ギッ……と言う音が聞こえて、私は漸く人の接近に気付く。そして、自分の姿を思い出して、慌ててしまう。
ど、どうしよう!?
言い訳もできない!こんな格好、どう説明したらいいの!?
隠れる場所を求めて、辺りを見渡してみても、そこにあるのはトレーニングの前後で使えるように服やタオル等の布を入れてあるロッカー位なもの。仕方ないとそれに手を伸ばしたところで、声が聞こえて来た。
「……ナミ?」
振り向けない。振り向きたくない。
冷静になれ、私。もしかして、今日の見張りがルフィだったのかしら?
いや、うん、それで行くとサンジ君以外の誰が登ってきても不思議は無かった筈よね。何してんの私、阿呆じゃないの、私。
せめてルフィでさえなければ、どうにでもなったのに……。どうしてルフィ本人なのよー!
「……それ、俺がシキの所に乗り込んだ時の服と似てるな」
同じ物ですとは、何故か言えない。振り向く事も出来ない私に、ルフィは何事も無いかのように近付いてくる。
やめてお願い、興味示さないで。そう思うのに、ルフィの足音は無遠慮に近付いて来る。
神様仏様船長様、どうか私を放置して下さい。そんな事を考えてる私の髪が、強制的に動かされるのを感じる。
「ナミの髪、伸びたな」
言いながら私の髪を弄ぶ悪戯なルフィの手に、妙な声が出そうになって口を押さえる。するとルフィは私の髪から手を離して、私の体を簡単に反転させた。
真正面から見られては、嫌でも気付かれる。ルフィの服を着てるって。
しゃがみこもうとしたのをルフィに阻止されて、マジマジと見られては、逃げる事も出来ない。もう許してと思いながらルフィを見たら、ルフィが小首を傾げて言う。
「同じ服でも、ナミが着ると可愛いな。でもよ、ナミには、ドレスのが似合うと思うぞ」
ルフィの言葉にそりゃそうでしょうねと言おうとして、押し付けるように渡された物に言葉を飲み込む。それはシキの所で着せられたドレスと同じデザインの物で……。
どうしたらいいのかとルフィを見れば、小さく着るならそっちにしろなんて言われる。だから、頷いてコートを脱いでトレーニング用の棒に掛けた。
「俺の服着るの、止めろって。……んな事してると、襲うぞ」
背後から聞こえたルフィの言葉に私はつい笑ってしまう。何を珍しく遠慮してるのか。
図書室はヤダって言ったのに、無視してしっかり抱いた癖にと少しだけ恨めしく思いつつ言葉を向ける。それでも、拒もうとしない私も悪いんだけどさ。
「……私とルフィは……恋人、だと思ってたんだけど、違った?」
「違わねェぞ。ナミが自覚出来てねェなら、自覚させてやろうか?」
ルフィはすぐに少し低い声で返事をしてくれる。でも、何処か暗い声音に背筋には冷たい物が走ってしまう。
だから、あまり刺激しないように静かに上着を脱ぎながら、ルフィを見ないで言う。そもそもルフィが、変な遠慮してるから聞いただけなのに。
「なら、2人の時ならいいんじゃない?襲っても。私は、ルフィになら……抱かれるの、嫌いじゃないわよ」
上着をコートの横に掛けてネクタイを外す。そのネクタイも掛けてから、ボタンを外してドレスに手を伸ばした。
シャツを床に落としてドレスを着てからズボンを脱ぐと、落としたシャツを拾おうとして、そこにシャツが無い事に気づく。ルフィを見れば赤いシャツを着ていて、ネクタイを締めてる所で……。
ルフィは私をどうしたいのか。着て欲しいってお願いできないから、自分で着て満足してたのに……。
私は視線を逸らして、あの時とよく似たファーを手にする。それを肩に掛けてる間にルフィはズボンを履き替えたようで、助けてくれた時と同じ姿になっていた。
トキメキとか羞恥で人が死ぬなら、私は何回ルフィに殺されてるだろうか。でも、ネクタイが曲がってるわ。
そっとルフィに手を伸ばしてネクタイをしめ直せば、ルフィが男の顔で笑った。それに身体がビクッとしたのは、どうしてなのか。
ルフィの顔が、私の視線より少し高い。……そっか、今ヒールはいてないから。
そんな事を考えながらネクタイをしめ終えた私は、フラフラと壁際のソファに移動して座る。ルフィは上着を着て、コートまで着てくれた。
……想像してたより、似合うわ。身支度を整えたルフィは、私を見て言う。
「な、俺の方が似合うだろ?」
私は無言で頷くしか出来ない。だって……似合い過ぎてる。
ルフィは本当に私をどうしたいのか。にししと笑うルフィに見惚れていたら、ルフィが私の手を引くから強制的に立ち上がる事となり、そんな私にルフィは納得したように頷く。
「確かにナミは、奪いたくなる位のいい女だよな。シキの言ってたのは正しいと、俺も思う」
「な……にを……」
顔が、熱い。風邪でもひいたんじゃないかってくらい、熱い。
褒めても何も出さないんだからと俯きがちな状態からルフィを睨むと、ルフィは僅かに息を飲んだ。どうやら睨みが効果を出したらしい。
ルフィを気圧せるとか、私凄くない?
