そんなやり取りの途中で、マルコさんが船に戻って来て、慌てた様子でエースの処刑時間が早まったと告げる。それに対して白髭さんは、今聞いたのだと伝えてから私に視線を向けた。
それに合わせたようにマルコさんとシキの2人の視線も私に向けられ、白髭さんとマルコさんは重ねるように言葉を向けて来る。マルコさんと白髭さんは本当に良く似てるわと内心で小さく笑いながら、気遣ってくれるそれに心が温かくなった気がした。
「ナミ、来たんだなぃ」
「本気で、死ぬぞ」
「えぇ、来たわ。……もしここで死ぬのならば、それはそれで仕方ない事と覚悟して来ました。ですが、この場で死ぬとしても……エースとルフィだけは、生き残らせて見せる」
私の言葉に白髭さんとシキ、そしてマルコさんが笑う。目の前ではルフィが駆け回っている。
無謀にしか見えないそれが、妙に愛しい。恐らくは、白髭さんもルフィのそれが可愛くて仕方ないのだろうと分かる。
「マルコさん、あの時伝えた事、気を付けて。私は……貴方にも、無事でいて欲しい」
「相変わらず、甘いねぃ」
「甘くても、構わない。私は、強欲だから、大切な人には、無事でいて欲しいの」
「……ナミは、俺をどうしたいんだかねぃ」
何を言ってるのか分からなくて首を傾げたら、白髭さんが前途多難だなと言って笑う。そしてシキまでもが、ベィビーちゃんらしいと笑うから、余計に混乱する。
「俺は不死鳥だよぃ」
「それでも、再生回数には限りがあるでしょ!?痛みだってあるわ。覇気を使える相手も多い。……心配位、させてください」
「……ありがとう。気を付けるよい。俺の事だけでなく、教えて貰った件もな」
その言葉に笑って、私は戦場へと向かう。きっともう、大丈夫だろうと思えたから。
雑魚とは呼べない海兵達を薙ぎ払いながら進む。その先でルフィは1人、奮闘してるのだと分かるから。
少しでも早く追い付いてサポートしたい。ルフィなら、この先に進める筈だから。
ルフィの背中が見えた所で、サポートをする形で背後から追いかけて行けば、ルフィは僅かにだけど戦いやすくなったように見えた。ルフィに落とす形で降らせる雷がルフィの背後に落ちる事が多いので、とりあえず前の敵と左右から来る敵にだけ対応すれば良い状態となったのが理由だろう。
ルフィはそれにいちいちお礼を言ったりせずに、迷い無く1直線にエースを目指して進んでくれる。陽の気の塊にしか思えない勢いで突き進むその姿は、私には眩しくさえ思える程。
「来るな!!ルフィ~!!」
その声にルフィは1瞬足を止めたけど、僅かな隙さえ無く襲い来る海兵との戦闘で結局その声に答えない。私に何か言われた訳では無いから、私も何も言わずにルフィへと迫る攻撃を庇ったりしながら戦って行く。
雷をいくら落としても、ルフィには影響が無いから躊躇いなく戦えるのが利点だ。そんな中で、それでも海兵が全員将校である為か1人1人が強く、中々前に進めない。
「分かってる筈だぞ!!俺もお前も海賊なんだ!!思うままの海へ進んだ筈だ!!」
雷だけで沈んでくれる敵はそう多くないけど、私の攻撃を利用して止めをさすような勢いでルフィが倒してくれるから、恐らくは随分怪我も少なくて済んでると思う。私は雷を落としつつ、他はただ躱しているから無傷なんだけどね。
それに何故か私を直接狙う海兵が少ない。女だからなんて理由で手加減される筈もないのにと思えば、ルフィから倒そうと考えているのかと気付く。
もしくは先を行くルフィを止めれば、私もついでに捕えられると思われているのか。どちらにしても、ルフィの援護をするにはやりやすいから助かるんだけど、何とも気持ちが悪い状況だと思う。
「俺には俺の冒険がある!!俺には俺の仲間がいる!!お前に立ち入られる筋合いはねェ!!」
ルフィの荒い呼吸が間近に聞こえて、そう言えばここに来るまでに寿命を多く使ったのだったなと思い出す。ルフィは、本来いくつまで生きられる予定だったんだろう。
