私とロビンがイチャついてる間に、存在を忘れ去られていた謎の人語を喋るヒトデが紹介されて、私は魚人島への道が見えて来たと判断する。そのヒトデ……パッパグに道を聞こうと歩み寄れば、それを阻むように間に入ったルフィが、タコ焼きが先だぞと言うので動きを止めるとケイミーが言った。
「あ、そうそうお礼のタコ焼き!じゃぁはっちんと何処かで待ち合わせしなきゃ」
「はっちん?」
ブルックが問い掛けるもケイミーは電伝虫に連絡を入れてしまい、返事は無い。でも……はっちん?
「もしもしはっちん?こちらケイミーだよ。はぐれてごめんね。今何処にいるの?」
ケイミーのそれに答えたのは、どうやらはっちんでは無い様子で、ズッコケマクロ1味とやらが、トビウオライダーズとやらと手を組み、はっちんを捕まえたと知る。ただ、そのはっちんをマクロ1味はハチと呼んだ。
……偶然、よね。そんな事、ある筈ないわ。
インペルダウンでは無いとしても、監獄の1つに捕らえられている筈だもの。有り得ない……わよ、ね?
電伝虫の向こうからは、ハチを殴る男達の様子と、ケイミーを気遣うはっちんの声が聞こえる。そんな中で私は可能性に怯えて、小さく身体を震わせ、ルフィはタコ焼きしか頭に無い様子だ。
「ごめん!!ルフィちん、お礼のタコ焼きまた今度でいい!?私すぐに友達を助けに行かなきゃ!!」
「え~!?」
ルフィが本当に嫌そうにえーと言うのを聞いて間に入る。ルフィのお馬鹿!!
こんな時に手を貸すかと言うならまだしも、タコ焼き食べたいのにってのがダダ漏れなのは許せない。お母さん、ルフィをそんな子に育てた覚えはありませんよ!
「ちょっと待ってケイミー!首突っ込んで悪いんだけど、捕まった友達の救出なら私達も協力するから」
そこ迄言ってから、もしもハチがあのハチなら私は動けるのかと考えて、言い直す。約束は破りたくないから。
「あ、間違えた。コイツらが協力するから」
「「お前は!?」」
フランキーとウソップがガーンって顔になるけど、今そんなのはどうでもいい。とりあえず失礼な態度で、我儘な言動をしていたルフィを殴ってから軽くお説教したら、ルフィがブーブー言ったけど、ひと睨みで黙らせる。
「ナミは、俺の彼女であって、母親じゃねェからな!?」
「なら、人様に対して恥ずかしくない態度取りなさいよ。それが出来ないから、私が保護者になっちゃうんでしょ!?」
「ナミ……可愛くねェ」
「ルフィ、目が悪くなったの?私は明らかに可愛いじゃない」
私の顔はナミちゃんの顔なのよ。可愛くないとか、有り得ないわ。
そんな私にルフィは、可愛いですと言いながら不貞腐る。そんな様子まで可愛く見えた時点で、私は結局ルフィに勝てる筈も無いのだ。
ケイミーの友達を救わなければ、ルフィはタコ焼きと騒ぐだろう。それに助ければ、魚人島への行き方がわかる筈よ。
そうなれば助ける選択肢に迷う事は許されない。……私個人の小さな問題で、皆の足を止めさせる訳には行かないもの。
「その代わりケイミーは魚人島に行く方法を、私達に教えてくれるってのはどお?」
「え!?いいの!?ナミちん」
瞳を輝かせたケイミーはその後ルフィに視線と笑顔を向けて、手伝ってくれるのかと問い掛ける。それにルフィが良いけどそれは誰なんだと言えば、ケイミーがはっちんはタコ焼き屋の店主だと教えた。
それに付け加えるように、世界一美味しいんだよなんて言うものだから、ルフィが皆に命懸けで助けろと命じるのを聞く。実はケイミーはルフィの扱いを、心得てるんじゃないのかなと思う程に。
何だかそれに笑ってしまう。それにしても、タコ焼きねぇ……。
関東と関西だとタコ焼きも随分違うものなのよねとか、そんな事を考える。中がトロっとしてるのが関西で、中までしっかり焼けてるのが関東。
さて、はっちんのタコ焼きはどちらなのでしょうか?
