※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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襲い来る者達

 誰かに、呼ばれてる気がするわ。聞き馴染みのあまり無い、けれども優しい声が聞こえてるような……?

 その刹那、ハッと意識が覚醒する。少し重いような気がする鈍い頭を横に振って、状況を把握する為に眼を開けば面白そうに笑う顔が近くにあった。

 

 「可愛いな、ナミちゃんは」

 「……は、い?」

 「余りにも目覚めないから口付けでもしようとしたら、首を振って拒絶して……だが、その様子では分かってやった訳じゃ無さそうだね」

 

 言葉を失うとは正にコレだろう。何言ってるの、この人。

 状況把握が上手くいかない。何が起きてるの?

 

 「ルフィの所の金銭管理は君がしていると聞いたが、間違いは無いかな?」

 

 突然それ迄の揶揄うようなその口調を1瞬で塗り替えて、真剣な様子で尋ねてきたそれに素直に頷けば、顔をそっと離して近くの椅子に腰掛けたのが見える。それにより周りを見れば、木造の建物だと分かり、何処だろうかと思案しながらレイリーさんに意識を向けた。

 着衣は逃げ出して来た時のそれから変わっていなくて、身体に残る倦怠感等からそう長い時間眠ってた訳ではなさそうだと理解出来る。窓から入る陽の傾きや強さから、半地下の位置にある建物かとは思うけど、何故ルフィの所に運ばなかったのか。

 

 「噂に違わぬ冷静さと知性か」

 「……どのような噂かは存じませんが、恐らく誇張されたものでしょう。私は単なる美少女航海士ですよ」

 

 クスクスと笑いながら応えるも、探るような試すようなその視線から逃げられるとは思えない。この人は恐らくだけど……ベックと同種の生き物だ。

 導いたり、試したりして、大切な誰かをサポートする事に恐ろしく慣れた男。そして、コレと決めた相手の為ならば、自分の心さえ平然と投げ捨てられるような人物。

 でもそれは見せ掛けだけ。実際の心は孤独に悲鳴を上げる脆さを隠している……強がりな人。

 

 「……人間観察をするのは癖だが、されるのは珍しい経験だ。私が探ってる間に、ナミちゃんも私を探っていたね」

 「お互い様なら、とやかく言うべき事でも無いでしょう。……今回ルフィの所に運ばなかったのは、何かお話でもあるのかと思っておりましたが、違いましたか?」

 「正解だよ」

 

 そう言ってふっとその眼差しを優しく細めた姿に、遠いなぁと心から思う。勝とうとか、並ぼうとか、そんな事さえ考えられない。

 

 「……コーティングの話ですか?それとも、他の何か?」

 「ん?あァ、コーティングの代金だが……無料にしても構わないと思っていてね。その交渉だよ」

 「条件は?」

 「ナミちゃんだと、そう言ったらどうする」

 「断ります。私、そんなに安くないんです」

 

 ニッコリと笑って答えれば、レイリーさんは確かに笑った。それも、楽しそうに。

 それからすぐに、他にも願いを叶えてあげようと言われてもかい?なんて言われてしまう。それは、少し魅力的にも思えたけど、私はルフィしかいらないから、寧ろ触れてほしくないから、結構よと言って重ねるように金額を問う。

 

 「金額は、ナミちゃんだと言ってるだろうに」

 「巫山戯てないで、真面目に答えてください」

 「……本気だが?」

 「え?」

 「君は、海賊として生きるには、綺麗すぎる」

 

 その言葉と同時に寝かされていたベッドに押さえ付けられれば、何すんのよと睨み付けるのも致し方ないだろう。そもそも、それ程お綺麗に生きて来たとは思えない。

 

 「何を勘違いしてるかは知りませんが……」

 

 そう前置きして、私はふっと笑うとその手を振り払いつつ身体を起こす。脳裏にはミホークやドフィが浮かび、本当に綺麗でなんていさせて貰えないわよと内心で言葉を重ねる。

 ナミちゃんの肉体だからと言う罪悪感はもう無い。でも、この身体を傷付ける事に対する忌避感は強いのよね。

 

 「私はお綺麗なお姫様じゃないわ。今回はレイリーさんに助けて貰ったけど、こういう事も、これ迄に何度もあるわ。女海賊だもの、望まないのにこんな事は多くあった」

 

 私の言葉に、レイリーさんは意外そうにその顔に驚きの色を乗せる。だからそれにふっと笑って、それから立ち上がった。

 ……早く、ルフィの元に帰りたい。私もルフィに甘えたいし、何よりもルフィを安心させたいのよ。

 

 「その度に傷付くのは私じゃなくて、ルフィや仲間達。……そして、私に手を出した相手だった」

 「どう言う、意味かな?」

 「襲っておきながら、傷付けられてるのは自分とでも言いそうな瞳で、私を見るのよ。……嫌になっちゃうわ」

 

