……ルフィが助けてくれようとしたって言うなら、あの夢だと思っていた瞬間だろうか。敵から視線を外す事をルフィがするとは思わなかったから、妄想だと思い込んでいた、あの時……?
……ルフィが格好良かったなぁって事位しか覚えてないわね。後は、怒ってるなって思った事かな?
「だから、ナミ、それは……。何だよこの状態」
「後で説明してやるから今は黙っとけルフィ」
呻くルフィにゾロが言えば、ルフィは小さく頷く。そしてそれにより空気はまた少しばかり引き締まる。
「シキはナミが欲しくて、仲間にしたくて何度も攫って行ったのに、どうして殺そうとしたんだ?そう考えたら、ナミが何かしたとしか思えねェんだ」
何をしたのかと問い掛けるようにチョッパーは私を見る。そして、他の皆の視線も集まっているのが見なくても分かってしまう。
「……聞捨てならねェな、小娘。毒はシキに動き回れねェようにやられたと考えていたし、あの猛獣から逃げる途中でズタボロになったのかと思っていたンだが、違ェってんなら、話を聞かせて貰おうか」
まさかのフランキーが伏兵となり、私は思わず1歩下がる。けれどもそこは既に船縁で逃げる事は叶わない。
私は覚悟を決めて口を開く。とりあえずフランキーの問い掛けに答えられるものは、これくらいだし。
「……シキが私を殺そうとしたのは、私がダフトグリーンをダイナマイトで吹き飛ばしたからよ」
その瞬間、全員の視線が突き刺さった。ウソップも梯子を登ってきた所のようで、ウソップの視線も感じる。
痛い気がする。何だろう、物理的にじゃなくて、精神的に、痛いわ。
「あの時の爆発、ナミのせいだったのか。ってか、あの動物が王宮に押し寄せた原因がナミかよ!!」
海から船へと帰ってきたウソップに言われて、冷や汗が出る。知られてないなんて、それこそ知らなかった。
どうしようなんて思ってロビンに救いを求めて視線を向けたら、俯いていた。それに対してどうしたのかと心配になり、口を開こうとしたらロビンが言う。
「私が猿に掴まった原因の虫は、そういう事だったのね」
「……ごめんなさい。皆なら、大丈夫だと思って」
猿って何と思いつつも慌てて謝ると、ブルックが首を傾げて確認するように言う。多分、悪意や他意は無いのだろう。
「嵐に突入したのもナミさんの作戦でしたね。まさか……自分が犠牲になるのは〝問題ない〟とでもお考えでしたか?」
「いや、ナミは俺達の脱出は考えて……待てよ。ナミお前、自分が逃げるの計算してなかったろ!?」
ウソップの叫ぶような言葉を受けて、全員の視線が突き刺さる。……何だろう、怖いんですけど。
「……て事は、何だ?ナミさんはシキに捕まり連れ去られた後、宝石奪って情報仕入れて、図面手に入れて逃げ出しただけでは飽き足らなかったって事でいいのかい?」
……何だろう、そうやって聞くと私凄い事したみたいじゃない?
