ウソップとルフィは、ゾロが消えた事に明らかに動揺し戸惑い混乱しているのが分かる。私は掴まれてしまった腕を振り払おうとする事さえ出来ずに、呆然とそちらに視線を向けてしまう。
「ナミ、おい……ナミ?」
声を掛けてくる青雉に反応する事さえ、今は出来なかった。ただ、現実を受け入れられなくて、熊のしたこれが確か助ける為の行為だったとは思うのに……絶望しか与えてくれないのはどう言う訳なのか。
戦闘中に、こんな、事って……。駄目よ、戦わなきゃ、でも、ゾロが……。
ウソップが叫ぶように問い詰める姿を見て、必死にゾロを呼ぶルフィを見て、私は皆に聞こえるように声を発する。歌い慣れたこの声は、意識して大きな声を出さなくても良く通るのが唯一の救いだろうか。
「間違いなく、本物の〝暴君〟熊よ。スリラーバークでもああして女の子が消されて、帰って来なかったわ」
「向こうもカバーしたい所だが……」
私の言葉に続くように、レイリーさんが呟いたのを聞いて正気に戻る。今は青雉を倒さなきゃ。
もうこうなったら足止めなんて言ってられない。皆の補佐に回る為にも、倒さなきゃ……!
掴まれている腕と武器に覇気を纏い戦えば、危ないねなんて言いながら青雉は私から手を離す。その時ウソップを背後から攻撃しようとする熊擬きに、咄嗟駆け出そうとしたらそれを青雉に邪魔された。
「おーおー、ちょいとナミちゃん。俺の相手しながら他もなんて……流石に強欲過ぎるんじゃねェの?」
その言葉に思わず舌打ちした時、熊が熊擬きを消して結果的に3人が助かったのが見える。けれども直後に響いたルフィの絶叫。
「走れ!!3人共~!!とにかく全員、ここから逃げろ!!後は助かってから考えろォ!!」
「皆、逃げて!!時間は稼ぐから、お願い!!」
重ねて叫べばフランキーが巫山戯るなと怒鳴る。仲間を目の前で消されて、自分の半分程度しか生きてない小娘に庇われる等、兄貴たる彼には耐え難い事だったのだろう。
それに視線を向ける余裕は無いけど、私の方へと駆け出してきたフランキーが私と並ぶ。それにより2対1の構図となり揃って青雉を睨めば、青雉が面白そうにその顔を歪めた。
「次の男か?」
「……フランキーに対して、相当な侮辱よ。謝りなさい」
「サイボーグフランキーか。……ナミの邪魔にならなければいいな?」
その言葉に銃弾を青雉浴びせかけたフランキーだけど、それはなんの価値もないと言って過言では無く、私は咄嗟にフランキーに問い掛ける。剣は使えるのかと。
もし使えるなら、短剣を貸せば覇気と海楼石で何とか戦いになるかも知れない。そう思っての問い掛け。
「……使えるって程には使えねェよ」
「なら、短剣とか無意味か……。海楼石なのは短剣だけなのよ」
「そういう事か。なら小娘が使う方が良いだろ」
「私、1応覇気が使えるから、フランキーに海楼石と思ったのよ」
その言葉にフランキーは悪魔の実とは違うんだよなと呟き、けれどもその直後にブルックがサンジ君とウソップを庇い姿を消されれば同時に声を失う。そしてふと思い出す。
ロビンを拘束してた海楼石を砕いた物なら、持ってるわ。それを手荷物から適当に掴んでフランキーに渡せば、銃弾がわりにそれをセットして発砲してくれる。
それには流石に青雉や黄猿も慌てたような顔をしたけど、相手は大将様。真正面からの攻撃では全て躱されてしまい海楼石の欠片が辺りに散らかっただけとなってしまった。
「悪ィ、撃ち込めなかった」
「咄嗟に対応してくれただけでも、良かったわ。でも、もうそんなに残りが……」
「残りは持っとけ。今いくら撃ち込んでも恐らく無意味だ」
ブルックが消えた事で動揺する気持ちを抑える為、互いに何か話してないと狂いそうだった。その時、何かが頭の片隅で叫ぶ。
どうして
姿が見える訳じゃないけど、ナミとなってからそんな感情を抱いた記憶はないから、恐らく曖昧な前世の感情。でも何故か、その絶望を私は鮮明に覚えている。
思い出せない過去に、何があったというのだろうか。その直後、ウソップを庇いつつ仲間を消された事により耐え切れなくなっていたサンジ君が、熊に挑みかかるのが見えた。
ルフィの逃げて欲しいという願いも虚しく、弾き飛ばされたサンジ君が床に倒れると、直後にその場で熊への攻撃を続けていたウソップがその場から姿を消されてしまう。それにより頭に血が上ったサンジ君が再び地を蹴るけど、その攻撃は当たる事なくその姿を消されてしまった。
それにより過去の記憶も相まった私は、身体と声を震わせる。発狂したくなるような、恐怖と絶望。
