※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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強い意思

 手首で微かに揺れる金色の存在が、大切な故郷とそこにいる家族を思い出させる。それに……ルフィの故郷も、東の海にある。

 あの村には、ルフィの大切な人達が居るし、私もお世話になっているわ。シャンクス達との思い出もあるし、エースやサボから見ても、故郷である事に間違いは無い。

 サボ辺りは爽やかな笑顔で、あんな国滅べばいいとか言いそうだけど、ね。ゾロの故郷は見た事ないけど、やはり東の海にあるのだけは聞いてる。

 ウソップの村には、ウソップの大切な人達が沢山いて……メリーとの出逢いの地でもあるわ。サンジ君の場合は故郷じゃないけど、それに島ではないから無事に済む可能性もあるけど、ゼフさんを筆頭に大切な人達が沢山いるのは分かってる。

 

 「早まった真似を……。俺は、お前の故郷だけは見逃してやるつもりだったんだぜ?」

 「私の故郷は、1つじゃないわ。母や姉が居る諸島の他にも、1人で生き抜いている間にお世話になった人達だっている……!」

 

 脳裏にマスターの顔が浮かんだ。気を付けて行っておいでと、頼りない笑顔を向けてくれた商売っ気の無いお人好し。

 私は、彼らの事も、喪いたくないし、傷付けたくはない。……ルフィと共に出逢った人達の顔まで、思い出してしまえばもうこれ以上何処にも侵略なんかさせられない。

 そう思って睨み続けていたら、シキは片手で私の首を掴み持ち上げた。拘束していた人達はシキが私に触れた瞬間に手を離したので、今は首に体重がすべてかかった状態で宙ずりになっている。

 シキの手を掴み僅かにでも抵抗するのは、皆の悲しむ姿を想像したからかな。……皆を、泣かせたくない、な。

 死ぬ事は怖くない。だけど……皆を悲しませるのは嫌だなぁ……。

 海賊に身を堕とすと決めた時……いいえ、ベルメールさんを死なせないと決めた時から、私は何時でもこの命を捨てる事を覚悟して来た。自分の命には、ベルメールさんとノジコを守る以外に価値なんて無いと思って、長い事生きていたわ。

 でも……今は、違う。私が命を喪えば、泣いてしまう人達が居る事を知ってしまった。

 私が大切だと言ってくれる、愛情深い人達がいる事を知ってしまったの。だから、悲しませたくないから、まだ……死にたくはないけど……それでも、今の私に賭けられるのは自分の命だけ。

 自分の命を簡単に捨てるつもりは、もう無い。でも、シキに屈して命乞いをするつもりもまた、私には更々無いのよ。

 

 「……この状況でも、その眼をするか」

 

 そう言ったかと思うと、シキは私をそのまま樹に押し付ける。マスクを失っている為に、樹から発せられる毒素を吸い込んでしまい、私は自らの体に異変が起きているのに気付く。

 これの毒、相当強いわね。皮膚からも、吸収するなんて思ってなかったわ。

 

 「……っ……」

 

 それでも屈するつもりは無い。その意思を込めてシキを睨めば、ダフトグリーンに押し付ける力が強まるのを感じた。

 痛くないとか、苦しくないなんて事は言えない。寧ろ、苦しいし、痛いし、目眩もするし、気持ち悪い。

 でも、それを理由にしてシキの元へ下るつもりは無い。私はね、毒も媚薬も、使われ慣れてるし、拷問にも耐え抜いてきたのよ。

 この程度で折れるような精神なら、既に私は狂ってるかアーロンに屈してた。……私には、何があっても譲れないものがあるのよ!

