※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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満身創痍

 ルフィに皆が相手が誰なのかを説明している間に、私は盛大な舌打ちを鳴らす。それはそうだろう。

 

 「4体目の、バーソロミュー・熊だなんて……政府はいったい何体の熊擬きを用意してあるのよ!?」

 

 それともルフィを含む我々を逃がさない為に、追加投入でもされたのか。その他に本人と、黄猿と青雉がいて、その他にも何か居た気がするのよね。

 ……この場を最悪の世代と呼ばれた人達が全員生き延びたのだとしたら、確かに強敵だわ。でもまずは、その未来の強敵よりも先に、目の前にいるこの敵を倒さなくては。

 

 「4体目ってどう言う意味ですか?」

 「私、皆と別行動してた時に、ローちゃんやキッドと共にあの熊と戦ってるのよ。そこで三体、倒してるわ。三体共にスリラーバークの時の熊とは違い、攻撃はビームだったけどね」

 

 サンジ君からの問に答えれば、皆の表情が驚愕のそれに変わる。つまり状況は絶望に近い。

 

 「ナミが、三体倒したのか?」

 「私は、手伝っただけよ。ルフィと同格の船長が2人いて、三体仕留めるのがやっとだったわ」

 

 ゾロの問に答えればチョッパーが声を震わせながら、私に視線を向けた。何とか打開策を模索しているらしい。

 

 「でも、それならその時にやった方法で、今回も倒せねェかな!?」

 「無理よ。ローちゃんの能力に随分頼った形での戦い方で、それにより生じた隙をキッドがついてくれたような形だったもの」

 「小娘!それなら、作戦は練れねェのか!?」

 

 無くはない。けど、今はゾロが……。

 そう思ってゾロに視線を向けると、ゾロは肩を軽く竦めて唇の動きだけで、気遣うなと言ってくる。それに私は強く目を瞑ってから、言葉を口にした。

 

 「何時もの3人で攻撃を仕掛けて、他のメンバーが何時ものようにサポートする。それが最善だと思うわ」

 

 下手な小細工なんかしないで、いつものように戦うのが1番リスクは少ない。そう思っての私の発言に、皆は1斉に頷き動き出した。

 でもそこで、私の想定を上回る動きを3人が見せる。サンジ君とルフィが剃を使いこなし、更にルフィとゾロ武装色の覇気を纏い攻撃を仕掛けたのだ。

 練習していたのは知っていたし、ルフィが剃を使えるようになっていたのも知っていたけど……!ルフィの剃以外は、私の想定には無かった動きで、でもこれなら……!

 この先への余力を残して勝てる!そう確信して、私は雷を充電して行く。

 相手がフランキーと同じようなサイボーグであると伝えれば、ウソップは熊擬きが口を開いた瞬間を狙い、攻撃を仕掛ける。フランキーは、皆に攻撃が向かないように熊の意識を逸らしてくれた。

 3人の攻撃とウソップの狙撃で動きの鈍くなった所へ、ブルックが攻撃を加えれば、戦いはほぼ決まったようなものだ。更にはそこへチョッパーも攻撃を入れてくれて、熊擬きはバランスを崩す。

 けれども止めを刺そうとしていた私の存在に熊擬きが気付き、口からビームを出そうとされれば流石に少し不味いかと思う。けれどもそれはロビンがその口を閉ざして守ってくれた事で、熊擬きの自滅となりある程度のダメージを与える形で私の安全が確保された。

 そうなればもう止めだけだ。私は無言で剃を用いて、サンダーランスをお見舞する。

 そうして何とか倒した熊擬きとの戦いの果てに、それぞれが座り込み感想等を言う中で、私はチョッパーから鎮痛剤と傷薬を貰う。そうしてゾロに鎮痛剤と飲み物を渡して飲むように勧める。

 そしてその流れで、明らかに開いたであろう傷口の治療をしようとした所で、新たなる敵が言葉を向けて来た。疲れていたのもあるけど、全く気付けなかった自分に嫌気がさす。

 