「あ……あぁ!ゾロ……ブルック、ウソップ、サンジ君……!!皆、消され……!!」
「ナミちゃん!!正気を保ちなさい!!」
「……!!はい!」
崩れ落ちそうになった私の心を引き止めたのは、レイリーさんからの1喝。息を切らしながらも、ルフィや皆を助けようと考えてくれてるのが分かり、それにより黄猿が苛立ったような声を出す。
「〝海軍大将〟1人止めといて、まだ欲張られちゃあ、わっしの立つ瀬がない。いい加減にしなさいよ」
「……同意見だな。ナミも俺に集中しときなさいな」
そう言って繰り出される氷の剣に、短剣とクリマタクトで迎え撃つけど、元の身長差と筋力差から肉弾戦となれば勝ち目は無い。そうなると横からフランキーが攻撃を仕掛けてくれて、何とか体勢を立て直すような形になる。
その時、レイリーさんに何事か話し掛けた熊が黄猿との話の直後に、フランキーへと手を伸ばす。マズいと思って咄嗟に手を伸ばしたけど、フランキーが私の目の前で消される方が早かった。
その熊にルフィも攻撃を仕掛けてくれたのに、ルフィは弾き飛ばされてしまい、元の場には暴れるチョッパーとロビンだけが残されている。そんな中で青雉がルフィに攻撃の矛先を向けるからそれを弾く為に間に入り戦えば、熊はロビン達の方へと足を進めた。
助けに行きたいのに、青雉を足止めするのさえキツい。倒してしまおうと思って攻撃しているのに、結局防戦1方なのが情けなくて無意識で奥歯を強く噛み締めていた。
暴れるチョッパーと逃げるロビンの間に瞬時に移動して、熊は立つ。ルフィが2人の名を呼びながら駆け出すけど、チョッパーが消されてしまえば、ルフィの慟哭が谺響した。
「もうやめろお前ェ~!!やめてくれ~!!ロビン、逃げろ~!!」
「ルフィ……ナミ……」
ロビンが名を呼んでくれるのに、私はそちらに足を向ける事さえ出来はしない。直後にロビンを消して、私の元へと移動してきた熊は言う。
その熊の動きにより、青雉も、黄猿もその場に立ち尽くす形で動きを止めた。熊の行動が読めなさすぎて、下手に動けないのだろう。
「死んだかと、思っていたが……」
「……生きてるわよ。私、まだやる事があるもの。私の死に場所は、ここじゃない!」
「そうか」
「あの時は、ありがとう。感謝してるわ」
ルフィを殺さないで居てくれて、本当にありがとう。私はルフィに聞かれるリスクがあるからその言葉は飲み込んだけど、心からそう思って熊を見上げた。
「〝宝玉〟の知る未来は、俺の理解している未来と同じなのか」
「……恐らくは。でも、それを変える手段を私は持たないのよ。恩はあるけど、何も返せないわ」
「構わない。だがそろそろ……「ナミ~!!」お別れだ」
余り長くは話せないと分かっていた。そして、今度は自分が消されるのだと理解もできる。
だから、名を呼んでくれる愛しい人に視線を向けた。親愛なる船長に、最愛の恋人に。
「ルフィ……愛してるわ」
私はちゃんと、笑えただろうか。衝撃波に包まれて、絶望に歪むルフィの顔を脳裏に焼き付けたまま、風圧もあり動けない状態で、私はその場を離れて行く事となった。
そうしてナミ迄もが消されたその場には、ルフィが味方と言える存在はレイリーだけとなった。大切な守るべき仲間全てを、目の前で失った少年は絶望に涙し喘ぐ。
それは、流石に青雉や黄猿にとっても看過できない案件である。大粒の涙をボタボタと落としながら、少年は慟哭のような声で言葉を発した。
「……何だ、俺は……!!……仲間1人も……!!救えないっ……!!」
「もう二度と、会う事はない……。さらばだ」
〝偉大なる航路〟シャボンディ諸島12番GR。この日、船長モンキー・D・ルフィ率いる海賊団〝麦藁の1味〟は……『完全崩壊』を喫した……。
船長の絶望も、仲間達の絶望も、後悔も、憤りも、全てを知っているのは母なる海だけなのかもしれない。彼等はただ、波間の上を飛び、それぞれに見合ったその場所へと飛ばされていく。
シャボンディ諸島編─完
これにてシャボンディ諸島編迄完結です。長らくお付き合い頂きまして、真にありがとうございます。
引続き来週から新章に入らせて頂きます。
戦争編、修行編、タイムトラベル編、どれが合っているかと考えた結果、章の名は運命を変える代償編と決めました。長いので、適当に省略して呼んで頂けたらと思います。
この先、誰が生きて誰が死ぬのか。皆様のご希望に沿わない可能性もございますが、このまま引続きお付き合い頂けましたら幸いです。
これからもよろしくお願いします。