そう思った直後ルフィがコートを落として、そこに私を押し倒した。それは1瞬の早業で、何が起きたのか分からない程。
「ナミが悪ィ……」
コートの無い状態のルフィに、押し倒されている事は分かる。けど、これ選んだ私の目に狂いは無かったとか呑気に考えてる時点で、色々間違ってるのも分かってるわ。
海賊王をイメージしたコートが無くなっても、上着を着てるルフィが社会人1年生みたいで可愛いとか、そんな事を考えてしまってる。下手なホストより、簡単に女を惹き付けるだろうなって、そんな事を思う。
「……状況、分かってるか?」
「ルフィ、その服似合うわね」
無意識で素直な感想を言葉にして返したら、ルフィが困ったように笑った。その表情が少し大人びて見えて、どうしたのかと思ったら、ファーを払われてしまう。
それを視線で追えば、ルフィが私の髪を弄び、笑う。それに、1瞬呼吸を忘れてしまう程魅入られる。
「危機感持てって……」
ルフィは言いながら私の首に唇を落とす。それに反応して私の体が小さく揺れると、ルフィは満足そうに唇を歪めた。
「ルフィに、危機感なんか抱かない。ルフィには、何されても多分……構わないから」
ルフィに危機感を〝抱けない〟んじゃないの。私は自らの意思で〝抱かない〟のよ。
ルフィになら、何をされてもきっと受け入れる。ルフィの為なら、何も惜しいと思わないから。
「ンなこと言って、知らねェぞ。どうなっても」
そう言うルフィの顔が雄になっていて、そんな顔も好きだななんて思った私は末期だと思う。そうは思うのに、ルフィの首に自ら腕を伸ばして、お返しとばかりにルフィの首に吸い付けばルフィが色っぽい声を出す。
ルフィの方が年下なのに、こんなに色気があって許されるのか。何だか理不尽だわ。
けれどもそんな事を考えてる余裕は、ルフィが上着を脱ぎ捨てた直後に消える。ネクタイを緩める姿が色っぽいなんて思って見惚れてる間に、そのネクタイで両手首を縛られて頭上にあったポールにネクタイで固定されてしまう。
「これで、悪戯は出来ねェぞナミ。いつも大人ぶって余裕見せてるけどな、こっちは傷付けないようにいつも必死なんだよ」
私に余裕なんか無いのに、ルフィにはそう見えてたのかと驚けば、ルフィは少し黒い笑みを浮かべる。その表情に背中がゾクリと粟立った。
それからのルフィは、私が懇願するまでイかないギリギリの愛撫を繰り返して来る。どこでそんな事を知ったのかと言いたくなる程、ドロドロに甘やかすような愛撫に、乱れているのは熱くなってるのは私だけ。
身体中が、ルフィを求めて熱くなってる。なのに、ルフィはそれを高めるだけなのだ。
「も……ルフィ、お願……い」
「ん?何をして欲しいんだ?」
意地の悪い笑みを浮かべるルフィに弄ばれて、私は自らルフィが欲しいと言わされる。ルフィはそれにより漸く深く繋がってくれるけど、繋がっただけで動こうとしない。
どうしたのかとルフィを見上げれば、どうして欲しいかなんて聞いてくるから、半泣きで睨み付けるしか出来ない。けれどもルフィはそんな私の耳元に唇を寄せると、囁くように言う。
「俺になら、何されても良いんだろ?」
意地の悪い黒い笑みを浮かべて言われては、唸るしか出来ない。でも、負けっぱなしでなんて居られないわ。
例え1歳でも、私の方が歳上だし、中身に至っては考えたくもないレベルで歳上なのだから。手は自由にならないので、私は足をルフィに絡み付かせてフッと笑ってみせる。
内心はバクバクだけど、表情は余裕を見せて。妖艶な笑みを浮かべて、ルフィに囁くように言う。
「先に耐えられなくなるのは、どっちかしらね?」
なんて、この状況で煽ってしまう。私は間違いなく、愚かだと思う。
けれどもこうなったら負けたくないのも事実で、ルフィを搾り取ろうと動き出せばルフィは慌てた様子を見せる。その表情が年相応に戻って、それがまた可愛い。
「ま……っ……ナミっ……!」
ルフィの余裕の無い声が聞こえて、私は調子に乗る。本気で搾り取ろうと腰を使えば、ルフィが中に広がるのを感じて勝利の笑みを浮かべた直後、ルフィの瞳に炎が宿ったのを見てしまった。