エースの言葉は紡がれ続ける。その必死さは、ルフィを想うが故であると分かるから、私は口を挟まずにいるのだ。
だって、ルフィを傷付けようと言葉を向けているエースの方が、傷付いているのが分かるから。エースの心が血を流しているのが、わかってしまうから。
「お前みてェな弱虫が!!俺を助けに来るなんて、それを俺が許すとでも思ってんのか!?こんな屈辱はねェ!!」
巻き込みたくないのだと、生きて欲しいのだと伝わって来る。ルフィが何よりも大切で、愛しいのだと……そう泣き叫んでるようにしか、私には聞こえない。
「帰れよルフィ!!何故来たんだ!!……ナミも!俺がお前に何したか忘れたのか!?」
誰もエースの叫びを止めない。咎めない。
ガープさんの手前もあるだろう。戦っているからというのもあるだろう。
でも、それだけじゃなくて、止められない位の強い想いが込められているからだろう。それが分かるから、私は黙って戦い続ける。
「ナミ!ルフィを連れて帰れ!俺はナミを姉だなんて、1度も思った事ねェんだよ!!」
「俺は、弟だ!!」
それ迄ずっと黙って戦っていたルフィが、叫ぶ。耐えられないと言わんばかりに。
戦いながら、敵を殴り、蹴り飛ばしながら、迷い無く真っ直ぐにエースを見て。その怒りと悲しみを迫る海兵にぶつけながら、声を震わせる。
「海賊のルールなんて、俺は知らねェ!!ナミをエースが姉として見てなかったのも、ナミが俺達を弟にしか見てなかったのも、ずっと知ってた!!でも、それがなんだってんだ!ナミが姉じゃなかったとしても、それでも俺は……弟だ!!」
「この、わからず屋が……」
その時倒してもキリのないゾンビ兵に囲まれ、燃やし尽くす為に爆撃をと準備を始めたら、海水が容赦無く降って来た。それにより崩れ落ちたゾンビ兵にルフィが笑顔でお礼を言う相手を見て、1瞬呼吸が止まる。
微かにでも震えそうになる自分に、嫌気がさす。こんな時に、心が萎縮するのを感じてしまう。
「アーロンの……」
思わず呟いたそれに反応した男、ジンベエは痛そうにその顔を確かに歪めた。私はそちらから視線を無理に外すと、エースに向かい叫ぶ。
今ならアーロンに確実に勝てるだろう実力もあるのに、心は今も怯えてる。それを振り払いたいのも確かにあるけど、それよりも今は……伝えなければ後悔すると分かるから。
「エースが姉と見てなくても、ルフィが姉だと思ってなくても、あんた達3人は昔から今も変わらず、私の大切な家族で弟なのよ!!私がこの世界に産まれたのは、あんた達を生かす為だと、そう信じてるわ!!」
「ナミまで!!」
「忘れたとは言わせないわ!生意気な事を言うなら、1度でも私に勝ってから言いなさい!!それが、約束だったでしょ!?弟が嫌なら、勝ってみせなさいよ!!」
私に勝つには、解放されて戦うしかない。だからこそ、今その場所で死ぬ事は許さないと言ってるのが、エースに分からない筈も無いだろう。
周り中がざわめくのが分かる。ルフィが自らが弟だと騒いだ事で、海賊王の血筋なのかと動揺して居るのだろう。
その動揺の中で、ルフィはドラゴンの息子だと公言されれば、ざわめきはどうしたって大きくなる。その上で無名の女が、エースよりも強いのだと断言したなんて、私だってそんなのがいたら驚くしざわめくわ。
それでも、エースの頑なな心にヒビを入れるにはこれしか思いつかなかった。エースが、女として私をいつから見てたのかなんて知らないし、私はそういう意味ではエースを愛せない。
だから断言するしかない。エースは、私にとって愛しい弟なのだと。
「世界を敵に回しても構わない。私は、家族を……大切な人をもう……喪いたくないのよ!!」
エースにされた事は覚えてる。悲しかった、苦しかった、でも……そんなの助けない理由にはなりはしない!!