 「まったくてめェら、やってくれるぜ!!」

 「まー……流石は三日も、上手く隠れていただけの事はあるんじゃねェの?」

 

 鉞を肩に担いだ金太郎を思わせる人物と、皮肉としか思えない平和主義者(パシフィスタ)と呼ばれた熊擬きが姿を見せた。その上で、青雉までもが。

 ルフィはセカンド迄しか今回使わなかったし、ゾロは攻撃を受けずに済んでいる。皆も反撃らしい反撃は殆ど受けていないから、熊擬きとの戦闘だけならば何とかなるかも知れない。

 けど得体の知れない金太郎と、大将である青雉も居ては楽観的な見方は出来ないだろう。その時呟くようにサンジ君が言葉を口にする。

 直後にフランキーが怒鳴ったので、それに合わせて視線は鉞担いだ金太郎擬きへと移行したが。それでも、サンジ君の言葉は確かにと思わされてしまうものだった。

 

 「これが熊本人ならまだしも、そうでなければちっとキツいな」

 「てめェは何者だ〝鉞〟ィ!!」

 

 その後珍妙な会話を繰り返しながら、金太郎擬きは戦桃丸と言うらしい事を知るけど、同時に熊擬きから向けられた攻撃により私達は揃って息を吐き出した。それは既に、溜息と呼ぶのも烏滸がましい。

 

 「肉球じゃなくて、ビームだな。……考えたくねェが、ナミさんの倒したのも含めれば5人目のビーム。肉球もいるとなると……兄弟にしても多過ぎるだろう!どうなってんだ!?」

 「……今はその謎より、身の安全だ」

 「ああ……ハァ……ハァ……。ここは、逃げよう!!1緒じゃダメだ!!バラバラに逃げるぞ!!」

 

 サンジ君の言葉にゾロが答えれば、ルフィがそれを認めて声を出す。それにウソップが賛成すれば、三強は別れて逃げつつ他のメンバーを守る形をとるらしいと気付く。

 

 「ナミ!」

 

 ルフィの声に分かってるとの意味を込めて頷けば、後でなと笑うから、うんと頷いて走り出す。私とルフィは共闘するには良いけど、逃げるとなると互いに庇いあってしまうから別の方が合理的だ。

 

 「んナミさんは俺が守るぜーっ!!この俺の!!命にかえても~!!」

 「止めてサンジ君!冗談でも、命にかえるなんて言わないで!……でも、ありがとう。早く行くわよっ!!」

 「命懸ける覚悟があるならお前、全員の囮になれ」

 「レディー限定だクソ野郎!!てめェは勝手に身を守りやがれパンツマン!!」

 

 そんな訳で私は、サンジ君とフランキーの2人と共にその場を後にし始める。ゾロは泣き付いたウソップと、事情を知るブルックが共に逃げるらしいと分かり、ルフィの声が直後に聞こえて来た。

 

 「お前ら来い!!あっちへ逃げるぞ!!」

 

 それに従って逃げるのが、ロビンとチョッパーだ。それぞれが逃げる先に追いかけて来たのは、私達の所へは熊擬きで、ルフィ達の所に鉞、ゾロ達の所へ青雉という事になってしまった。

 私は短剣を引き抜くと細く息を吐き出して、剃で突進する。それによりやはり、泥棒猫生け捕りのみと言って攻撃を止めたので、その間に倒してしまおうと短剣で応戦する事が安易となった。

 そんな私の横にサンジ君が並ぶと、共に攻撃を仕掛けてくれるから、ありがとうと笑いかけた。そうして私とサンジ君の攻撃を受けて熊擬きがよろめくと、フランキーがすかさず攻撃を加えてくれる。

 連続攻撃になったそれを切らさないように再び私が切りつければ、何とか片腕を落とす事には成功した。バチバチと言っているから悪くは無いダメージを与えたのは間違い無い。

 その時ルフィが吹き飛ばされる声が聞こえて、ゾロ達の方から悲鳴が聞こえたと思ったら青雉だけでなく黄猿迄そちらに居るのが見えた。それにより何かを考えるより早く、私は空気を蹴ってゾロ達の元へと向かって行く。

