スプーンで器の中身を掬い、口元へ運ぼうとして手が震えるのに気付く。何が起きてるのか分からなくて、思わず息を止めてしまう私に、サッチさんは微かにその瞳を眇めて溜息を落とした。
何とか言い訳をしようと思うのに、誤魔化そうと思うのに唇は震えるばかりで音を出せない。手に持っているそれを、投げ捨てたくなるような衝動を必死で抑え込むのが精一杯な自分がいる。
その時ドアが開いてるのにノックする音が聞こえて視線向ければベックがいて、私の様子にやっぱりなと言うと器を奪われてしまう。それを私の前で1口平然と食べてから、そのスプーンで新たに中身を掬い、差し出して来る。
「口を開けろ」
「ベック」
「ナミ」
同じ事を言わせるなとその瞳で言われては、口を開けるしかなく、でも目の前で今食べてくれた物なのに食べるのを躊躇う自分に驚愕する。やっとの思いで口を開くと、ベックにスプーンを押し込まれて、うぐっと声を出すとスプーンを引き抜いた後唇を掌で塞がれてしまう。
サイドテーブルを近付けて、お盆を移動させたベックは私の背後に座り、抱えるようにして身体全体を支えて来る。何をしているのかと口の中の物を咀嚼しながら見上げれば、困ったような顔をしているのが見えた。
「力を抜け。支えていてやるから。俺の事は背もたれだと思っていい」
そんな事が出来る筈も無いと言いたいが、飲み込めないでいる食べ物の為に言葉にならず、清水の舞台から飛び降りるような心持ちでそれを飲み込めば、ベックが頭を撫でてくれる。それから顎を掴まれたと思ったら同じようにスプーンを押し込まれて、飲み込むまで掌で唇を塞がれた。
それを繰り返して、私は何とか食事を終えた。それにかかった時間なんて考えたくも無い。
そんな私に飲み物のグラスを持たせたベックが飲んでろと言いながら頭を撫でて来るから、素直に頷いた。水分は普通に飲めて、なんだろうと首を傾げるとベックは私の背後から移動して、サッチさんに近付く。
そのまま何やら話をしていて、サッチさんはその会話の途中で私に視線を向けて来た。その瞳が悲しみと驚きに満ちていて、なんだろうと思ってしまう。
グラスの中にあった飲み物を飲み干すと、それに気付いたベックからベッドに入るよう言われてしまう。でも私は、少しでもエースの傍に居たくて首を横に振る。
「だって、エースがまだ……!」
「俺が、寝ろと言ったのが聞こえなかったのか」
低く怒りを滲ませた声で言われて、私の身体はビクリと揺れる。でも、あの状態のエースから離れたくない……!
そう思ってベックを見上げたら、何故か視界が歪み始めた。どういう事かと思いつつも倒れる私の身体をベックの腕が支えてくれて、そのまま寝かされてしまう。
「そのまま少し寝てろ。言う事を聞けないなら、強制的に寝かせるぞ」
「ベック……」
「……どうした?」
「エース、は……」
「何かあれば必ず教えるし、起こしてやるから、今は眠れ。良いな」
「でも……」
「今食事をしたから、心拍数が1気に跳ね上がり心臓が痛む筈だ。それに伴い目眩も起きるだろうな。その体調であれば倒れる確率は高い。……不死鳥の仕事と心労を増やしたいのか」
ベックにそう言われては項垂れるしかなくて、そんな私の頭を撫でるとベックはそのままサッチさんに言葉を向けた。暫くは食事を与えようとしないで欲しいと。
それに首を傾げるサッチさんにベックが何かを言っているのを遠のく意識の向こうで聞きながら、理解出来ずに私の視界は暗転した。このまま二度と、目覚めなければ良いのに……エースの代わりに私が……。
「ナミは、生きる事を拒んでいる」
そんな言葉が、聞こえたような気がする。それからどれくらいの時が流れたのか、意識が浮上すると繋がれている点滴を何故か引き抜きたい衝動に駆られて、必死でそれを抑え込む。
「起きたのか、ナミ」
穏やかな声に視線を向ければ、ベックが私の事を優しく抱き締めて、そのまま頭を当然のように撫でてくれた。それに甘えるように身体から力を抜けば、ベックがゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あの戦場で、実際ナミは驚く程に良く戦った」
酷く、優しい声で、ベックは言葉を口にする。慰めてくれているのだろうか?
