現状では、魚人島へ直接は行けないのだといった内容の事をケイミーが話始めれば、それの詳細についてはパッパグが話してくれる事になった。でも、その前にブルックが私とロビンが座ってる近くに来て、いつものセクハラギャグを言ってきたのだ。
そうなれば大切な話が始まるんだってのに……という苛立ちから、つい本気で蹴り飛ばしてしまっていた。だけどそこは、不可抗力だと思って欲しい。
その流れの後で私達の近くに座ったブルックが、私を見て口を動かした。表情が分からないのが、こんな時地味に困るわね。
「私は、他の方から簡単にナミさんの過去をお聞きしました。その情報を得ているからこそ、あえて教えて頂きたい」
「……何かしら?」
「魚人島へ行っても、大丈夫なのですか?」
私はその問いに笑った。だってそうでしょう。
それは、もう乗り越えた事。覚悟はもう、決めたのよ。
ゾロもそうだけど、皆心配し過ぎだわ。今更動揺するものですか。
「大丈夫よ。覚悟はもう決まってるわ」
「……覚悟を決めなければ行けないのならば、それは……避けるべきではありませんか?」
「ブルック……ありがとう。でもね、魚人島を避けて新世界へ行く事は出来ないのよ」
地上を抜ける手段はない。魚人島を抜ける事が唯一、私達に許された新世界へのルート。
それに……私が未来を知るのとは違う形でだけど、未来を知る事のできる存在。私は彼女と話をしなければいけないと思う。
「それに……実際、会わなきゃいけないと思ってるの。アーロンが大切にしていた、未来を知る事が出来るという妹の人魚さんに」
「ナミさん、貴女は……。いえ、決めたのなら、もうこれ以上は何も言いません。余計な事を聞きました」
「ううん。仲間だもの。気になる事は聞いて貰わなきゃ」
「では……パンツ、見せてもらっ……」
ブルックがその言葉を最後まで言う事は、当然許されなかったとここに残す。そんな会話をしていた間に、レッドラインを抜ける手段についての話は半分程進んでいた。
「この船で行くってどういう事だよ?」
「これから行く島で船をコーティングするんだよ」
フランキーの質問にケイミーが答えると、その直後見えて来たその島は読んだり見たりしていたそれよりもずっと綺麗な……幻想的な島だった。メルヘンチックなその島に、男達はそれ程好意的な反応は無く、私とロビンだけが瞳を輝かせる。
「わ……綺麗……」
「幻想的ね」
そうして私とロビンが笑い合う中で、泡かとか、なんか飛んでんなとか、あ?とか、そんな反応しかしない男達。それに私が肩を竦めればロビンはクスクスと笑う。
でもそんな中でチョッパーは楽しそうに瞳を輝かせていて、チョッパーって本当に可愛いわねと思って、つい衝動的に抱き締める。そんな私を見てから、ロビンはケイミー達の会話に割って入り、
それを聞いて私も
スリラーバークは船だったから、記録が存在しなかった。ジャヤはログはあったけど書き換えられる直前に出発出来たわ。
ならここは……?
魚人島の真上だから、魚人島として数えられるとか、そんな話かしら?
