※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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生きて欲しい

 白髭さんの言葉により味方が増えたからと言って、敵が消えた訳では無い。ルフィの進む道を阻む者は、数多いるのだ。

 私の邪魔はしないと言ってくれてたのに、堂々と邪魔して来たドフィやミホークは勿論、完全にサイボーグにされた熊や、ルフィを敵対視するモリアもいる。そして何よりも……。

 ルフィとエース、そしてサボの祖父。伝説の海兵であるガープ中将が立ち塞がる。

 大将達よりも強い、中将……。今のガープさんにとって最大の敵はきっと、自分自身なのだろうと思わされる戦いが始まる。

 

 「ガープさん……ルフィ……!どうして……!!」

 

 向かい合う孫と祖父の姿に、思わず声が出てしまう。この運命を変える事は本当に出来なかったのだろうかと、自分に問い掛けても答えは出ない。

 分かってる。……分かってはいるのだ。

 この道を選んだのはルフィとエース、そしてサボなのだという事は。愛しい家族に生きて貰う為、無事でいて貰う為に、ガープさんはずっと願って来た。

 そんなのは、説明されなくても分かってる。それでも、これは酷い……こんなのってない!

 

 「ガープさんっ!!ルフィッ!!」

 

 叫ぶ私にガープさんの視線が向けられ、その瞬間揺れる瞳の奥に動揺と戸惑い、哀しみが見えた。なのに、どうしてこんな道しか……!!

 

 「爺ちゃん!!そこ、退いてくれェ!!」

 「退く訳に行くかァ!!ルフィ!!儂ァ『海軍本部』中将じゃ!!」

 

 身体が震える。これだけは、私にはどうにも出来ない。

 顔を俯けた時、白髭さんの声が降って来た。それは、静かな声で、けれどもどこが硬い。

 

 「目を反らすんじゃねェぞ、小娘。着いて行くと決めた男の覚悟から、逃げるな」

 「……!!……はい、ごめんなさい」

 

 言われたそれにより、私は顔を上げる。愛した男と、愛しい弟と、その2人を慈しみ育てた男の覚悟と決意が交錯する瞬間から、逃げる事は許されない。

 私に泣く権利なんてない。視線をそらさずに見上げていれば、襲い来る敵は白髭さんやその海賊団の皆さんが倒してくれる。

 逃げるなと、見届けろと無言で言われる。何だかんだと、この人達は、優しい。

 

 「お前が生まれる遥か昔から、儂は海賊達と戦って来た!!ここを通りたくば、儂を殺してでも通れ!!〝麦藁〟のルフィ!!」

 

 ……ずっと、羨ましかった。愛を伝える他の手段を持たなくて、怖がらせた事を後悔してるガープさん。

 当然ルフィは、子供の頃には怖かったかも知れないけど、こんなにも愛してくれる血の繋がった〝家族〟と言う存在がいた。私には血の繋がった家族は存在しなかったし、居ても愛されたとは思えない(・・・・・・・・・・)からこそ、余計に。

 でも今、こうして戦う姿を見ればただ、悲しい。私に直せば、ノジコを生かす為にベルメールさんと戦えと言われてるようなものだと分かるから、余計に。

 

 「それがお前達(・・・)の選んだ道じゃァ!!」

 

 ルフィだけを見て、ガープさんは言うけど……それはエースへ向けた言葉でもあると……それが分かる。だから、その戸惑いと葛藤が……分かってしまう。

 でも同時に、今のガープさんが言葉にする事が許されない気持ちも分かるのだ。孫達を守る為には、どうしても海兵になってもらう他無かったのだろう。

 でもね……多分、3人がもしも子供の頃海兵になる道を選んでいたら、今頃消されている。ガープさんがいくら守ろうとも、センゴクさんがいくら庇おうとも……世界がそれを許さない。

 この世界において、海賊王の称号とその〝血〟は強い意味を持つ。ルフィはガープさんの血があるし、サボは貴族の血があるからと見逃されても、エースだけは秘密裏に〝処理〟されていただろう。

 

 「できねェよ、爺ちゃん!!退いてくれェ!!」

 「出来ねばエースは死ぬだけだ!!」

 「嫌だァ!!」

 「嫌な事等、いくらでも起きる!!儂ゃあ容赦せんぞ!!ルフィ、お前を、敵とみなす!!」

 

 ……いくら口でそんな事を言ってみても、ガープさんに出来る筈がない。無邪気に慕うルフィと、少しツンとした様子で、でも慕ってると分かる様子を見せてくれた大切な孫達を……死ぬと分かっていて、阻める筈が無いのだ。

 

 「……ガープさぁーん!!ルフィー!!エース~!!」

 「……っ……!!」

 

 耐えきれずに叫ぶ私に、戦場にいる多くの人の視線が突き刺さる。でも、ここで何も言わないなんて事も、私には出来ない。

 