 強姦魔共がどうしてあんな顔をするのか。私は、元々性的な事は得意じゃないし、楽しめるような性格でもない。

 だからこそ、ルフィ以外に触れられるのは嫌なのに……。この身体は恐ろしく敏感で、快楽に弱いのだから悲しくもなる。

 そんな気持ちを振り払うようにそっと武器に手を伸ばして、それらを指先で撫でて行く。10年以上の時を共に過ごして来た大切な武器達は、触れてるだけで強くなれる気がする。

 

 「ナミちゃんは襲われて居ながら、それを感じ取っていたのかい?」

 「……好きで感じ取る訳じゃありません。多分、癖なんだと思います」

 

 ちょっとした仕草や視線から、相手の感情を読み取り、次の行動を予測して、そうやらなければ力ではどうしても敵わない相手に好きにされてしまう。私はナミちゃんの身体を使ってるし、実際普通のお嬢さんから見たら妖怪じみた筋力を持ってると思ってる。

 拳で岩程度なら砕けるし、筋肉質で長身な男達を両手なら抱えたり出来る。片手でも、引き摺ったりしてであれば運べてしまう。

 体力だって恐ろしいと思う程にあるし、脚力だって空を跳べてしまう程にはある。だからこそ、出航したメリーにあの時も飛び乗れたのよ。

 ……それでも、ルフィ達には遠く及ばない。当然そんなルフィを倒せるような彼等に、私がそう言う意味で勝てる筈はない。

 だからこそ、知識と情報で戦って来た。それでも、ここまで格上の相手達では……戦いにならない。

 大将という肩書きは、伊達じゃないのだと思い知らされる。そんな彼等と戦い、勝てるようにならなくてはならないのだ。

 

 「ナミちゃんは、敏感で、優しい。本当に愛玩動物を思わせるね」

 「兎とか、猫とか、よく言われますね」

 「さもありなん。兎は弱いから耳で情報を集め、逃げ惑い、けれどもイザとなると噛み付く事で生きようと足掻く。猫もそういう意味では近い生き物だね」

 

 穏やかなその声に、私はふふっと笑って頷いてから、振り向いた。助けてくれて、感謝してるのだ。

 だからこそ、さっさと金額交渉を終えてしまいたい。ルフィに早く会いたい。

 

 「助けて下さった事、心より感謝致します。それでは、コーティングの金額交渉に」

 

 言葉は最後まで紡ぐ事が出来なかった。いつ距離を詰められたのかさえ分からないままに、重ねられた唇からラム酒の甘味を感じ取ってしまう。

 どうして海賊と呼ばれる人達は、ラム酒をラッパ飲みするのか。ラム酒はそんなに弱い酒じゃないって……そんな事考えてる場合じゃない!

 慌ててその顔を押して引き剥がそうとするけど、何故か全く動かなくてそれどころかその手が私の唯一身に付けていたバスローブを簡単に肌けさせてしまう。腕が上にあるから、1応布が身体にまとわりついてるって感じの状態になっている。

 これでも本気で抵抗してるつもりの私を簡単に押さえ込んで、それどころか腰を支えるように抱かれたと思ったらそのまま床に押し倒されてしまう。その衝撃で離れた唇の隙間で思わずルフィを呼べば、レイリーさんが楽しそうに笑った。

 

 「ルフィの女か、ナミちゃんは」

 「……そう、よ!だから、な「都合がいいな」」

 

 何、都合って。何かあるの?

 そう思ってレイリーさんを見れば、悪戯に成功した子供のような顔をしていた。それにより自然と眉間に皺が寄れば、可笑しそうに笑ってからゆっくりと唇を動かし始めた。

 

 「ルフィは、強くなる必要性を今の所余り強く感じていないだろう」

 「……そう、ですね。〝今〟は〝まだ〟ルフィは自分に絶望するような経験なんてしていない筈です」

 

 その経験をさせたくなくて、無い知恵絞ってるんだけどね。上手くいかないのは、どういう事なのか。

 やはり知恵が足りないのか。どうしたら、エースを喪わずに済むんだろう……。

 

 「そこで……君だよ」

 「え?」

 

 意味が分からない。私が男に身体を許してしまうのは、過去にもあったのだから今更そこにレイリーさんが加わっても何の価値も無いわ。

 そう思って口を開こうとしたら、レイリーさんは静かな声で言う。それは巫山戯ている様子でも、ただ熱を持て余してる様子でも無い。

 

 「ルフィの為に、恋人が身売りした。その事実が衝撃となる」

 「……どう言う、意味ですか」

 「船のコーティングと、他に私が君の願いを叶えると言った筈だよ。君はどんな願いを脳裏に描いた?」

 

 その言葉にビクリと身体が揺れる。だって、そんなの……。

 ルフィに、覇気を教えて貰いたいと願うに決まってる。私の知る話では教えてくれたけど、それはレイリーさんがどうしてそうしてくれたのかについて語られていない。

 もしも、気分であれば……覆ってしまう事だって考えられる。私は、ルフィが望む形で強くなって欲しい。

 

 「ルフィの役に立つだろう事を……と、考えたんじゃないかい?……それとも、ナミちゃんが困った時に助けて欲しいと願ったのかな?どちらにしても、ルフィには屈辱だろう」

 

 言葉と共に唇が首筋に降りてきて、混乱してる私はそれに抵抗出来ない。だって、屈辱って……どうして?

