしたけどそれを取り繕う事には慣れてるから、ありがとうと笑って流しておく。その後またいくつか建物内を案内された後で、食事を用意された。

 それを見た私は、とりあえず断ろうと口を開く。流石にもう二度と、金獅子の前で倒れる無様はしたくない。

 

 「私は結こ「もう薬は入れていない。ベィビーちゃんには、薬や毒の耐性があるみたいだからな」」

 

 断ろうとした私の言葉に被せられた金獅子の言葉に、私は黙って耳を傾ける。もし、妙な勘違いでもされていたらそれこそ文字通り死活問題だから。

 悪いだけの人は居ない。立場が違えば、タイミングが違えば、友になれる相手も場合によっては仇となる。

 そんな言葉が、何故か脳裏にチラついていた。それが私には、妙に苦しく思えてならないのが、どうにも不思議な気持ちだったりする。

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