※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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受け止める※

 もう終わるのだと信じて弛緩する体に気付いていながら、ローちゃんは片手で胸の飾りを弄り始める。それに制止する為に私が唇を開くより早く、ローちゃんはもう片方に唇を寄せて来た。

 そして、飴を転がすかのように舐めたと思ったら、そのままチュウッと音をたてて吸う。その為に制止する為に開かれた唇からは、甘ったるい声が漏れる。

 

 「や……ぁ!……めっ!」

 

 ただそれだけの刺激で、私の体は中にいるローちゃんを強く締め付けてしまう。落ち着いたと思っていた矢先にこれだったのだから、ある意味当然かも知れないけど、拒絶の為にと暴れる力は弱まっている。

 それに戸惑い、でも受け入れたくなくて強く眼を閉じると刺激が強く感じられて、余計につらくなってしまう。そうなると今度は身の内に収まっているローちゃんが、ドクリと脈動したのを感じてしまった。

 恐ろしい程の灼熱の塊が、感じやすい粘膜を擦る。内臓を押し上げるような衝撃が私を包む。

 瞬きさえ忘れ、眼を閉ざしている事も出来なくなる。宙を泳ぐ私の瞳に交錯しているのは、どんな感情なのか。

 ただ、そう……こんな状況でも、わかる事がある。ローちゃんの攻撃は、やり方は、自滅を厭わない。

 勝つ事しか頭に無くて、打ち倒す事しか知らない。自らを傷付けてでも相手を斬る、諸刃の剣だと言う事。

 それを受け止めるには、本来同じだけの技量と覚悟が必要なのだろう。技量と言う意味では、ともすれば並べるかもしれない。

 けれども私に、その覚悟はあるのかと自分に問い掛けて、幼い頃のローちゃんが震えている姿を思い出す。泣く事も、絶望する事も、もうし尽くしてしまったと言わんばかりの虚無の瞳が脳裏に浮かぶ。

 ここでローちゃんを突き放して逃げ出す事も、きっと私が全力でやればどうにか出来る。冷静になって、演技の1つでもすれば、ローちゃんが動揺してる隙に逃げられると思う。

 でも、それで私は後悔しないの?

 抱かれたくなんかない。私は、ルフィにしか触れられたくない。

 辱められる謂れなんか無いと叫びたくなる。その想いは変わらないけど、あの頃と似た瞳をするこの子を見捨てられるの?

 相手から向けられる殺気に、尻込みした。だから負けを認めて好きにさせるとか、逃げ出すとか、そんな事をする私は、既に私では無い。

 例え力尽きて倒れようと、苦しんでる人から目を背けたりしない。ローちゃんは、求めてくれてるのよ。

 まだ、人を求める心がローちゃんには残ってる。ならば、私は見捨てたり出来ない。

 

 「……構わないわ」

 「え?」

 

 整いきらない呼吸の合間で、惚けたような顔をするローちゃんに言う。ゴメンね、ルフィ……私、この子を見捨てられないや。

 

 「治療費がそれだと言うのなら、来なさい。受け止めてあげるわ」

 

 この時ナミは、自分がどんな顔をしているのか分かってはいない。明らかに強姦に該当する行為の途中で、傷付いて暴れる子供を迷わず抱き締める事を選んだそれにより、ローが泣きそうになっている事にも、気付いてはいないのだ。

 ただ、見捨てる選択肢が無いのであれば、犯されるのでは無く、抱き締めてあげなければと思っていたに過ぎないのだろう。それでも、そんな事を選べる人間がどれ程居るだろうか。

 無防備に開かれた身体に、ローは口付ける。胸元から腹部へ。

 腹部へのキスの意味は、回帰。胸へとキスの意味は、所有である。

 

 「本当に、泣かねェな、ナミは」

 「ローちゃん?」

 「今更、止まらねェぞ。俺は……ナミを」

 「好きにしなさい。私は、ローちゃんを見捨てたりしないわ」

 

 身体の中に自分ではない者がいる現実の中で、ナミは微笑う。慈愛をその瞳に宿して。

 慟哭とも取れるような、叫びのようなローの声が室内に谺響する。全力で細いその身体をかき抱きながら。

 

 「誰にも渡さねェ!ナミは、爪の先まで、俺のものだ……!」

 

 いっぱいに埋め込まれたソレが、動きを開始する。ドクン、ドクンと激しく脈打つ鼓動が、体温が、喘ぎが、情念が、感じやすい場所を通じてどちらのものなのかさえ分からなくしてしまう。

