※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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愛しい時間

 日が傾いた頃、ランプに明かりを灯そうとしたら誰かの登ってくる音が聞こえて手を止める。視線を向けると居たのはフランキーで、どうしたのかなと首を傾げてしまう。

 全く使わない訳では無いけど、珍しい人ではある。大概利用するのはロビンかチョッパーで、他はたまに本を取りに来るか私に用事があるかだから……。

 そうなると、私に用事なのかな。でも、私がフランキーになら分かるけど、逆は珍しいわよね。

 

 「小娘、そろそろ切り上げろ。……小娘に何かあるとロビンが大変なんだよ」

 「ロビンは、私が初めての友達だから、少し過保護なのよね」

 「……まァ、そこはお互い様だろ。んで、小娘は何を1人で抱え込んでんだ」

 

 抱え込んでなんて居ないと言おうとして、けれどもサングラスを外したフランキーに静かに見詰められれば、言葉を音にする事が出来なくなってしまう。でも、実際何かを抱えてるつもりは無いのよね。

 ただ……確かに焦ってはいると自覚してる。だって、何も見えないから。

 いつもならそろそろ頭痛が来て倒れる頃なのに、何も見えない。そして……どうしたってエースの安否は気にかかるし、この次に向かうのは魚人島だとなれば、仕方ないじゃないと少しばかり思ってしまう。

 でも、そうは言えないし、エースの事は今考えても意味は無い。だから……私は別な言葉を紡ぎ出す。

 

 「……魚人島への行き方が分からないのよ。航海士なのに、駄目ね」

 「深海にあるって話だからな……」

 

 フランキーは私の言葉に、1応は納得した様子を見せる。なので私はそれに笑ってから、ペンを置いて軽く伸びをして見せた。

 明るい感じで、今の話を強制的に終わらせようとしてみる。本当にフランキーは良い〝兄貴〟過ぎて、誤魔化すのも1苦労ね。

 

 「そろそろ夜ご飯よね。今日のメニュー聞いてる?」

 「魚介のどんぶりで、卵とじ系らしいぞ。まァ、メインはって所だろうがな」

 「あら、個別で用意するそう言うの珍しいわね」

 「同じ種類の魚が大漁だったらしい。大皿だけでってのは勿体ないんだとよ」

 「サンジ君らしいわね」

 

 そんな風に笑いながら蜜柑の甲板へと出る。そこからヒョイッと飛び降りれば、階段を登ってきた所らしいゾロと鉢合わせした。

 それから私を見て珍しいなとか言う。何がだろうと思って首を傾げたら、飯の時間にちゃんと居るなんてとか宣うから、軽く殴っておいた。

 それにより怒り出したゾロとギャーギャーと喧嘩しながら食堂に向かえば、食堂に入ると同時にサンジ君がゾロに蹴りを入れて、喧嘩はそちらへと移行する。そしてロビンはそれを楽しそうに見ながら手招くから、その隣に腰を下ろした。

 

 「賑やかね」

 「本当にね」

 

 そう言って互いに笑い合えば、ルフィの姿が見当たらなくて首を傾げる。だって、食事のタイミングでルフィが居ないなんて……。

 あ、チョッパーとウソップも居ないわ。……やだ、このメンバーだと不安。

 それが顔に出てたのか、サンジ君が摘み食いした三馬鹿は罰として、男部屋に閉じ込めてますなんて教えられた。それには流石に笑ってしまう。

 

 「1日5回食べても足りないのね、ルフィは」

 「その食欲、ナミは少し分けて貰いなさい」

 

 笑う私に呆れたようにロビンが言えば全くですと言いながらも、待ち時間のお耳汚しになんて言葉を続けて、ブルックが音楽を演奏してくれる。でも、あれ?

