※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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甘い奴

 今できる事であり、やるべき事は、まず、壊れ掛けている仮面を修復して使う事。もう、失敗は許されない。

 シキは今、自ら語ってくれたのだから、それを利用しない手は無い。そう〝ダフトグリーンを撤去しただけの事〟だと。

 つまりそれは、ダフトグリーンを撤去すればあの猛獣達がここを襲ってくれると言う事になる。そうなれば、この建物も無事では済まないわ。

 この建物の構造は明らかに宮造り系の日本建築に近い。だとしたら、猛獣の攻撃等に対応できるような頑丈性は無いわ。

 あの樹が強力な毒素を放ち、人を死に至らしめる事はシャオのお婆さんから聞いている。あの痣を治せる薬はシキが牛耳ったと言っていたけど、その花を栽培している場所は把握出来てるわ。

 チョッパーならば、あの花があればお婆さんの病気も治せるだろうと思う。それならば、もし間に合えば、私がそれにかかっても助けてくれる。

 なら、これしか方法は無い。迷う理由もない。

 故郷がこうなる未来を消すには、やるしかない。シキは恐らく、自分でそれを語ったなんて気付いてないのだから。

 ただ、自らの成果を自慢をして私の様子を見て楽しもうとしているのだと、分かってしまう。でもだからこそ、私に出来る事が存在するのよね。

 表情を作るのは得意なのよ。何も知らないシキには、想像だにできない事でしょうけど。

 能面のような無表情も、魔女と呼ばれるような悪どい笑みも、なんでも出来る。大切な人が居なければ、私は演技をしている方が楽で居られるくらいなのよ。

 今の人生の半分は演じて来た。それはつまり、その部分も既に少なからず私の1部として身に付いているという事になる。

 だから私は詰まらなそうな顔で、冷たい声を響かせる。煩わしい事を私に求めないでと言外に伝える様な冷たい視線を投げつける事だって、今ならば出来るでしょうね。

 

 「興味無いわ。部屋に戻ってる」

 

 シキはそう言って立ち去る私を呼び止めないから、私は疲れたと言うようにその場を立ち去った。そのまま私は部屋に帰るフリをして、ダフトグリーンを吹き飛ばす事が出来そうな物はと考えながら倉庫へと足を進める。

 何か1つでもいい、使えそうな物を見付けなければ。そうして倉庫にあったダイナマイトを持ち出して、ついでに近くに見つけた顔全体を覆うマスクを入手してから部屋に戻る。

 このマスク、どこかで見た事が……あ、防護服のマスクと似てるんだわ。うーん、有名所だと、ダースベ〇ダーみたいな?

 あれ、なんかちょっと違う?

 そんな事を考えながら歩き、途中の電伝虫にわざと宝石を見せ付けて貰ったわよと唇を動かして見せる。これで私が1人でチョロチョロしていたのは、宝石の為だと判断されるだろう。

 そうして1度電伝虫の撮影範囲に入るように気を付けながら部屋に戻ると、前に見つけて置いた窓からの脱出を決行する。その為にシャワーを全開で出して、中に私が居るように見せかけておく。

 着替えたりしてる余裕は無いからと、入手したマスクを装着して表へと脱出すれば恐ろしく寒い。コートも探してみた方が良かったかしらね。

 いくら夜でも、真っ白の雪の中を黒のドレスにピンクのファー、オレンジの髪では見付かるのは時間の問題。作業は素早く正確にやらなければと、ダイナマイトの設置を急ぐ。

 カムフラージュ出来そうな事は色々やってきたけど、それだってそう長くは持たないのなんてわかり切ってる。それでも、少しでも……!

 恐らく全ての工作が功を奏したとして、時間は30分あるかどうか。これからシキが何かの式典をする為の準備する時間、それくらいしか稼げはしないだろう。

 それでも、やるしかない。邪魔が確実に入るから、勝負は5分程度……!

 ダイナマイトはダフトグリーン1本につき3本ずつ設置して、範囲も動物達が通るのに余りあるようにしてある。これならと思いクリマタクトを強くにぎりしめた時、武器が風を切る音を聞いた。

 それを躱しつつ電撃を纏わせたクリマタクトで応戦しながら、ダイナマイトの導火線に引火する。それにより慌てて消しに向かう男達と、私を捕らえようとする男達の争いが始まった。

