お前の価値は、その能力だけだ。下等な人間は、何も考えずただ、万物の霊長たる俺達に傅いて生き長らえていれば良いんだ!
人間如きが魚人に逆らうってのは〝自然の摂理〟に逆らうも同然だ!!この程度しか描かずに、まともな飯が与えられると思ったのか!?
どうした?全て諦めるか……?
買い戻したいんだろ?……ココヤシ村を、なァ……ナミ?
「……っ!……さか、ら、う……はず……ない、でしょ。私は……」
……〝私〟は誰?本来居るべきナミちゃんの居場所を奪った、偽者でしか無いのに。
繰り返される拒絶。侮蔑と嘲笑。
与えられる毒と、望まぬ熱。繰り返される暴行。
そんな中でナミとしての記憶には無い、見知らぬ人が幼い〝私〟の手を振り払った。そして向けられる殺意にも似た視線。
『あんたなんか、産まれてこなければ良かったのよ!』
家族から愛されたいと、そう願う事は罪ですか?
『あなたは私の跡継ぎ、何1つミスする事は許しません。出来ない事等あってはなりません。さぁ〝完璧〟な姿のみを披露して来なさい』
求められるのはいつも、結果と能力のみ。過程など誰も気にしないし、認めない。
『お前は黙って俺の言う事聞いて、言われるままに足広げてろよ。お前の価値はそれだけだ。女が出しゃばるな』
私の価値って、何?
私は、どうして生きてるの……?
何も望んではならない。けれども、全てを完璧に出来なければならない。
『『『『大丈夫、1人になんかしないよ』』』』
痛みと苦しみの中に居るのだと自覚さえ出来ない〝私〟に差し出される、唯一の希望。大切な人達。
その人達が目の前から突如消え去り〝私〟は闇の中を漂う。そして……温かいそれがそっとナミとしての私の手をとった。
『ナミ!!何コレ凄い!ありがとう!大好き!って、そうだけどそうじゃなくて……ナミを探してたのよ!あのね、蜜柑の花が沢山咲いたんだよ!!早く見に行こう!』
笑って欲しくて、簡単に編んだ花冠を後ろからそっと近付いて被せた。女の子で、まだ幼いから拒絶はされないんじゃないかと、そんな卑しい事を考えた己のあさましさ。
なのに……そんな温かな言葉をくれる家族。初めて向けられる、打算のない愛情。
少し、期待してしまう。もしかして、手を伸ばしても、振り払われないの、かな?
『ナミ、じゃァん!!ベルメールブランドのワンピースだよ!!』
「これ、着ても、いいの?」
『何当たり前な事聞いてるのよ?ナミの為に作ったのよ』
私の為の、物。身代わりや、役割の為ではなく、私の……?
泣きながら飛び付く私を軽々と支えて、優しく抱き締めてくれるその腕。その温もりに、涙は止まる事を知らないとでも言うように溢れ続ける。
「ベルメールさ……ん……。ベルメールさん……!」
貴女を母と呼んでも、良いですか?
ナミちゃんが1度も呼ぶ事の出来なかった、その呼び方で、偽者でしかない私が、そう呼ぶ事を……許してくれますか?
