赤くなって声を無くしていた私に、ケイミーは煌めく瞳で言う。やはり恋する乙女にこのタイプの話は、盛大な関心事なのだろうか。
「ナミちんとルフィちんって、恋人だったの!?……良いなぁ……」
「ルフィは手がかかるから止めた方がいいと思うわよ?」
本気でオススメしない。そう思って言ったらそうじゃないよ!と大きな声で言ってから、チラリとハチを見るから成程と思って笑う。
「ロビンとフランキーも恋人同士よ。そして、私とロビンは大親友!」
「ふふっそうね。フランキーは捨ててもナミだけは手放さないわ」
「捨てないでやってくれよ……。流石にフランキー可哀想だからさ」
チョッパーが思わずといった感じで言うそれに、ケイミーはその瞳を大きく開いてから笑った。花が綻ぶようなとはまさにと言いたくなるその笑顔に、少しホッとする。
ここはどうしても危険が多すぎるけど、それでも、島に入りたいと思うその気持ちは……分からなくもない。ケイミーだけじゃなくて、多くの人魚達が憧れなんてものを抱くんじゃなくて、自然な事として地上にも居られたら良いのに……。
そうしたらきっと、あんな悲劇は起きなかったのにと思えば、少しではなく悲しくなってしまう。思い返してみれば、晴れている日の大半を、アーロン達は太陽の熱に触れられる所で過ごしていた。
彼等にとって、太陽が持つ意味はそれだけ大きいのだろう。……私は故郷に関わっていない、魚人や人魚を恨むつもりは無い。
憎いのはあくまでも魚人海賊団であって、他の……私にとっての加害者以外を恨んではいけないと思ってる。でも、きっとそんなふうに思える人はそう多くない。
例えば犬に噛まれた人は犬の全てが怖かったり、憎かったりするように、アーロン達は〝人間〟を憎んでいた。私だって〝海賊〟と聞くだけで、寒気がする時もあるわ。
自ら望んで〝海賊〟となったし、その〝海賊〟に戦う力を貰った。そして今もまた、ルフィ達と共に〝海賊〟として生きているのに……ね。
そんな風に少し物思いに耽った時、ケイミーがルフィにボンチャリは魚人島でも使えると話し始めて、ルフィはそれに瞳を輝かせる。その笑顔に、心が軽くなった気がした。
ルフィの笑顔は、胸に広がる暗い多くの物を消し去ってくれる。だから……私は……前を向いて、笑っていられるのだろう。
そのルフィがチョッパーやブルックと共に試食やらを開始すれば、見える建物が建物が丸い事に気付き私は驚きの声を出す。そんな私にパッパグが丁寧に説明してくれて納得した時、ショッピングモールを見付けて私は少しばかりウズウズする自分の気持ちに気付く。
「ロビン、ケイミー、1緒にあそこにあるショッピングモールへ行かない?コーティングは男達に任せてさ」
「行きたい!ナミちん1緒に!あ……でも……」
「ケイミー?」
チラリとハチを見てから微かに身体を震わせたケイミーに、私は何も気付かなかったフリして笑う。そして、違うと分かっていてその耳元で囁く。
今ここでその真実を詳らかにする意味は無い。ケイミーを危険に晒したくは無いもの。
「ハチと離れたくない?」
「え!?」
「好きなんでしょ」
「そっ……違っ……わな……くもない……けど……」
「ナミ、揶揄わないのよ。……ケイミー、本当に良いの?私とナミもそれなりに強いわよ」
ロビンに窘められてテヘッと舌を出せば、軽く頭を叩かれてしまう。そんな私とロビンを見て、ハチがケイミーに言った。
「ナミが居るなら、問題はねェぞ。怒らすと本当に強いんだ」
「そうなの?」
「ニュー……俺は怒ったナミに勝てない。それでも、麦藁よりは弱い……か?」
「そうね、あの頃よりルフィは強くなってるから、もう敵わないわ」
笑う私にハチはそうかと言ってから、好きな方に居たら良いと言って選ばせようとする。それを受けて、それでもケイミーはハチの傍に残る事を決めた様子だった。
なので私は伝言を頼む。買物に行く事と、コーティングの件については任せる事、そして……ケイミーを必ず守るようにと言う事を。
それを言葉にしたらケイミーが泣きそうにその瞳を揺らしたから、大丈夫よと笑う。私より強いルフィと、信頼出来るハチが居るんだから楽しんでねと言って。
それに頷いたケイミーは、島を見ていられるだけでも楽しいと言ってフワフワと漂うシャボン玉を軽くつついた。それに頷いてから、私とロビンは30番GRにあるショッピングモールへと移動する為に、ホテル街だった35番GRを抜けてい行く。
ショッピングモールの入口に差し掛かる頃、ロビンが言う。心なしか少し心配そうに。
「ケイミーちゃん……誘っても来なかったわね」
