何かが視界の端で光った気がして、意識が浮上する。……良かった、このまま眠ったりしたら死んでる所だわ。
そう思った直後に、聞き慣れた声が耳に届けば私も必死で顔を上げようと言うもの。光り輝くビリーの傍には、私の見張りをしていた男達が倒れている。
……まさか、ビリーが、倒してくれたの?
「ビリー……?」
鼻栓をしているビリーが、心配そうな顔で私を見ている。ホント、私鳥に縁があるわ。
先程光っていると認識したのは、ビリーだったみたいだし、本当に助けられてばかりだわ。……いつも、私は守られている。
「貴方が……やったの……?」
「クオックオッ!」
頑張ったのだと、倒したのだと、助けに来たのだと……そう、伝えてくれる優しい鳥。私はもう殆ど、言う事をきいてくれない自らの腕を無理矢理動かして、その羽根を掴む。
瞬間、走る痛みは私を正気付かせてくれる。今は、意識を保たなきゃ……。
けれどもビリーは焦った様子を見せて離れようとするから、掴む手に力を増す。今、逃げられたら困るのよ……!
「クワッ!!クオ」
「このままで……!お願い……!聞いて……!!」
「クオッ!クオッ!」
焦ったような様子を見せながらも頷いてくれたビリーは、わかりやすく深呼吸する。そうして放電を止めて任せろと言わんばかりに胸を張ってくれる姿に、微かに癒された気がした。
その状態で私はやって欲しい事を説明する。私は、どうにでもなるから、この樹を倒さなきゃ何も始まらないのだと。
それを受けてビリーは、体に電気を纏って導火線の前に立つ。爆発すると危ないから、導火線に火を付けたら逃げるように言ったから、ビリーが被害に合う事はないだろう。
そう思ったら安心したのか、意識が暗く沈んで行く。これで、もう……大丈夫。
少なくとも、時間は稼げる。皆が来なかったとしたら、逃げる時間を稼げるだろう。
そして、シキの計画に数ヶ月単位で遅れを生じさせる事が可能な筈。自分達の復興が先になるのは、間違いのない判断だろうから。
……もし、助けに来てくれたら……城を、破壊して、計画その物を粉砕してやるのに……。皆、来て、くれるか、な……?
「ナミ!1緒に連れてってくれる?」
ノジコが笑って、ブレスレットを投げ寄越す。驚いてる私に、ノジコが太陽みたいに明るく笑った。
「楽しくやれよ!」
勿論、傍にいる訳ないのは分かってる。それでも、ブレスレットが暗闇の中で光るのを見たからなのか、声と共に情景を思い出したの。
大丈夫よ……。心配しないで……大切な故郷を、ベルメールさんとノジコの居場所を、滅茶苦茶になんか……絶対させないから……!そう思ったのを最後に私の意識は深く沈んで行く。
ふと……何だか、よく知ってる気配を感じた気がした。物凄く、怒っている様子だから、安心できるものではないけれど。
そうして意識が浮上したのかと思った次の瞬間、視界に映ったものを見て、これは、夢だろうと判断した。……夢の中にルフィが出て来た位だから、まだ死なないで居られるのかも知れない。
やだわ、私。どれだけ色ボケしてるのかしら。
でも、夢なんだから願望でもしかたないのかもしれないとも思う。だってルフィが私を背に庇うようにシキと対峙してるのに、私へと視線を向けているのだから。
戦いの中で、そんな事をしてくれた事は私の記憶には無い。ルフィは、常に敵から視線は外さないから。
ルフィはいつも戦いに集中するから、戦う相手から視線を外して私にそれを向けるなんて想定外だもの。これが願望で無くて、何だと言うのか。
「ナミ!アイツをブッ飛ばして皆で帰るぞ」
「……ルフィ……」
夢でも願望でも、妄想でもいい。ルフィの真剣なその表情に安心してしまったのだから。
力強いルフィの声と言葉で、幸せだと思ってしまったのだから。ルフィは、怒ってる時とかはちゃんと船長なのよねと、そんな事を思って、再び沈むようなそれを不思議に感じていた。
「とにかくナミの安全が第一だ。ナミに何かあったら、ルフィに合わせる顔がそれこそねェよ!」
なんだろう、揺れてる?
