牛に乗って現れた男は、恨みつらみを言葉にしてサンジ君を名指しする。それにより慌ててサンジ君に覚えは無いかと問い掛けても、記憶には無いと言う。
バラティエ時代に何かやったんじゃないかと問えば、そんなの数え切れない程だと言われてしまい、肩から力が抜ける。けれども男はそんな昔の話ではなく、最近の事だと言うから、私達は混乱してしまう。
最近だと言うなら私だって覚えがある筈なのに、あの声にもシルエットにも覚えは無い。重厚感のある鎧に身を包んでいる敵なんて、私は記憶に無いのだ。
そんな状態で毒の銛が撃ち込まれては、慌てて躱す事になるけど、それがロビンや蜜柑の樹に向かえば短剣を引き抜き応戦する事となる。でも……3分で死ぬサソリの猛毒って、気化しないタイプでと考えたら案外少ないけど……どうやって手に入れたのかしら?
思い浮かぶ毒は幾つかあるけど、どれであっても私には効かないわねと思う。問題は毒じゃなくて易々と甲板に穴を空ける攻撃力の方だと思うのよね。
けど、そちらも覇気を纏ってしまうから私には……。と思った時、チョッパーに向いたその攻撃に慌てて庇おうと動きを変えた事で転んでしまう。
「キャァ!」
「ナミさん!!……あのヤロー!!」
サンジ君が怒りに震えたその時、ルフィが動き隠されていた顔が顕になれば、思わず嘘っと声を出してしまう。皆も息を飲んだり、何かしらの反応をしてしまう程度にはその隠されていた顔は衝撃だった。
初対面でありながら、初対面とは言えない見慣れたその顔。それは正しく……手配書に描かれていた落書きサンジ君だった。
その後泣きながら騒ぐサンジ君擬きをサンジ君が蹴り飛ばして、その後何だか気の抜けるやり取りを開始する。でも、もうすぐ落ち着きそうねと思ったのも束の間、サンジ君が海に引きずり込まれた。
助けに行こうとしたハチを制して飛び込んでくれたのは、ケイミーだった。もっとも遊泳速度が早いと言われる人魚のそれに対して、祈るように成り行きを見守っていたら上空に影ができたのに気付く。
「なに、あれ!?」
「巨大船の錨か!?デカすぎる!!」
1気に緊迫した空気に変わり、私は切り刻めるだろうかと錨を見据えて短剣を強く握り締めると、気持ちを落ち着かせる為に呼吸を整える。そんな時、ロビンが私を押さえるように抱き着くから、どうしたのかと視線を向けてしまう。
「ここは、大人しくしていて。ナミが1人で挑みかかって、捕まりでもしたらその方が困るわ」
「でも、サニーが!」
「サニーは心配よ。でも、フランキーの夢は私にはどうでもいいもの」
「待てコラ!ニコ・ロビン!!」
「フランキーなんかよりナミが大切なのよ。わかって……ね?」
フランキーの怒鳴り声をものともせずに微笑むロビンに、喧嘩でもしたのかなと思いつつ頷けばフランキーから小娘も肯定すんなととばっちりが来た。でも、変態で美しくも可愛くもない、ごついサイボーグのフランキーか、優しく美しいロビンなら、人として美しい方の味方したくなるでしょ。
とりあえず上空に現れた錨は、まさかのサニーが後退すると言う荒業により助かり、そのままの勢いでウソップがガオン砲と言う大砲で多くの敵と敵のアジトを破壊してくれた。フランキーの技術と、ウソップの腕があれば本当にサポート要員としては磐石よね。
実際チョッパー、私、ロビンは後方支援ってのが本来の立ち位置だから、確かにメンバー構成のバランス良いのよね。主力の3人は接近戦でって所を踏まえれば、余計に。
その上今回仲間に加わったブルックが中距離に該当するから、足りない方に入って貰える分本当に理想的。どちらかに特化したメンバーには届かなくても、痒いところに手が届くと言うポジションだからありがたい。
ガオン砲の威力に感動して泣くルフィと、それに呆れるゾロを眺めてからサンジ君が無事に岸に上がったのを確認する。ケイミーには後で、服でも買ってあげなければと、血に濡れたそれを見て密かに思う。
結局の所、サンジ君が擬きの顔を蹴り骨格を変える事で今回の擬き君事件は解決した。その時ルフィが無意識下で発動させた覇王色の覇気に、それぞれが首を傾げる中で私が1人で笑っていた他は変わった事も無い。
エースは幼少期に発動したんだったわよね。確か……ルフィを助けたくて……だったかな?
