※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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脱出

 髪の水気を絞ってそのタオルを肩に掛けた時、背後から妙な音楽が聞こえて来て、少し驚いてそちらに視線を向ければシキとその仲間達が踊っているのが影で分かった。……驚いた自分がアホらしい。

 その存在を無視するようにそちらに背を向けて、私は髪の毛と格闘する事にした。どうせまたすぐに濡れるのだとしても、雫が落ちるのは鬱陶しいし、今絞ったばかりなのにまたボタボタと落ちてくる水滴が背を伝うのがどうにも嫌な気分になる。

 ルフィはいつも、あの短時間でどうやって髪の毛から雫が落ちないようにしてくれてたんだろう。そんな事を考えていたら、踊り終えたシキが私にいつもと同じ事を聞いて来た。

 

 「決心はついたかい……?ベィビーちゃん」

 「……早くここから出して!」

 

 私は視線さえ向けずに、やはりいつもと似たような言葉を返す。それに対してやはりシキは、相変わらずの様子を見せる。

 堂々巡りだわ。それでも、私が頷く事は絶対にないのだから、いい加減諦めて欲しい。

 

 「気の強ェ娘だ。そういう女は嫌いじゃねェ……!」

 

 そのまま踊ったり漫才をしたりするシキを無視して、漸く雫が髪の毛から落ちなくなったのを確認した私は、タオルをサマーベッドに置く。そこで視線を感じたので、私はそれに対して冷たく言い捨てる。

 

 「こっち見ないで」

 「氷のようだぜ。ベィビーちゃん」

 

 その言葉を背に、私は外界と隔てる為にある硝子っぽい何かで作られた壁越しに、雪の降る外へと視線を向ける。ヤシの木のようなそれにそっと触れて思いを馳せてしまうのも仕方ないのではないかと思う。

 だって、アレからもう……1週間だもの。皆は無事なのか、どうしているのか、仲間達の情報はいくら探ってみても何も入らない。

 これで不安になるなと言う方が、無理のある話だと思う。せめて……無事だとわかればいいのに、今の所騒動とかの情報も入っては来ない。

 雪を見て物思いに耽っていたら、後ろが1段と騒がしくなる。それによりそちらに視線を向けて見ると、鳥が1羽運ばれて来たのがわかった。

 鳥かごに入っていたその鳥が、鍵が開いていたのを理由に飛び出して来た。見慣れない形状のその鳥は、シキ達に無邪気な様子で電撃攻撃を仕掛けてしまって、それに怒ったシキにより床へと叩き付けられたのが見える。

 その姿が可哀想に思えて咄嗟に鳥の前に出て背に庇いつつ、初めて耳にする単語について思わず質問する。知らない事があると、つい首を突っ込むのは、私の悪い癖だと分かってるけど……知識欲には抗えそうもないのよね。

 

 「何よ、進化って」

 「んん!?……そうか。仲間になってくれと、頼んでるんだからな……。教えてやろう」

 

 そう答えたシキはこの島に独特の進化を遂げた動物が居たのだと、説明を始めてくれた。そこからの話を纏めると、独特の進化を遂げていた動物を強制的に、凶暴な方向に進化させているのだと言う事。

 それはこの島特有の植物を牛耳って創り出した、最悪の実験。例えるならば、ガラパゴス諸島の生物を全て凶暴化させたようなものだろうと推測出来る。

 

 「酷い事を……」

 

 思わず呟いてから、私は鳥を連れ去られないように背後に気を配りつつシキを睨み付ける。そして、微かに声が低くなるのを自覚しながら問い掛けた。

 

 「何の為にそんな……」

 「俺の目的はいずれわかるさ……。仲間になればな!」

 「だから!そんな事絶対「なる!!」」

 

 けれどもシキに私の拒絶する言葉は、当然のように遮られてしまう。自信に満ちた様子でシキは言う。

 

 「お前ェは、どうしたって自分から俺の仲間になりてェと懇願する様になるんだ……!!」

 

 その言葉に私は確信を抱く。証拠と確信が足りなかったけど、ルフィ達が来られない程に強くて凶暴な動物達を東の海に放つつもりなのだと分かれば、焦燥感は激しくなるばかり。

 最後にシキが仲間なら聞いてやれる頼みもあるとか言ったのを聞いて、身体が震えそうになるのを根性で抑え込む。やはりアーロンと同種なのかと思いながらも、その先の言葉は聞こえない振りで、背に庇っていた鳥の背を撫でる。