私、強くなるから。必ず、2人を守るから。
心に誓い、蜜柑畑へ向かう2人を見送る。家事をしつつ、そっと呟くように言葉を紡ぐ。
「ありがとう、大好き。2人の事は、必ず守るから……幸せに、生きてね」
少し離れた所にいる2人の背中に向けて、聞こえないと分かっていて呟いた。2人が生きてくれるなら、それだけでいいの。
『こら、買ってやるから本から離れなさい!!……店主!この猫が持ってる本を買うから、値段を教えてくれ!』
「なんで?」
『ん?何がだ?』
「私、何もしてないのに」
『……お前が欲しがる物はいつも、知識に関わる物だ。それは、ベルメールやノジコの為だろう』
「違うよ。私が勝手にやってるの。……私は、決めたから。変えられない運命なんてないから」
『ナミは、時々難しい事を言うなァ。本ばかり読むからかもな。……だが、何よりも本屋は本を売ってるからな、買わないと迷惑だろ』
そう言いながらゲンさんは私に本を買って、手渡してくれる。それを抱きしめて、ありがとうと言ったら頭を撫でてくれる無骨なその手が、泣きたくなる程に嬉しかった。
『へェ……農業にも興味あるの。いいよ、この本貸してあげるから、持って行きな』
「書き写してもいい?」
『やれるもんならね。好きにしな!』
「ありがとう。明日返すね」
『明日!?』
「……書き写すだけなら、明日には終わると思うけど、今日返さないと不味い?」
『……明日は、忙しいから、明後日返しにおいで。その時何か別なのも貸してあげるよ』
少し呆れたような顔で、でも優しく笑ってくれる。関係性なんてそんなに無いのに、まるで自分の娘や孫のように愛してくれるそれが苦しい程に温かい。
『ナミは、将来儂の跡でも継いでみるか?医者は儂だけじゃ。ナミなら継げるだろう』
「知識は、欲しいわ。でも、跡は継げない」
『何故?医者にはなりたくないか?向いとると思うぞ』
「私、できない約束したくない」
ノジコとベルメールさんの為なら、いつでも死ねる。だからきっと、私が跡を継ぐ事は出来ない。
そんな私に、ドクターは笑う。仕方ない子だと言わんばかりに。
『ナミが望むように生きたらいい。儂はナミを応援しよう』
私の、望み。そんなもの、考えた事も無かった。
だって私は、ナミちゃんの人生を奪っている。本当はこの世に存在したらダメなんだもの。
だからせめて、彼女の愛した家族であり、初めて愛してくれた人達を……幸せにしたい。ただ……。
「生きて欲しいと、願ってるだけなの。他には、何も望まないわ」
そんな事を言ったら怒られちゃうかな。ドクターは、怒りん坊だから。
『おいナミ!今日は何を歌うんだ?……ノジコも、来るか?』
「なんで?」
『ノジコと、最近喋ってないなって、そんだけだよ!』
「ノジコは世界一可愛いけど、下手に手を出したら……切り落とすわよ?」
『き、肝に命じときます』
それに満足して笑った私に、村の人達が楽しそうに笑う。ノジコがそんな私に駆け寄ってきて、抱き締めてくれる。
ベルメールさんが蜜柑とお弁当持って来てくれて、噴水広場が1気にコンサート会場に変わってしまう。役目だからじゃない、ただ喜んで貰えるから、笑って貰えるから、だから私は……想いを乗せて歌えるし、奏でられるのよ。
何も無い、何も出来ない、本来ならば存在する事さえ許されない〝私〟を、無条件で愛してくれる人達。護りたい……この人達だけは、護りたいの。
「残酷な未来なんて、いらない。守れるなら、他には何も……望まないから……」
この人達を苦しめないで。私は、この人達の笑う未来が欲しいと、大切な人達にただ生きてほしいとそれだけを願う。
『ナミは俺の船に乗るんだぞ!』
「ルフィ……?」
『ナミは俺のだからな!シャンクスにだってやらないぞ!』
ムキになって騒ぐその姿が愛しくて抱きしめると、やめろよと言いながら嬉しそうに笑う。本当に、可愛くてついグリグリと抱きしめたままで撫で回してしまうの。
『俺はいつか、海賊になる!』
哀しみを押し殺して前を向くエースの姿に、どうしてかな、自分の姿が重なって見えた気がした。この子が苦しまずに、幸せに生きられる未来はどこにあるんだろう。
考えなきゃ、この子が生きられる未来を見つける為に。掴み取る為に。
『この島を出て、生きるんだ。自由に!!』
貴族の中で生きる事を拒んだサボはきっと、誰よりも優しくて、賢い。だから、耐えられなかったのだと分かってしまう。
日々、大切な人が増えて行く。楽しいと、幸せだと、人は自然に笑えるものなんだね。
『なァ、ナミー……たまには構ってくれよ……。最近修行の時しか話しかけて来ないじゃねェかよォ……』
情けない声に振り向けば、潰れたスライムみたいになってるシャンクスがいる。それが妙に、可愛く思えて笑ってしまう。
「シャンクス、可愛い」
『可愛い!?違うだろ、格好良いだろ!?頼りになる船長だろうがァ……』
最後は悲しそうに言われてしまうと、何も言えなくなる。でも、頼りになるとか、なんか違う。
いや、強いし、いざと言う時は頼れるけど、普段は無理。だってやっぱり可愛いから。
『お頭、鬱陶しいぞ』
『何おぅ!?こんなに可愛がってるのにか!?』
ルーの言葉に反応して怒るシャンクスに今度はヤソップが追い打ちをかける。全く困った子達ねと思って、私はクスクスと笑ってしまう。
『可愛がり方に問題があるんだろ』
『ほらナミ、大きな子供が拗ねてる。悪いが相手をしてやってくれ』
呆れたように、困ったようにベックが笑う。それに私が仕方ないなぁなんて言えば、シャンクスがパッと顔を上げて両手を広げた。
自然な形で受け入れて、育ててくれて、ここに居てもいいんだと教えてくれる。ねぇ〝私〟も、生きていて……良いのかな?