ルフィもまた暴れる。その腕を巨大化させて、敵を薙ぎ払いながら。
「エース!!好きなだけ何とでも言えェ!!俺は死んでも、助けるぞォ!!」
ルフィの言葉にエースは泣きそうにその顔を歪めて、顔を俯けた。喜びと怒り、悲しみと絶望、嘆きと痛みがエースを襲っているだろう。
そんなエースに気を取られてしまえば、どうしたって動きは鈍くなる。だからって、平気で居られる程の心の強さは私にはない。
最大限ルフィの進む道をサポートしていたけど、私への攻撃も次第に増えてくれば、どうしたってルフィ離れてしまう事になる。その間にもルフィは別な敵と戦っているから、それを助けに行きたいと思っていたけど……上手くいかない。
足払いからの感電で敵の意識を奪い先へと進めば、ルフィが海賊女帝に抱きついているところで、確かに美しいと認識する。その上強いとなれば、ルフィの隣に並ぶのに遜色は無いだろう。
胸が、痛い。なんで、痛いんだろう……?
いつ女としての私は要らないと言われても良いように、心の準備はしていた筈なのに、泣きそうになる自分に戸惑う。私、何をこんなに動揺してるんだろう?
「ナミ!早く!!」
混乱しつつ少し落ち込んでいた私を、ルフィが当然のように呼んだ。それに何故か泣きたくなって、でも頷いて駆け出せばルフィが微かに笑った。
その瞬間全てのマイナスの感情が霧散するのを感じて、漸く理解する。私はもう、強がる事も出来ないくらいルフィに溺れてるのだと。
「やっぱ、ナミと1緒だと戦いやすい。傍に居てくれ!」
「可能な範囲で、ね」
なのに、口から飛び出すのは可愛くもない言葉。でもルフィは、嬉しそうに笑うからそれに救われる。
私は、速度はあるけど体力が足りない。そう思って少し切なくなった所で熊の姿を見付けて、足を止める。
革命軍のイワンコフとルフィが親しげに話していて、その姿を見れば、確かに1度見たら忘れられないわと納得しつつ、それにしても本当に濃いなと思う。そして、ドフィがイワンコフとルフィに熊は死んだと話しているのを聞いて、小さく舌打ちする。
「ドフィ……」
「ナミ……ここまで来たか。俺と1戦してみるか?〝火拳〟よりも強いんだろ?」
ここで熊について問い質しても、きっと答えはくれないだろう。ドフィにも立場がある。
その後イワンコフが熊と戦う事になり、オカマ集団がルフィの補佐に着くのが分かれば、私はドフィの足留めをするのが最適に思えてルフィを見ずに言う。本来私なんか居なくても、ルフィは前に進めるのだから、大丈夫だと自分に言い聞かせながら。
「ルフィ……!エースを、お願いね」
「おう!任せろ!!」
私が武器を構えるのを待って、ドフィもまたその笑いを引っ込めた。ドフィ相手なら、私がいくら全力でやった所で死にはしない。
少しくらい大怪我になっても、悪い子へのお灸と考えれば問題は無いだろう。そうして睨み合っていたら、そこへ現れたのはクロコダイルで……。
追いかけて来たダイヤモンドジョズを押さえ込み、糸で操るドフィに止めろの言葉の代わりにその糸を切る。そしてギロりとドフィを睨めば、ドフィの方もまた不愉快そうに血管を浮き上がらせた。
「ナミ……邪魔するのか」
「当然でしょう。白髭海賊団に、手は出さないで」
「無茶言いやがる。その白髭海賊団と戦う為に俺達は招集されたんだよ!!」
そんな事は分かってる。でも、私はエースにも、マルコさんや白髭さんにも悲しんで欲しくない!