「OKだって!場所わかる?」
ケイミーの隣に腰を降ろして問いかければ、ケイミーが地図を広げて説明してくれる。その地図を見て、どうやら近くに島があったらしいと分かり、その島の名前で身体がビクリと揺れた。
詳しくは覚えてないけど、このシャボンディ諸島って……良くない事が沢山起きて、皆と離れる事になる島よね。それが必要な事だとは分かってるけど、やっぱり叶うなら皆と離れたくないな……。
魚達に聞くと言って移動するケイミーを見て、ゆっくりとその背を追い掛ける。すると私はケイミーが魚と話をする姿に驚いてしまう。
魚人海賊団のメンバーは、そんな事誰も出来なかったわ。これが魚人と人魚の違いなのかしら。
「すごーい!!魚と話せるなんて!!人魚ってそんな事が出来るのね。……でも、海の中の魚にどうやって着いて行くの?」
「ケイミー!お前がいたら魚、食い放題だな!!」
ルフィ、あんたそれはダメよ。それは流石にダメな発言だわと肩を落としたら、サンジ君がルフィの顔を原型が残らない勢いで伸ばしながら怒る。
その直後、私達は信じられない物を目撃する。魚達が波に矢印を描いてくれてるのだ。
「素敵~!これについて行けば良いのね!?」
「お前スゲーな、ケイミー!!」
喜ぶルフィに合わせるように、ウソップが楽しそうに舵をとり、ロビンがその補佐をする。ケイミーとルフィが楽しそうに盛り上がるのを見て笑った時、上からゾロが降りてきた。
「もう船出すんだな。魚人島へ行けそうなのか?」
「それよかコイツ見ろ!人魚のケイミー!!本物だぞ、スゲーんだ!!」
ルフィが紹介するとケイミーはにこやかに手を振り、それを見たゾロはヘェと言って暫し黙った後爽やかに言った。嘘ではないであろう言葉を。
「初めて見た」
「消した!!今、記憶を消した!!」
チョッパーにはどうやら、ゾロのそれが見えてしまったらしい。うん、まともかなと思ってたゾロがこれだとするなら、ココロさんの姿はきっとそれだけ衝撃だったんだろうと思って、ここは黙って……。
…………ダメだよね。無礼にも程があるよね!?
皆、命の恩人に、その態度はダメだよね!?
「だけど心配……はっちんの声……随分弱ってた。きっと、酷い事されたんだ……」
「まー……あいつも相当頑丈だから、大丈夫だ」
そんな会話が聞こえて視線を向けると、落ち込んでる様子がどうやらただの〝友人〟を思うそれじゃないんじゃないかって気付く。その流れでこの先にある島……つまりはシャボンディ諸島にある悪習について語ってくれる。
人攫いが横行していて、人魚が高値で取引される現実を。この場所が魚人島に程近いと言うのもあり、微かに胸が痛む。
アーロン達の行動を認める訳じゃないけど、アーロン達が私達に敵意しか向けなかった理由は、嫌になる程にわかる。でも……。
〝ナミちゃん、ほら見てごらん。苺はね、たまにこうして花弁を残して実をつけるんだよ〟
〝えー!売ってるのではこんなの無いよ!?〟
〝そりゃそうさ。売り物には規格ってのがあるから、こういうのは出回らないんだよ。味は同じだから食べてみるかい?〟
〝いいの!?ありがとう!……でも、ノジコ達には……〟
〝規格外のなら、持って帰っていいよ。今入れ物持ってくるから、ベルメール達と食べなさい〟
〝でも、花弁ついてる方が可愛いのに、勿体ないね〟
〝その可愛い苺は、育ててる人だけが食べられる特権だよ。今日はお裾分けね〟
そう言って苺を持たせてくれたお婆さんが、アーロンからの支配が始まった後で働けなくなり……二人分のお金が払えないとなった時、お爺さんは迷う事無く二人揃ってその命を絶った。村の人達の負担になるのも、皆を道連れにするのも嫌だと。
死ぬ日の前夜、村の外れで裏切る前の私に見せたのと同じ笑顔で、優しく頭を撫でてから……2~3言葉を交わした。何処にアーロン達の目があるか分からなくて、死なないでと泣いてすがる事さえ私は出来なかった……。
守りたかった。喪いたくなかった。
