熊の背後、それもできるだけ高い位置と私が言ったのを聞いていたらしいキッドが、おいっ!とローちゃんに声をかける。それにより視線を向けるとその能力を使い鉄くずを熊の頭上と言うより、上空に飛ばした。
それに溜息を落としながらも頷いたローちゃんがその能力を用いて私を移動させるから、私は短剣に覇気を纏わせて重力を使い、体重と共に脳天を貫く形で攻撃を落とす。バチバチバチバチッ!!と瞬間的に鳴り出したそれに、私が慌てて距離を取ろうとしたらローちゃんに能力で移動させられて、爆発から何とか無事に逃れられた。
覇気を纏う事が、ここまで威力を高めるとは思っていなかった。でも、2度は使えないわね。
覇気を纏うには体力が必要で、怪我をしているのもあり先程からの2連続での攻撃が体力を大きく消耗してる。でも、それを表には出せない。
正直さっきの爆発だって、ローちゃんが入れ替えてくれなければ、巻き込まれてたわ。自力じゃもう、動けるかも分からないくらい足が震えてる。
「本当に、覇気を使えるんだな」
「当然でしょ……コンディション最悪だから、もう今日は使えないと思うけどね」
元々私の武装色は無意識的に使う防御形である為、意識的に纏わせるのは苦手なのよ。もう少し、それができるようにならないと役に立たないとも、わかってるけどね。
残り1体となった熊に、迷い無くローちゃんとキッドは挑みかかる。私はそれを見ながら、足が震えてるばかりでは無くまともに動かなくなってる事に気付く。
……こんな時に、崩れ落ちないのが精一杯だなんて……体力の増強が急務だわ。その時熊の標的が自分になったのに気付き、しまったと思ったけど、攻撃が放たれる事が無かった。
「……〝泥棒猫〟……〝生け捕りのみ〟……攻撃中止」
…………私が死にかけだから、攻撃して殺すといけないから攻撃出来ないって事?
そんな馬鹿なと思いながらも、今の攻撃中止等の事で出来た隙を利用してローちゃんとキッドは熊を破壊する事に成功する。それは画面越しに見てたのとは違って、爆風はあるし、音も凄いから楽しんだりする余裕は無い。
それでも、見事だと思う。単純な強さだけを言えば、能力の違うルフィが二人いるようなものだもの。
その時ローちゃんのとは違うサークルが私やローちゃんを包み、声が聞こえて来る。その声に私が反応するより早く移動してきたローちゃんに抱えられて、私はキッド海賊団と会話をする余裕も無く、熊の残骸を調べる隙も無く、連れ去られた。
「今は仲間達にしか声が届かなくしてある。ここから北にある寂れた宿を借りて来たから、そっちへ逃げ込むぞ!」
「「「おー!!」」」
流石コラさんなんて声が発せられるのを聞きながら、荷物のように運ばれる自分に歯痒くなる。もっと、強くならなきゃ……このままだと駄目だわ。
宿に到着すると、各自が部屋の鍵を受取り部屋に雪崩込む形となるけど、ローちゃんは自分用に用意された部屋に私を当然のように連れ込もうとするから待ったをかける。聞いておきたい事もあるのよ。
「待って!」
「なんだ?」
「さっき仲間にした人の部屋はあるの?それと、ローちゃんとは誰が同室になるの?」
「……コラさん」
私の質問にローちゃんはただ、ロシーを呼ぶ事で答える。すると頷いたロシーが私に困ったような顔で視線を向けつつ、唇を動かした。
先程仲間になった人は、元々他の船で船長してた人だもの、粗末には扱えない筈。そして、もし船長が最強な船なら彼が仲間からの助けを期待せずに自力でのチャンスを狙ってたのも分かる。
ただ、天竜人の持ち物だった彼は、刺青ではなく焼印を押されてる筈。炭なら抜けても、焼印はどう対応するつもりなんだろう。
「俺とローは個室だ。仲間が増えてるとは思わなかったから、彼にはとりあえず俺と同室で我慢して貰うから、ナミは大人しくローから治療されるといい」
「……私は大した事、無いのに。そんな事より、仲間にした人の健康診断しておかないと。天竜人の……所に居たんなら、今後の事があるでしょ」
「この、お人好しが。……そんな事とはなんだ、そんな事とは。ナミのこれで大した事ねェなら、怪我人なんてこの世にそう多くねェぞ」
「お人好しじゃない!ただ、どうしても心配になるわよ。〝太陽〟にする訳にはいかないでしょ」
「十二分にお人好しだ馬鹿が。……ナミはウチのクルーじゃねェ。そんな事教えるか」