 どうやら鳥は怪我をしていたりはしない様子で、安心した。けどシキは何を思ったのか鳥に触れたりしようとはせず、じっと私と鳥に視線を向けている。

 怒りか、恐怖か、それともまた別な何かなのか……。どれが理由でも、震えるような無様は見せたくないし、この鳥もこれ以上実験だなんだと使わせたくない。

 

 「……俺にとって海賊ってのは〝自由〟なんてもんじゃなく〝支配〟する側になるのが当然なんだ。支配する側はどうしたって自由である以上、ナミの言う海賊らしさってのを持ってねェとは言えねェだろうがな」

 「シキ……?」

 「……その鳥が気に入ったなら、置いといてやる。それも進化はしてるから、お前ェに懐いてるなら護衛代わりにはなるだろうさ」

 

 そんな事を言ってシキが姿を消してから、私は映像電伝虫の行動を観察して、食事を始めるのを待った。食事を電伝虫が始めたのを見て、鞄を背負いながら鳥に1緒に来るかと手で尋ねる形で示すと小さく頷いたので、私はそれに微かに笑ってから水に足を着ける。

 それからプールの中を顔を出したまま排水溝の真上迄泳いで進み、大きく息を吸い込んでプールの中へと潜ると水中で排水溝の蓋を外す。予想通りなら、ここから外に出られる筈だわ。

 やっとの思いで蓋を外した所で鳥が私の体を軽くつつき、掴まれと伝えて来るからそれに従う。強くその首にしがみつけば、想像以上の速度で泳いで排水溝を抜けて行く。

 排水の力もあり、進むに従い水流が早くなれば、鳥はどうやら途中から気絶してしまっている様子だった。その結果勢いよく水から飛び出した後、呼吸を整えていた間にそのまま落下してしまい、私と鳥はまた水の中に落下してしまう。

 鳥の首にしがみついたまま水の中を見れば、見た事もない生物が大量にいて、どうしたものかと息を呑む。その時、突然襲われた謎の衝撃により私の意識は1瞬で吹き飛んだ。

 頬を叩く刺激に意識を取り戻すと、鳥の声が聞こえて体を起こす。喜んで電気を纏いながら突進してくる鳥に止まるように言えば止まってくれたので、距離を置いた状態でお礼を言って水場から離れてもらう。

 どうやら私と鳥は山のようになっている場所の頂上付近にいたようで、辺りを見てみればサニー号を発見できた。嬉しくなって思わずサニー号へと駆け出してみたら、右斜め前方から妙な音が聞こえて来た。

 騒ぎと言えばルフィだけど、ゾロやサンジ君、フランキーである可能性も充分に有り得る。その他にも、この島の凶暴化した動物とやらである可能性もあるかなと思えば、足は自然と止まる。

 そんな時に姿を見せたのはルフィだった。いつもと変わらず騒動とセットだって事をすっかり忘れて、私は笑顔で手を振りながらルフィの名を呼んだ。

 それにより私の存在に気付いたらしいルフィもまた、満面の笑みを浮かべて無邪気な様子で私の方へと駆け出してくれた。……その後ろに妙なのを引き連れて。

 咄嗟にクリマタクトを構えて電撃の準備をしていたら、鳥がまるで私とルフィを庇うように敵に突進して電撃技で倒してくれた。それを見たルフィは瞳を文字通り輝かせていて、何とも言えない脱力感に苛まれる。

 ルフィが火起こししてくれてる間に、私は着替えてくると言って物陰に隠れる。そこで動きやすい服に着替えてから、宝石類をサニーに片付けに向かう。

 着替えを外で行ったのは、ルフィから離れたくなかったからだ。なので、用事が済めば急いでルフィの元へと戻っていた。

 1度はサニーに戻ったのあり、サニーで食事を私が作るのも考えた。けど、外で火を起こして煙を出せば、もしかして皆が気付いてくれて再会するきっかけになるかもと言うのもあるし、着ていたビキニを乾かすにも火は欲しい所だったので、その火を使って料理をする流れで落ち着いた。

 ルフィは私を見て嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなる。恐らく私は今笑み崩れているだろう。

 

 「皆は?」

 「あれから誰とも会ってねェよ、広いんだここ!まさか最初にナミに会えるとは思わなかったよ!」

 「私もよ。逃げ出すの遅くなって、ごめんね」

 「ナミが無事で、良かった。……兎に角食えよ。この蠍旨いぞ!」

 「そうね、これが描けたらね」

 