 それが例えばルフィの決定に背くのだとしても、今向かわなければ喪う可能性が高過ぎる。でもその途中で青雉が私の前に立ちはだかると、今にも黄猿に殺されそうなゾロの元へ向かう事が出来なくなってしまった。

 

 「「ゾロー!!」」

 

 私とルフィの声が重なる。それを見てサンジ君がゾロの元へと駆け出したのは、自然な行為だろう。

 それにより片腕が無いとは言え、熊擬きをフランキー1人に任せてしまったのは申し訳無いけど。私も目の前の男相手では、どう考えても勝てる筈もない。

 足止めが精々よね。そう思って、でも1応聞くだけ聞こうと口を開く。

 

 「見逃して貰えたり、しないわよね」

 「ナミが俺のモノになるなら、他の小僧達は……数名なら見逃してやられるかも知れねェが、麦藁は駄目だな。……宝玉を捕らえた事で出るだろう仲間への恩赦を用いても、船長たる麦藁だけはどうにもならねェよ」

 

 青雉の言葉により、私は左手にクリマタクトを、右手に短剣を構えて腰を落とす。少なくとも今は、皆を信じてこの男をこの場に足止めするのが最善だと思ったから。

 地を蹴り短剣で切り付けながら、クリマタクトに熱を溜めていく。相手が氷なら、爆発で多少のダメージは通る筈だわ。

 短剣とクリマタクトの能力に頼れるから、私は見聞色にのみ覇気の力を使える。そうなれば躱すのはそれ程苦じゃないので、攻撃を仕掛けられそうな隙を探しつつ逃げ回れば良い。

 問題は今にも命を奪われそうなゾロだけど、それを気にして助けに行ける余力は無い。それが情けなくて、切なくなる。

 

 「……ゾロ……」

 「大将1人を自分に意識を完全に向けさせて置きながら、他に意識を向けるなんて……随分と余裕じゃないの」

 「今、大切な仲間を助けに行けないなら、この場に私が居る価値は殆ど無いわ」

 「ナミが居なけりゃ、俺1人でもこの場にいる全員の命を取れると思うんだが、その辺の事分かってんのかねェ……?」

 

 その時私の傍を駆け抜けた人のそれに、泣きそうになる。良かった、ゾロは助かるとそう思えたから。

 直後に響いた爆発音に、続く黄猿の声。それに笑って私は青雉に爆発を向けると、その場に立って小首を傾げてみせた。

 それに忌々しそうな顔を見せた青雉の後ろで、黄猿が唸るように言葉を口にする。そして、その言葉を向けられた相手は飄々とした態度を崩そうとはしなかった。

 

 「あんたの出る幕かい。〝冥王〟レイリー……!!」

 「若い芽を摘むんじゃない……。これから始まるのだよ!!彼等の時代は……!!」

 「おっさーん!!」

 

 ルフィの叫びを受けた直後、青雉はやれやれ酷い事するじゃないの……なんて言いながら黄猿の方へと足を進める。それに慌てて後を追えば、結果として地面に倒れているゾロを挟む形で、黄猿と青雉が並び、その前に私とレイリーさんが並ぶ形になった。

 落ち着いた様子で会話を繰り返す黄猿とレイリーさんのそれを間近に聞きながら、またいつでも爆発を起こせるようにとクリマタクトの準備を進める。そんな私に黄猿は視線を向けると、不思議そうに問い掛けてきた。

 

 「もしかして……〝宝玉〟先生かァい?」

 「そうよ。私は生け捕りのみ、レイリーさんは生きる伝説。さぁ、どうするの?」

 「クザァン……宝玉先生がこんなに戦えるなんて、わっしは聞いた記憶ないよォー?」

 「報告はしたと思いますけどね?伝達ミスか、必要な情報だと思われなかった為に、伝えられなかったんじゃないですかね?」

 「……珍しく、饒舌だねェ~?」

 「あー……なんだ?あれだ……。…………忘れた」

 「クザンとは、会話がなかなか成立しないねェ~。まァ、今はこの冥王からどうにかしないとだろうけど」

 