 結局何ヶ所かはダイナマイトも爆発して樹を倒す事に成功はしたけど、他は消し止められてしまった。もう1度引火させるには、まずこの男達をどうにかしなければ。

 体格の良すぎる男達は、まるでクローンのように思える程。そんな男達が何人も1斉に襲いかかって来れば、この場が外である事を鑑みた時恐ろしく不利であると分かる。

 それでも、私は諦めるつもりなんてない。相手は私を殺せないのだし、どうにでも出来る筈よ。

 躱して、避けて、そうして隙を着いて電撃や爆発で数を減らして行く。足元が雪で、そこをヒールでという事を考えたら動き回れてる自分に感心したくなる程だけど、そんな甘えた事を言っても居られない。

 いくらこれから東の海を壊滅させようとしている奴らだとは言え、まだそれは現実に起きている訳では無い。それを考えたら、どうしたって短剣は使えなくて……。

 脳裏でシャンクスとベックが〝甘い奴だ〟と声を揃えて呆れた調子で言ってる気がしたけど、それに何かを返す余裕も無い。返したところで、意味も無いと分かってもいるけどね。

 短剣の切れ味が良すぎて、四肢の欠損を招きかねないのがあまり使えない理由。当然、殺す事なんて私には出来そうにないというのもある。

 殺したり再起不能にするつもりならば、短剣を使えば早いし確実だと思う。やる気になれば、それを出来るだけの実力もあると自負している。

 でも、出来ない。私には、そんな覚悟は無い。

 大切な人にはかすり傷1つだってつけたくない。敵だとしても、叶うのならば確実に治る怪我しか負わせたくないのよ。

 クリマタクトで電撃を放ち、気絶させたり、棒術として骨を折る程度ならば躊躇いなくできるようになったけどね。けれども現状は、多勢に無勢。

 この状況下で、手加減とも言える行為を行っている私に勝ち目なんかある筈もない。その為に追い込まれているのは、間違いようのない事実。

 呼吸をする度に、マスクの存在に助けられていると思う。この雪の中では、喉がやられてこんなに動き回れなかっただろうから。

 でも、体は既に限界らしい。手の感覚が、既に無い。

 つまり、足だって同じ事。動く度に微かに揺らめくのを感じながら、けれども動かなければ捕まり爆発を起こせなくなる。

 どうしたらいいのかと考えた時、1斉に襲いかかられてしまえば私はそれを躱しきれずに雪に埋められてしまう。冷たいと言うより、痛い。

 そう感じたのは肩か背中か、そのどちらだろうか。肘から先と、膝から下は、既に感覚が無い。

 クリマタクトを奪われて、暴れられないようにと暴行を受ける。その暴行に対して、無意識に発動される覇気があり、暴行による怪我は殆どない。

 でも、雪の中でドレス姿となれば凍傷とかそっち系は防ぎようもない。それでも、雪の中にいれば体を起こしているよりは、こうしている方が体力面を考慮しても、寒さによる影響に対してもダメージは少なくて済んでいるのだろう。

 そんな私の傍で、ドクターなんちゃらへの連絡をしている男達のやり取りを聞く。どうやら私は、シキが来るまでこうしているしか無さそうだと理解した。

 その頃ルフィ達は、漸くナミを除いた全員が合流を果たしたところだった。そこで掘り出されたメンバーをチョッパーが治療している間に、ロビン達が知り得た情報を伝える。

 それを聞いた中では、サンジのみが驚き他は平然としている。ナミがシャオの家に入る前に、寝ていたサンジ以外はナミからその話を聞いていたというのが理由だ。

 その状態の中でウソップが重い口を開いた。重苦しい空気の中で、罪悪感に押しつぶされそうになりながら、ウソップは言葉を口にする。

 

 「ナミは、故郷と俺達を守るために、1人シキについて行っちまった。俺達はナミに、命を救われたんだ」

 「東の海の事件を起こしたのが、シキなのは俺以外全員知ってたのか?」

 

 ウソップの言葉に対してではなく、その場の全員の反応を見てサンジが問い掛けると、土の中にいたメンバーは全員頷いた。それを見てサンジは、ナミさんが調べて来てくれたのに、俺は寝てたのかと、自らを責めるように言葉を落とす。

 その会話に割り込む声が聞こえて来て、全員の視線が向けられた。そこに居たのは今にも泣き出しそうな顔をした、シャオとその家族だ。

 思わずシャオ達を知っていたメンバーは笑顔になる。無事で良かったと言う皆に、シャオの母親は罪悪感を滲ませながら問い掛けた。

 

 「東の海ってのは、あんた達の故郷なのかい!?」

 

 それは必死な形相で、誰もが口を閉ざす。笑顔は消えて、何を聞きたいのかを探ろうと無言になる彼等は、珍しく〝海賊らしい〟空気を放っている。

 お人好しの少女が1人欠けただけで、彼等は普段眠らせているその空気を抑える事が出来なくなっているのか。それとも、抑えるだけの余裕が無いのか。

 