 激しく奥を穿ち、脳天まで痺れるような衝撃を与えたと思うと、次の瞬間には敏感な粘膜を擦りながら、愉悦の波と共に引いていく。それは即ち、終わりを意味しているなんて、そんな事は有り得ない。

 

 「ひっ……や……あぁぁ!」

 

 ナミが抑えておきたいと願う喘ぎさえ、抑えられずに漏らしてしまえば、ローは満足そうに笑う。それはそうだろうと、きっとローを知る者は皆納得する。

 今のナミよりもずっと幼い頃から、想い続けてきた初恋の、命の恩人が自らの腕の中でその美しい肢体を晒し、優しく己の全てを受け入れてくれているのだから。どうしたってナミは甘い。

 それを話には聞いていても、最後には拒絶されたまま傷付ける事しか出来ない事をローは分かっていた筈である。それにも関わらず、手を出さずにはいられなかった。

 それでもただ生きていて欲しいと願ったが故か、それとも子供を見捨てられない甘さに加えて、1度受け入れた相手を傷付ける事を恐れるナミの精神故か。どんな理由にせよ、この有り得る筈の無かった交わりは現実に起きているのだ。

 濡れた粘膜が、去っていく楔を押しとどめようとして淫らに絡み付いていく。そうして空いてしまった空間を目指して、再び、堅く、太く、逞しい、情熱の塊が突き上げてきた。

 その時、高く掲げられていたナミの両足は爪先までピンと仰け反り、押し寄せる悦楽の波に打ち震える。全てを受け止める、己を犠牲にする事しか知らないナミは、その時になって人体について知り尽くした男に好きにしろと言った愚かさを思い知る。

 ギシギシとベッドを軋ませながら、引き抜かれ、また貫かれる。その度にナミの唇から、あられもない喘ぎが漏れる。

 羞恥に染まる肌から、玉の汗が滴り落ちる。荒く上下する大きな胸の先端にある飾りは、快楽の激しさを物語るように、触れられても居ないのにプクリと立ち上がっていた。

 

 「ナミ……今は、俺だけの……!」

 

 陶酔の叫びと共に、ローの唇がナミの胸にしゃぶりつく。真っ赤に充血し、痛い程に感じやすくなっている突起に歯を立てられると、その衝撃でナミの全身がビクリと引き攣る。

 それによりナミは、中に埋め込まれているローのモノをキュウッと締め付けた。それにローは小さく唸ると、圧迫感から逃れる為に、大きく、激しく腰を前後に揺さぶる。

 

 「やっ……!いやぁぁァぁ!!」

 

 めいっぱい狭くなった内壁を無理矢理広げられ、掻き回される。拷問の方がマシだと思うようなその攻めに、ナミの口から悲鳴にも似た嬌声が迸った。

 

 「何が、嫌だよ!良くて堪らねェんだろうが!……好きなだけ鳴けよ、この部屋の音は外に聞こえねェ」

 

 それはつまり、この部屋に運ばれる前にローちゃんがロシーとしていたやり取りは……!

 なら、ローちゃんは初めからこうするつもりだったのか。なのに、素直に治療だけだと信じていた自分が怨めしい。

 けど、それがもし分かっていたとしても見捨てられる筈が無い。こんなにも脆くて、壊れかけている少年を……!

 ならば結果は同じだっただろう。これの他に、今ローちゃんをその衝動から救う手立てはないのだから。

 

 「愛してる。ナミ……!」

 

 ゴプリと粘着質な音を立てながら、ローちゃんの太い楔がめくれ上がった壁を押し込むようにして、私の中へと埋まって行く。潮のように押寄せる法楽の波に揺らされながら、声を押し殺す理由を奪われてしまった私は、もう声を抑える努力さえも放棄してしまった。

 今出来るのは、激しく前後する動きに合わせて腰を揺らすだけ。ただ、狂暴な野犬のような気配で、縋るように向けられる激しいそれを、受け止める事だけだった。

 やがて私の最奥に、限界を超えたローちゃんの熱い迸りが放たれる。それに呼応するように、私自身の身体も身を震わせ限界を超えた。

 その瞬間、脳裏に浮かぶルフィの顔に、ごめんと内心で謝ればローちゃんの手が頬を撫でた。私の顔に走った戸惑いにも似た翳りの色を、ローちゃんが見逃す筈も無かったのだ。

 

 「悪いな……甘えちまって」

 

 何処までも残酷になりきれない。本質的には心優しい少年が、大人のフリをして目の前で笑う。

 ただ、その笑みは苦い自嘲のものだったけれども。それでも、その瞳に宿る強固な意志と、欲望は消えていない。

 抱いた事に後悔も迷いも無い。今も未だ、足りないくらいに求めているのだとその眼差しで訴えて来る。

 それでも謝るのは、やはりルフィの存在があるから。私がそれで苦しむと分かっているのだ。

 

 「許してくれ。俺は、ナミを諦められない。俺に手を差し述べればこんな未来しかない。……これが嫌なら、助けないでくれ」

 「ローちゃん、私は……」

 「助けると言うなら、不運だったと、諦めてくれ。俺に、見込まれた不運を嘆いてくれていい」

 

 不運……?