それに、この声は……ウソップ?
「そうだな!俺も守られてるだけでいるのは、もう止めるんだ。ナミの事は俺が守るぞ!」
チョッパーの声も聞こえる。腕を動かしてみると、思ったより素直に動いた。
……暖かい。私……生きてる、みたい。
「ここは……」
「ナミ!」
「良かった!目を覚ましたか!解毒剤が効いたみたいだな!」
チョッパーが名前を呼んでくれて、ウソップの嬉しそうな声が聞こえた事で、期待が膨れ上がる。まさか、皆……?
「……助けに、来てくれたの……?」
「当たり前だろ!俺達だけじゃないぜ!ゾロもサンジもロビンもフランキーもブルックも!」
笑顔で続けるウソップの言葉は願望では無くて、現実なのかもと思わせてくれる。嘘みたいな現実が、なんと言えばいいのか分からないくらいの幸福を感じさせてくれる。
「ルフィも!皆で来たぜ!!」
安堵感と、妄想でも嬉しいと思っていたのにそれが妄想じゃないと知れた事による幸福感に包まれて、涙が勝手に溢れ出る。 さっきのルフィは、願望による妄想では無くて、現実だった……。
勝手な事をしたと、見捨てられるんじゃないかって不安だった。勝てる筈も無いからと、私の意を汲んで逃げて行くんじゃないかって……そんな事を……思っていたのに。
皆が逃げてくれる事を、確かに望んでる部分もあった。でも、それを凌駕する思いがあったの。
私1人じゃ、どうにもならない事を本当はちゃんと分かっていたから……!ルフィが戦いの途中で、気を散らしてまで声を掛けてくれたその思い遣りに、涙を抑えたくても抑えられなくなる。
「……う……あ、ありがとう……っ」
「おいおい!泣いてる場合じゃないんだよ!」
ウソップの言葉に意識を切り替える。確かにそうだ、泣いてる場合じゃない。
「うん……!ごめんっ!シキを倒さなきゃ東の海は……」
その時体が反応する。これは……!
「止まって!!」
「ナミ?どうした!?」
ウソップは驚きの声を上げつつも、足を止めてくれた。チョッパーは無言で止まってくれる。
私は体に感じる空気の変化に集中して、間違いが無い事を確認してから口を開く。嵐が来る……これなら、シキを倒せる……!
「嵐が来る!」
「ええ!?」
チョッパーの驚いたような声が聞こえる。だけど実際、気圧が下がってるのが分かるから……この感じだと、近くに大きな雲があるわ。
「王宮に戻るわよ!」
「「ええーー!!」」
ウソップとチョッパーの叫び声が大きく聞こえた。でも、それによってこのチャンスを逃せない。
私は2人に王宮へと戻ってもらいながら、指示を出す。航海士の1人を残して他を打ち倒し、最後の1人に嵐へ向かうルートにこの島を進ませる事が必要だから。
シキは私を求めていた。それは、フワフワの実の能力が持つ弱点が理由。
ルフィが刃物に弱いように、シキは風……つまり嵐などの天候に弱い。それならば、その弱点を利用すれば決して勝てない相手ではなくなる。
シキには二十年という長いブランクがある。つまりは、そういう事よ。
そう思っている間にも、2人は私の指示に従って王宮へと戻って行ってくれている。その時、声が聞こえて2人は足を止めた。
「「「ナミ」さん!!」」
「ロビン……。サンジ君と、ブルックまで……」
「無事だったのね!良かったわ」
「心配かけてごめんなさい。でも、今は時間が……あ!」
ロビンと会話をしていて思いつく。そうよ、分担したら早い。
この計画を白紙にする1番簡単な方法があるじゃない。ロビンの能力があれば、可能な方法だわ。
後は戦える2人が他のメンバーを探してそれを伝えてくれたなら、脱出経路も得られるわ。うん、やれる……!
