考え込んでしまった私に、皆はもう慣れたものである。その証拠に、いつの間にか寝ているルフィの傍に移動させられていた他は放置してくれていた。
でも、そんな私に慣れてないレイリーさんは苦笑しつつ声を掛けて来た。それにより視線を向ければ、その瞳を眇られているのに気付く。
「白髭が信用出来ないかい?」
「信用してます。ただそれでも、病の為に身体を動かすのも常人ならば出来ない程の症状でしょう。それを鑑みれば、今四皇の中では弱い方に分類されてしまう筈です」
「……それでも、私よりは強いと思うがね。今回は奴の大切な家族の命がかかっている。それにあの船には……「海賊王の船に居たメンバーも、何人か乗ってますよね。初めから海賊王と白髭の船の内白髭の船を選んだ人も居るようですが、海賊王の処刑後白髭の元へ行った人達も多い」」
言葉を遮って言えば、レイリーさんは驚いたような顔をした。それに内心でしまったと思うけど、1度口から飛び出した言葉は取り戻せない。
「……何故、それを」
「仲良し、でしたよね。船は違っても、目的は違っても、同じ海賊という立場で……喧嘩友達のような、いざとなれば共に手を差し出しあえるような関係だったと認識しています」
言葉と共にレイリーさんに視線を向ければ、シャンクスか?と呟き、いやそれは無いなと頭を横に振った。その様子に、冷や汗が出る。
そうよ、彼は、エースを大切な船長の息子だからと助けようとした訳じゃない。その事を知っている私は、見習であり子供だった彼にも知りえなかった筈の事を、自分が認識しているのだと気付いてしまう。
それは読んでいた頃の知識と、この世界で得た知識。そして双方の人生経験から、推察してしまった事に過ぎないけど……。
これは、少しばかり不味いかもと思えば血の気も引く。どうしよう、誤魔化すべきか、それとも正直に話すべきか。
「……天才、か。成程な。……ナミちゃん、君はこの先も世界に狙われ続けるだろう。いや、寧ろ酷くなっていくだろうね。それでも君は、逃げ隠れするのでは無く戦うのかい?」
「私、は……」
予想とは全く違う言葉を向けられて、答えに窮する。それと同時に、でも確かにと思う。
だって、当事者達しか知らなかった真実を私は知っている事がある。時に、当事者でさえ知らない事を知ってる事もあるのが、原作知識の恐ろしい所。
それらを含めた全てを情報として繋ぎ合わせれば、どうしても見えて来る答えがある。それは恐らく、この世界の真理にさえ近いもの。
隠されているべき部分。世界が、隠して来た事。
つまりは、ロビンが探り当てたい、空白の時代の真実にさえいつかはたどり着けてしまうという事。その上私は、ロビンから古代文字の指南を受けているし、政府が隠して来た都合の悪い多くの事を本にしている。
ただ同時に、料理や医術での貢献もある。だからこそ、あからさまに殺す事が難しい。
そんな私が海賊を続ければ秘密裏に抹殺するのは、確かにやりやすくなるだろう。それでも、下手に政府に関わりを持つよりは安全だし、居場所も割れにくい海上の方が生きられる確率は上がる。
そうなれば、害されないされない為に選べる手段として何が考えられるだろうか?