 「どうして……!?どうして、家族を助ける為に、家族を傷付けなきゃいけないの!?エースも、サボも、ルフィも、ガープさんの愛する孫でしょう!!」

 「ナミ、ちゃん……!!」

 「それに、分かってる筈でしょう!?どんなに綺麗事を並べたって、もしも3人が海兵になる事を選んでいたとしても〝世界〟はそれを許さない!!オハラの存在を許さなかったように!!罪の無い少女を犠牲にして、この世界は成り立っている!!そんな中で、3人が海兵になったからと許されて生きていられたなんて……そんなの妄想でしかない!!」

 「ガープ!!」

 

 センゴク元帥がガープさんを呼ぶ。惑わされるなと言わんばかりに。

 

 「何の罪もない八歳の少女を悪魔とする事で守られる世界なんか、滅べば良い!そんな汚い世界で、ガープさんと血の繋がりのあるルフィは兎も角、エースが生かして置いて貰える筈もない!」

 「〝宝玉〟!黙れ!!」

 

 センゴク元帥が叫ぶ。でも、私は黙らない。

 

 「黙らないわ!……もし、そうならない世界ならば、私は殴ってでも、縛り上げてでも三人を海兵にしていたもの!あの頃は、間違い無く私の方が断然強かったわ。……私の師匠が誰だったのか、もう、調べはついてるんでしょ!?」

 「いい加減にしろ!!〝宝玉〟だとてそれ以上言えばどうなるか!!」

 

 でも、センゴクさんだって、こうして立ち向かってくるのがもしもロシーなら、同じ事になっていた筈。そう思って言葉を続けようとした時、ガープさんがその瞳を強く瞑ったのが見えた。

 それを見た私は泣きそうになりながら、声を出す事を止めた。私はガープさんがルフィに殴り飛ばされ落ちて行くのを見ているしか、今は出来ない。

 ルフィが進む姿を見て、安堵から膝から力が抜けて座り込む。すると、真正面から光が迫っているのが見えて、でも動けなくて……。

 けれどもその攻撃が私に届く事は無かった。白髭さんが、黄猿のそれを防ぎ戦い始めたから。

 

 「小娘、そこにいろ。お前ェは充分戦った……!」

 「白髭……さん……」

 「あんたも勿論死刑だけど、こっちとしちゃその子も捕まえないとならねェんだ。渡しちゃくれないかねェ?」

 「……誰が、渡すかっ!!」

 

 爆風が吹き荒れる。本気で巨人族じゃないのかと言いたくなるようなサイズ感の白髭さんを、私は呆然と見上げていた。

 戦いの次元が違い過ぎる。でも……そんな事ばかり言っていられないので、私はフラリと立ち上がった。

 私の役目は、この後。だから……ここにいて、足手纏いになる訳にはいかないのだ。

 

 「エースが、解放されるわ。……白髭さん、1目お会いできて、光栄でした。もしも、私がこの先死んでも……どうか気に病まないでください」

 「小娘?」

 

 エースを助けるならば、自分の命なんて気にしては居られない。相手は、海兵でさえ焼き殺す男だもの。

 だけどそれでも、彼の気持ちもわからなくは無い。恐らくは海賊という存在に、何か思うところがあるのだろう。

 私としても、もしもシャンクス達と出逢わず、ルフィ達に救われなければ……同じように海賊の全てを憎み嫌っていた可能性はある。海賊なんか大嫌いだと泣き喚く心が、私の中にも無い訳じゃない。

 それでも、私は喪えない。エースも、ルフィも、こんな所で死なせるつもりは無いのだ。

 

 「お前は昔からそうさ、ルフィ!!」

 

 爆煙の中に炎のトンネルが出来る。聞き慣れた、愛しい声が聞こえる。

 白髭海賊団のメンバーが雄叫びを上げる。喜びの声が谺響して、危機は脱したと判断出来てしまう。

 本来ならば、私も共に喜ぶべきだろうけど、どうしたって脳裏にはマグマの腕に貫かれるエースの姿が焼き付いている。壊れてしまった、ルフィの哀しい姿を……覚えているのだ。

 

 「俺の言う事もろくに聞かねェで、無茶ばっかりしやがって!!」

 「「「「「エース~!!」」」」」

 

 多くの声が重なり、響き合う。大合唱のように重なるエースの生存を喜び尊ぶそれに、私は持って来ていた鎮痛剤を飲み込むとそれに備える。

 今動けなくては、何の為にこの場に来たのか分からないもの。確実に、2人を逃がす……!