「ナミ?」
突然黙った私にロビンは心配そうな視線を向けて来た。それに私は頷くと、ブルックとサンジ君に視線を向ける。
「皆、聞いて。作戦が有るの……シキが東の海を襲えなくなる作戦が」
私の言葉に皆が頷いてくれる。なので私はその作戦について説明を開始した。
私と共に航海士を無力化して、島を嵐に向かわせるのはチョッパーとウソップに協力して貰う。その間に、ロビンにはダイナマイトを倉庫から取り出して貰って、この建物総てを破壊して貰いたいと話せば、全員の表情が引き締まる。
「ロビンの能力なら、建物総てに設置するのも可能でしょ?お願い出来ない?」
「そうなると、脱出経路が……それに、ロビンちゃんが無防備になるんじゃないですか?」
サンジ君が心配そうに言ってくれたので、私はそれについて答える。その為にサンジ君とブルックが居るのよ。
「私達が嵐の中にこの島を向かわせてる間に、サンジ君とブルックには、襲ってきそうな海賊達を無力化しながらゾロとフランキーを探してこの作戦を伝えて欲しいの。後は状況を見て、脱出する準備を整えて貰えたら助かるわ」
「航海士チームを無力化出来たら、俺達もロビンに協力したら良いんだな!それならやれるかも知れない」
チョッパーの言葉に頷いてから、シキがフワフワの実の能力者だから嵐には弱い事と、動物達は野生のそれを失ってないから、嵐になれば暴れるのを止める筈だと伝える。動物達もまた、本来は薬であった植物を使って凶暴化させられただけなのと言えば、チョッパーが微かに震えた。
それを黙って見聞きしていたブルックは1度大きく頷いて、やりましょうと言ってくれた。それに続いてウソップが首を傾げる。
「今の話にルフィは出なかったけど、ルフィには作戦とか伝えなくていいのか?」
「ルフィはシキと戦ってるでしょ?ルフィを勝利に導くには、これしかないのよ。……相手は、現役を退いて長いとは言っても、元は白髭や海賊王と並び立っていたの」
まだ、今のルフィでは遠過ぎる。普通に戦ったら、まだ勝てない……!
ただ、勝てる可能性があるとするならば、シキが東の海に……海賊王に囚われていて、ルフィと海賊王を重ねている事による弊害が作用する事。海賊王とルフィの違いにより、シキが自滅するケースが考えられる。
それを除けば、フワフワの実にある弱点で弱らせるのが必要だわ。そうでもしなきゃ、覇気を使えないルフィに勝てる筈がない。
「今は、ルフィの援護と、ここの破壊による計画を頓挫させるのが確実でしょ。お願い、協力して!」
私の言葉に皆が当たり前だと、当然だと笑ってくれる。だから私は、それに泣きそうになるけど、泣いている場合じゃ無いからと気を引き締めた。
この計画ならば、最悪逃げ出す形になっても東の海を襲えなく出来る。でも、皆がいて、ルフィが戦ってくれてて……失敗する未来なんて私には想像も出来ないのよ。
シキの計画は完全に潰してみせる。そうしなければ、シキが全力で逃げようとした場合手が届かなくなってしまう。
空を自由に飛べる相手に対して、ルフィは空を飛べないんだもの。何もしないままに逃がしたら、東の海が壊滅させられてしまうわ。
拠点も、資金も、道具も失い、戦いから離れて長い老人が1からそれを揃え直して計画をやり直すには、時間も体力も足りないだろうと思う。だからこそ、この計画は成ると思える。
皆に心配かけるだけかけて、何もしないなんて選択肢は無い。私に出来る精一杯で、シキが不利になり計画を破壊する方法を考えなければ、私に皆の仲間を名乗る資格は無いわ。
もしもそれで私が倒れても、ルフィが生きてくれるなら構わない。先に進むには、ルフィが絶対必要で……でも、何よりも……。
私にはルフィが私を助けられないなんて事、想像できないのよね。そう思ったら、チョッパーの背にいる事で誰にも見えてないのもあって、自然に笑えた。
叶うのならば、守られるだけじゃなくて守りたいから、守る為に出来る事をしよう。祈るだけでも、願うだけでも叶わない事は、身にしみて知っているのだから。