ローちゃんにそう言われてしまえば、項垂れるしかない。ロビーに該当するだろうその場所で、私をソファに降ろしたローちゃんは、自らのクルー達にロシーから渡された部屋の鍵を確認しつつ、配りながら注意事項を伝え始めた。
その時私の隣に立っていたのはロシーで、視線をチラチラと向けて来ながら切なそうな顔をされては声をかけないなんて選択肢は無い。……気にしてる、わよね。
「ロシー」
「はいっ!」
「……反省した?」
「はい!」
緊張した様子で同じ返事を繰り返すロシーに、笑ってしまう。いつか、愛する人が現れた時に困ってしまう事になりかねないからと、私はそっと笑みを浮かべる。
こんな小娘相手に、偉そうにする事もない優しいロシーが、自分から人を傷付けるような事を出来る筈無かったのよね。気付けなくて、悪い事しちゃったわ。
教えておかないとね。ロシーは賢い子だし、優しい子だから、話せば分かってくれると思うのよ。
「なら、もういいわ。……ただね、ロシーは体格も大きいんだから、無理にそういう事しちゃダメよ。相手の人を傷付けちゃうから、ね?」
「……ナミ、俺がナミを好きだって言ったの、覚えてるか?」
何故か震える声でそんな事を言われるから、私は笑顔で頷く。そっか、怒られた事で嫌われたかもって考えたのね。
「覚えてるわよ。大丈夫、私もロシーを大好きよ。……ローちゃんからの指示だったのは聞いたわ。だから、そんなに自分を責めないで……ね?」
ローちゃんは、私を仲間に引き込もうと考えたのかな。それで、ロシーと恋人関係にでもなればと思ったのかもしれないわね。
そう考えれば、今回も銃弾抜いてくれたりとかして、助けてくれたのも納得出来る。私が夢で見ていた事が現実だったのならば、姉のように慕ってくれてたとも考えられるもの。
そうなれば、兄のように慕っているロシーと私が1緒に居てくれたらと願う気持ちは、分からなくもない。だけど、それを受け入れてはあげられないけど。
「ナミは、何も分かってねェ」
ロシーの声に、言葉に驚いて顔を上げると目の前に迫るロシーの顔があった。そんなに近く無くても、声は聞こえるわよと言おうとした所に、重なる唇。
キスの味なんて、相手が違うからとそんなに変わるものでもない。確かに酒をよく呑む人間は甘く、煙草を吸う人間のそれは苦い等の違いはあるけど。
でも今はそんな事を考えてる場合じゃない。脳が現実を受け入れたくなくて、現実逃避に考える事がコレってどうなんだと自分でも思いながら、離れようとその巨体を押すけどビクともしない。
それでも逃れようと首を振っては、追い掛けてくる唇に再び囚われ、更に強く貪られる。なのに……尽くしているのだと、傷付けたい訳じゃないのだとそのキス1つで伝えてくるのだから卑怯だと思う。
「んんっー!」
「こういう意味で、ナミが好きで、求めてるって言ったんだ。理解、出来たか?」
唾液に濡れた私の唇を舐めながら、ロシーが問い掛けて来る。間近に覗き込んで来るその双眸が、本気なのだと伝えて来て、逃げるなと言う。
「な……そん、なの……」
「俺は、昔からナミ1筋だ。その上で言うが、無理矢理にでもナミに触れた事を、後悔するつもりはもう無い」
思わず両手を伸ばし、ロシーの顔を押し退ける。だが、抗う手はすぐに捕らえられ、逞しい腕の中に押さえ込まれてしまう。
「私は、弟や息子のようにしか、ロシーを見られないわ!離して!」
「兄上にも、そう言ったのか?」
「え?」
「それで、止めて貰えたのか?」
「黙りなさい!」
振り上げた手は、その頬を迷い無く叩き赤く跡を残す。それにハッとしたのは、私の方。
傷付けたりするつもりなんて、無かったから。でもロシーはそんな私にロシーの方が不安そうな顔をして見せた。
「悪かった……。貶めるつもりじゃなくて、その……嫉妬したんだ」
「ロシー……」
「ナミ、俺じゃどうしても駄目なのか?」
「私は、ロシーだから駄目なんじゃなくて、私の全てがルフィのものだから、駄目なの。私は船長と定めた人に、いつも全てを捧げて生きて来たわ。最初の船長には、守られてばかりで、鍛えて貰って、与えて貰って……何も返せなかった」
「最初の船長?」
「……調べてみたら?名前も二つ名や通り名も手配書にあるもの。ロシーなら、調べられるでしょ」
クスクスと笑えばロシーが確かにと言う。そんな素直な様子に、少しでは無く愛しいなと思ってしまうのは、きっと夢の中での出会いと、ドフィから聞いている幼い頃の話のせい。