でもそうなると、魚人島の先へ向かうログへ書き換えられる筈だわ。そうなったら、結局魚人島へは向かえなくなってしまう。
そう思って首を傾げると、ハチが大丈夫だと言って説明してくれる。それを簡単に纏めると、樹の根っこの上に人が居るだけで、島ではないから記録が存在しないと言うのだ。
それなら確かに
偉大なる航路〝シャボンディ〟諸島。それは世界一巨大なマングローブ〝ヤルキマン・マングローブ〟と言う樹が集まり、79本あるそれの根の上に町や施設が作られた事で、諸島と呼ばれるようになった〝新世界〟を目指す者達の集う場所である。
数字で分けられたそれを、マングローブを元になのか
島に降り立てばルフィはシャボン玉に乗って浮かび上がり、更に上にあるそれに飛び移りながら何処までも登って行くのを眺める。ルフィは本当にいつも楽しそうで、微笑ましいわ。
このシャボン玉は根から特殊な樹脂が分泌され、それが空気で膨らむ事でシャボンの形となった物が空へと飛んで行くらしい。下では島に橋がかかっていて、島と島は全て繋がっているから、番号さえ覚えていれば迷う事は無いと説明されてホッと胸を撫で下ろしたりしていた。
けれどもやはりどうしたって心配な存在はいる訳で、私とチョッパー、そしてウソップはゾロをじっと見つめ、怒鳴られていた。その時シャボン玉の上からルフィが叫ぶ。
「おい!遊園地が見えるぞ。行こう!!観覧車乗ろう!!」
「遊園地~!?」
チョッパーがそれに反応するとケイミーが言う。何とも寂しそうに、手の届かない所にある花に触れたいと願うかのように……。
「シャボンディパークだよ。いいなァ観覧車……。私、あれに乗るのが夢なんだ」
瞳を輝かせるケイミーの頭をつい軽く撫でてから、私はハチに視線を向ける。コーティングについての確認をしたかったから。
その話を確認していたら、空からルフィが落ちてきたけど今はそれどころじゃない。つまりコーティングとは、今この島で自然発生しているシャボン玉の巨大な物を使って船を包み、ボトルシップ状態にして海底へ進むという事だと理解出来れば、確かに腕が無ければ死ぬわねと思う。
そのままハチが天竜人について話を始めれば、ルフィとゾロが恐ろしく心配になってしまう。見て見ぬふりとか、我慢とか……縁遠い生き物だもの。
「「「「ナミ」」」」
その時突然、ルフィ、ロビン、チョッパー、ウソップが同時に私の名を呼ぶから、どうしたのかと首を傾げる。すると当然のように、声を揃えて言った。
「「「「見て見ぬふりだぞ!」」」」
「私よりも心配なのが沢山居るでしょ!?寧ろ、私が自ら騒動を引き起こす筈無いじゃない!」
怒鳴る私に皆は溜息を落としたり、呆れた視線を向けたりと色々して来る。……なんと言う屈辱か……!
そんな騒ぎの中で、私がルフィとウソップを殴り飛ばしてから、それぞれが船に残るメンバーと出掛けるメンバーに別れる事になった。そこで私は、サンジ君にはお願いして宝を守る為に残って貰う事にする。
今は宝も多いので、三強の中で誰か1人でも残って貰えれば本当に助かる。だけど、ルフィに〝待て〟は出来ないし、ゾロは私のお願いを〝覚えて〟さえいてくれないだろう。
そうなると必然的に、頼れるのはサンジ君だけになる。この宝は失えないもの。
「困ったなー……。今、船にはお宝がいっぱい積んであるのに、これを守ってくれる
果たしてこれが〝お願い〟であるのかは謎だが、サンジ君は足を竜巻のように動かしつつ私の前に現れると、それこそ王子か騎士を思わせるような動きで片膝をついた。そして胸に手を当ててこう言うのだ。
「イッツ・ミー!」
折角顔が整ってるのに、瞳をハートにしてそんな事を言っているのを聞くと、助かるのは確かだし、頼んだ私が言うべきでは無いかもしれないけれど……。本当に、もったいないと言うか、残念と言うか……。
そうして船のメンテをすると言うフランキー、その手伝いをすると言うウソップにも宝の守護を頼んでから荷物を纏めて表に出る。すると、ロビンが樹液等を調べて汚れた手をウソップで拭っているのに遭遇した。