そこで思い付くのは、多くない。表舞台に堂々と立ってしまうか、手を出せないような相手にとって都合の悪い事をネタに揺さぶりをかける事。
他には手を出されても、確実に守ってくれる相手の庇護に縋る事。それらが無理ならば、自力で強くなるしか無いわよね。
でも、それなら……私の答えは決まってる。そう思えば、震えそうだった身体から力が抜けて行くのが分かり、ふっと笑いながら眠っているルフィの手をそっと持ち上げ、その手に口付けた。
私の全ては、ルフィのもの。ルフィに、全てをかけると決めた私に迷いは無い。
「……私は、ルフィの傍に居て、夢を叶える。最期まで足掻いて、それでももし夢半ばに倒れるなら、それは仕方ない事よ」
「……後悔は、しないか?」
「ルフィは海賊王になる。私は、世界地図を描く。……世界を1周しただけじゃ私の夢は叶わないし、ルフィが海賊王になったからって海賊辞めて大人しくする訳もない。……私は1生、ルフィの傍らにいて、ルフィの行きたい所へ連れて行くわ」
これでは質問の答えにならない事を知っている。でも、ルフィにお前は邪魔だから消えろと言われでもしない限り、傍に居ると決めている私には、これが唯一無二の解答。
世界がどれ程私を狙って来ても、ルフィも仲間達も、私を追い出したりはしない。逆もまた然り。
私がルフィに全てを賭けたように、皆も同じだと分かるの。そして、私が皆に対して何があってもその命を諦めないのと同じように、皆も諦めないだろうと分かる。
そんな中でもしも力尽きて倒れるなら、それは皆も1緒だと分かるし、断言できるわ。だから、後悔なんて無い。
「私を含めた麦藁の1味は、ルフィと共に全員が夢を叶える。途中で倒れた仲間がいれば、支えて行く覚悟があるわ。……それでも無理な時はきっと、全員が揃って倒れた時。……なら、構わない。ルフィと進むと決めた時に、その覚悟は決めてあるのよ」
「…………参ったな。惚れそうだ」
「ルフィに?」
どういう意味での惚れたなのか。そう思って問い掛けた私に、レイリーさんは笑う。
「それもそうだが、ナミちゃんに」
「冗談ばっか「ルフィ、もう起きているだろう。そろそろ動きなさい」」
軽口ばかりのレイリーさんに呆れて言葉を向けていた途中で告げられたそれに、慌ててルフィを見れば顔を少し赤くしたルフィが居て……。それから体を起こすと、ルフィは嬉しそうに笑った。
「ナミ、お前……俺をどうしたいんだよ。でも、先に言わないとな」
「なに、を?」
その瞬間、ルフィが私を強く抱き締めた。その温もりに何故か泣きたくなって、でも、泣いてる場合でも無いと知ってるからその肩口に頭を預けて、少し甘えるだけに留める。
「ナミ、ありがとう。そして、お帰り」
「うん、ルフィ、ただいま」
そう言って肩口から顔を上げるとルフィと視線が絡み、そのまま自然と唇が合わさった。それからはたと気付く、今此処に皆が居るのだったと。
慌ててルフィから離れようとしたけど、それに気付いたらしいルフィは私の後ろ頭をがっしりと掴み、更に深く蹂躙して来る。それに抗議の声をあげようにも、重なったそれが邪魔して上手くいかない。
「ンンンっ!!んーぅーっ!!」
その時ふわりと香ったのは花のそれで、えっと思った直後ルフィはベッドに抑え込まれていた。そうして私は、ロビンの腕の中に移動していると気付く。
ロビンを見上げれば、もう大丈夫よなんて優しく笑ってくれる。だから、少しの恥ずかしさをもって、でも甘えるようにその体に腕を回した。
「ロビン、邪魔すんなよなー……」
「ナミを公衆の面前で虐めないのよ。ナミにはルフィと違って、恥じらいというものがちゃんとあるんだから」
「……裸と余り変わらねェ姿で歩きまわって、平然と回し蹴りして来るのに、恥じらいだ?」
ゾロの声に私がうっと息を飲むと、ロビンがゾロをキリキリと締め上げ、直後に謝るゾロの姿があった。ロビンから解放されるのと同時にサンジ君がゾロに蹴りを入れようとして、そのまま2人で乱闘になるのを眺めながら呆れたような顔でそれを眺めるウソップとフランキーに笑ってしまう。
ブルックはそんな私にそっと近付くと、小さく良かったと言うからどうしたのかとその顔を見上げれば、表情は分からないけど、何かがわかる気がしてじっと見つめてしまう。そんな私の頭を優しく撫でて、ブルックは言った。