『お前は、俺の玩具で、ペットだ。ご主人様に逆らうな!』
「違う……!契約に無い事をするつもりは無いわ!……触らないで……!」
『アーロンさんに気に入られてるからって、調子乗ってんじゃねェぞ!下等種族が!』
『本当に人間は脆弱だな……チュッ』
『こんな事も出来ないとは、下等種族は本当に無価値な存在だな。アーロンさんに拾って貰えた事を精々感謝するんだな』
嫌われてもいい。憎まれてもいいよ。
だから、お願い……。誰も、死なないで……。
私はどうなっても構わないから……!
『ナミ、酒あるか?っていいの持ってんな。くれよ!』
『ナミ、お前はどうしてそう無茶ばっかりするんだよ!やっぱ、俺様がいないと駄目だな、ナミは!……たまには、頼ってくれよな』
『ナミさん、蜜柑でタルトを焼いてみたのですが、味見して頂けませんか?……今なら、オレンジティーもおつけしますよ』
『なァなァ!ナミ、この本続きはないのか!?お姫様は、助けてもらえたのか!?』
『あら、また寝なかったのね。駄目よ?ほら、隈が出来てるわ。……仕方ないわね、これから私と少しでいいから寝ましょう』
『スーパーな、俺様に隠し事か?ナミ。梯子位作ってやるから、危ない事すんじゃねェよ』
『ナミさん、この譜面なのですが……少しお話しても宜しいですか?』
『ナミは俺の仲間で、最愛の女だろ!傍にいろ!……センチョー命令だ!』
明るく優しい仲間達が、笑う。生きてもいいのか、では無くて、生きなければダメだと言って。
その時突然大切な人達に襲い掛かる、強大な敵の姿が見える。アーロンがベルメールさんとゲンさんを、ロブルッチがロビンを、黄猿がゾロを、赤犬がエースを、同時に起きるそれに、私はどこに手を伸ばせば良いのかも分からずに叫ぶしか出来ない。
「いや、殺さないで……!皆を、奪わないで……!」
その時そっと近くに立ったのは、ルフィやシャンクス、レイリーさん。その姿に私は縋る。
「たすけて……。もう、だれも、喪いたくないよ……。死なせたく、ない……!」
『当たり前だァ!!』
『少し待ってろ。すぐ、片付けて来る』
『大丈夫、任せておきなさい』
迷う事無く是と応えてくれるそれに、力が抜ける。もう、大丈夫。
私はもう、居なくても平気だよね。ありがとう、助けてくれて。
『なァに言ってんだ!ナミが死ぬのとか、許さねェぞ!』
声に出してない筈の言葉にルフィが、呆れとも怒りともつかない顔で言う。そして、その瞳を優しく細めて、抱き締めてくれる。
『ナミ、愛してる。どこも傷付けるな。何も、失わせねェよ。……髪の毛も俺のだから、勝手に切るなよ』
「ルフィが……のぞむ、なら……」
「ナミ!!おい、ベック!!ナミはどうなんだ!?」
「だから、無理させるなと言っただろうに……」
霞む視界の中で、手を握り締める温もりを感じる。大切な人達の、声が聞こえる……。
長い夢を見ていたらしいと気付き、私の手を握って離さないシャンクスを見付ける。近くでシャンクスを叱り飛ばすベックがいて、肉を持ってるのに齧らないルーに、銃を無駄に撫で回すヤソップが見えて、心配掛けてると気付く。
その時突然ヤソップがシャンクスを押し退けて私の傍に来ると、そっと額に触れてきた。それにシャンクスは文句を言うけど、ヤソップは気にした様子を見せない。
「ナミ、起きたんだな。俺が分かるか?」
「ヤソップ……」
「……痛い所はあるか?」
「だいじょうぶよ、ただ、状況が、よく、わからないの。……なんだか、長い、夢を見ていたわ」
私の言葉にもう少し寝てろと言ってヤソップは笑う。今何か食べられそうな物を持って来ると言って、去って行くベックが見える。