騒ぐウソップと悪意無く行動するロビンに、仲良しねぇと頬が緩む。そう言えばゾロの姿が見当たらないわと辺りを見ていたら、寝てるのを発見して勝手に船を降りたんじゃないなら良かったとホッと息を吐いた。
この時ハチが止めるパッパグにどうしてもと言って案内を買って出てくれたのだなんて事、私達は誰も知らなかった。それでも、その様子にならば私も島に入りたいと煌めく瞳で言うケイミーに、パッパグとハチは頷く他の選択肢を持たなくなったのもまた、致し方ない事だろう。
ハチ達が着替えるのだと言う話をしている所で、私とロビンが気が付けばロビンがフランキーに服を1枚ハチ用に頼みに行ってくれる。私はサンジ君の鼻血事件があったので、私の服からケイミーに選ぶように言って罪滅ぼしだ。
着替えが終わって船べりに腰を降ろす姿を見ると、私が着るより似合うわねと素直に思う。それに、人魚には見えないわ。
「あらケイミー、サイズもピッタリだったみたいだし、そうしてると普通のお嬢さんに見えるわね」
「えへへー!人魚って知られると危ないからね……」
「なら、ちょっと待ってて、足に見えるようにはいてるその靴が脱げても大丈夫なように、包帯巻いときましょ」
そう言って包帯を巻けばハチがどうしたのかと言って近付くから、足に怪我してるって感じに装えばと思って……と素直に言えば、ありがとうと声が降って来た。でも、ハチに言われるそれは、何とも言い難い気持ちになる。
「……ケイミーの事は、ハチが抱いていくとかしてよね。私は運んであげられないもの」
「そこは大丈夫だ。ケイミーの事は俺がちゃんと守る」
「……ハチ、私達を紹介するってだけなら、
人を売る地域で、海賊でもない人魚が狙われるならば、魚人であり海賊だったハチだって安全では有り得ない。確かにあの頃皆がされた事を考えれば、それに対して私が引け目を感じる必要は無いだろう。
けど、ケイミーやパッパグの保護者の枠に居るだろうハチを危険に巻き込めない。何より私は、もうハチを許しているもの。
そう思って言った私に、ハチは気にするなと言う。名前だけで探せる相手じゃないんだと。
それにより私はハチに、その人物の元へはルフィを案内して欲しいと言って、素直にお礼を伝えればハチが困ったような顔をした。それに笑って行きましょうかと言えば、ハチは静かに頷いてから登っていくシャボン玉に視線を向けて暫し動きを止める。
私はそんなハチを残してケイミーに靴を履かせ直すと、ロビンの方へと歩き出した。そこにチョッパーが寄って来るので、その頭撫でつつルフィに声をかける。
「ルフィ!そろそろ行ける?」
「おう!今戻る!」
さっきもシャボン玉から落ちた癖に、また乗って遊んでるのだから、不思議で仕方ない。学習能力ってものがないのかしら?
チョッパーは花を1輪根っこごと取ってきた事を報告したかったらしく、それに視線を向ける。そしてその植物が可愛らしいピンクの花を咲かせているのを見れば、思わず声が出てしまう。
「枝豆!?」
「そう、大豆だよ!!」
噛み合っていないようだが、若い内に収穫した物は枝豆で、しっかり育てると大豆となるのだ。この大豆は、良質なタンパク質を含み〝畑の肉〟と呼ばれている。
脂質の大半がコレステロールを下げる作用のあるリノール酸で、動脈硬化や高血圧予防になるとされる。また胚芽にはイソフラボンが含まれ、更年期障害、骨粗鬆症等を軽減すると言われているけど、チョッパーが欲しがった理由はそれではないだろう。
食用として用いされるイメージの強い大豆には、有毒成分も多く、だからこそ日本では加工されたりした商品が昔から愛されてきたのだ。大豆に含まれる有毒成分は、サポニン等水溶性の低分子化合物やタンパク質性のプロテアーゼ・インヒビターやアミラーゼ・インヒビターやレクチン等。
つまりこれらの加工には、有毒成分の除去や解毒の意味もある。有毒成分があると言う事は、即ち薬になる成分もあると言う事になる。
蒸した黒豆.......黒大豆を発酵させてから乾燥させたものは、
これらは本来、黒豆の発酵・乾燥品を用いるが、私の知る日本の現代常識では納豆を乾燥させたものを代用するので、大豆を発行させれば薬を作れるという事になる。
