ビリーに乗せて貰った状態で移動しつつ、ルフィと呑気な会話を続けていたら、ビリーが突然妙な動きをした。その為に思わず悲鳴を飲み込み、強くルフィにしがみついてしまう。
その途中で浮いてた小島に不時着した後に、私はビリーから降りると少し乱れている呼吸を整えるのに腐心した。筋力を鍛えてなかったら、ぎっくり腰とかになってたと思う。
それをルフィは不思議そうに見て、けれどもビリーを怒る事はしないから、なんとなくホッとする。それよりもじっと見詰めてきたルフィが、突然私を背後から抱き寄せた方が問題。
「体、伸ばせ」
「ふぇ?」
「悲鳴無理に抑え込むからだぞ。臓器が縮もうとしてるから、伸ばせ」
……そっか、ルフィはゴムだからそういう体の反応が顕著に出やすいから、詳しいんだわ。確かに胃痙攣を含む胃痛とかでも、縮もうとする傾向がある。
それに合わせて体を丸めると痛みが増す上に長く続くから、痛くても体を伸ばして、寧ろ反り返る感じにする方が早く痛みとおさらば出来るのよね。肺も同じな訳ね。
言われるままに体を伸ばすと、確かに呼吸が少し楽になった。そうしていたら、ルフィに顎を掴まれて上向かされてしまう。
「少しこうしてろ。気道確保は基本だろ」
「ルフィなのに、詳しい……」
「なんだよ俺なのにって!シッケーだそお前!」
「ありがとう」
「おぅ!」
怒るルフィにお礼を言えば、簡単に収まるその怒りにルフィって凄いなって思う。まぁ、冷静に考えて失礼な言葉だったのは分かるけど、やっぱりルフィなのにって思うのよ。
それから少ししてルフィは暇になったのか、水分補給した後そのままの流れでストレッチを始めた。なので私は、呼吸が落ち着いたのを見計らって、小島から下を覗き込んで状況確認の為に辺りを確認してみる。
何時までも暇を持て余してると、ルフィが何をしでかすか分からないもの。それに、ビリーが無意味に、変な行動を取るとはどうしても思えなかったから。
そうして見ていると湖と思われる場所を囲むように、見覚えのある木が生い茂っているのを確認出来た。その木々の向こうに僅かに見えたのは、どうやら村のようで……。
「村だわ……」
「村?」
「えぇ、シキの王宮の周りにあったのと同じ樹に囲まれてるの。ひょっとしたら、あの匂いが苦手なのかも」
「そうなのか?」
「クオ!」
ビリーはルフィの問いかけに素直に頷いて答えた。だから、それに合わせて鼻栓を作ってから村まで飛んで欲しいと頼んでみる。
それによりビリーは快く請負ってくれた。なのでそれに対して、ありがとうと言ってビリーの頭を抱き締めながら頭を撫でていたら、ルフィに突然引き剥がされてしまう。
「ルフィ?」
「クオ?」
「ナミは無防備過ぎるんだよ。〝俺の彼女〟だって自覚もて!」
膨れるルフィを見て、私はもしかしてと思う。でも、それって……。
イヤでも、まさかね。そう思って脳内で否定してみるけど、顔は勝手に赤くなる。
「ルフィ……まさか、ビリーに妬いてる?」
「悪いか!」
「……ぃゃ、……わるく、ないです」
鼻息荒く言い切るルフィに、私が照れる。嬉しいような、恥ずかしいような……やっぱり嬉しいです。
そんな私とルフィにビリーは何故かまた溜息を落としてから、早く乗れとジェスチャーして来きた。なので先程問題になったルフィの顔を私の足で挟む形でビリーに乗り、ルフィにもう少し我慢してねと囁いておく。
申し訳ない気持ちにはなるけど、ルフィには我慢して貰うしか無い。だいたい私のせいじゃないし、他に解決策無いし、仕方ないじゃない。
村に到着するとそこには、ゾロ、サンジ君、ウソップ、チョッパーがいて合流を喜び合う。大人組は居ないけど、大人達は自力でどうにでもなるだろうから、これで不安要素は大分軽減したと思う。
折角皆が居るからと、シキが東の海の件に関する首謀者だと話そうとしたけど、サンジ君は大興奮のままに倒れてしまったので、他の皆に1応話して終えようとした。その時サンジ君が飛び起きてロビンの事を言うから、大丈夫だと笑っておく。