 

 「……この樹が放つ毒素を理解して上で、それでも俺に逆らうか。……この毒素で苦しむ奴らを見てきたが、声1つあげないとは、随分と気丈な事だな」

 

 浅い呼吸を繰り返すしかなくて、でもそうする事で取り込まれる毒素で体が動かせなくなっていく。体が作り替えられていくような感覚に陥る。

 ……ここでこのまま殺されるのかな。だとしたら、皆には悪い事したわ。

 最後の言葉を聞いていたら、泣かせてしまう。嘆かせてしまう。

 殺されるのならば、あんな言葉じゃ無くて、ルフィへの愛でも残すべきだったかな。いや、そんな事したら、ルフィが前に進めなくなるわよね。

 やっぱり〝今までありがとう〟辺りにしとくべきだったかな。でも、過去は変えられないから、私は生きるしかないって事か……。

 泣かせたり、苦しめたりしたくない。今のままでは、全てを喪ってしまうもの。

 私の死が彼等の死に繋がるのならば、私はまだ死ねない。私は皆の傷跡なんかに、なるつもりは無いのよ。

 

 「……まだ、闘志を失わないとはな。驚いた。本当に、恐ろしくいい女だな」

 

 言葉を返す余裕さえ今はない。でも、私はせめて東の海を襲えなくなる位の打撃を与えるまでは、死ねないのよ。

 シキにより再び首で宙ずりにされるけど、シキを睨む事をやめるつもりは無い。今出来る事は他にないから、効果なんて無くてもいい。

 せめてそれをしなければ、私は私を保てない。私は……諦めない。

 

 「……ゾクゾクする程、いい女だ。だが……海賊が故郷だの家族だの言っちゃいけねェよ」

 「っ……!」

 「そんなモンの為に足引っ張られ、てめェの命危ぶめてちゃあ世話ねェ……!」

 

 シキはそう言って私を空中に放り上げた。体が重力により落下していくのを、シキが放った鉄の棒により無理な体勢で止められる。

 鉄は熱伝導率が高いから、こんな時は氷よりも冷たくなる。更に体が浮いている事で、体の熱は雪の上に寝ているのよりも奪われる事となる。

 床に落ちてる洗濯物よりも、物干し竿にかけられた洗濯物がよく渇くのと同じ原理。風が多く当たり、体温が奪われる事になるのよ。

 それをわかっていて、シキはこうしたのだろう。もしくは、単純に逃げたりできなくする為か。

 

 「……お前ェに総会が終わっても生きていられる悪運があったら……1生航海士として使ってやろう!生意気な女は嫌いじゃねェ……!」

 

 そう言い残して笑いながら去っていくシキを睨んでも、体は動かないし、急激に冷えていく。毒以前に普通なら凍死するだろう。

 でも、今私は生きている。まだ、可能性は残されてる。

 どうにかして、ダフトグリーンを撤去だけはしなくちゃ……。焦るな、私。

 大丈夫……指先は動く。動く場所が少しでもあるのならば、体重と重力を使えば雪に降りる事は出来る。

 降りられれば、その途中で体の向きを変えて、クリマタクトで爆発を起こせばいい。私は、生きてるんだから諦めるにはまだ早い……!

 思うように動かせない体を必死に動かして、雪の上に降りる所から始めようとナミがもがいていたのと丁度同じ時、ルフィ達はサニー号を出発させたところだった。計画通りの場所に降り立った彼等は、船縁から目標となる場所を見下ろして殺気を漲らせる。

 静かで、狂暴。激しくも冷たい気配を纏い、彼等はシキの王宮前に降り立つ。

 群がる雑魚をものともせず、ナミの残して行った地図は頭に入れた状態で、けれども誰何するその声にさえ彼等は何も答えはしない。1声さえ発する事無く、彼等はその足を迷い無く前へと進めて行く。

 普段は怯える者達も、今は恐怖なんて感じない。……否、何よりも恐ろしく思っているそれを回避する為ならば、それ以上に怖いと思えるものは無いからと、歩みを進めて行けるのかも知れない。

 喪うつもりは、誰にも無かった。例え仲間になって数日の者でさえ、ナミの存在は得難いものだと認識しているのだ。

 優しく笑いながら自らの名を呼ぶ少女が、実は強い事を彼等は知っている。戦えないのでは無く、戦わないのだと知ってはいるのだ。

 それでも、早く取り戻さなければ……簡単に己を犠牲にして、満足して消え行く事もまた、彼等は知っているのだ。だからこそ、冷静にシキの居る大広間へとその足を進めて行く。

 ざわめきが聞こえて、誰に問う迄も無くそこに人が集まっているのを全員が知る。ルフィが前に出ようとするのを制して、双璧が邪魔になる襖を取り除く。

 生み出された道の前で真打ちたるルフィを中心に、渡り鳥の要領で彼等は並び立つ。その姿に、シキが反応を示した。

 

