守りたいもの、失いたくないものがあるから、私には諦めるなんて選択肢は存在しない。私は、ノジコもベルメールさんも、ゲンさんやドクターも……いいえ、東の海に住む人全員を守りたい。
私が守ると決めた場所であり、大切な家族のいる故郷を、誰にも奪わせるつもりは無い。きっとこの想いは、ルフィやゾロ、ウソップやサンジ君も同じ筈。
私の中で故郷は、既に帰る場所ではなくなってるのかな。帰りたいと思わなくはないけど……帰る自分が想像できないの。
私はね、シキに勝てない迄も1太刀……なんて考えていないのよ。勝てなくても崩壊を、勝てなくても滅亡を、その為なら私は1歩だって退きはしないと決めてるの。
測量士達の居る部屋の前で降ろしてもらい、計画通りにウソップとチョッパーが彼等を無力化してくれるのを眺める。電伝虫を寝かせたりしながら見えている空を眺めて居たら、いつの間にか残す所1人という状態に迄追い込んでいる事に気付いた。
今の所は計画も順調ね。……ルフィは、大丈夫かしら。
シキへの偽連絡を入れさせた後、男を気絶させた2人が情けない様子で背後から声を掛けてくる。でもきっと、震えているのは、声だけよね。
「ナミ……。い、いいんだよな……?」
「えぇ、これでいい」
ウソップからの問い掛けに自信満々で答えると、チョッパーが不安そうに言う。それどころか泣きそうな声だ。
「でも……大丈夫なのか!?嵐の中に突っ込んで」
「大丈夫じゃないわよ」
何を言うかと思えば。浮いてる船が風に煽られて、大丈夫だと思う方がおかしい。
遊園地の絶叫マシンなんて接続されてても強風の為って理由で動かなくなるのに、当然じゃない。このままいけば共倒れよ。
ドレスの裾を破り捨ててクリマタクトを構える。私は……この島を、破壊する。
「でも、こうするしかないの……!」
そうしてもう1度作戦の情報交換を行い、チョッパーがロビンの応援に向かう。私は1人で屋根に登ろうとしたけど、ウソップが傍から離れようとしない。
視線でどうしてと問い掛けたら、睨まれてしまった。……本当に、ウソップは優しい。
「……そんなズタボロのお前を1人残して何処に行けってんだよ!それにな、俺様も考えがあんだよ」
「ウソップ……?」
「いつも、ナミがルフィと戦う時ルフィ巻き込む形で雷落としてんだろ。つまりルフィに雷は効かねェ。なら、俺様にならって方法があるんだ。……少しは信じろよ」
「……分かったわ。でも、登るのを邪魔はしないでね。シキの意識をこっちに向けさせないと、ルフィが大技使う時間を稼げなくなるもの」
ルフィが体の1部を肥大化させるには、僅かな間を必要とする。つまりは、風船を膨らませる時間が必要なのよ。
だからこそタイミングを見て、シキの意識を私に向けてルフィを庇う必要がある。シキを動揺させて、思考を乱れさせる必要があるのよ。
冷静になれば、シキはまず先に嵐から脱出しようとするだろう。ルフィに止めをさそうとするだろう。
どちらも、させられない。私は、ルフィを守ると決めているのよ。
エニエス・ロビーでのような、何も出来なくて涙を飲むような事になって堪るもんですか……!
倒れてるルフィの元へ行く事さえ出来ずに、その場でただ、ジタバタしていた自分を私は許せそうに無い。今度こそ、役立ってみせるわ!