そう、普通は皆衝撃的な事が理由で発動する。なのにルフィは初めてが、ただの威圧として出ているのだからある意味恐ろしい。
規格外って、言うのが正しいのかしらね。そんな事を思ってルフィを見詰めていたら、チョッパーが私とゾロの間を往復しながら安静にしてろと怒るのを聞く。
叱られた者同士、ゾロと思わず顔を見合わせて笑えば、チョッパーにこの馬鹿共めと怒鳴られた。だけど、そんな些細なやり取りさえ、私は楽しくて仕方なかったのだ。
ケイミーとパッパグは無事に助かり、ハチの案内で到着した屋台船。そこで、目の前で作られるタコ焼きが全員に配られる事になった。
ルフィはそれに大喜びで、屋台船の席中央に座ると焼けた端から食べ始めて、私はルフィの少し後ろでそれを眺める。その内その船べりに腰を降ろせば、ハチとケイミーは作っても作っても終わらないそれを、ただひたすらに作り続けてくれるからそれを見ていた。
「ナミ、食えそうか?」
「え?」
「……無理か?美味いから、食えるならって思ってよ」
そう言ってルフィが差し出して来た船を手にしてから、そっとルフィの口元をタオルで拭う。それにルフィは何故か顔を赤くするから、喉に詰まらせたのかと少し心配になる。
「急いで食べるからよ。ちゃんと噛んで食べなさい!……ルフィが渡してくれた物なら、食べられるから、大丈夫よ」
だから、私の事は気にしないで好きなだけ食べててと笑えば、ルフィが今度は泣きそうにその顔を歪める。そして帽子を私に被せるとサンジ君やウソップ、チョッパーとブルックのいるその場所へと戻って行く。
実際目の前で作られているし、ルフィ、ウソップ、サンジ君、チョッパー、ブルックが目の前で食べているから、私はそういう意味で警戒はして無い。その上でルフィが差し出して来たのだから、怯えたり警戒したりする要素が無いのだ。
因みにロビン、フランキー、ゾロはサニーの甲板で食べている。屋台船の鉄板前にある席が足りないからと言うのもあるけど、プロと子供達に譲ってくれたのが分かるから、その優しさに頬が自然と上がっていた。
「ナミ!ホントに美味いぞ!ナミ、だから、その……」
言い淀むチョッパーに笑いかけてから、タコ焼きを1つ口に運ぶとチョッパーはそれを見て笑う。そしてチョッパーの手柄でも無いのに、美味いよなと言うからそうねと答える。
サンジ君が興奮して、ハチにタレについて問い詰めるのを聞きながら、何となく懐かしいそれを口に運び続ける。……まだ、ナミちゃんとして産まれる前に食べたタコ焼きを思い出すのはどうしてかな。
今の人生を悔やんだり、過去に帰りたいと思った事は無いのに、何だか異様に懐かしいような気持ちになる。私の死は、あちらの世界で生きていたあの頃身近に居た人達に優しく伝わってくれたのだろうか。
……にしてもこれ、タレの問題じゃないわ。粉その物が美味しいのよ。
むむむ……サンジ君なら、再現できるのかしら。粉物って簡単だから、作り方分かれば案外助かるアイテムなんだけどな。
「……で……どうだ?……あの……ナミは……?その……味は……」
タコ焼きを睨み付けていたら、突然聞こえて来たハチの声に視線を向ける。すると、ケイミーとパッパグ以外の全員が動きを止めた。
何かを言わなきゃと思うのに、何も言葉が浮かんで来ない。皆が緊張してるのが、伝わって来る。
ここで、私が食べてるのが答えじゃないの?とか言ったら、無駄に傷付けそうだし……。ハチだけはあの頃から、何も仕込んでない物を普通に持って来た。
