心配そうに声を掛けてくるロビンと、嬉しそうに声を掛けてくれる皆に笑みが浮かぶ。こんな時私は、幸せ者だと痛感する。
「ナミ!」
「ロビン……!」
「皆、ナミが起きたぞ!」
「おお!」
「何っ!?」
最初にロビンが声を掛けてくれたのに答えると、チョッパーが皆に声を掛けてくれて、ウソップとサンジ君が即座に反応した。そうしていたらフランキーが立ち上がりながら問い掛けてくれる。
「おお、もういいのか」
「ええ、すっかり」
そのやり取りの合間にも、サンジ君は足元で竜巻を起こしつつ騒ぐ。その騒ぎに便乗してか、空気を和ませる為か、ブルックがいつものギャグを言おうとしてサンジ君に蹴り飛ばされていた。
そうしていつもの皆のやり取りを聞いていたら、ルフィが怒りを滲ませた声を響かせて来る。どうしたのかな?
「おい!ナミ!」
視線を向ければルフィはあの時の音声貝を持っていて、私は慌てて階段を降りようとした為に足が縺れて落ちて行く。その浮遊感の中で慌てて受身を取ろうとしたら、体に巻き付いた腕の感触と共に安心感に包まれる。
瞳を開ければ目の前にルフィがいて、どうにも不愉快そうにしている。不愉快そうな理由は分からないけど、その腕に安心してしまうのだから、依存してるなと思う。
「……っ……ナミお前、何で俺の服着てんだよ……」
絞り出すような低い声で言われた言葉に、私の方が衝撃を受ける。これ、ロビンのシャツじゃ……!?
だって、このシャツ女合わせだし……!
慌ててロビンに視線を向けたら、何故か微笑まれた。……美しいけど、そうじゃない。
上手く言葉が見付からなくてルフィを見詰めたら、ルフィの顔が少し赤い事に気付いた。ドクンと心臓が高鳴る。
……もしかして、ルフィ……照れてる……?
「……ルフィ、可愛い」
「……!?……ナミ、俺の質問に答える気、あるか?そもそも俺は怒ってんだぞ!」
確かにルフィは怒ってる様子だわ。返事も、間違えた事は自覚してる。
でも、どうしたら良いのかな。少し首を傾げて考えてから1応聞いてみる。
だって、ルフィが怒ってる理由がよく分からない。着替えが少ないのに取るなってって事かな?
「……?シャツ着てるから?」
ルフィからの反応は無いし、腕も離してくれない。だけどそうなると、脱ぐしかないかな。
ルフィを不愉快にさせるのは、本意じゃないもの。そう思ってルフィに1応問い掛けてみる。
「なら……脱ぐ?」
脱いだ所で、特に問題無いし。ロビンのだと思ってたから普通に借りてたけど、ルフィのだとしたらそんなに着替え多くないんだから確かに悪いわよね。
「は……?」
「シャツ……嫌なら、脱ぐわよ?」
「馬鹿か!?ロビン以外全員男なんだぞ!!」
ルフィは妙に焦ってるけど、そんな事は知ってる。でも、ルフィはシャツ着てるの嫌みたいだから。
あ、そっか!
「大丈夫、ちゃんと洗って返すわ!」
「そんな話じゃねェよ!今脱ごうとすんな!……話を戻すぞ。ナミ、この内容だよ!くだらねェ言葉残しやがって!」
言われてから音声貝に手を伸ばしてみると、ルフィは腕を私から遠ざける。でも今片手しか使えないルフィからなら、頑張れば取れる気がするわ。
ルフィに私から抱き着く形になるけど、この際仕方ないわよね。いつもルフィはベタベタして来るんだから、たまには私からでも許される筈よ!
「そりゃあの時は地面に飲み込まれちまったけどよ!ってナミやめろ、少し離れ……」
「……ぃ……しょっと……」
ルフィの隙を突いて音声貝を回収して胸の間にしまうと、ルフィの話の続きを聞こうと数歩離れる。何故かルフィが固まってるけど、よく分からなくて首を傾げてしまう。
あの時は必死だったから言えたけど、それが存在するのが既に嫌よ。何時までも、あんな恥ずかしいメッセージ残しておきたくない。
捨てるか、新たに別な物を録音するかしないと。……安全性を考えたら海に捨てるべきだと思うけど、とりあえずは胸元で良いわよね。
「……呆れたぞ俺は、この長い付き合いで!そんっなに信用が無いとは思わなかった!!」
「……ルフィ……」
幼馴染と呼ばれる存在である以上、確かに付き合いは長い。でも、何年もの空白もあるし、ルフィが私よりも強いと確信できたのはアーロンの件があってからな訳よ。
だから、頼れるようになってから半年経過してない気がするのよね。それ迄は、寧ろ私がルフィを守るつもりでいたんだし。
でも、今それを言ったら絶対揉める。この場合、どうしたらいいのかしら?
煽ったり、怒らせたり、騙したり、演じたりする事にばかり特化してしまった私としては、こんな時困る。流石にルフィに対して、シャンクスやベックにするように無条件に甘える事は出来ないもの。
こんな……不貞腐れ系の怒り方は誰にもされた事ないから、対処法が分からないのよ。どうしたらいいのかな。
そんなにシャツ借りたの問題だったのかな?
そんな事を考えて私が言葉に詰まっていたら、ウソップの声が後から聞こえた。それは何故か、盛大に呆れを含んでいる。
「ルフィ、お前何言ってんだ?」
「何って何だよ!?」
ルフィはウソップを見る。そのやり取りで、ゾロが呆れたような声で聞く。
「まさか……聞いてなかったのか?」
あれ?
聞いてないって事は……シャツ関係無い?