記憶にはなくても、きっと可愛かっただろうと思うのもある。それに、慕ってくれるその様子がどうしても幼さを残してる気がしてしまうんだもの。
それから、少し表情を引き締めて、言い切る。今の私はルフィのものだと伝える為に。
「この身体も、命も、魂も、人生や夢だって、
私の言葉にロシーはそっと腕を離して、私を解放する。その時周りから漏れる感嘆の声によりここがホテルのロビーで、敵船って括りに入る人達に囲まれてたのだと思い出す。
その為に真っ赤になってしまう自分がいて、多分完熟トマトよりも赤いだろうって分かってしまう程。そんな私の頭に手を置いて、行くぞと声をかけてくれたのはローちゃんだった。
私がこの場を離れたい1心でそれに頷くと、ローちゃんは私を抱き上げるとロシーに視線を向けて、唇を動かす。それに音は無い。
なのに頷いたロシーを見て、ローちゃんは歩き出す。動けないから素直に運ばれてるけど、なんか、本当に情けないわ。
「強く、ならなきゃ……」
「ナミは、何目指してんだよ。充分過ぎる強さだろ」
「え?」
「ほぼ1人で二体の熊を倒した。奴は七武海だ。それを……ああも簡単にな」
その言葉に私は首を横に振る。だって、私はローちゃんに庇われて守られて、キッドとローちゃんの協力の元であの動きが出来たんだもの。
私1人で倒せた訳じゃない。修行後のルフィみたいに、1人で倒せた訳じゃ無いわ。
強く、ならなきゃ……全て喪ってしまう。私には、今すぐにでも戦える力が必要なのよ。
大将相手に、僅かな時間でも渡り合う実力が必要なのだから。しかもその相手は、私の手配書が生け捕りのみとはいえ、それで攻撃を辞めてくれるような生易しい人物じゃ無い。
「私は、もう何も喪いたくないの。その為にはまだまだ、何もかもが足りないわ」
「……背負いすぎなんだよ、ナミは。目に映る全てを守ろうとするな」
そう言いながらローちゃんは私を部屋に運び込んで、当然のように服を脱がせて来る。それにちょっと待とうかと声を出すけど、服を着てたら治療出来ねェだろうがと言われては、抵抗する事も出来ずに、大人しく腕を下ろした。
武器を外されて纏めて置かれた後で、ビキニ姿にされた私はローちゃんに言われるまま背中を向けたり、腕を出したりして治療を受ける。力を抜いてろと言われて、壊れ物を扱うように腕を持ち上げたり動かしたりしながら確認しているその顔は確かに医者だ。
読んでいた頃の記憶は薄くなってしまっていて、残っているのはどうしても夢で見ていた幼い頃のローちゃんのイメージ。その為に何だか感慨深いと言うか……。
その為に泣きそうになる。身体が、大きくなっただけじゃないのね。
「……立派になって……」
「……姉とか、母親越えて親戚のオバサンとか、婆さんな雰囲気で喋ってんじゃねェよ。今は、俺より歳下だろうが」
「あら?そうだっけ?」
言われて考えてみれば、ロシーやドフィも私より随分歳上なんだって思い出す。なんか、幼いイメージがあったけど、そう言えばそうよね。
ドフィやロシーもそうだし、ローちゃんも十代では有り得ない。言われるまで、気付かなかったわ。
「確かに、十代じゃ無さそうよね。言われてみれば」
「……十代?」
「私、今18歳だもの」
歳下なら、最年長で17歳……つまり、ルフィと同じ歳って事になる。そんな事を考えていたらローちゃんがその眉間に皺を寄せて、嘘だろうと呟いた。
「流石にナミを20歳以下とは、思って無かった。その歳で、あの決断力かよ。……ナミ、お前うちの船に乗れ」
「断るわ。私は麦藁の1味の……いいえ、ルフィの航海士なの。他の船に乗るつもりは無いわ」
「他の船の事も1度知ってみてもいいと思うぜ?」
「他の船なら、乗ってた事があるから気にしないで。それで、治療は?」
私の問い掛けに後少しだと言いながら、ローちゃんはそっと立ち上がる。何かを考えているようなそれに、どうしたのかなと視線を向けたら、何故か視線をそらされてしまったけど。
腕や足、腰や肩にまでテーピングをしてくれて、身体が動かしやすくなってるので本当に有難く思う。外科だと言ってたけど、整形外科とか、スポーツドクターとかの役割も担ってるのかも知れないわね。
そんな事を思いながら、私は呑気に腕とか足を動かしていた。動ける事が、有難いなと心から思いながら。