……実際は、皆に見捨てられるのが怖くて、迷惑かけたくなくて必死だっただけなのに。私はただ、皆の足手纏いになりたくないだけなのに。
「本来なら聞こえない筈の言葉の他は、答えがねェって事は、足りなかったんだろうな」
サンジ君の言葉にゾロが続ければ、ウソップが成程なんて言って頷き始める。そこへロビンが、まさかの敵として言葉を発した。
「……私には〝生きろ〟とか、〝必ず助ける〟とか言っておきながらナミ自身は、私達に助けられるつもりは無いと言う事かしら?」
「そんなつもりは……!」
慌てて否定するけど、ならば何故大人しく待たなかったのかと言われれば確かにその通りだから何も言えない。でも、皆に迷惑をかけたくなかった。
……負担になりたくなかった。私は碌に戦えないから、せめて足手纏いにはなりたくなくて……。
俯く私にフランキーが言う。それに視線を向ける。
「小娘は誰にも頼らず、1人で生きて行く癖でもついてるようだな」
「……小娘って呼ばないで」
とりあえず八つ当たり気味に言えば、フランキーには鼻で笑われた。悔しい。
こうなったら、言い返してやる。言われっぱなしで放置しては女が廃るわ。
「……そうよね、大切な恋人に誤解されたくないものね。他の女は名前でなんて呼べないわよね」
「……おい、ロビン!」
慌てた様子でフランキーがロビンに声をかけると、ロビンは平然とした様子で微笑みを浮かべる。そんな様子を見て、どうやら本当に付き合ってるらしいと気付く。
……あら、フランキーの片想いかと思ってたのに、付き合ってたんだ。まぁ、ロビンが良いなら相手が誰でも応援するけどね。
そう思った瞬間、フランキーが嫌そうな顔をして、ロビンが嬉しそうに微笑んだ。なんか、皆の様子がおかしい気がするわ。
「私は何も教えてないわよ、フランキー。……いつナミは気付いたの?」
「エニエス・ロビーで、ロビンをフランキーが庇ってるの見て、フランキーはロビンを好きなんだなって思ってたもの。その後も、フランキーはロビンを優先的に守ってたから」
……後はロビンの気持ち次第かなと。でも急所を握ってたの見た時に、そうなるかなとは思ったのよね。
……嫌いな相手ってか、興味のない相手のなんてヘチマより価値無いもの。許されるなら、全て切り取りたくなる時あるし。
私の答えにその場は1瞬静寂に包まれてから、何人かが何故か顔色を悪くした。その空気を変える為なのか、サンジ君が突然叫んだ。
「フランキーてめェ!何で!?いつから!?」
既にサンジ君は理性を失っている様子だけど、フランキーとサンジ君の喧嘩とか貴重かも。そう言えば大人しいなと思ってルフィに視線を向けてみれば、ルフィは耳に何かを当てていて、ハッとした時には遅かった。
嫌な予感がする。もしかして、それって……?
「……ナミ、怒って悪かった」
ルフィから発せられた言葉が何だか居た堪れなくて、私はその場を逃げ出した。そんな私をロビンは微笑ましそうに見ていたけれど、即座にロビンが生やした大量の腕で捕えられてしまう。
不思議に思って見てみると、ロビンが目の前に立って私の顔を覗き込みながら言葉を紡ぐ。どうやら、ロビンはお怒りのご様子だ。
「1人で逃げてきて、宝石と間取図を入手したのは良いのよ。私でも可能ならそうするわ。仲間のピンチを助ける為に敵の元へ行くのも、伝言残してくれたから責めるつもりは無いのよ」
ロビンの言葉に私はホッと力を抜く。良かった……。
けれどもそれは大きな間違いだった。ロビンの瞳は笑ってなんか居なくて、ここからが本題だったのだから。
「でもねナミ。私達の到着を待たないで、猛獣を引き入れようとして毒を受けて死にかけてたのよね?それなのに、諦めないのはともかく自分ごと樹を爆発させたのよね?」
違うと言う事を許されない雰囲気の中で、私は素直に頷いてしまっていた。だって、ロビンが怖くて嘘つけない。
「……ウソップとチョッパーが間に合わなかったら、ナミは爆発に巻き込まれた後襲い来る猛獣に殺されてたのよ。分かってるかしら?」
「分かってるわよ。大丈夫!!」
自信満々に答えてやり過ごそうとしたら、ルフィの腕が私の腰に巻き付いた。その瞬間ロビンの腕が、花弁となり消える。