ただ分かるのは、この人は中々褒めてはくれないし、慰めの為に褒めるような人では無い事。つまりは、素直に聞き入れても間違いでは無いだろうと分かる。
「ただな、俺達は全員……気が気じゃ無かったんだって事は、理解してくれ」
「え?」
「俺達は放送を傍受していた。だからこそ、白髭やエースの死が放送されていたのだとあの場で断言できたんだ」
あの戦争を……私が、死ぬ筈だった戦いを、赤髪の皆が見ていた。死ぬつもりで居たのに生き残ってしまった、私の情けない姿を、見られていたと言う事?
「……みて、たんだ?」
「あァ、ナミがルフィの後、英雄から始まり、金獅子や鷹の目に唇を奪われてる所もな」
憮然とした様子になりながらも言葉を紡いだ私に、ベックは優しく笑って少し茶化すように言うから、それに少し笑う。……笑った、つもりだった。
けれどもどうやら、つもりでしかなかったらしい。だって、ベックの瞳が傷付いている。
「……ナミ、そんなに自分が嫌いか」
「ベック?」
「あれだけ頑張って、己の船長を逃がす事に成功して、エースもこの船で存在しているのに……それでも、心を壊しちまう位に、自分が憎いのか」
疑問符さえつかない問い掛けに、私はそんな筈無いじゃないと言って、笑うつもりだった。なのに、声が出なくて……。
だって、ベックの言葉は正しいから。私、なんで生きてるんだろう。
死ぬべきは、私だったのに。なんで、私が生きて存在してるんだろう。
いつもあった運命を変える代償として、私は今回、自分の命を捨てるつもりだったのに。エースを喪わない代わりに、ルフィが死んでは意味が無い。
ならば、エースとルフィを突き飛ばして、代わりに私が貫かれるのが1番わかり易い形だった筈。なのに結局私は多くの人にに守られて、庇われて……戦場に居るにも関わらず、油断した。
その結果が今だわ。エースは、今もまだ意識が戻らない。
医学的に考えて3日以内に意識が戻らなければ、その後目覚める確率は1桁以下となる。今は動いてる臓器だって、いつ弱まり自発呼吸が出来なくなってもおかしくは無い。
自発呼吸が出来なくなった場合、意識が戻る確率なんて……そもそも次の日を命を繋いだ状態で迎える確率だって……恐ろしく、低い。全て……私の責任なのよ……。
「泣く事も、出来ねェ……か」
「ベック……?」
名を呼ぶとフッと笑ったベックが点滴の管を外して、腕にテープで止めてしまう。なんだろうと思ってみていたら、何度も刺し直すのは流石になんて言うから、1度点滴を終わらせてくれたのだと知る。
管に残る水分と、逆流していた血液を食塩水で身体に流し込まれて、少し冷たいななんて思う。管の先をしっかりと蓋して、後にまた点滴を入れられるようにしてくれてるのは分かるけど、手馴れたそれに船医の仕事もしてるのかなとベックを見上げた。
そしてそんな私を……ベックはそっとベッドに寝かせると、動くなよと言いながら服を器用に脱がせて行く。でも着替えさせる為なら寝かせない方が良かっただろうと思うし、そうなると何が目的なんだろう?
