※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

20 / 462
愛しい弟

 いつまでもチョッパーから離れない私を見て、ルフィがチョッパーを抱いてる私ごと抱き締めてきて、その状態で会話が始められた。ルフィ、私、チョッパーの順で抱き締めて甲板に座ってるのをご想像ください。

 そんな巫山戯てるとしか思えない状態で、私は真剣な顔をしてエースとマルコさんに視線を向ける。この先について話合いはどうしたって必要なのだ。

 

 「話を纏めると、私達はこれからユバに向かう予定になっていて、エースもユバにいる黒髭と戦いたい。ここまでは間違いないですね?」

 「そうなるねぃ」

 

 私はマルコさんの言葉に頷いてから、胸元から地図を取り出すと甲板にそれを広げる。先程買出しの時に必要になるかと思って、購入して置いたアラバスタ全体の地図だ。

 

 「今私達が居るのがここ、そして目的地のユバはここ」

 

 言いながら地図を示せば皆が地図に視線を向ける。それぞれが納得した様子で頷くのを確認してから、私は口を開く。

 それでもチョッパーは抱いたまま。離してなるものか。

 

 「ルフィが共に行く事を選択したから、私はエースと共に行動する事に否は無いわ。それで、他の皆は?エースと行くのならば、黒髭との戦闘は避けられないって事を踏まえて考えて欲しいの」

 

 私の言葉にウソップとチョッパーは少し怯えた様子を見せて、ゾロとサンジ君は乗り気で、ビビは困った様子で笑った。ルフィはエースが負ける筈ねェとか言ってるから無視して、マルコさんに視線を向ける。

 この場合年長者でもあり、エースの保護者でもあるマルコさんの意見が重要になる。それに、この人頭良いし。

 私の気付いていない何かに、気付いてくれる存在が居るととするならばこのメンバーではゾロとサンジ君かマルコさんだろう。だから、少しの期待を込めてマルコさんに問い掛ける。

 

 「……マルコさんとしては、どう思いますか?覇気を使えるのは私だけ。他は覇気を使えない事を除けば、ルフィ、ゾロ、サンジ君の3人は人とは思えない強さを誇っていますが、正直何処まで戦いになるか……」

 「ティーチとの戦闘は俺とエースになるだろうねぃ。他の仲間を抑えて貰えたら、ティーチを片付けてから、そっちも手伝えるから、倒せそうなら倒して、無理なら時間だけ稼いで貰えたら助かるよぃ」

 「では、それが無事に片付いたらなのですが……少し私達の用事にも付き合って頂けませんか?そこである程度の体力等を消耗する事を考えたら、私達としても戦力が欲しいんです」

 「……此方も手伝ってもらう訳だからねぃ。それは構わねェが、もし……その情報が誤報でティーチが居なかった場合はそこで手を切る形になるよぃ。それも了承済か?」

 

 私はマルコさんの言葉を受けてルフィへと視線を向けると、分かりやすいように簡単に説明する。ゴチャゴチャとした説明では伝わらないから、可能な限り簡潔に。

 

 「……敵がユバにいたら2人と1緒に戦って、その後も1緒にビビを家まで送ってもらえる。だけど、敵が居なかったらそこでエース達は1度家に帰るから、ユバでお別れになるんだけど、それで良いかって聞かれてるの。どう?」

 「おゥ!それなら構わねェぞ!」

 「船長の了承は取れました。大丈夫です」

 「……ナミって言ったねぃ。お前、白髭に来ないか?」

 

 マルコさんの言葉に私が何か言うよりも早く、ルフィがダメだ!と大声で叫ぶ。絶対にナミは誰にも渡さねェと言うそれに、嬉しいけど恥ずかしくて顔が赤くなる。

 そんな私達を見たマルコさんはへェと言って笑うと、エースに視線を向けた。エースは小さく息を吐き出すと、ルフィに問い掛ける。

 

 「ルフィお前……ウチの〝白髭海賊団〟に来ねェか?勿論、仲間も1緒に」

 