あ、なんかヤバいと思った時には、ルフィはまるで獣のように容赦無く襲い掛かってきて、私は翻弄されるしか出来なくなった。私の全てを食らい尽そうとするかのように蠢き、私が何度体を痙攣させようともその動きが止まる事は無い。
「も……むりっ……」
「まだ……足りねェ……」
「あっ……ま……て……みは、り……」
「…………へェ……随分、余裕、みたいだな」
見張りしないとと言おうとしたのが不味かったのか、ルフィは私のそれを余裕と解釈して、ケモノがケダモノに変わった。それまでよりも更に激しいそれに、私は声を抑えるとかそんな事を考える余裕も無くしてしまう。
ルフィが見張りならばまだ良いけど、違うなら誰かが来てしまうかも知れない。そう思うからか、いつもより強く締め付けてしまって……ルフィはそんな私に何故かご満悦だ。
行為のその合間に聞こえるルフィの声が、本当に愛しそうに私の名を呼ぶ。その途中で囁かれる愛の言葉に、私はルフィに縋りたくなるのに、手は縛られていてどうにもできない現実を突き付けられてしまう。
ルフィが満足して解放されるまでに、何度も意識を失い、その度に刺激で目覚めさせられたおかげで、既に空は白んでいる。心臓が、痛い程に脈打ち、全身がどちらの物とも分からない汗やら何やらでベタついているのを感じてしまう。
「このまま3日位、続けていられるぞ。俺は。……それでもナミは、俺になら何されても構わないって言えんのか?」
繋がったままで、何処か叱られるのを待つ子犬のような顔で言うから、私は小さく溜息をこぼす。まさか、それを確認したくてこんな抱き方だったのかと思えば、私の反応も当然である。
何処までなら許されるのか、いつも優しい祖父母を試している子供のように。残酷に、けれども不安な心を隠せもしないで居るのが分かってしまう。
嫌わないで……でも、何処まで許してくれるのか分からないよ。そう言われてるような、そんな気がする。
「ルフィ、腕……解いて」
言えばルフィは案外素直にネクタイを解くので、即座に私の腕は解放される。手首にはしっかり跡がついていて、それをルフィは申し訳なさそうに見るから、叱る気なんて元々無いのに、更にそれを奪われてしまう。
ルフィは本当に分かってない。私がどれだけ、ルフィに全てを掛けているのか。
「……ルフィ、愛してるわ」
言いながらルフィに手を伸ばして抱き着くと、その勢いでルフィの唇を奪う。私の全ては、ルフィのものよ。
だから、そんなに不安にならなくていい。ルフィになら、多分殺されても私は文句なんて無いから。
でも、そうね……ルフィに他の男の所へ行けと言われたら、ルフィに文句言うより早く、きっと自ら命を絶つわね。けれども、ただの仲間に戻ろうと言われたのなら、それも私は受け入れてしまうだろう。
ルフィにいらないと言われるなら、私は朝露のように儚くなっても構わない。逆を言えば、ルフィに必要だと言われるのなら、私はどんな事でもやり遂げてみせる。
だから、ルフィがもし、他の男の所へ行けと言うのなら、それがルフィの冒険に置いてそれが必要だと言う時を除いて、私は不要とされたのだろうから朝露のように儚くなろうと思う。でももし、それがルフィの冒険に必要ならば、私はきっとルフィのその言葉に従うだろう。
仲間を大切にするルフィが言うのならば、それだけ必要な事なのだろうと信じられる。それに、その決断をするルフィの方がより、辛いだろうと思うから。
その時はきっと、自分のプライドとか、そんなものはかなぐり捨ててしまえる。ルフィは、私の太陽なのよ。
そんな事を思いながらルフィを堪能していたら、中にいるルフィが大きくなった。僅かに唇を離した時、ルフィが優しく笑ったので、どうやら想いは通じたらしいと知る。
「……ナミ、俺も愛してる。どんな時も、必ず守る」
「私も守るから、1人で抱えないでよ」
「馬鹿、これ以上守ろうとすんな。ナミは、守られる事を覚えろよ」
「難しい事を言われてる気がするわ」
笑いながら答えれば、ルフィはもう1度だけと言って私を翻弄した。ルフィも私も、見張りは全く出来なかったけど、今回は問題にならなかったようだ。
私の全ては、ルフィのもの。けれどルフィには、ルフィだけのものでいて欲しい。
ストロングワールド編─完