聴診器とかも無いから、胸の音を聞くとかでも無いわよね。そう思ってベックを見たら、困ったように、切なそうな眼差しを向けて来た。
「ナミ、愛してる」
「私も、ベックを愛してるわ。大好きよ」
師匠であり、上司であり、兄であるベックを嫌う理由なんてどこにも無い。でもベックは私の答えに、苦しそうな顔をするばかりだ。
「俺は、ナミに壊れて欲しくはねェ」
「私、ちゃんと笑えてない?」
「あァ、無表情だよ。ずっとな」
笑ってるつもりだったからこそ、驚いてベックを凝視したらその顔が近付いてきてどうしたのかなとボーッと見てる間に重ねられた唇。正気に戻す為でも、水を与える為でもないそれは、恐らく正真正銘のキスと言うものだろう。
それでも、奪うような激しさは無くて、ただ労る様な優しさと、哀しみと、微かな欲望が感じられるそれに戸惑う。だからこそ、抵抗も出来なくて……。
「……1度触れたら、止まれなくなるのは分かってたから、触れなかったんだがな」
「ベック?」
「ナミ、俺のモノになるか?」
優しく私を見詰めるその眼差しは、昔と変わらないように見える。寧ろ、甘さが増したような感じに思えるのに、何を言われているのか分からない。
だって、欲望よりも、優しさとか、愛しさとか、そんな感情が強くその瞳に宿っているから。私は、そんな眼差しを……知らない。
「わた、し……ルフィの……」
「そうだな。だが、ナミは自分が嫌いで、存在したくも無いんだろ」
「それは……」
言葉に詰まる私に、ベックは優しくも甘い声で囁くように言う。それがまるで、当然の事であるかのように。
「なら、そのいらないナミを、俺にくれたらいい」
「いらない、私を……?」
「ナミが嫌う、弱くて、泣き虫で、甘えてばかりで、なのに……傷付きたくないと悲鳴をあげる我儘な部分を、俺に寄越せ」
その言葉に、ベックは本当に私を理解していたのだと思い知らされる。私が嫌いな自分は、確かにその部分で……。
でも、そんな部分だけあげるとか、そんなのできる筈ない。そんな、大っ嫌いな、消えてしまいたいような気持ちになる自分も含めて、今の私なのだから。
「ナミが嫌いだというそんな姿を、俺に見せていればいい。俺はそれを……勝手に愛してやる」
「ベック?」
「もう強がらなくていい。ナミは、頑張り過ぎたんだ。今は何も考えずに、俺に身を任せていろ」
「……無理、よ」
「ナミ?」
手を伸ばしたくなる。甘えたくなるけど、私にそんな事は出来ない。
「私は死ぬ筈だった。ううん、死ぬべきだったのよ……!あの戦場では私はどうしたって力不足で、なのに……死なせたくなかった。運命を変えるには私の力だけじゃ足りなくて……」
「……ナミ」
そっと頭を撫でてくれたと思ったら、優しく頭を抱き抱えてくれる。ただ、優しく……。
「私の命で……それを代償にして、エースを助ける筈だったのに……」
言葉が詰まって、何もその先言えなくなる。どうして、私なんかが生きてるの……!