 絶対に有り得無いけど、ここでルフィが頷けば恐らく三兄弟が揃って会える日もそう遠くはならないし、私達は恐らく安全にかつ強くもなれると思う。でも、ルフィは絶対に頷かないから。

 

 「いやだ」

 

 だから、支えよう。ルフィの事を。

 不可能を可能にするルフィを、ルフィは強いから大丈夫だなんて言って任せないで、必ず側で守ろう。大切な者を指の間から逃したくはないから、失わない為に出来る事はなんでもやろう。

 その為にも……私は妥協なんてしない。仕入れるべき情報がまだあるのだから。

 ルフィと楽しそうに会話を続けるエースに、私は言葉を挟む。それによりもしも私の命を取られたとしても、それならばそれの方が良い。

 多くの命を犠牲にするよりはずっと……。あの、誰も何も得ずに平和な島が損なわれるばかりの、哀しい戦争が起きるよりはずっといい。

 

 「エース、サッチ隊長は……生きてるの?」

 

 空気が変わるのを肌で感じる。私はそっとチョッパーを離すと、ビビやカルーの方へ行くように伝える。

 それに素直に従ってその場を離れたチョッパーに、肩からだけでなく身体中の力が抜けそうになる。これで、何かがあってもチョッパーを巻き込む事はなくなった。

 

 「もう、言い逃れはさせねェよぃ。ナミ、お前ェが手紙の送り主だねぃ?」

 

 私の言葉を受けてマルコさんの言葉が私に向けられた。恐らくは初めにクーちゃんへと手紙を渡そうとしていた私から、手紙を奪ったあの時かそれ以前から疑って居たのだろう。

 疑問符を付けていても、確信しているとその雰囲気と表情で分かる。だから私はそれを真っ直ぐに見詰め返して、微笑む。

 

 「……私の質問に、答えて頂けないのでしたら、私も質問に対して何かを答えるつもりはありません」

 

 空気が張り詰める。流石はシャンクスが顔を見る度に、欲しがる相手だけの事はある。

 この人は賢く、強い。でも……どうしてだろう。

 脆く見えるのは……。張り詰めた弦が切れる寸前で震えているような危うさを垣間見せられているような、そんな気持ちにさせられる。

 

 「……サッチは生きてるよぃ」

 「なら、何故……エースは飛び出したの!?」

 

 思わず叫んだ私に視線が集中するのがわかったけど、止められない。なんの為に手紙を書いて、サッチ隊長の死を阻んだと思っているのか。

 エースを死なせたくなくて、運命を変えたくて、私は手紙を書き続けていたのに……!怒りなのか悲しみなのか分からないそれに震える私を、ルフィが強く……けれども優しく抱き締めてくれる。

 それが無ければ私はその場で泣いていたかも知れない。それくらい感情が乱れている。

 

 「どうして……エースは飛び出したりしたの?エースは、白髭海賊団の傍を離れちゃ行けないのに!」

 

 今離れたら、不味い。センゴク元帥の言葉は正しい。

 エースはこの時点ではまだ、ただ守られているのだから。若く激しく、美しい炎。

 

 「エース……私は、貴方を……喪えない」

 「ナミ……お前、何処を見てるんだよ。なんだっていつも焦ってんだ?」

 

 エースは戸惑いを隠さずに問い掛けてくる。それに私はなんだか懐かしい気持ちになる。

 昔、ノジコにも焦ってると、何を目指しているのかと聞かれた。あの時は素直に未来を見たと口にしたけど、仲間もいる今、その選択は出来ないから……。

 

 「私はね、情報を集めて、点と点を線で結んで、大体の事を予測して生きてきたの。有名な島はその歴史もある程度調べてあるし、そうする事で、線で結べるようにして来たのよ」

 