 「あの子も……そこが、故郷なのかい!?」

 

 母親の問い掛けに、シャオが瞳を潤ませて表情を歪める。それにルフィは、躊躇いなく言葉を返した。

 

 「……ああ……そうだ!!」

 

 その瞬間、シャオとその家族は泣き崩れた。酷い事を言ったと、自らを責めながら。

 

 「あの子は、あんなにも大切そうに故郷を想っていたのに、私達の事を、1言も……責めなかった……!私達が喜びながらしていた会話を聞いていて、どれだけ、傷付いたかっ!」

 「……ナミは、多分気にしてねェよ。あいつ、素直にシャオの事が可愛かったみたいだしよ」

 「え?」

 

 ルフィはその瞳を微かに揺らしながら、この場に居ないナミを想い言葉を口にする。それにシャオは驚いたような顔で、ルフィを見詰めた。

 

 「ナミはさ、子供が好きなんだよ。元々甘い奴なんだけど、女や子供には敵じゃない限りは手を上げない所か、無意識で守ろうとする癖があるんだ」

 「でも……私達の会話を聞いて、飛び出したのよ?」

 

 不安そうにシャオの母親が言葉を紡げば、ルフィは可笑しそうに笑う。それから、優しい声で言葉を返した。

 その表情には、愛しさが滲む。ナミを思い出せば、それだけでそんな顔になるのだとルフィ本人が自覚しているかは不明だが。

 

 「ナミは頭も良いから多分、ここがこうなるって気付いたんだと思う。それを俺達に伝えようとして、家から飛び出してきたんだろうと思うんだ。だから、そんなにナミの事を気にしなくていいよ」

 「まァ、そんな所だろうな。その時には既に俺達が戦い始めていて、言えなかったって所だろ」

 「そうなると、案外今頃ここの事知って自分を責めてるかもな、ナミさんは自分に厳しいから」

 

 ルフィの言葉に続くようにゾロが言葉を発すると、サンジが溜息と共に言葉を口にして、ウソップは無言でそれに頷く。チョッパーはそんな皆と、無言で居る仲間と、シャオの家族をキョロキョロと見比べる。

 そんな中でルフィは、シャオの手にしている物に気付いて見せてくれるよう頼む。それには、嫌という程覚えがあるのだ。

 シャオがそれをルフィに渡すと、ルフィはそれを壊さない程度に強く握り、シャオに、その家族に笑いかけた。それはルフィらしい温かな笑顔。

 

 「……お前らはスゲェよ、シャオ!自分達の村が滅茶苦茶になってんのに、ナミの事気遣ってくれてよ。こんなに心の優しい奴ら、見た事ねェよ」

 

 ルフィの言葉に泣いていたシャオの家族が顔を上げる。それを見てルフィは断言した。

 

 「ちっとも酷い奴なんかじゃねェ!!酷ェのはシキの奴だ!俺が彼奴をぶっ飛ばして来てやるからよ!」

 

 そう言ってルフィは鋭くなっていた眼光を緩めて、明るく笑う。太陽のような笑顔を見せたルフィに、誰も何も言わないまま麦藁の1味は集結する。

 

 「元気出せ!な!!」

 

 そのままルフィが立ち上がり仲間の方に歩き出せば、その僅かな隙間を埋めるように皆が集まる。ルフィの手にしている物はシキが持っていた音声貝だ。

 それをルフィは迷い無く再生し、流れ始めたナミの声に空気が弛緩する。チョッパーは嬉しそうな声を上げて、けれどもロビンはその表情を引き締めた。

 その様子に、フランキーとブルックは音声貝を思わず睨み付ける。ナミ至上主義のロビンが、ナミの声を聞いて表情を引き締めたのならば何かあるとでも言わんばかりに。

 ウソップ、ゾロはナミの声にピクリと反応し、確信を抱く。何か隠していると。

 ルフィ、サンジは違和感を抱くに留まるが、それはアーロンパーク内にいたナミと直接会っているかどうかの違いだろう。先の2人はアーロンパーク内にいた〝魔女〟の状態にあるナミと、直接対面しているのだから。

 それに対して、ルフィとサンジは、巻き込まない為に追い返そうとしていた、氷を纏おうと努力していた、1人の震える少女の姿しか知らないのだ。そうなればその差もまた致し方ないだろう。

 そうして彼等は、ナミの残した言葉に耳を傾ける。それぞれの想いを胸に秘めたまま。

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