「俺は、ナミが生きていてくれて、素直に嬉しいが?」
「ベック?」
「エースも死んだ訳じゃねェし、ウチの船医は優秀だ。エースは若く元々が頑健な質だろ。それなら、目覚める確率も高い」
静かで、優しいその声が心に直接訴えかけてくる。瞬きの為に目を伏せると、自然とこぼれる涙をベックはそっと拭い、優しく笑いかけて来た。
「ナミが、繋いだ命だ。自分が目覚めた時、姉が死んでたら生きる気力も失っちまうと思わねェか?」
「それ……は……」
「ナミが目覚めたら、ナミの姉がナミに大怪我させたからって苦しんで死んでたら、ナミはその後生きられるのか?」
「そんなの無理よ!」
「なら、ナミも生きてやれ。エースの為に。……何よりも、ナミを愛する家族や恋人、仲間がナミを喪えばどれ程傷付くか、考えてやれ」
「……っ!」
「俺は、ナミに生きていて欲しい。そして今、その脆いナミの心を……抱かせて欲しい」
麻薬のようだと、そう思った。手を出してはいけないと分かっているのに、手を出さずには居られず……きっと、1度それをしてしまえばもう、後戻りは出来ない。
それでも、壊れかけた心を、千々に乱れる感情を持て余した私は、何も言わずにベックへと腕を伸ばしていた。救いを求めるように、ただ、甘やかして欲しいと願って。
生きていて良いと言ってくれる。……ううん、生きて欲しいと願ってくれる優しい言葉に、縋りたくて……。
「ベック……!」
私は、なんて卑しいのか。甘える権利なんて、何処にもありはしないのに。
私はベックに何も返せないし、何も渡せない。なのに、ただ大切にして欲しいと願ってしまう。
「どんなナミでも、俺は常に愛してる。だから、ナミは何も考えずに、俺に甘やかされていればいい」
「もう、わたし、何も……喪いたくないよ……」
ベックに強く抱きついて、震える声で言えば優しく撫でてくれるその手。苦労の多い、けれども長く海で生きている男の手だ。
「今はただ、俺に与えられていれば良い。……その間は、与えられる事はあっても喪う事は無い」
ベックはそう言って、私の身体に指を這わせた。明らかに男の指なのに、繊細な動きで、決して傷付けないと分かる動きをする。
それにより私は、まるで硝子細工にでもなったかのような心持ちになる。それくらい、大切に触れてるのだと伝わって来るから。
「あっ……や……!」
「気持ち良いのは、悪い事じゃねェ。快楽に抗うな」
「だっ……て、んっ……!」
直接弱いところに触れてくるのではないのに、その触れ方1つ1つに翻弄されて身体が熱を持つ。焦れったいような、でも、何故か幸せなような気持ちにさせられてしまう。
「ナミがいらないと思う、快楽に流される部分を俺に見せれば良い。強がる事も、我慢する事も、必要ねェ」
「そ……な……」
言葉を上手く紡げない。優しい指先に翻弄されて、思考が鈍っていく。
でも、甘えようとする自分が許せなくて、言い訳を口にしようと開いた唇は、言葉を音にはしきれないままに幾度もその唇で塞がれてしまう。それに動揺してしまう私に、ベックはその眼差しで愛を伝えて来る。
「ナミが隠しているその弱いところは、俺のモノだ。……そうだろ」
「でも、私っ!」
言葉を紡ごうとした時、塞がれた唇。触れる度にその種類を変えるキスは、なんとも心地よく、次が読めない。
ベックを否定するつもりは無い。けど、自分を受け入れられなくて、己を否定しようとする度に塞がれる唇。
そんなキスは恐ろしく優しい。それにより言葉を失う私に、ベックは唇の隙間で言葉を告げて来る。
「綺麗だな、ナミは。……これ迄激しく、乱暴にしか扱われて来なかったか」
「んぅ……や、もう……!」
言葉を紡ぎながらも、私を高める事は辞めない。熱に、快楽に溺れてしまいそうな自分を自覚する。
「激しく攻めるばかりが脳じゃねェんだ。これまでずっと……奪われるばかりで、辛かったな」
「ベック……」
「ナミは、何も悪くねェ。ナミを求める男達のやり方が悪いだけだ。自分を責めるな」
私の全てを許すような言葉に、私は何も悪くないのだと繰り返す声に、涙が止まらなくなる。でも、私はルフィに顔向け出来ないような事を何度も……!
今だって、これは明らかな背徳行為で……!