え?と言うよりも早く体はルフィに引き寄せられて、低い声が背後から響く。
「……死ぬつもりだったのか」
ルフィが怒ってるのが伝わって来て、言葉は声にならない。慌てて首を横に振るけど、誰も私を助けてくれるつもりは無さそうだ。
それどころか、ウソップが言う。私の知らない現実を。
「あの時は助けに行った俺達も爆発に巻き込まれたし、その後すぐに猛獣が大軍で襲って来るし、ナミの意識はねェしで大変だったんだぞ」
ウソップの言葉にゾロがほぅと言いつつ、瞳が確かにギラついた。サンジ君も何故か庇ってはくれなくて、何かを言いかけては口を閉ざす。
ロビンの視線は何処か楽しそうだけど、庇ってはくれなさそうだ。フランキーはロビンに小さく何かを言っては、ロビンに言い返されているのか小さくなっている。
ブルックは状況についていけてないのか、呑気に紅茶を飲みつつ見守り体勢だ。そこに追い討ちをかけるのは可愛いチョッパー。
「猛獣から逃げて、漸くナミの診察出来そうだってなったらシキに見付かって、怒りに震えたシキがナミを殺そうとしたんだ。……俺、ナミを守ろうと思ったけど、何も出来なくて……」
チョッパーが落ち込んだ様子で言ったのを聞いて、私は慌てて口を開こうとした。けれど、チョッパーは私に視線を向けるとその眼差しで私の発言を拒否した。
「……諦めかけた時に、ルフィが助けに来てくれたんだ。だから、ルフィに感謝してる。その後も薬を持ってる敵に会っても俺達戦えなくて、ゾロが倒してくれたんだ」
「……馬鹿、アレは俺の獲物だっただけだ。気にすんな」
ゾロの言葉に私はゾロへと視線を向ける。薬を持ってたって事は、あの巫山戯て見せ掛けてた、ドクターなんちゃらを倒してくれたって事よね。
私は知らない間に皆に守られてた。それなのに、皆に猛獣けしかけて危険な目に合わせてたなんて……。
「ごめんなさい」
「……ナミはいつも自分の事を後回しにし過ぎる。俺がシキにやられてもう1度飛ぶと決めた時、ナミは俺がシキに攻撃されないように時間稼いだだろ」
謝罪した私の後から聞こえるルフィの声は妙に落ち着いていて、それが逆に怖い。嫌われたのだろうか。
……呆れられたり、邪魔に思われたのかも知れない。私、ルフィに嫌われたらここに居られないよ。
「しかも、ウソップやチョッパーに視線が向くとすぐに挑発して意識を全て自分に向けさせた。あの時のナミの表情見て気付いたんだ。……ナミは村でああやって生きてきたんだって」
体がビクリと震える。ルフィに何かを言わなければと思うのに、言葉が何も思いつかない。
「ナミのそれは自分1人の犠牲で済むなら、構わないって思ってる奴の捨て身の攻撃と挑発だった。だから、いつも命掛けてる奴にはそれを無視出来ない。儚くて、綺麗で……苛立つ。だから危ないと思ってビリーに助けに行かせたんだ」
「……確かにあの時のナミさんの妖艶さは異常だったな。危うい美しさだったよ」
ルフィの言葉に続くようにサンジ君が言えば、ゾロがああ、なんて1人で納得し始める。何事かと思ったらゾロが余計な事を言う。
「アーロンの所にいた時は、いつもあんなだったみたいだぞ。魚人共が話してた感じだと、ナミはアーロンの女だから人間なのに幹部だったとか言ってたからな」
……でも、それが真実じゃない事は、ルフィが1番よく分かって……もないか。ルフィが初めての相手じゃないんだもの。
……再会した時は確かに、経験無かったしそれに嘘はないけど、助けて貰った時には既に別な2人と経験あったものね。疑いたくなる、よね。
……ミホークにしても、ドフィにしても、私の油断がそもそもの原因だし。村を買い戻す為のお金の足りない所を補填したのは、2人だから私は恨む気持ちも無いから追い討ちとなるかも知れない。
……ルフィは勿論、他の誰もまだ彼等には勝てない。覇気を使えない内は、1分だって戦っては居られないわ。
……そう分かっていて、伝える訳にも行かないし。どうしたものかしらね。
私を抱き締めるルフィの腕に力が入る。それが、少し苦しい。
ルフィは暫く、何も言葉を口にしなかった。ただ、潮風が甲板を吹き抜けて、それに乗って蜜柑の香りが漂って来ているのを感じるばかり。