 

 「少し、テンポおかしくない?」

 「え、違いましたか?」

 「うん、ほらここ……」

 

 譜面を見ながら言えば確かにと言って、ブルックは確かめるように同じところを演奏する。それにより2人で少し話が盛り上がっていたら、ゾロが男部屋に3人を迎えに行ったらしくていつの間にか全員が揃っていた。

 テーブルには親子丼の親の代わりに海鮮を使用した丼物、そしてクリームスープが各自の椅子の前に用意されていた。テーブルの中央には、海鮮の天麩羅のような物と、大根サラダに烏賊が混ぜられた物が並べられている。

 その他にハンバーグが用意されていて、ルフィの為に肉を入れたんだなと思えばサンジ君の涙ぐましくも優しいそれに泣きたくなった。席について食事を始めれば、スープはキャベツとエビがふんだんにつかわれていて、パセリが良い香りを放ち優しい仕上がりになっている。

 

 「サンジお母さん……!」

 「え、流石にそのポジは嫌です。勘弁して下さいよナミさん……!」

 

 思わず口に出した言葉に、情けない声でサンジ君が答えると、その瞬間笑いに包まれる。だって、ハンバーグには、魚が混ぜこまれているのよ!?

 明らかに1度火を通した魚の身を解して、挽肉と合わせて作られたそれは、大根おろしと醤油をベースに作られたソースとの相性も良くて、体に優しいのがよく分かる。スープとハンバーグだけで、胸がいっぱいになりそうな私の前で、その手間を考えてもいなさそうなルフィが次々に食べ尽くしていく。

 丼は食べなくても大漁の魚介類が使われていて、手に入る食材を本当に無駄にしないサンジ君に頭が下がる思いだわ。ご飯は茸の炊き込みご飯になっていたらしく、ウソップが前に茸を苦手だからと嘆いていたのを気にして、さり気無く食べさせようとしているのだと気付く。

 それでも顔を歪めたウソップが、そっとそれを口に運び……美味しいと呟けば、サンジ君は嬉しそうに笑い、皆も自然と笑顔になる。小さな所に迄気を使ってくれる、優しいサンジ君につい笑ってしまう。

 天麩羅のようなものは、食べてみると衣が少し不思議。なんだろう?

 

 「サンジさん、この天麩羅普段のと少し違いますね」

 「おぅ、衣にチーズを混ぜてあるんだよ。魚介類の種類が多いから、臭み消し兼ねてな」

 

 成程。それで普通と違った感じに思えたのね。

 そう思って1人頷きつつ食事を進める。それにしても、丼とか……食べきれないと思うのよね。

 自分の丼を半分程食べた所で、空になってるルフィの器と私の器をさり気無く交換しておく。そうしてスープとハンバーグをウマウマーと食べていたら、チョッパーがそれをじっと見ているのに気付く。

 誤魔化そうと思って、テヘッと笑えば深々と溜息を落とされてしまった。ルフィは勝手に復活していたそれに違和感を感じ無いのか、普通に食べてくれたのにチョッパーは誤魔化されてさえくれない。

 だって食べきれないし……。あ、このお魚ハンバーグ食べやすい……。

 その時小皿にサラダをチョッパーが乗せたと思ったら、ロビン経由で私の元にそれが運ばれて来た。何が起きてるのかと思ってチョッパーに、視線を向けたら小さく頷かれた。

 

 「え?」

 「ナミ、まだ食べてなかっただろ。多分食べやすいからさ」

 「ありがとう」

 

 実は、サラダが遠くて届かなかったのだ。サラダは繊切り大根と茹でた烏賊をポン酢とマヨネーズで味付けて、最後にかいわれ大根を飾っていたらしい。

 本当に美味しい……。小皿に乗せられたサラダと、自分の所に用意されていたスープを空にして、やり切った感を出しながらご馳走様と言えば、ハニーミルクのような物を出された。

 

 「牛乳を煮る時に、レモングラスを入れておきましたので、消化に優しいと思いますよ」

 「もう、私はそんなに重病じゃないわよ。ゾロを見てよ、あの元気さ!」

 「マリモとナミさんを同じには扱えませんよ」

 

 何言ってんだコイツ的な顔で私を見たサンジ君に小さく俯けば、食事を終えたからなのかブルックの演奏会が始まり、フランキー相手にウソップとチョッパーが遊び始めた。ルフィだけはまだ食べ続けているけど、ロビンも珈琲を片手にいつの間にやら読書タイムに入っている。

 和やかな空気の中で、私は今の幸せな時間が1秒でも長く続く事を祈っていた。この先に何が待っているのかは分からないけど、多分避けて通れない事態が待っている事だけは間違いないと思うから。