 何だろう。この気の抜けそうな会話は。

 そう思っていたら突然レイリーさんが、2人の相手は辛いかもしれないななんて言う。だから私は、足止めだけなら手伝えますよと小声で返した。

 

 「ウソップ、ブルック!!ゾロを連れて逃げろ~!!」

 

 ルフィの声に2人が即座に反応する。それに続けてルフィは叫ぶ。

 

 「全員!!逃げる事だけ、考えろ!!今の俺達じゃあ、こいつらには勝てねェ!!」

 

 ルフィのその声にサンジ君、チョッパー、ロビンは即座に駆け出す。フランキーは全てのコーラを使い果たして熊擬きを攻撃しつつ距離を取ると、そこから1気に駆け出した。

 

 「おっさん、ナミ、ありがとう!!」

 「うむ!!無事を祈る!!」

 「私には短時間の足止めしか出来ないわ!急いでね!!」

 

 ルフィとレイリーさんの会話が終わるのと同時に、私も慌てて声を出す。それに合わせたように、黄猿と青雉が動き出した。

 黄猿の動きをレイリーさんが剣で止めると、私もまた短剣とクリマタクトで青雉の動きを止める。追わせる訳には行かない。

 その為に私は殿を務めているのだから。今は、逃げてもらわなければ……!

 

 「おっとっとっ……!!」

 「君は行かせん……!!剣等久しぶりだ」

 「海軍大将が2人もいて……ルーキー1人さえ捕えられないってのは、流石に不味いのよ」

 「そっちの都合なんか、私には関係無いわ……!!」

 

 私が必死で青雉を止めている間に、皆が逃げてくれると良いのだけど。全力で戦っても、倒せはしないだろうと分かる実力差。

 殺さないように気をつけてくれてるからこそ、足止めが出来ているに過ぎない。分かっていても、ここで皆を今追わせる訳には行かないのだ。

 けれどもナミとレイリーが大将達を足止めしている中で、鉞の指示により熊擬きがゾロを狙う。それにサンジが気が付き、ゾロの元へと駆け出したのは今そちらに戦える人間が居ないからと言うのもあるだろうが、どうしたって大切な仲間であるからだろう。

 鉞はオジキが止められている現状と、青雉迄もが動けない現実に低く唸る。それからいつでも捕えられそうなフランキーよりも先に、船長であるルフィを追撃し始めた。

 ゾロを庇い熊擬きからの攻撃をモロに受けてしまうブルック、必死でゾロを抱えて逃げるウソップ。それを助けに入るサンジ。

 それでも尚、全員が満身創痍ではルフィもまたそちらに気を取られてしまうのも分かろうというもの。だがしかし、現状目の前にいるのはルフィよりも格上の相手であり、そんな事では勝てる筈も無い。

 ルフィからの言葉のままに逃げる事を優先したフランキーとロビンの目の前で、傷付き倒れ行く仲間達。そんな状態に耐えられなくなったのは、チョッパーが最初だった。

 無理だと、ダメだと分かっていて、ランブルボールを口にして……自ら仲間を守る為に暴走する。暴れ出したチョッパーを見て、ルフィを庇ったのはロビンだが……それにナミもまた気を取られてしまう。

 大切な仲間なのだ。愛しい人達なのだ。

 助けに行けないもどかしさに、意識を奪われるのは致し方ない事だろう。それでも、それを許してくれる程には甘くない青雉により、ナミもまたその手に捕らえられてしまった。

 

 「俺と戦ってる時に、余所事を考えるなよ……」

 「あお、きじ……」

 「戦っている間は、俺だけのものだろ?」

 

 巫山戯るなと叫ぼうとしたその時、空気が変わったのを感じて私は視線をゾロ達の方へと向ける。そこには本物の熊が立っていて……直後に、ゾロがその姿を消した。

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