「仕方ないわよ。ロビンも気付いていると思うけど、ここには〝悪い歴史〟が残っているのだから」
私の言葉にロビンは表情を硬くすると、やっぱりそうなのねと言う。それに誤魔化すように笑顔を向けたら、ロビンに頭を撫でられてしまった。
買物をしながら話をしていれば、私の反応で何となくそうかなとは思っていたと言うのだから、ロビンはやっぱり賢いんだなって思い知らされる。そんな中で私は、落ちても壊れない素材の写真立てや、ルフィ達が使うのに歯ブラシやカップを買って行く。
それぞれのイメージカラーのカップを選んでいたら、ロビンがクスクスと笑いながら、歯ブラシは消耗品だから少し多く買っていきましょうと言う。だから何が可笑しいのかなと思って、首を傾げた。
そんな私に、やっぱりお母さんみたいだなと思っただけよなんて言われてしまえば、どうしてもそういった役割になっちゃうわよと苦笑する。ロビンだって似たような感じなのに、私にばっかりそんな風に言うんだから……と、わざと膨れて見せれば、フグみたいねと言いながらロビンは余計に笑いを止められなくなってしまう。
そんな感じで笑い合いながら、私とロビンは楽しく買物に精を出す。航海に必要な道具としていつも買う物以外の、小物や消耗品を選ぶ。
そして本屋や文房具屋を見付けては、二人揃って大はしゃぎで中を物色する。最新モデルのペンだと言われた物を見て、私は使いやすさを確認する為に手に取り、ロビンはフランキーが最新型なら欲しがるかしらなんて首を傾げた。
その後は花屋さんで種や苗を購入して、でも米は育てる方が結局損になるなんて話で肩を落とせばロビンが普通の花も育てたいなんて、少し話題を変えてきた。それに頷いて共に選び始めると、フジバカマを見てロビンが動きを止めたので、いいんじゃない?と言う。
「でも……普通の花よ。食べられない物だと邪魔になるでしょう?それでも良いの?」
「花が咲く直前に葉を取ってもいいなら、薬になるし、私としては構わないと思うけど」
「……え?」
「この花は、痒み止めと糖尿病に効果があった筈よ」
私の言葉にロビンは動きを止めて、それから軽く頭を振って何かに納得したように頷いてから、花が楽しめて薬にもなるならとそれを買う。でも、山野や土手に自生してるこれは、世間的にみて雑草枠だから私としては、買うのに違和感がどうしてもあるけどね。
他にもアカネやツリガネニンジンを購入して笑うロビンに、それぞれ花が終わると同時に根を掘り出して干すと薬になると話せば、ロビンから呆れたような視線を向けられてしまった。何故かは分からないけど。
「いつもチョッパーとなんの話ししてるのかと思ってたけど、まさか、そういう話してたの?」
「そうよ。桔梗も根が薬になるから、昨日はその話しをしたりしてたわね」
「桔梗も!?」
「そうよ。桔梗はね、喉に効果的なの。扁桃炎とか、痰を伴う咳、喉の痛みそのものに効果があるわ」
「ナミ、医者になれば良かったのに」
ロビンの冗談に私はあははと笑って、どこかで休憩でもするかと話し始めた時、声が降って来た。それにより私とロビンは、嫌な予感に1瞬息を飲んだ。
「小娘!!ロビン!!」
「その呼び方止めてって言っ「トビウオに乗れ!人魚の奴が攫われた!!」」
「攫われた!?」
「ケイミーが!?」
結果、言われるままにトビウオに移動すると、それまでトビウオの後部座席にいた人が2人代わりに降りる。そのまま下から、荷物は船に運んでおきますと言ってくれたので任せることにした。
攫われた経緯を確認して、私はロビンとフランキーに少し時間を欲しいと言う。それに嫌そうにその眉間に皺を寄せた2人は、けれども頷いてくれた。
故意に記憶を探れば、頭痛や吐き気を伴うけど、何か見える事もあるから。何かが起きるのだと分かっていたのに、ケイミーが攫われる事を思い出せていなかったのは、私の失態だから……。
「少し、任せるわ」
2人は同時にそれに頷くから、私は記憶を、知識を探る事に専念する。それにより襲って来る脳天を貫くような痛みに、けれども私は逃げる訳にはいかなかった。
だって、ハチはリスクを承知で来てくれた。ケイミーは、ルフィ達を信じて上陸して、強ばる顔で、けれども楽しんでいたのに……。
傷つけるつもりなんて無かった。苦しめたいなんて、少しも思わない。
早く、助けなきゃ。売られてからじゃ……どうにもならない。
ケイミーを買った相手を確認するだけの情報網を、私は持たない。だからと言って、ドフィをこんな時だけ頼るなんて出来る筈もない。
お願い……!頭なんか割れてもいいから、今は知識が必要なのよ!
