※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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助ける契約

 震えが収まったところで、私は暴れていた筈のゾロの様子を見に行く事にした。勿論貰ったペンは大切に胸元に片付けたけど。

 ゾロの声が聞こえて足を向けてみれば、そこではちょうどビビの命を助けてくれと、ゾロに縋るイガラムさんの姿があった。何となく音楽室を彷彿とさせる髪型だからか、親近感があってイガラムさんを見ているだけで、ほのぼのとした気持ちになると思うのは私だけだろうか。

 

 「莫大な恩賞って、ホント?」

 

 だけど絆されてる場合ではないのよ。うちの船長の胃袋のせいで、頑丈で鍵付きの冷蔵庫が必要だったりするのもあるし、エンゲル係数高過ぎるし、大酒飲みはいるし、インクや紙代も馬鹿にならない。

 戦闘がやたらと多い1味だと言う事を考えたら、傷薬とか消毒液、包帯等の消耗品はいくらあってもたりないから、ベリーは必要なのよね。

 

 「その話のった!10億ベリーでいかが?」

 「ナミ!」

 

 ゾロの声が聞こえて来たけど、そこはあえて無視する。とりあえず今は交渉しなくてはと言うのもあるし、ここで10億返って来るなら冒険は随分楽になると言うのが、やはり1番大きい。

 でも、ゾロは止まらずに声をかけ続けてくるから、仕方無くそれに答えてから交渉を再開する。これ以上交渉の邪魔はさせない。

 

 「で?10億の恩賞約束してくれるの?護衛隊長さん。でもね、私達に助けを求め無かったら……王女様は、死ぬんじゃない?」

 

 ニンマリと笑えば、イガラムさんには色々と言い訳を重ねられるけど、正直な話メリーも直したいしそれ位は欲しい。だからって村からお金を持って来なかった事に、後悔なんて欠片も無いのだから不思議よね。

 

 「まさか、1国の王女の値段がそれ以下だって言うの?出しなさい」

 

 だいたい、私の金額がそれだったのよ。たかだか10歳で。

 今のビビの価値がそれ以下だなんて、認めてたまるもんですか。でも……そんな私の内心は知らない為に、ゾロには完全なる脅迫に見えたようだ。

 ゾロは何やらボソボソと言ってるけど、聞きたくないから聞こえない。それでも何とか交渉は纏まったので、私は気だるそうに立ち上がって、言った。

 

 「わかったわ。ビビ王女は助けてあげる。さぁ、行くのよ!ゾロ!」

 「行くかアホ!」

 

 それから小さな押し問答の末に、そっとゾロに仕方無く耳打ちする。これを言えば無駄に張り切りそうだから、言いたくなかったけど……。

 

 「敵の……BWのボスは、王下七武海のサー・クロコダイルよ。戦ってみたくない?」

 

 その瞬間、ゾロの気配が変わったのを肌で感じる。あぁ、やっぱり必要以上にやる気だわ。

 

 「良いだろう」

 

 獰猛な獣を起こしたような感覚に、少し厄介な事に巻き込まれそうだと思わなくもないけど、とりあえずビビは助かりそうだと満足する。肌が、ゾロの闘志に当てられてまだビリビリするような感覚が拭いされない。

 イガラムさんはブツブツ言ってるけど、だいたいは理解してるから適当に聞き流しながら、簡単に傷の手当をする。それから1応防弾チョッキみたいなものがあるなら身に付けておくように伝えると、素直に頷かれてしまい少し居心地が悪い。

 

 「お姫様の安全を確実には約束出来ないけど、泣く事を忘れたお姫様1人を家に届けるくらいなら、やりたいと思うわ。最終的には船長判断だけど、少なくともこの島からの脱出だけは、私の責任で請け負うわ」

 

 大人しく治療を受けるイガラムさんは、不思議そうに私を見るけど、すぐに感謝すると震える声で返してくる。私はそれに対しては何も答えずに、静かに立ち上がるとそろそろかなと辺りを見渡す。