「でも、私、何人もの人に……黒髭だって、そう「あの馬鹿の言葉が気になるなら、俺が消してやる。あの場は戦争を止める為に居たから、動かなかっただけだ」」
真剣な顔でベックは言う。あの場はただ耐えただけなのだと。
「跡形もなく消し去るか、消し炭にしてやりたかったさ。……ナミは、俺の最愛の女だ。侮辱されて許せる筈もねェだろう。ルフィへの罪悪感も必要ねェ。……海賊なんだ、分かってる筈だ」
そう言いながら身体に舌を這わせるけど、ベックは跡を残そうとしない。跡を残すそれは、内出血であり怪我だからなと微かに瞳を陰らせる。
「俺がナミに、傷なんざ付けられるか。痛みなんて、感じさせるつもりはねェよ。……酷い事は何もしない。ただナミは、気持ちよくなればいい」
「あっ……そこ、やだ!」
弱いところを優しく刺激されて、身体がビクリと反応するのが分かる。それにより咄嗟に逃げようとした私を易々と抑え込んで、ベックは涙の滲む目尻に唇を落とした。
「泣いてもいい。無理に笑わなくていい。何も我慢する必要はねェ。……少なくとも、俺の前ではな」
「ベック、でも……!」
「ん?」
私ばかりが高められて、ベックは何も無い。いつもならもっとこう……辱められながら、無理に入れられてる訳で……。
つまり、ベックは何も欲は満たされてない筈で。でも、ルフィを思えば余計な事は言えなくて……。
「……成程。ナミ、貪るようなSEXは恋人とやれ。俺はただ、ナミを可愛がるだけだ」
「あっ……あぁ!!」
「今ここにいるのは、弱い部分のナミだけだ。それを解放して、強い理想の自分に戻ってから、またルフィを愛してやればいい。与えるばかりじゃ、ナミが乾涸びちまう未来しかねェ」
「んぁっ!でも、ベックは……?」
「俺も、ちゃんと悦くなるから、そんなに気を使うな。……ナミは、優しすぎるんだよ」
そう言ってベックは私を俯せにすると、背後から熱い楔を奥深くに叩き付けるように挿入して来る。散々に高められた後だからか、蕩けきっていた内壁は、ほんの僅かな痛みさえ感じる事なく楽々と受け入れていく。
「あっ……アア……こんな、の……初めて……!」
驚きと戸惑いと悦楽の声が、私の喉を震わせる。ルフィとのそれはスポーツの延長に近く、それでも愛しい相手だから、悦んで貰えるならとなんでも受け入れて来たし、これからだってなんでもしたいと思っている。
その事に間違いはないし、嘘偽りも無い。それ以外の相手は、抵抗するからというのもあるだろうけど、痛みと快楽のギリギリの隙間を狙いすましたように攻めてくる抱き方だった。
だからこそ1歩間違えば、そのまま苦痛の中に溺れるか、はたまた死が待ち構えているか。そんな中で、己のプライドと、ルフィへの想いだけを頼りに絶壁の上に独りで立っているような心持ちでいた。
違ったのは、男を手玉に取れと仕込んできたレイリーさん位なもの。彼は、明らかに師匠の枠だった。
そんな状態の彼等は、弱さを私にぶつけて来た。だからこそ、私は突き放せなかったのだとは思う。
でも同時に、私はそんな弱さを見せる男達に、自らの弱さを見せるなんて選択肢を持ち合わせては居なかった。でも、ベックの抱き方は違う。
悠々と押し入ってきては、ゆったりと去っていく。たっぷりと焦らして、もう欲しいと身体が悲鳴をあげるのを見計らって、再び奥まで1気に貫いてくる。
「ベック……!あっ!」
「愛してるよ、ナミ。俺に抱かれてる現実ががつらいなら、瞳を閉じていればいい。その間は……俺をルフィだと思ってくれて構わねェ」
「そんな、こと……!できな……!」
「あァ……抱き方が違いすぎるか?」
そうじゃない。そうだけど、そうじゃない……!
「私、ベックのこと、すきだもの。そんな、ひどいこと、できな……!」
「……ナミの甘さは、猛毒だな。それでも俺は、ナミを苦しめるつもりは無い。……甘えていい。寧ろ甘えろ。少なくとも俺には、もう二度と気を遣うな」
「あっ……待って……!やぁぁ!」
「その弱った心を、隠してる傷ごと全て……俺に寄越せ」
たゆとう波のように緩やかに、私を揺さぶり、身体にも心にも、無理はさせねェと優しく耳朶に落とされる言葉は、本気で甘やかすつもりなのだと告げている。穏やかな海岸の波のように、ベックは優しく、私を翻弄していった。