 

 「ナミ?」

 

 声をかけられて視線を向けると、ゾロが首を傾げていた。それに思わず幸せだなぁと思ってと返せば、小さく笑われる。

 妙に穏やかなそれに、ゾロのこういう顔を見るようになったのは最近だなと気付く。誰か1人にでも警戒してる期間は、こんな顔しないから。

 

 「……今日は海も穏やかだったからな。こんな日ばかりなら、楽でいい」

 「本当にね。有意義な1日だったわ」

 「今夜は俺が見張りだ。ナミはまだ完治してねェんだから、早めに寝とけよ」

 

 そう言うとゾロは私の頭を通りすがりに撫でてから、サンジ君からお酒を受け取って出て行ってしまう。それに何かを言おうとしたのだけど、何を言おうとしたのかさえ私には分からなかった。

 その後はロビンとお風呂に入って、2人で部屋に戻るとミルクティを飲みながら航海日誌について話をする。そこへドアをノックする音が聞こえて視線を向けると、訪問者がチョッパーだったので招き入れた。

 どうやらゾロの治療をしてから、私の所へ来てくれたらしい。私は素直に治療を受けつつ、チョッパーに問い掛けてみた。

 

 「ゾロの怪我、どうなの?」

 「動かさない為に巻いた包帯取っちまうし、痛くねェ筈ないのに鎮痛剤も飲まねェんだ。それに、日中もずっと動いてるし、せめていつもみたいに寝ててくれたら良いのに、それもしてくれねェから……治りが遅いんだ」

 

 泣きそうな声と顔で言われてしまえば、そっかと言いながら頭を撫でる他に何が出来るだろうか。ゾロの事は心配だけど、それを言ってどうなるものでもない。

 いいえ、寧ろ下手をしたら心配かけない為にとかって余計に無理を重ねるかも知れないわ。そう考えたら、私は更に何も言えなくなってしまって、その代わりに勝手に涙が溢れ出る。

 それにロビンが即座に気付いて抱き締めてくれると、チョッパーも気付いてアワアワとし始める。……駄目ね、私、弱くなった。

 皆を守りたいのに、私は守られてばかりになってしまった。どうしたら、皆をちゃんと守れるようになるんだろう。

 泣いている理由を聞きもせずに、ただ抱き締めてくれるロビンに、頭を預けるとロビンは少し寝なさいと言ってくれる。チョッパーもまた、怪我してたりすると、気が弱くなるからななんて言ってくれた。

 私がベッドに入ると、チョッパーが少し躊躇ってから私のベッドスペースに入り込んで抱き着いてきた。それを抱き締め返すと、安心させるつもりだったのに何故か私の方が妙に安心してしまい、私が深く眠っていた。

 まさか、安眠できる夜がこの後暫く来ないなんて知りもせず、チョッパーを抱きしめて、ロビンに頭を撫でられながら、意識が深く沈むのに任せる。朝になって姿の見えないチョッパーを探しに来たサンジ君が、私とロビンの間で寝ていたチョッパーに呪詛のような視線と気配を向ける事になるなんて、この時の私は考えてもいなかったのだ。

 翌朝、サンジ君の呪詛の様なそれに怯えるチョッパーを宥めつつ蜜柑の世話をしていたら、嫌な空気を感じた。これ迄感じた事の無いそれに、正体は分からなくても、黙っては居られないからと指示を飛ばす。

 結果は雨が降ってくると言うもので、ただしその雨に飴が混ざってさえ居なければ良かったのだけれど。その上よくよく感じてみれば、雨だと思っていた物は水飴で、こんな気候の中で良く元気に育ってくれてるわと蜜柑の木を思わず尊敬した。

 その為に大騒ぎになるサニー号だけど、それさえもやはり楽しくて、騒ぎが落ち着くまでそれぞれが頑張ってから、揃ってベタベタする甲板等を掃除する。芝生も蜜柑も強すぎるわと笑いながら、交代でお風呂に入り髪や身体についている飴を流してしまえば、楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。

 今はまだ、次の島の影すら見えない。そんな中でも1味が揃って騒ぐこんな時間が、私には何よりも愛しく思えていた。

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