何日も食べる事無く過ごしていて、痩せてしまった私を見て慌てたりしたのも、ハチだけだった。点滴をなんてハチが言った時、余計な事しないでと突っぱねたのは、寧ろ私の方。
点滴なんて血管に直接毒物を入れられたら、弱った状態の身体では持たないと言うので、ハチの善意さえ信じられなかった。勿論、ハチにそのつもりが無くても、アーロンの指示でそれが行われる可能性は高かった訳だから、その判断が間違っていたなんて思わないけど。
「……それは、どういう意図で聞いたの?」
「いやっ!勿論そんな!!何かある訳じゃねェよ!?味はどんなかなーって!!……!ホントに!!」
「……すっごく美味しい!!」
慌てるハチを見ていたら、自然と笑えて来た。なのでクスッと笑いながら答えれば、半泣きでハチがそうか?そうか?と繰り返すのを聞いて頷く。
……もう、いいよ、ハチ。あんたは、そんなに気にしなくて良い。
ハチは、誰も殺してない。寧ろ殺されそうな人を見て、アーロンを止めたりしてくれてた。
だから、もういいよ。そう思って笑えば、ハチが私を見てすまなかったと、喘ぐように呟いた。
「ハチは……もう、そんなに気にしなくて良いわよ」
「ナミ……」
「ハチが大好きなアーロンの事は、許す気無いけどね」
「ナミッ!俺は!」
続くであろう言葉がわかる気がして、私は慌てて口を開く。何も知らないで笑うケイミーが、ハチと私の間にあるそれを知り、傷付くのは本意じゃない。
ハチも他の魚人達と1緒になって私を笑い、貶めたのは確かだけど、それぐらいで傷付くようなヤワな矜持は持ち合わせてない。直接的な被害を私は、ハチからだけは受けていないのだ。
「待って!……今はケイミーが居るわ。そういう話は、聞かせたくないでしょ」
「ナミ……っ!ありがとう。……好きなだけ食ってくれ!ホントに!今日は、いくら食ってもタダだぞナミ!」
「そんなに食べられないわよ。ルフィじゃあるまいし……」
私をなんだと思っているのか。でも、ルフィに好きなだけ食べていいと言ってくれるのは、正直助かるわね。
ルフィの食費って、1回の食事量が百キロだから大変なのよ。私はそれでも、1応は全種類の味に挑戦しようと試みて……1つずつ違う味の物を食べる形で何とかそれを成し遂げた。
……チョッパーに、胃薬欲しいって言ったら怒られるかしら?
そんなタコ焼きパーティの最中に、先程サンジ君に顔を変えられた人……デュバルが顔を出してサンジ君に電伝虫の番号を残して行った。その騒ぎも落ち着き、ルフィが満足する迄食べた後、ハチが流石に汗だくで伸びるのを見れば大変だっただろうなと思う。
ケイミーがそれに付き添っているのを見て、その笑顔を見て、やっぱりそうなのねと小さく笑ってしまったのは不可抗力だろう。そんなハチ達を招いてのティータイムが始まれば、私の分は消化を助ける系にして欲しいと願い、サンジ君に笑われてしまった。
「その顔色見れば分かりますよ。それに今回は、気を使ってちゃんと普通の1人前食べましたからね」
「……いや、絶対もっと食べたと思うわ」
「いつもが半人前しか食べてない自覚持って下さい」
そう言いながら差し出されたのは、カモミールティーだった。嘔吐予防と、消化機能改善効果が期待できるハーブティーである。
ただし、キク科アレルギーの人は飲めません。他にも効果はあるけど、そこは割愛する。
そうしてそれぞれにお茶だの珈琲だのと違う物を出すサンジ君を尊敬しつつ、私達はこの先の進路についての話を開始したのだった。私はもう、大丈夫だと色々な意味で思いながら。