 

 「ルフィに、修行をつけて欲しいと願うのは……屈辱ですか?」

 

 確かに助けて欲しいと、私がルフィ以外に願うのは屈辱だろうと思う。でも、ルフィを鍛えて欲しいと願う事がどうして屈辱になるのか私には分からない。

 その時首にチクリとした痛みが走り、無意識に声が出てしまえばレイリーさんを睨み付けてしまう。こんな雑談のような事をしながらも、レイリーさんは当然のように身体を撫で回し私の反応を見ている。

 

 「ルフィを船長にと言うクルーが、それも自分の女が他の男に師事しろと言うのは屈辱だろう」

 「ルフィは、屈辱には思わない筈よ。……私では、ルフィに覇気を使えるように教える事が出来ないのだもの」

 「ナミちゃんはシャンクスに、教えられたんだったか」

 「そうよ。私からお願いして、渋るシャンクスから無理に教えて貰ったの。……多分、シャンクスは私の初恋だった」

 

 私のその言葉にレイリーさんは動きを止める。それから小さく笑うと、男を見る目は確かなようだなと呟いた。

 それに視線を向けて、ふっと笑うと覇気を纏った足でレイリーさんの股間を狙う。それをヒョイっと掴みそのまま足を割開いたレイリーさんは、じゃじゃ馬だなと言って笑うけど、タイミングは悪くなかった筈なのにと思えば悔しくてたまらない。

 

 「言葉だけで十分でしょ!?実際に抱く必要なんて、どこにも無い筈よ!」

 「私は、若いお嬢さんが大好きでね。それに……ただ、犯されるのもナミちゃんはそろそろ嫌だろう」

 「……どういう、意味……?」

 「そのままだよ。ただ抵抗するのではなく、ナミちゃんが堕として……悠然と立ち去ればいい」

 「そんな、技術無いわ」

 「だから、それを仕込んであげようと言っているんだ。この先ずっと……泣き寝入りするつもりかい?」

 

 その言葉に負けないだけの強さを得ればと、自信もないのにゴニョゴニョと口にする。すると嘲りを含んだ視線が向けられる。

 この人、こんな顔できたのか……。いや、きっとこっちが素だわ。

 

 「賢いのか、愚かなのか、甘いのか……いや、その全てか。……正直に言うならば、ナミちゃんがシャンクスより強くでもならない限り、この先にルフィと進むならば、それは叶わないだろうと思うぞ」

 

 どうしてそこで基準がシャンクスなのか。そう思って見れば、レイリーさんは私の大きく開かれたその場所に指を這わせながら言葉を続ける。

 身体は熱を持ち、それを拒もうと暴れても力が入りにくい。それでも、快楽に溺れる事も出来ない状態でレイリーさんは言葉を続ける。

 

 「シャンクスはナミちゃんを求めている。それを撃退出来ないのであれば、今の言い分は通らないだろう」

 「なん……で!シャンクス……っん……!」

 「ルフィとナミちゃんの話は聞いている。その時に気付いたさ。シャンクスも……いや、シャンクスはナミちゃんに惚れているのだと。その頃とは違い、ナミちゃんの身体は大人だ。……会えば犯されるだろうと思うよ」

 

 その言葉を私は否定できるだけの材料を持たない。寧ろ、言っているそれは正しいだろうと言うか、既に……。

 この先でまた会ったとして、シャンクスもミホークもドフィも、恐らく私を苦しめたりするつもりは無いだろうし、危害を加えようとする相手がいれば守ってもくれるだろう。でも……私に性的に触れる事に躊躇いはない。

 私がどれ程嫌がっても、彼等はそれについては辞めようとはしてくれないのだから。……そうなれば当然、彼らより強くなるしか身を守る手段は無い訳で……。

 レイリーさんの言葉には、寸分の間違いも無い。でも、そんなに強くなんていつなれるというのか。

 絶望に近いものを感じて目の前にいたレイリーに視線を向けたら、何故か1瞬息を飲んでそっと息を吐かれた。それから、少なくとも煽る才能は天才的だなと意味のわからない言葉を向けられてしまったのだった。

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