チョッパー達がダイナマイトを仕掛けに行ってくれてる間に、私は建物をよじ登る。風が……強くなってきてるわね。
ダフトの薬が……効果を減らしてる。それに、スリラーバークを出た時の薬が……多分切れた。
でもね、痛いって事は生きてるって事なのよ。だから、意識を保てるなら問題ない。
傷口が開いて行くのを感じる。流れるそれが、汗では無い事にも当然気付いてるわ。
体が動かない……?何言ってんのよ、動くか動かないかじゃないの。
シキと刺し違えてでも、東の海には行かせない。そんな決意で屋根に登った時、ルフィの姿は見えなくて、シキだけが空に浮いているのが見えた。
そのシキが私とほぼ同時にルフィを発見して、気を引き締める。シキはルフィに、トドメを刺そうと動き出そうとしているのが分かる。
……そんな事、させるものですか!何があっても、仲間に手は出させない!
「シキーッ!!」
屋根の上で私が大声を出すと、不愉快そうな声と態度で私へと視線を向けた。とりあえず移動中のルフィは、これで大丈夫だろうと内心ホッとする。
呼吸が乱れる。避雷針とクリマタクトを使って屋根の上に立った私は、そのまま仁王立ちになりシキを睨み付けた。
「ナミー!無茶すんな!!」
……どうして、ウソップにはいつもバレるのかな。少し無理した時も、ウソップだけはそれに気付く。
でもね、これをする為に私はここに来たの。ルフィなら、この時間を絶対に無駄にはしないとしっているから。
「もう終わりよ、何もかも!!」
皆優し過ぎるわ。甘やかさないでよ。
私は、守りたいのも本当だけど……。お前なんかもういらないって言われるのが怖くて、そう言われるくらいなら犠牲になる方がって……結構本気で思ってるだけなんだから。
ウソップが攻撃を受けないようにと挑発すれば、シキの視線は私に向けられる。訝しげなシキの視線を受けて、私は挑発的に笑う。
ああ、この表情をするのは随分久しぶりな気がする。上手く表情を作れてるかな。
「爆破の準備出来たぞ!」
チョッパーの声にシキの視線はチョッパーに移った。その表情と声は驚愕に満ち満ちている。
「爆破……だと……!?」
その勢いでチョッパーに攻撃させない為に私は声を張り上げる。アンタが見るべきは、攻撃するべきは私よ!
「そうよ!工場も王宮も島も!」
風が髪を揺らす。掻き乱す。
山姥みたいになってるだろうと自覚しながら、私は叫んだ。他には意識を向けさせない!
「もう何も残らない!アンタの計画は全て終わりよ!」
その瞬間、見ただけで分かる程にシキの怒りは高まり、爆発した。それを見て私は内心ほくそ笑む。
これで皆に攻撃は向かない。計画は成功する。
「巫山戯るなァーっ!!」
私は自信満々であるように装い、微笑みを浮かべる。この場は何も言わない方が効果的だと分かってるのよ。
怒りに震えるシキは覇気を
怒りに燃えている時に使えるのは、覇王色のみ。だけどこれ迄見て来て分かってるのよ、シキは覇王色を持ってない。
「貴様ら如き若造に……この俺の20年の計画を潰せると思うなぁー!!」
そこへウソップからの攻撃が放たれた。それは予想していた通りに蹴りあげられて、雲の中へと入る。
これはウソップの作戦成功と断言して問題ないわね。クリマタクトで雷を落とせるように準備をしつつシキを見れば、シキの攻撃が私に向けられる。
ここで攻撃しなければと思った時、ビリーの姿が見えた。どうやら助けに来てくれたようだと分かるけど、戦わなきゃいけないのに。
そんな私をビリーは迷いなく咥える。でも待って、だとしたら、ルフィはどうなるの!?
雷を落とすより先にビリーに助けられ、運ばれながらも心配で視線を向ければ、ルフィは戦いに集中しているのがわかった。シキが私に再び攻撃しようとした時に、今度はルフィが意識を自らに移動させるかのように声を張り上げる。
「お前の相手はこっちだ、シキ!!東の海には行かせねェ!!」
サニー号へと運ばれた私は、ビリーから降りて船縁へと駆け寄る。その横にビリーが来るので、私はビリーに頼む。
声が、震える。泣くな……私っ!