「無事に帰って来て下さって、その後笑っていなかったので……笑顔が見られてホッとしました。そこで……パンツ見「見せるかぁー!」」
いつものやり取りに戻り、いつの間にかロビンから解放されていたルフィが笑う。チョッパーは医療道具を片付けて、そっと近付いて来たのでその頭を撫でてから私はシャッキーに視線を向けて、二通の封筒を託す。
レイリーさんとの事が色々あった後、少し休むようにと言われてその場に1人残された間に書いておいた物だ。1通はルフィに宛てて、もう1通はレイリーさんに宛てて。
私の知識が正しければ、この先私達は別れ別れとなる。そして、レイリーさんがルフィと再会する時には、それぞれがそれぞれの場所から脱出を測ろうとしていた筈だわ。
その後ルフィが私の知る通りに行動を起こせば、それぞれが修行を開始する流れになる……筈。でも、私はそれにない行動をとる予定だから……せめて、言葉を遺したい。
万が一にも私がエースを助ける為に死んでしまったとしても、ルフィには前へと進んで欲しい。私はルフィの足枷にならない為に、この手紙を託したのだから。
レイリーさんへの手紙には、私が戦争で死ななかった場合は、ルフィ宛のそれを渡して欲しいと書いてある。そして、死んでしまっていた場合は、レイリーさんへの手紙の2通目にある方の手紙を渡して欲しいと。
当然ルフィへの手紙は、ルフィの背を押せるようにと願って書いた。これが不要そうなら、渡さずに破棄して欲しいとの事もレイリーさんへの手紙には書いたので、後はレイリーさんを信じるしか無いだろう。
「ナミちゃん、これは?」
「保険です。レイリーさんが帰って来たら、渡して下さい。レイリーさんへの方は、シャッキーが読んでも大丈夫だから、安心して」
「ナミちゃんが、うちの人を誘惑したりしないのは分かるわよ。モンキーちゃんしか見えてないじゃない」
クスクスと笑いながら言われたそれに、強いなと思う。そうして私は1足先に建物を出た皆の元へと歩き出す。
変えられるなら変えたい未来と、何があっても変えると決意した未来がある。どちらにしても、私はルフィの命を守り抜くと心から思い顔を上げた。
「ナミちゃん、船は41番GRだったか?」
表に出ると同時に問い掛けられ、それに頷くと勝手に行ってこようと言われありがとうとそれに返す。その刹那、レイリーさんが大将に気を付けてと皆に言うから、それに頷く。
「でも、ここにいても迷惑かけるだけだもの。じゃぁ……どこかでショッピングでもする?」
買い足しておきたい物もあるし、未来は固定じゃないし。そう思って口にした言葉にウソップが怒鳴る。
「ほのぼの
それからビブルカードをシャッキーから受け取った私達は、コーティング作業が終わるという三日後迄各自サバイバルで生き抜く事に決まる。それ迄の間に買物も済ませて置ければと言われた。
それからケイミーやハチ、パッパグに別れを告げて、三日後に魚人島への案内をすると言うハチに笑う。ケイミーが、幸せになってくれたら良いなと思いながら。
「三日後に会いましょう。見送りに行くわね」
シャッキーの言葉に頷いた私の傍で、ルフィが笑う。明るい様子のそれは、本当にルフィが言うと冗談じゃ済まない気がするから、止めて欲しいと思う。
「相手は〝大将〟だ。誰か死なねェ様にしねェとな!!」
それから思い思いの会話をしつつ歩き出す。遊園地に行かねェかと誘って来るルフィに、ブルックとチョッパーが賛同し、私とロビンを除いた他のメンバーがルフィに黙れと怒鳴る。
こんな騒がしさでは、どうしたって隠れたりするのには無理があるだろう。それでも、この騒がしさを止める気にはなれなかった。
……そう言えば、赤いチューリップとローちゃん達は無事にこの島を脱出出来たのかしら?
そう思って少し考えるけど、それは次の新聞で確認できるわよねと考えない事にして歩き出す。本来大騒ぎなっていたのはもう3日も前である事から、このまま無事に済む可能性も無くはないと考えたのだ。
けれども森の中に入って少しした時、それは儚い夢だったと気付かされる。望まぬ再会が待っていたから。
「誰だお前っ!!」
ルフィの声に全員が戦闘態勢に入る。ルフィ以外の全員が知っている相手なのだから、それはそれで仕方ないだろう。