 私の言葉にルフィの腕から力が抜ける。心配そうにしながらも、私が自由に動けるようにと考えてくれたのが分かるから、その優しさに助けられてると痛感する。

 そんな状態で、私は禁断だと、禁忌だと分かっている言葉を口にする。そうする事で恐らく私に懐いているエースは失われるだろうと覚悟しながら、生きてくれるならばそれでも構わないと思えたから。

 

 「エースを含む、三兄弟の父親が誰なのかを、知った上で私は共に過ごしてきたのよ」

 「……え?」

 「エースの父親が誰なのかを、私は知っている。そう……言ったの」

 

 背後でルフィが息を飲み、首を横に振ったのが分かる。大丈夫よ、ルフィから聞いたなんて口が裂けても言わないから。

 そう内心で思いながら、私はエースの返事を待つ。エースは私を見て、ルフィを見て、それから小さくどうしてと呟いた。

 

 「……調べれば、分からない事なんてそうそう多くないのよ。暴れる子供が居ると人から聞けば、リスクを考えて、何を切っ掛けに暴れるのか調べればいい。そして、それを元に推察してしまえば、後は証拠を集めるだけ」

 

 実際は知っていたからその手順は必要無かったけど、多分何も知らなければ自分でそれをやっていた。情報とは、それだけで大きな力になるから。

 筋力ではどうしたって男にはかなわない。それならば、知力と知識で張り合わなければ生き抜けない。

 

 「そうして行けば、サボの事を調べるのも簡単な事だったわ。だから、私は貴方達3人についてはちゃんとわかった上で付き合ってきたの」

 「……それなのに、俺を抱き締めたりしてきたのかよ」

 「弟を抱きしめる事の、何がおかしいのよ。父親が誰であっても、私から見たら3人とも可愛い弟で、時には息子のようにさえ想って来たのよ」

 

 何故か今はルフィが彼氏になってるけど、それを除けば何も私の中で変化は無いの。エースは今でも、可愛い弟。

 

 「私はね、エース。世界よりも……自分の全てよりも、常に〝家族〟が大切なの」

 

 大切な者が増えて行く。初めはベルメールさんと、ノジコだけだった私の世界は、即座にゲンさんとドクターが加わり、村の人達が加わった。

 シャンクスに出逢い、共に過ごして……シャンクスやシャンクスの大切にしている赤髪海賊団の皆が大切になった。それでも、彼等は強くて、私が何か出来るとしたら我が身を守る事位なものだったから何も変わらなかっただけ。

 そして……出逢ってしまった。愛しい輝きに。

 抗う事も出来ないくらい、眩しく輝く3つの星は……人を惹き付けてやまないから。幼く脆いその光を、愛しいと感じてしまったその時から……守ると決めていた。

 

 「エースも、サボも、ルフィも……私にとって大切な弟で、あの頃からずっと……愛してるのよ。弟は家族だもの」

 

 エースが何処か怯えたような顔で私を見る。そして微かに震えているのが分かってしまう。

 だから、手を伸ばす。振り払われても構わない。

 愛を求めながら愛に怯えるエースを、ずっと心配して来た。あの頃より穏やかになったのは、愛を与えられたからだろうと分かる。

 そっと両手でエースを包み込むように抱き締めれば、抵抗はされなくて……震える体は、本来私よりも大きい筈なのに随分と小さく思える。エースが望まない父親でも、その影響力は大き過ぎて、だからこそ、まだエースが1人で飛び立つには早すぎるのよ……。

 願う事は……あの日、自分の産まれた立場を知ったその日から、何も変わってなんかいない。ただ……周りの人に生きていて欲しい。

 あの頃と何か変わったとするならば、自分はどうなったっていいと思っていたそれが……どうなったていいなんて、思えなくなった所だけだろうと思っている。だってね、私が私を嫌いだと言ったら……どうでもいいと言ったら、私を想ってくれてる人達を否定する事になるのだと、教えてくれる温もりに出逢えたから。

 エースもそんな温もりに包まれているのに、それに気付けてないだけ。それがどれほどの不幸か……本人はきっと分かっていないだろうなと思い、愛しい弟へと視線を向けて私は苦笑した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。