 

 「……マルコから、聞いた」

 「え?」

 

 突然かけられた声に視線を向けると白髭さんが微かに笑って、それから真剣な顔を向けて来た。これ迄の試すようなそれではなく、どこか心配するような色を含んだ眼差しで。

 

 「ナミ、サッチの事、感謝する。……この先に待つと言う絶望を回避する為に来たんだろ」

 「……はい」

 「……ありがとう」

 「こちらこそ、ありがとうございます。これからも、叶うならエースと共に、生きて欲しいと願っています」

 「難しい事、言いやがる……!」

 

 私の知る限りで、防げる大怪我は防いだつもりだけど……それでも無傷ではない。私ならば死んでいるだろう大怪我で、平然と立ち微笑む強さ。

 病の中でさえ、それだけの強さを誇るとは……。どうして、強い人は優しく、そして儚いのだろう。

 英雄になんてならないで、ただ、生きて欲しい。だけど、私に治せる技術は無いのだ。

 

 「……私、ずっと、白髭さんに憧れて来ました。エースを、獣から人にしてくれて、ありがとうございました。……今も、敬愛しています」

 「趣味が、悪ィな」

 「……そうですか?いいと思ってますけど」

 

 首を傾げれば白髭さんは可笑しそうに笑った。エースが開放された今、白髭さんの心に余裕が戻っているのだろう。

 

 「ウチの息子の所に来てくれるのか?」

 「ごめんなさい。私の全ては、ルフィのものだから、それは出来ません」

 「……男を見る目は、確かなようだな。少しばかり青田買いだが」

 「ふふっ!ルフィは、海賊王になりますよ」

 「見られねェのが、惜しまれるな」

 

 ルフィとエースが楽しそうに、嬉しそうに話しながら戦う姿を見つめながら、私と白髭さんは並んで戦う。接近戦にならないで済むように、白髭さんが私を自然と庇ってくれるから、私は遠距離で闘う事が出来ている。

 恐ろしく戦いやすい。私の動きを読んで、先回りしてサポートしながら戦ってくれるそれに、甘やかされてるのを自覚する。

 息の合った相手と共にひとさし舞うような心持ちで、クリマタクトを振り回せば轟く雷鳴に白髭さんが笑う。何処か懐かしそうに。

 

 「出逢ったばかりの頃のリンリンのようだ」

 「……光栄、です」

 

 リンリンって……確か、ビッグマムの名前、よね……?

 そんな事を思い少し微妙な気持ちになる。と言うか、確実に私より強かったと思うのよ、いつ出会ったのだとしても。

 そんな私に確かに笑いながら、白髭さんは言う。優しい声で。

 

 「ナミも、生き延びろ。……酒の1つでも、酌み交わそうじゃねェか!!」

 「……!……はいっ!」

 

 敵を蹴散らし、エースやルフィが到着するのを待つ。白髭さんと共に戦う今という時間が、妙に心地よく感じている自分に驚かされる。

 けれどもその時、戦場に明らかに死ぬつもりで突っ込む人が姿を見せた。それは、赤犬に騙されて……でも、結局白髭さんを刺さずに終えた筈の人。

 全力で動く船を白髭さんは迷いなく片腕で止めると、止めないでくれと叫ぶその息子に言葉を告げる。そこへ向けられた1斉砲火。

 白髭さんなら、それを躱す事等造作もなかっただろう。けれども、息子達とすぐ近くに居た私がその足を引っ張ってしまった。

 結果、白髭さんはそれの攻撃を真正面で全て受けきり、その背後に私を庇ったままで言う。何故生きているのか、それさえ分からないような血塗れの姿で。

 1瞬だけ私を見て……すまないと呟いたのが聞こえた気がした。それは、嫌な予感しか呼ばない。

 まさか、待って……。お願い、その言葉を口にしないで……!

 

 「子が親より先に死ぬなんて事が、どれ程の親不孝か……てめェにゃわからねェのか、スクアード!!」

 「親父!!でも俺は!!」

 「付け上がるなよ。お前が何かしようとしたってだけで、変わるようなもんじゃねェ!!その程度で俺の命も心も揺らがねェ!!誰にでも寿命(・・)ってもんがあらァ……」

 

 息子達を守る為、安全に逃がす為、自らの病の進行度合い。それ等を加味しての決断だろうと分かる。

 この先この場を逃げても、生き延びても、この病の進行度合いでは……長くは無い。そんなのは素人な私でも分かる。

 つまりは〝英断〟と呼ばれるだろう類のもの。殿を務めるにあたり、白髭さんよりも適任な人なんている筈も無い。

 

 「ここでの目的は果たした……。もう、俺達は、この場所に用はねェ!!」

 

 その言葉の直後、血を吐く白髭さんにそっと手を伸ばせば、優しく振り払われてしまう。私ではどちらにしても支えきれなかったとは思うけど、でも……。

 さっき、言ったのに。共に酒をって……。

 ……分かってる。状況が変わったのだ。

 そうしなければ、まだ力の及ばない息子達と、死に急ぐ息子達を守れないと……そう判断したのだ。小娘との軽い口約束なんかより、尊ぶべきはそちらだと誰にでも分かる。

 でも、喪いたくない。生きて欲しいのよ!

 そう思って、縋るような視線を向けたけど、白髭さんはただ息子達に視線を向けて、言葉を紡ぎ続けた。私の望まぬ、未来に繋がるその言葉を……。

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