 確かに私はこんな事を望んではいない。けど、後悔はしてないのに?

 あるのはルフィへの罪悪感と、中途半端に手を伸ばすしか出来ない愚かな自分への憤り。ローちゃんの絶望を、私もまた恐らくは知っているのに、何も出来ない無力感が私を苛む。

 その絶望の種類や重さが、全く同じではありえない。けれども、だからこそ同情ではなく、受け止めて支えたいと思わされたのよ。

 最も愛する者を、二度と取り戻す事の出来ない絶望。その癒し難い喪失感から這い上がる為、どれ程私だって足掻いた事か。

 だからこそ、私は断言する。不運なんかじゃない。

 

 「違うわ」

 「え?」

 

 私は両手を伸ばして、泣き方1つ忘れてしまった可哀想な少年をしかと抱き締める。例えこれが許されないのだとしても、見捨てて逃げてしまっては、きっと私は二度と自分を保てない。

 それに、伝えなければ後悔する。私の人生を、他人に判定されたくなんて無い。

 

 「私は……この世で最も幸運な生き物よ」

 「ナミ……」

 「命を、人生を、全てを託せる男がいる。孤独に泣く事さえ出来なかった可愛い少年は、成長して立派なお医者様になってくれた」

 

 肩を、汗では無い雫が濡らす。恋愛感情では無いけど、どうしたって私はこの子が愛しい。

 育ってくれた。あの過酷な過去を自分の過去として、けれども懸命に。

 ローちゃんの過去の全ては知らない。けど、ローちゃんは私について、殆ど何も知らないのだ。

 

 「嫌な事も、辛い事もあったわ。幸せなだけじゃなかった。でも、それを凌駕する幸福もあったわ。……ローちゃんは、無事に成長して、ロシーと仲良くしててくれた」

 「くっ……!」

 「亡くしたくないと想える、大切な人が増えたのね。これからも、大事にするのよ」

 

 無言のまま頷くローちゃんの頭を撫でながら、その気配が手負いの獣から、泣くのを我慢して震えている少年のそれに変わるのを感じていた。よく、頑張ったねと頭を撫でる事しか、私には出来なかったけど。

 それから暫くの後、色々落ち着いたらしいローちゃんは動きを全く見せなくなってしまった。羞恥心で動けないのだろうと分かるけど、私としては抜いてもらいたい。

 

 「ローちゃん」

 

 呼び掛けるとビクリと震えるその体は、明らかに私より巨体なのに、小さく感じる。全く……。

 

 「私、シャワー浴びたい」

 「……分かった。出たら、テーピングのやり直しと、薬を塗り直すから……逃げるなよ」

 「はいはい、でも、もう治療費の支払いはしないわよ」

 

 そう言って笑えば、小さくない舌打ちをしてから、無造作に楔を抜き去るローちゃんがいた。私はそれにビクビクと震える身体が恨めしくて、声を抑えて衝撃をやり過ごす。

 そんな私の事を見下ろして、ローちゃんは心配そうな声を響かせる。先程私を貪っていたのとは違う、医者としての顔で。

 

 「……ナミは、媚薬とか使った事があるのか」

 「なんで……?」

 「身体の反応が、常習者にありがちなものを見せていたからな。ナミの性格じゃ、自分からは使わねェだろ。それで気になった」

 

 私はなんと答えようかと思いながら体を起こして、そっと手を伸ばす。それによりベッドに腰を下ろし直したローちゃんの前に立って、その頭を撫でる。

 

 「……気にしなくて良いのよ。いい子ね」

 「だから……!今はもう、俺の方が歳上だって言ってんだろうが……!それと、次にちゃん付けて呼んだらタダじゃおかねェからな!」

 

 その時、夢の中で私に何かを叫ぶように怒っていた、幼いローちゃんの姿が今の姿とダブった。きっと幼い頃のローちゃんもこうして、怒っていたのだろう。

 そう思ったら、やっぱり変わってないところもあるわねと思って、笑ってしまう。そして私は、ハイハイまた後でね、ローちゃんと言い残してシャワーを浴びに向かったのだった。

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