「ビリーお願い。ルフィを助けて!」
その瞬間、ビリーが私にその体を擦り寄せて、笑った。その体にそっと触れると、ビリーは静かに頷いてから、大声で鳴いた。
「クオオオー!!」
ビリーが私の想いに応えてくれて、飛び立って行く。その時フランキーが叫ぶように言う。
「飛ぶぞー!!掴まれー!!〝
サニー号は空中へと向かい飛び出して行く。その中でそれぞれが船に掴まった状態で、ルフィを案じて空を見上げる。
ルフィの姿は見えない。シキはルフィに倒されたように見えたけど、ルフィの姿も見えない事に不安を誰も隠せない。
待ってよ……お願いだから、この流れで何かあるとしたら、私の筈だったのに。どうしてルフィが、危険な目にあうのよ。
その時に声が聞こえる。聞き間違える事の出来ない大切な人の……ルフィの声だ。
それなのにルフィの姿は見えなくて、私達は必死にルフィを探す。その時土煙の中から飛び出してきたのはビリーで、その背中を見れば小さな姿をしたルフィがいるのを確認出来た。
それぞれが喜びの声を上げる中で、ゾロとサンジ君は締まらねェと憎まれ口を叩く。それに私も便乗すると、島がゆっくりと海へ落ちて行くのが視界に映る。
恐らくシキかその意識を失った事で、シキの能力が解除されたのだろうと考えられる。それを見て私はハッとした。
「シャオ達は!?」
「おい!あれを見ろ!」
ウソップの言葉に視線を向ければ、空を飛んでいるシャオ達が見える。楽しそうなその姿に、私は体から力が抜けるのを感じた。
「……良かった……」
声を出せたのかも定かではない中で、意識が暗い闇に沈むのを感じていたら、皆の声が聞こえてくる。珍しくフランキーが小娘じゃなくて名前で呼んでるのが聞こえた気がしたから、夢かも知れない。
それにだって、その声にまだ戻ってなかったルフィの声まで混ざって聞こえたのだから。違うのならば、今度こそ願望かな。
チョッパーからの薬は完全に切れたのだろう。身体中に痛みを感じて、もう私には目蓋を開ける力も残ってはいない。
叫ぶように私の名を呼ぶルフィに、何も答えられないまま私の意識は深く沈んでいった。本当は、安心させたくて、大丈夫だと笑おうとしたんだけどな……。
それから数日後、心配して身動きを取らせてくれないチョッパーに微笑みかけてから立ち上がる。それにチョッパーは気遣うように駆け寄るけど、過保護が過ぎるわ。
その為に私は、ビリーとの別れを惜しむ間が無かったのだから。ビリーとは、文通って訳にはいかないのに……。
ただ寝てるだけだからとタンクトップと短パンで過ごしていたのに、今朝ロビンに渡されたロビンのシャツを上から着ているのだ。その為に、鏡に映った姿は何だかシャツしか着てないように見える。
……何だか卑猥だわ。それにしても、ロビンのシャツ大きいわね。
心配そうにするチョッパーを安心させたくて笑えば、皆も心配してるから姿を見せたら喜ぶと言ってくれる。その背を見送り、鏡に映る姿を確認すればブレスレットがキラリと光った。
……もう、大丈夫よ。これでもう、東の海に何かされる事は無いわ。
そっとブレスレットにキスを落として、私は歩き出した。皆が待っていてくれるだろう甲板を目指して。
チョッパーの言葉に安心して外に出れば、座っていた皆が立ち上がって出迎えてくれる。寝ていた数日の間に、試薬の効果がいつ切れたのかとかも含めての報告は終えてるから、チョッパーも助かったと言ってたし、これからの旅で役立てそうなら嬉しい。
久しぶりに感じる太陽光と潮風に、優しい視線に、私は自然と笑っていた。私はきっと、世界一幸せだと思えるから。