「なら、私とも決別する覚悟をする事ね。エースの家族を、私が守らないと思う方がどうかしてるわ!!」
「人が優しくしてればつけ上がりやがって……。何時までも餓鬼扱いしてんじゃねェよ!!」
突然向けられた覇王色の覇気に、けれども私はそれを睨み返す事で耐えきる。そうなればドフィが流石に驚いたような顔をするけど、私はシャンクスのそれに慣れているのよ。
我儘でも強欲でも好きに呼べば良いわ。私は、大切な人達が笑ってる未来しか要らない!
「ドフィ……悪い子には、お仕置が必要なようね」
「ナミこそ、俺に負けたらどうなるか……少し考えれば分かるだろうになァ?」
私はドフィの動きを読み、それを躱して行く。チョコマカと避け続ける私に、ドフィが本当に厄介な女だと呻くように言った。
そう言えばドフィとまともに戦うのは、これが初めてかも知れないと気付く。ドフィは小さくない舌打ちをして、相変わらずやりにくいと言うから、他でも戦った事があるらしいと知る。
糸は海楼石の短剣で切れるし、攻撃の大半は見聞色の覇気で何とか躱せる。だからこそ、対等に戦ってるように見えるだろうけど、実際は明らかに私が不利だわ。
ただ、そんな風に戦いながらもドフィはクロコダイルと交渉をしていて、戦いに集中仕切れてないから何とかなる隙はある筈。けど、そう思った直後に商談に決裂したらしいクロコダイルがドフィを吹き飛ばせば、その場に残ったのは私とクロコダイルだけとなる。
それにより助かった私は、1応お礼の言葉を向ける。偶然でも助かったのは確かだから。
「……意外だな。ビビの故郷がとか言って、襲いかかって来るかと思ったが」
「ルフィが、脱獄させたのならその決定に従うわ。私は、ルフィのクルーだもの」
「クハハ!裏切られた経験の無い、甘ちゃんらしい考えだな」
嘲笑うようなそれに、私は意識して妖艶に微笑む。その瞬間、クロコダイルが私の腰を強く抱く形で腕の中に閉じ込めるから、しまったと思う。
何せこの男は簡単に私をミイラに出来る。それは流石に不味い。
けれども私を襲ったのは渇きではなく……。想定外に触れ合ったのは、唇だった。
何が起きているのか分からずに、目を白黒させる私からそっと唇を離すと、直後に突き飛ばすように私を解放した。その代わりに、クロコダイルと顔を付き合わせたのはシキだった。
即座に元に戻ったけど、クロコダイルは私を抱いていた腕を切り落とされていた。それに驚いて視線を向ければ、相変わらず狙われやすいベィビーちゃんだなとシキに笑われてしまう。
「もしかして、助けてくれたの?」
「……そのつもりだったが、それさえ分からなかったのか?」
「私を助ける意味が、本当に分からないのよ」
「……俺は、ベィビーちゃんに惚れてるぜ?それが理由じゃ駄目か?」
「嘘ばっかり。逆らったらその瞬間に殺そうとした癖に」
私の返しに楽しげな笑みを浮かべて、シキは私の頭を撫でる。それがなんとも優しい手だから、文句さえ言えなくなってしまう。
けれどもその瞬間視界の端に映ったのは、ルフィとルフィを執拗に狙うミホークの姿。それに慌てて剃で移動すれば、ミホークが私に向けて斬撃を放って来る。
それを躱して短剣で斬りかかれば、ミホークは終ぞ見た事もない程に楽しそうに笑い……黒刀を躊躇いなく向けて来た。どうやら私は、ミホークの琴線に触れたらしい。