その時歪む視界の先で見えてきたのは、ケイミーが居るだろう建物。〝HUMAN〟と書かれた看板に、不満なのはこっちよと怒りで握った拳が震えて、僅かな期間痛みを忘れた程。
そして見えたのは水槽に入っているケイミーの姿。そして、店の情報と犯人の名前。
待ち望んだそれを、痛みと吐き気の中で声に出す。1刻の猶予も無い!!
「犯人は〝ハウンド・ペッツ〟!売られた場所は1番GR!!
そうして私達は別行動となった。それでもまだ私が見たのが未来であれば、売られていない可能性もあるから。
少しでもまだ希望があるのならば、まずは売られる前に助けたい。でも、もし既に売られていたら全員が同じ所を目指したのでは間に合わなくなる。
それなら最低でも二手に別れる必要がある。ケイミーは戦いとは無縁の、普通の女の子なんだから……!
「フランキーはナミと行って!救出する時、女が居なければ困る状態になってしまう可能性もあるから!……私はハウンド・ペッツの方へ向かうわ」
ロビンが叫べばフランキーが頷いてくれる。つまりロビンは、私の護衛にフランキーを残してくれたのだ。
「ロビン!」
「体調悪いのに、戦えないでしょ。盾に使って!」
「ロビン、ありがとう……」
「俺の意見は聞かねぇのかよ」
この時のフランキーの言葉は当然のように黙殺され、私とフランキーは会場に直接乗り込む事となる。そして、何も考えずに敵の元へと向かったルフィと、行方不明のゾロは当然会場には後から来ての合流となるだろうと思いながら、私は先を急いで貰った。
そして、ウソップ、ブルックも敵の方へ向かった様子なので、残るメンバーが直接会場に向かう形を取った。その結果、私、サンジ君、チョッパー、フランキー、ハチ、パッパグが
サンジ君とフランキーが怒り狂い暴れろうとするのを、ハチとパッパグが止める。その時の言葉に首輪と言う単語があり、私は頭痛と戦う事となった。
でも、おかげでどんな類いの首輪なのかは理解出来た。だからと思って視線を上げて、私は立ち上がる。
やるべき事は、定まった。私はケイミーを〝買い戻す〟わ!
「おい小娘!どこ行くんだ」
「物理的に手が出せないんなら!!〝
「どう言う意味だそれ?」
フランキーの言葉に答えると、チョッパーが不安そうに聞いてきた。それに私は歩きながら答える。
立ち止まる時間さえ今は惜しい。頭の中で算盤がパチパチと音を立てる。
「今船には大分宝が積んであるわ。軽く見積もっても15億。それに加えて預けてある私の個人的なお金もある。……ハチ、人魚の相場はどれくらい?」
「ニュ~!!そんなにあったら十分過ぎるけど……俺、そんなに返せない……」
「何?ハチあんたケイミーの保護者かなんか?」
「にゅ~!!いや、そう言う訳じゃ」
焦るハチに笑ってから、私はチョッパーにもう意味は通じたわねと視線で問い掛ける。それにチョッパーが頷いたから、私は言葉を重ねるように続けた。
会場入口に居た大柄の奴隷の首にあるそれを見て、鍵穴があるのが分かれば、外せるだろうなと判断出来たし、無理なら短剣と見聞色の覇気で破壊してやると、最悪の事態にも備えておく。でも、その大柄の奴隷迄助ける余力は私には無いからと、素通りしたのだけど。
「私達の友達を奪い返せるのなら、いくらかかろうと構わない!!文句ないでしょ!?」
「勿論だ!!金の話じゃねェよなー!!」
チョッパーが答えてくれる。フランキーは無言で頷き、前に進む。
それを受けてパッパグは泣き出し、ハチは震えて言葉を失った。サンジ君は騒いでいたのでとりあえず放置して、先へと進む。
会場の入口は、もう目の前だ。私は入口の前で全員に言う。
「私が競りはやるわ。いくらあるのかとかは、絶対に口に出さないで。私は〝相手が誰〟であっても確実にケイミーを取り戻す!」
全員がそれに頷いてくれて、私はそれに笑う。それを最後にカジノに挑む時のような顔で、私はその扉に手を掛けた。
お金の使い道は色々ある。船長の決定が、この金額が動くなら本来は必要なのも分かってるわ。
それでも私は、独断で決定をくだす。この船の金銭管理は私の管轄。
つまり、お金の使い道は私に決定権があるのよ。1度だけ強く目を閉じて、開く。
この先は、私の戦場。負けるつもりは……皆無。