 

 「さて、加勢に行きますか」

 

 戦う力をもっと身に付けたい。このままでは私が、足手纏いになりかねない。

 シャンクスに胸を張って、強くなったでしょうと、頑張っているでしょうと言える自分でありたいのに。現実はただの弱い航海士でしか無い。

 それが悔しくて、情けない。足りない、速度も威力も……何もかもが。

 そして騒動の場所に到着すれば、ビビをそっちのけで戦う馬鹿2人の姿がある。とりあえず2人を殴り戦いを辞めさせながら、ビビに話し掛ける。

 その場で2人が打ち震えているのは、興味が無いので視界に映らないのだ。だから私の心は至って平穏である。

 

 「助けてあげて欲しいと、依頼されたの。イガラムさんに。だから、契約の話をしましょう」

 

 そしてゾロがルフィにこれまでの経緯を話をしている間に、私はビビと契約の話をする。全額現金でなくとも、宝等を含んで良いからと言って。

 それから確かここで顔を描かれた筈だと思い出して、スクリと立ち上がる。顔を描かれないために私は、咄嗟に全てをルフィに投げる事を決断した。

 

 「後の詳しい事情は、船長とお願い」

 

 そうしてその場を去り、物陰に潜んで様子を伺う。すると案の定ルフィとゾロの2人が抹殺リストに載り、喜ぶ姿が目に入って泣きたくなるが、そんな場合ではない。完全に鳥達が飛び立ったのを見て、3人の元へ戻るとビビが申し訳なさそうにしている。

 それを慰めている間にイガラムさんが現れ、状況についていけないルフィにゾロが家まで送って欲しいのだと簡略的に伝えれば、ルフィもそれを了承してくれる。それにありがとうと私が笑えば、ルフィに何故か呆れたような溜息を吐かれてしまった。

 

 「笑っていれば全てすむと思うなよ」

 「……何か、私間違ったかな?」

 

 不安になって問いかければ、何故か低い声で卑怯なとか言われたけど、全くもって理解出来ない。それを見ていたゾロがクツクツと笑い、ビビが驚いたような顔をしていたのが妙に印象的だった。

 そうして私達5人は合流して、今後について話し合う事となった。それは短時間の事だけど、イガラムさんはルフィとゾロの実力を信じて、ビビを託してくれたのだとその強い眼差しで理解出来る。

 私はこの2人のまとめ役とでも思われたのか、それとも交渉相手だからか、特に問題も無く受け入れて貰えた。その直後にビビは、自らの持つエターナルポースをイガラムさんに手渡す。

 短い時間でそれを決断した2人を見て、これまでの潜入期間に起きたであろう事が垣間見えた気がした。……女部屋を用意して貰っていて良かったと、視線でやり取りする2人を見ながら考える。

 つい先程イガラムさんの治療をしながら思い出したのだけれど、イガラムさんは船ごと爆発する。でもそれからイガラムさんを守る術はないし、それをしたら多分話がややこしくなる。

 だから、助けられない。……これは現実だから、知っているのとは違って、本当に命が助からないかも知れない。

 そう分かっていても、今は見捨てるしか選択できない自分が情けない。情けないけど……私は神様でも仏様でも無いから、世界中の全ての人を救うなんてそんな事は出来はしない。

 切り捨てるべきは切り捨てなければ、本当に大切な人達を喪ってしまう。それだけは許されないから、私はビビが悲しむ事を知っていて、見捨てるという選択肢を選ぶ。

 私が出来たのは防弾チョッキがあるなら着ていてほしいと伝える事のみで、その他には何も出来ないままにイガラムさんの出発を見送り、その船が炎上するのを見た。ビビは涙を流す事も、取り乱す事もなく、真っ直ぐに燃え盛る船を見つめている。