「大人三人組なら、多分シキの所に向かったんだと思うわ。私が自由に動ける強さがあるならそうするもの。だから、大丈夫よ。それに……」
ロビン自身も弱くは無いし、寧ろ強い。そこに加えてフランキーが居るのならば、ロビンには擦り傷だってないだろうと思える。
「それに?」
チョッパーが不安そうに問い掛けてくるから、その頭を撫でながら答える。フランキーとロビンが1緒に居て、ロビンに何かある筈は無いと。
その言葉に何故か皆の視線はルフィに向かい、頷いた。何が彼らの中で起きているのだろう。
「にしても……シキの所って、大丈夫なのか?」
ウソップが心配そうに言うけど、大丈夫だと思う。騒ぎを起こして大丈夫かの判断は、彼等なら出来るもの。
どんな時でも騒ぎを起こしてしまい、騒ぎの元=ルフィと言うような感じでは決して無い。まぁ、ルフィが楽しそうに笑ってるなら、それはそれで良いんだけどね。
「あの三人組なら、妙な騒ぎは起こさないと思うから、上手くやるわよ。それで多分私が逃げたとかって騒ぎでも聞いて、こっちに来るんじゃないかしらね」
答えてみればチョッパーはそうだなと言っているから、あながち間違いでもないのだろう。そこへチョッパーとゾロが雪の中で出会い、その後村まで案内してくれたという子供が顔を覗かせた。
人数が増えていると言って意識を失う少女を見て、可愛いなと素直に思えた。その少女を支えながら、少し休んで行けばどうかと聞いてくれたのは、少女の母親らしい。
「ナミ、お前休ませて貰えよ」
「え……うん」
ルフィからの言葉に頷くと、ルフィは私の顔を覗き込んで少し心配そうな顔をする。こんな時、ルフィはもう子供ではないんだと気付かされるのだ。
「ナミ、少し顔色が悪い。無理はすんな。無事に逃げて来たんだ、後は任せろ」
ルフィの言葉に頷いてから、私は家に入れて貰った。この様子を村を徘徊している巨大な電伝虫が見張っている事に、私達は誰1人として欠片も気付いては居なかったのだ。
お客さんが来たと言って、嬉しそうに笑ってくれた少女……シャオは、妙に私に懐いてくれる。話を聞いてみれば、私と同じくらいの年頃の姉が居るのだそうだ。
ただし、その姉は父親の働いているシキの元へと連れて行かれてしまって、もう何年も会っていないと言う。心細そうに俯く姿に、ノジコもこんな風に私を待っていたのかなと思えば胸が苦しくなる。
「お姉ちゃんが……そっか、それは寂しいわね」
「ナミも、自分のお姉ちゃんに会いたいの?」
「……帰りたいとは言わないけど、やっぱり母も姉も大切だもの。会いたいとは思うわ」
二人共元気にしてるかな。ベルメールさんは、歩けるようになったかな。
あの時立つ事は出来ていたし、ベルメールさんは努力家だからきっとリハビリを頑張ってると思う。だから、杖歩行でも良いから、歩けるようになっていたら嬉しい。
歩行器とか、ドクターなら作ってくれてたりするのかな。ドクターが前にベルメールさんの事、娘のように想ってるって言ってたし。
ゲンさん、ドクター……きっと、心配してるよね。二人共、私に対して過保護だもん。
「……これ使って、少し休みなさい。あ!シャオ、お隣でお茶っ葉貰って来とくれ!」
「はァい!」
渡された毛布を受け取ると、お茶の準備が出来るまで私は部屋の隅で丸くなって休ませて貰う事になった。シャオが出て行く時に見えた皆は、疲れ果てた様子で眠っていて、本当に無理をさせてしまったのだなと思う。
探し回ってくれたのだろう。何1つ手掛かりのないままに、凶暴な動物が生息する島の中を。
「……皆には、負担掛けてばっかりだわ」
「あら、可愛い女の子の為に男が無理するのなんて当然よ。だから、貴方は少し休んで。顔色が悪過ぎるわ」
「ありがとう」