でも、私の力は足りなくて、指の隙間を縫うように、零れ落ちて行く多くの命があった。それも……ココヤシ村しか私は守ろうとさえしなかったのだから、他の地域や村ではもっと多くの命が喪われていたのだ。
それを、選んだのは私。私は、彼等を見捨てたのだ。
「ハチ……か……」
「……俺も、タコだのハチだの聞くと
「もし本人なら、助けやしねェ。……まァ、そんな訳ねェが……」
思わず呟いた私に、ゾロが言えばサンジ君がそれに続いた。そして煙草を咥え直してから、暫く上を見て、静かに私に視線を向けると僅かに眉を寄せる。
どうしたのかと思ってサンジ君を見ていたら、上衣を脱ぎながら歩み寄ってきた。そして無言のまま、私は頭に上着をバサりとかけられる。
「サンジ君?」
「海水、被ったみたいですね。着替えて、少し休んだ方が良いですよ」
被ってない。絶対、被ってない。
そう思った直後、胸に水滴が落ちるのを感じて、え?と思う。
そんな私の頭を上着越しに軽く叩くように撫でて、着替えて来てくださいと繰り返した。私がそれに頷くと、小さく声が落とされる。
「……それだけ、心を許してくれたと喜べば良いのか……それだけの傷を付けた奴らを捻り殺したいと憤るべきか、俺には今判断できません」
私はその言葉に何も答えられず、逃げるように部屋に入り……酷い顔になってるのを確認する。まさか、泣いてるなんて思いもしなかった。
名を聞いただけで、少し思い出しただけで、涙が落ちるくらい……私は弱くなってしまったのか。……私は、もう、誰も喪いたくないよ。
描かれていなかった。私の知っていた知識では、村の人が死ぬなんて、そんな描写は無かったのよ。
他の村が潰されたってのはあったけど、その意味を正しくは理解してなかった。金蔓である人間を、結局は殺さないんだと信じていたのよ。
でも……彼等にとって人間の命は本当に軽かった。簡単に罪の無い人も含めて、それどころか産まれたばかりの乳飲み子さえ区別無く、殺された……。
思い出しただけで身体が震えて、その場に座り込んでしまう。私……いつから、こんなに弱くなったんだろう。
8年間、涙なんて流さなかったのに……どうして、今は……涙を止める事さえ出来ないんだろう。嗚咽だけはと必死で抑えていたら、ドアがノックされる音が聞えた。
振り向く事も、返事をする事も出来ないでいたら、気遣うようにゆっくりと開かれたドアの所で動かない気配。振り向く事も出来ずにいたら、お邪魔しますと声が聞こえた。
「……振り向かなくて良いですよ。温タオルと、ホットミルクです。宜しければ、使ってください」
「あり、がと……」
「ナミさんは、ケイミーちゃんにその顔、見せたくないでしょう?でも、ここなら大丈夫です。心のままに、泣いといてください」
「サンジ君?」
「……泣く事も出来ないくらい壊れてた心が、泣く事を思い出しただけです。それだけ、心が強くなっているんですよ」
強くなってる?
私が?
寧ろ、弱くなったとしか……。嗚呼、サンジ君は優しいから、慰めてくれてるのか。
「ナミさんは自分に厳しいから、弱くなったと思ってるかも知れませんが、泣くのは強さですよ。人間、本当に限界を超えた時、泣く事も出来ないもんです。……泣けるだけ、ナミさんは強くなったんですよ」
「……っ!」
「ルフィじゃなくて悪いですが、俺でよければ、胸、貸しますよ」
そう言って手を広げたサンジ君に、私は何も考えずに飛び付いた。そうして涙を止められずに震え続ける私を、サンジ君は優しく撫で続けてくれる。
「ナミさんは、充分過ぎるくらい強い。見ていて、哀しくなるくらいに」
「……っ!!」
「自分を責めないでください。貴方は……何も悪くない。ナミさんは、最善を尽くしましたよ」
その優しい声に、言葉に、私は縋るようにして撫でてくれるその手に甘え続けていた。そんな私の震えが落ち着いた頃、涙を手で拭おうとしたらサンジ君にそれを止められて視線を向ける。
その瞬間重なった唇に、思考が停止して……直後に慌てて突き飛ばすとサンジ君は素直に離れて、困ったように笑う。それは、本当に苦しそうな笑顔で、文句の1つも口に出せなくなってしまう程に、私の胸を締め付けるものだった。