 こうなる事は分かってた。でも……必要な事だった。

 静かにその場に立ち尽くすビビを抱き締めて、アラバスタまで送り届ける約束をする。私にできるのはそれだけだから、偽善でも構いはしないと、小さく震えるその体を抱き締めたままで、ルフィにサンジ君達の回収を頼む。

 すぐにでも船を出さなければ、ビビの国までは1秒でも早く到着しなければいけないのだから。船まで移動する事をビビに伝えて、私はビビを伴い走り出す。

 私がビビを連れて船に到着した時には、ルフィによりサンジ君とウソップも船に到着していたので、すぐに船を出そうとした。けれどもビビがカルーがいないと慌てた様子で言うので、そのカルーの特徴を確認していたら既に乗ってるという奇跡が起きる。

 それからバタバタと出発の準備を進め、出発した頃サンジ君とウソップが目を覚まして騒いだので、拳で説明しておく。だってほら、今は口で説明してる暇ないし。

 そうしている間に現れたロビンを見て、ふと表情が緩みそうになる。その時に見せられたエターナルポースを使えば色々と省略出来るのは分かっていても、ルフィがそれを選ばないのだからそれがすべてだ。

 ただ、この時にロビンがイタズラでルフィの帽子を奪った事を、ルフィは暫くブチブチ言っていた。……仕方ない、後で紐を付けてあげよう。

 遅れて考える余力が生まれてしまった事で、落ち込むビビを慰めながら、船を進ませる。その中で船の案内は取り敢えずウソップにお願いして、サンジ君に甘い物と気持ちの落ち着く暖かい飲み物をビビの為にお願いする。

 涙を忘れたお姫様に、僅かばかりの休息でも提供したいと思うから。王位継承権を持つ唯1の存在なのだと、自覚を持たせないといけないなと小さく息を吐き出して、私は海を見据える。

 もう少しで朝が来る。大騒ぎになってゆっくり測量出来なかったけど、それなりに測量も出来てるから問題は無いかな。

 本当に短い時間の滞在で、どうしてこんなにも色々な問題が起きてしまうのか。ルフィにそっと視線を向ければ、楽しそうに笑われてしまい脱力する。

 考えても謎は深まるばかり。ルフィに責任があることも多いけど今回は無いし、不可抗力よねと息を吐き出す事で気持ちを落ち着かせる。

 案内され終えたビビが戻って来たので、サンジ君が待つだろうキッチンへ共に向かえば、ロールケーキと紅茶が用意されていてビビがその瞳を輝かせた。やっぱり女の子が1人でも居ると違うわね。

 

 「サンジ君の作る物に間違いは無いから、安心していいわよ」

 「ありがとうございます!」

 

 そう言って嬉しそうに食べるビビを見つめていたら、サンジ君はまるで当然のように、私の前にも同じ物を用意してくれるから少し驚く。私には必要無いのに。

 

 「ナミさんのレシピを元にしてるので、是非感想を聞かせてください」

 

 サンジ君は上手い。こうして逃げ場を簡単に奪ってしまう。

 だから私はその言葉に甘えて、1口それを口に含んでみた所でルフィが乱入してきて俺にも食わせろと大騒ぎになると、必然的にゾロとウソップも食わせろとなり、サンジ君は忙しく動き始めてしまう。その慌ただしさにビビが硬直してるのを見ながら、私にはこれがこの船の日常なのだと教える事しか出来なかった。

 美味しいケーキの感想は、また今度伝えるとして、落ち着いたらビビを女部屋に案内しないとと思えば、何となく楽しくなる。こんな楽しさを私は知らなかった気がする。

 ずっと他人は敵でしかなくて、1人の方が安心出来る生活をしてきたから。こんな穏やかで優しく、楽しい時間を経験した事が1度もなかったから。

 喪いたくない人達が増えていく。それが弱さなのか強さなのか、それさえも私には分からない。

 それでも船は進む、波間を越えて真っ直ぐに。新たな島と冒険を目指して。

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