 「お前ェらだったか……!こりゃ驚いた……!」

 

 ルフィは感情を可能な限り抑えて、シキに問い掛ける。この時、ルフィが船長である事は誰が言わなくてもその場にいる全員が感じ取れた事だろう。

 それ程の貫禄を、この世界においては小柄な少年が発している。未だ、覇気を我がものとはしても居ないというのに。

 

 「東の海を襲うって?」

 「まぁな……」

 

 敵の取り囲むその中心へ、麦藁の1味は迷い無く足を進める。彼らの他は誰も、動く事が出来ないような空気がその場を支配していた。

 

 「ナミは無事か」

 「……ああ!ピンピンしてる」

 

 シキの答えに全員がピクリと反応する。何かあった事は間違いようがない。

 嘲笑う声に包まれて、隠れていた多くの敵が姿を見せても、誰1人それに対して怯える事は無い。寧ろまるで興味が無いかのように、反応さえしない。

 

 「我が身を犠牲にすりゃあ故郷を守れると信じるメルヘン女と……共に散りに来た無謀な特攻隊か……!」

 「馬鹿だな、お前……!」

 

 ルフィのその1言で、会場の雰囲気は殺気立つ。それでも尚、ルフィは続ける。

 

 「お前ェがナミに手を出したのは、能力の高さが理由だろうに……。それにも関わらず害そうとしたのは……ナミに歯向かわれたからだろうが」

 「小僧……!」

 「確かにナミは、甘ちゃんで、類い稀なる天才だよ。……自覚してねェけどな」

 

 ルフィはそう言って1度言葉を切ると、薄く笑う。その表情はシキとして見れば何処か懐かしいものに感じた。

 同じ帽子を被った、過去に何度も戦った、嫌いで、だが憧れていた男も、そんな顔で仲間を語った。だからこそ、憎しみが増していくのを感じてもいたのだが。

 

 「だが……俺達はナミが天才だから〝仲間〟でいるんじゃねェ……!亡くしたくねェから、共に進みたいから仲間なんだ」

 

 似たような言葉を、シキは聞いた事があると思った。脳裏には反りの合わない2人の同期でありライバルであり、憎い男達が浮かび上がる。

 

 「ナミは犠牲になりに来たんじゃねェよ!先陣切って、ここへ戦いに来ただけだ!!」

 

 麦藁の1味はルフィの言葉に合わせるように、全員揃って武器を構える。ナミがフランキーと話して、ウソップと相談して用意していたその武器はそれぞれが扱いやすいように造られているのだから、堂に入るのも当然と言えよう。

 シキはそれを見て先程のナミを思い出し、ロジャーと白髭を思い出し、苦々しい表情を浮かべる。けれども直後に冷たい眼差しで自らを睨み付けたルージュの姿が、ナミの姿と脳裏で重なれば意識せずとも掌は強く握り込まれていた。

 似ているのは、髪型とその強い意思を宿す瞳位だろう。それにも関わらず、未だシキは彼等に心が囚われている。

 

 「覚悟しろよ……金獅子のシキ……俺達が本体だ!!」

 

 ルフィのそれを合図に暴れ出すメンバー。弾切れになるのと同時に、ルフィは武器を投げ捨て上着を脱げ捨てると振り向く事無く言う。

 

 「ウソップ、チョッパー、ナミを探せ」

 「「おぅ、わかった!」」

 

 逃げる者、挑む者、多くの人々が入り乱れる中で、ルフィの視線はシキにのみ注がれる。その道を遮る事は許さぬと、仲間達は群がる多くの人間を1掃する為に動く。

 その場を離れて行った2人を除き、全員が荒れ狂い戦う中で、それでも妨害しようとする男達に、双璧が道を作る。ルフィはシキの他には何も見えないとばかりに突き進み、ルフィを相手にしようともせずに背を向けているシキに殴りかかった。

 

 「俺の仲間に……!なんかしたのかァァァ!!?」

 

 そうしてシキが殴られている頃、ナミは雪の上に降りる事に成功していた。けれども意識は飛び飛びで、雪の上を這って動こうにも上手くいかずに時間ばかりが経過していたのだが……。

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