「今貰いに行ってるのは、薬草茶だから飲むと楽になると思うわよ。だけど何より、回復には休むのが1番」
軽くウインクまでしてくれたそれに笑って、言葉に甘えるように物陰に腰を下ろした。それからふと、ベルメールさんを思い出して笑ってしまう。
「……ありがとう、何だか母を思い出します」
「お母さんとは、随分会ってないの?」
「元々、親元に居た頃から1緒に居られる時間は短くて……甘ったれな私は、いつも家族が恋しいです」
「お姉ちゃんも、そんな風に思ってるのかもしないわね」
少し寂しそうに笑ったシャオのお母さんを見詰めて、私はそっと近くの家具に頭を預けた。頭って重いからこうするだけで結構違うのよね。
目の前ではお茶の為にとお湯を沸かし始めていて、私はここで蜜柑の香りでもしたら泣きそうだなと少し思う。シャオは、物心着いた頃から支配されていた……いいえ、生まれる以前から支配されていたのだろう。
それを考えたら、村の子供達と境遇は近いのかなと思う。だからこそシャオは、家族と会えない事以外はそれが当然として生きているのよね。
年頃と呼ばれるようになるまでは共にいたであろう姉は、きっとシャオにとってかけがえのない存在なのだろうと思う。そんな事を考えていたら、シャオがドアを開けて入って来て、明るい様子を見せた。
「お母さん、お婆ちゃん、大ニュース!」
「あらあら、どうしたの?」
「帰ってきたの!シュウちゃんのお父さんが!」
「何だって!?」
奪っていた男手をシキが帰した?
……私が逃げたタイミングで?
新聞にあった海軍への襲撃。となれば、地上で恐らく警告を兼ねて海軍とぶつかった筈のあの男が?
東の海もその時、ついでとばかりに動物の1部を解き放っただろう写真と、その新聞記事を思い出す。何を……企んでるの?
嫌な、予感がするわ。けれどもそんな事は、無邪気に喜ぶシャオ達に言える筈も無い。
「本当だよ!?シュウちゃん所のお父さんが帰ってきたの!!もうすぐ皆も戻ってくるって!!お父さんとお姉ちゃんに、また会えるんだよ!!」
「本当かい!?夢じゃないだろうね……」
「それはつまり……」
言葉を失った様子を見せるシャオの祖母と母を見て、シャオは無邪気な笑顔で言葉を続ける。シキが〝計略の海〟へ〝東の海〟へと向かうのだと。
これから大仕事だって時に、あの男が村人を解放するなんて有り得ない。1瞬だけ喜ばせて、どうしたいのか。
そう考えて見れば答えなんて1つしかない。東の海を潰す前に、逆らえばどうなるかの見せしめを兼ねて予行練習をするのだろう。
……この村が危ない。ルフィに、伝えなきゃ!
「ここへ来て、生きる望みが持てるなんて……夢のようだよ」
「本当に……1分でも1秒でも早く〝東の海〟に行って欲しい……!!」
喜んで涙する家族の邪魔をしないように、そっと立ち上がるとルフィの元へ向かう。私が1人でここで騒いでも、何も解決なんてしない。
サンジ君やウソップがこういう時は上手くやってくれると思うし、ルフィはどんな時も皆を引っ張ってくれる。ならば、伝えなきゃ……誰にも、傷付いたりして欲しくないから。
けれども外に出てみるとルフィ達の姿が無い。陽はいつの間にか大きく傾き、
「ルフィ……?」
荷物は、纏めて置いてあるわね。皆、何処に……?
覇気を使う程遠くには行ってないと思うからと数歩、歩いて見た所で鋭い声が響いた。体が、ビクリと揺れるのはその怒気に驚いたからかな。
「来るな!ナミ!!」
ちょうど逆光になる場所にて、ルフィ達が横並びに立っていて、その先には……シキが、浮かんでいた。いや、巨大な岩の上に立っているのかも知れないけど、逆光である為にその辺はよく分からない。
分かるのはただ、シキが私を諦めるつもりが無いという現実。そして、シキは現役を引退して20年のブランクがあるとは言えども、元々海賊王や白髭と対等に渡り合ってきた伝説の海賊であると言う真実だけだ。