日本では色々な形に加工され、利用されていると言ったが、それはまず、有名な所ではモヤシだ。大豆を暗所で発芽させるとモヤシ、未熟大豆を枝ごと収穫し茹でると枝豆、さらに育てて完熟したら大豆となるのである。
大豆を搾ると大豆油。油を絞った粕は大豆粕として食用・醤油製造や飼料へ。
煎って粉にするときな粉、蒸した大豆を麹菌と耐塩性酵母で発酵させると醤油・味噌、また蒸した大豆を納豆菌で発酵させると納豆となる。熟した大豆を加水・浸漬・破砕・加熱した物を搾ると液体は豆乳、その残りはおから。
豆乳を温めてラムスデン現象によって液面に形成される膜を湯葉。にがりを入れて塩析でタンパク質を固めると豆腐、豆腐を揚げると油揚げや厚揚げとなり、焼くと焼き豆腐、凍らせて
そんな話で盛り上がっていたら、ロビンに苗を奪われて呆れた視線を皆から受ける事となった。チョッパーと解せぬ.......となりながらも、ロビンに言われて大豆から意識を切離す。
そうしてルフィを筆頭に私とチョッパー、少し疲れた様子のロビン、そしてブルック、ハチとハチに背負われたケイミーと、適当な人物の肩や頭で寛ぐパッパグは島の中へと身を踊らせる。その途中でハチがルフィに注意を繰り返し伝えれば、面倒そうに頷くルフィがいたけれど、大切な事なので聞いて欲しい。
注意点は大きく分けて3つ。その1つが天竜人関連で、次が人攫いや賞金稼ぎに関する物。
私達は〝海賊〟である為に、海軍、賞金稼ぎ、人攫いが敵となり、人身売買されても1切法に守られないのだと伝えられれば、随分と時代遅れねと溜息が落ちる。海軍本部の足元であるこの島は、海兵も賞金稼ぎもそれに見合う猛者ばかり。
そして最後の注意は、ケイミー達に関するもの。ケイミーもハチも〝人魚〟でも〝魚人〟でもなく、今だけは〝人間〟であると言うものだ。
やっぱりかと思う私と、やはり予想していたらしいロビンは顔を見合わせて無言で頷く。そんな中で、首を傾げるルフィをロビンが宥めながら先へと進む。
そして移動を楽にする為に〝ボンチャリ〟を借りようと言われて私達はボンチャリ屋へと向かった。到着した店は慣れているのだろう、ルフィにボンチャリについて説明するより先に試させ始めたのだ。
ルフィがシャボン玉に顔を入れてボンチャリを試すのを見て、ロビンが不思議と言って興味深そうにしている。チョッパーは勿論大興奮。
ブルックも面白そうに機械を眺めていて、私も多くあるそのボンチャリの種類について根掘り葉掘り聞いて行く。そんな私に少し面倒そうにしながら説明してくれたので、私は荷物をお尻の下に収納出来る物の中から懐かしき自転車型の物を借りる事にした。
これならば、荷物を邪魔に思う事も無いというのが大きな理由。カゴにパッパグやチョッパーが入ってくれたら可愛いだろうという、個人的な打算もあるけどそこは内緒の方向で。
タイヤの中に荷物を収納できるような感覚かなと思えば、本当に便利だと思う。そしてシャボンである為に、タイヤとは違い回転もしないから荷物がひっくり返ったりしないので助かるのだ。
その荷物を収納できる所にパッパグが入り、前カゴにチョッパーが乗ると本当に可愛い乗物に思える。結果として、大型の乗物と、ルフィの1人乗りのそれを合わせて三台借りる事になった。
ルフィはボンチャリを借りた事に不満そうにしていて、それに気付いたハチが丁寧に説明してくれた。けどロビンは納得出来た様子なのに対して、ルフィは全く納得しないのでそれを要約して納得させる。
「この島を出たら、不思議な事にシャボン玉が割れちゃうのよ」
「何だと!?不思議と割れる!?そんな訳があったのか!!」
「ナミって凄ェよな、ルフィを納得させられるんだからさ」
チョッパーがそう言うと、ロビンがルフィに関してはやっぱりナミの右に出る人は居ないわねと笑う。だから、何だか顔が熱を持ってしまい、私はそれに慌てて長い付き合いだからよと言ってその場を落ち着かせようとする。
なのにブルックが、流石は恋人ですねなんて言い出したのだ。それによりケイミーが、驚いた様子で私を見て来るので、本当に止めてくださいと思いながら私は頭から煙を出す勢いで茹だってしまっている。