 携帯用の製図台に紙を広げて、シキの城とも言えそうな場所の見取図を描いていく。それを蠍を食べながらルフィと鳥が覗き込み、不思議そうにしているのが何だか可愛い。

 

 「なァ、ビリー……捕まってる間もナミはこんな感じだったのか?」

 「クァぁ……」

 「……ビリーって?」

 

 問いかければルフィは笑う。楽しそうに。

 

 「コイツだよ!ビリッて来るだろ!」

 「クァ!」

 

 何だか親しげにしていて楽しそうな様子に頬が緩む。蠍達を次々に焼きながら食べるルフィとビリーは、本当に嬉しそうで見ていて微笑ましくなる。

 食事を進めて行くルフィ達から視線を反らして、図面をササッと描きあげれば恐らくはこれが後で役立つだろうと思う。でも、とりあえずはルフィにも説明しておかないとね。

 

 「ルフィ」

 「ん?」

 「食べながらで良いから、聞いて」

 

 そう言えばルフィは頷いて近付いてきたので、その頬についている蠍の欠片を指で取りそれを食べてみる。……あ、本当に美味しい。

 

 「東の海を襲ってるのはシキよ。これはそのシキがいる場所の見取図。捕まってる間に中を探索したりして来たから、間違いは無いと思うわ。だから、これを後でフランキーとロビン、後はウソップとサンジ君に見せておいて」

 

 公式ではサンジ君とロビンの賢さはずば抜けて高い。そして、設計図等に触れる機会の多いフランキーやウソップには見せておくべきだと思うのよね。

 ルフィは私の言葉に真剣な眼をするから、その頬に触れてそっと微笑む。心配はいらないと、それだけで伝わるだろうと思うから。

 

 「初めから、シキの能力を考えれば疑わしいなって思ってたのよ。でも、捕まっている間に確信を持てた。シキは東の海に、ここに居る動物達を送り込む計画を立てているわ」

 「……ナミ、なんだってそんな危険な事」

 「ただ、捕まってるなんて出来ないじゃない。逃げるにしても情報とか無いと危険だし。でもね、私は逃げたりするの得意だから大丈夫よ」

 「俺達の事を東の海に送ってくれるって言ってたし、楽しいおっさんだったから良い奴だと思ったのにナミの事勝手に連れてくしよ。……許せねェよな」

 

 ルフィはムスッとした顔で言うけど、私はルフィの言葉が何だか嬉しくて顔が勝手ににやけてしまう。それを見てルフィは不真面目な奴だと怒るけど、仕方無いじゃない。

 その時ふとルフィの表情が陰り、どうしたんだろうと思った時ルフィがその唇を開いた。言い淀むなんて、珍しい。

 

 「……シキに、その……ナミは何も、されなかったか?」

 「……特には」

 

 睡眠薬は1回だけだし、結果論では大した事されてない。暴行もされなかったし、睡眠妨害や労働を強いられる事も無くて、キスは不快だったけど他には特に何かをされてはいないもの。

 キスじゃ何も起きないし、病気が移される事も無い。移るとしたら、虫歯くらいかしらね。

 

 「……ホントか?今、妙な間があったぞ」

 

 ルフィは疑いの眼差しを向けて来るけど、本当に何もされて無い。だからと思って、素直に頷いてから安心させる為に抱き着いてみたら、固まられてしまった。

 ……どうしたのかな。久々だから、緊張してるのかな?

 今はビキニでもないし、いいと思ったんだけど。細身のホルターネックとショートパンツだから、確かに体の線は出てるけどそんなのはいつもの事だし、今更ねぇ?

 

 「……いつもと違う匂いがする」

 「そりゃ、シキの所のシャワーだもの。シャンプーとかがいつもと違うんだから、仕方ないじゃない」

 

 答えたらルフィは妙に強く抱きしめ返してくるから、ルフィも不安だったんだと分かる。でも、首筋に顔を埋めたまま匂いを嗅ぎ続けられると、恥ずかしいから辞めて欲しい。

 

 「ルフィ、ねぇ、ちょっと離れて」

 「やましくねェなら、もう少しこのままで居させろよ。俺は、ナミに触れていたい」

 「ルフィ……食事はもう、いいの?」

 

 私の問い掛けにウグッと言ったルフィを見て、見取図片付けてシャワー浴びてくるわと言い残しつつ、私はその場を後にした。……ルフィが私の臭いを気にするなら、私だってシャワー位浴びるわよ。

 どちらにしても、海水に浸かってたんだから浴びたかったし。そんな事を脳内で呟きながら、私は1人サニーを目指して歩き出した。

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