だとしたら、音声貝の件?
え……まさか、嘘でしょ?
「ナミは、ああ言うしかない状況だったんでしょ?」
続いたロビンの言葉にチョッパーが言葉を重ねた。それぞれの言葉に対して、ルフィは体ごと向けて話を聞いている。
「俺もそう思ってたぞ!?最後のアレ聞いたら……」
「最後のアレって何だよ!」
サンジ君はルフィの言葉に呆れた様子を隠さずに、おまけ的に私に何か言ってくる。それらを聞いてブルックはヨホホと笑う。
何だか私はそのやり取りで脱力してしまう。何で、よりにもよって、ルフィが聞いてないのよ。
「寧ろ、1番鈍いあんたに向けて言ったようなものなのに……」
なのに何故、ルフィが聞いてないのか。シキに聞かれないようにして言葉を残した、私の努力を返せ。
そんな私の言葉にフランキーが言う。そう、明らかに余計な事を。
「もう1度聞きゃァいいだろ」
「うんうん」
それにウソップまで頷くから、私は胸を抑えて後退る。渡してなるものか。
「ちょ……嫌よ!」
「それもそうだな」
言いながらルフィは私の胸元に手を伸ばすから、それから必死で逃げ出す。私が逃げに徹した時の素早さは、尋常ではないとお墨付きを得ているので、ルフィも本気の顔になる。
逃がすものかと本気で狙いを定めるルフィと、逃げ切ってやると本気でそれに徹する私。逃げ回っていれば、ルフィの舌打ちが聞こえたけど……前よりルフィが素早くなってるわ……!
それでも、こちとら羞恥プレイなんてそんなのは嫌なのじゃー!という訳で、取られない為にと胸の間から音声貝を取り出して、ルフィの隙をつくようにそれを海に捨てようとした。
海に捨ててしまえばこちらの物よ!ルフィは海に潜れないもんね!
でも、ルフィにだけ意識を向けていた為に伏兵の存在に気付かなかった。結果ウソップに音声貝を取られてしまえば、悲鳴を上げる事になる。
「ちょっとウソップ何するのよ!?」
「それはこっちの台詞だよ!捨てるなよ!貴重な
ウソップがそんな事を言ってる間に、ルフィがウソップから音声貝を奪い、私の目の前でその音声を聞き始める。ここから争奪戦が始まると理解して、私は本気でルフィに飛びかかった。
でもその時、何か体に違和感を確かに感じていた。ゾワゾワする。
……なんだろう、変だわ。何が起きてるの?
チラリとチョッパーに視線を向けるけど、何故か慌てたような顔をしたチョッパーに即座に視線を逸らされてしまう。本当に、何なのかしら?
……でも、今はそれどころじゃない。その羞恥の元を破壊しなければ!
なのに、いつもより正確にルフィが私の攻撃を躱していく。ルフィ自体が強くなったとかじゃ無さそうなのに、どういう事?
……私が病み上がりだとは言え、この躱され方は可笑しいわ。絶対何かある。
「辞めてよ!恥ずかしいでしょ!?」
「静かにしろよ!」
「ナミ捨てるなよ!」
そんな私達のやり取りを皆が穏やかな表情で眺めてるとは知らなかったし、私が飛び上がる度にルフィが動揺してる事にも気付かなかった。当然、なんでルフィが的確に私を躱せるのかも、分かってはいない。
……聞かせてなるものか!
……あんな、恥ずかしい言葉を本人の前で聞こうとは、どう言う了見なのか。ルフィ、許すまじ……。
「たまには船長に譲れよ!ナミの馬鹿!」
……何を言ってるのか。船長だと思えばこそ、いつも譲ってるし立ててきたじゃないのよ!!
……こうなれば問答無用!音声貝を叩き壊してくれる!
「誰が壊させるかっ!」
……クリマタクトを取り出して電撃を放てば、ルフィには害もなく音声貝にだけダメージを与えられる筈!……ルフィは、傷付けたくない。
……そういう意味では、シャンクスにクリマタクト貰ってて本当に良かったわ。大切な人を傷付けるなんて、そんな事は死んでもしたくないもの。
……特に、命を……私の全てを掛けても悔いがない位に惚れ抜いてるルフィには、何も出来ない。そんなの、自分が1番よく分かってるのよ。
「ナミ、それは卑怯だからな……?」
ルフィが何かに動揺して、私はその隙をついてルフィの掌に乗っていた音声貝を海に弾き落とした。ルフィとウソップの悲鳴が谺して、私は呆然とそれを見上げる。
ゆっくりと重力に則り海へと落下して行く音声貝を眺めていたら、ウソップがそれを取りに海へと飛び込む。しまったと思ったのは、ウソップを心配してか、それとも貝の回収を恐れてなのか、それは自分でも分からない。
音声貝を破壊する為の雷も、ルフィなら巻き込めるけど、ウソップには向けたくなくて追撃出来ない。海の中に深く潜ったウソップは泳ぎも得意だから、特に心配する必要は無いと分かってる。
それでも慌ててウソップの為にと梯子を下ろして、登りやすいように準備はする。けれど、その混乱の中でチョッパーが爆弾を投下してくれた為にその場の空気が変貌した。
「なァナミ、ルフィがシキから助けてくれた時の事なんだけど……。あの時シキは、明らかにナミを殺そうとしてたよな」
……ごめんチョッパー、私意識が無かったからよくわかんないのよ。ルフィが声掛けてくれたのだって夢かなって思ってたくらいだし。
……でも、それ、どうやって伝えたら良いだろう?
チョッパーの困ったような顔が、妙に印象的だった。波の音は相も変わらず、優しく響いている。