ここは、長い夢の中ではなくて、どうやら現実らしい。そう認識すると同時に、また迷惑をかけたらしいと気付いてしまう。
「ナミ!!」
その時慌てた様子で、シャンクスがヤソップを突き飛ばして私の頬に触れる。それに小さく笑うと、皆がホッとしたような顔をした。
「ナミ、悪かった。弱ってるのには、気付いていたのにな」
「……何日、寝てたの?」
「2日だ。ずっと、魘されていたが……」
心配そうなシャンクスに、私も良くは思い出せない部分もあるから曖昧に笑って、その頭に手を伸ばす。……本当に、髪質がルフィとよく似てるわ。
「ふふ、心配かけてごめんね。……虫に追い掛けられて、逃げ込んだ先がお化け屋敷で、怖かったわ。夢で良かった。きっとモリアと戦った時の名残りねぇ……。ゾンビに追い掛けられて、噛まれたりしたのよ?もう、おぞましくて……!」
少しだけ気の抜けたような顔で、ヤソップとルーが笑う。それに合わせて、シャンクスが騙されたフリをしてくれたのが分かる。
「……ナミ、お化けと虫、ダメだもんな。怖かったな」
嗚呼、騙せてない。誤魔化せてないと気付いてしまう位には、私もシャンクスも互いを知り過ぎている。
安心した様子で出て行く二人に、シャンクスは引き摺られるように出て行く。その代わりに入って来たベックが軽食を見せるけど、食べられそうになくて首を横に振るとその背後からエースが顔を覗かせた。
それに慌てて身体を起こせば、くらりとしてベッドに戻ろうとする身体を即座に誰かが支えてくれた。フワリと漂う香に、まさかと視線を向ければそれは和装姿の美人さんで……。
「……ありがとう、ございます」
「こちらこそ。……今、大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」
「大丈夫なら、食え」
イゾウさんに答えたそれを理由にされてベックに言われれば、点滴をしてるのにと少しむくれる。でも胃腸が弱るから使え、働かせろと言われてしまえば逆らう事も出来ない。
食物繊維の多い物は食べてはダメで、消化に悪い海藻類も、刺激物もダメだからと用意されていたのは茶碗蒸しだった。成程と頷く私に差し出された飲み物は焙じ茶で、何とも懐かしい気持ちになる。
「回復するまで蜜柑は食わせないからな」
「ベックの意地悪!」
「ナミ、蜜柑だけでは生きられないとそろそろ学べ」
そんなこんなで、身体を支えるのがイゾウさんからベックに変わる。そんな私の目の前に座ったエースが、何故か嬉しそうにしているのに気付いた。
何だろうと思ったら、スプーンを差し出して来て……。
「はい、アーン」
「エース!?」
「ナミはいつも、やってくれたよな?なァ、それとも、俺の差し出した物でも食えない?」
その言葉で、アーロンの所での事を知られてると気付く。でも、どうして知ってるの?
「……なにを、知ってるのよ?」
「ルフィから聞き出した。……なんで、俺を頼らなかった?そんなに、頼りないか?そんなに俺は、ガキなのかよ」
それに答えられなかった私は、エースの持つスプーンに食らいつく。口に物が入ってるから喋れないのだと示せば、エースがその頬を引き攣らせ、ベックは便利なやり方だなと納得した様子を示す。
そんなやり取りを楽しそうにイゾウさんが眺めて、エースの問い掛けから逃げる為に必死になって茶碗蒸しを食べた私はベックに頭を撫でられつつ、イゾウさんと会話をする事となった。……何かがおかしい。
「エースの事を助けに来てくれて、感謝する。さて……俺の方で把握してる事も幾つかあるから、エースへの説明と合わせてさせて貰いたいんだが、体調に問題は?」
「ございません」
「……強がりもここまで来れば立派なもんだね」
そう言って笑ったイゾウさんは、ベックに視線を向けると2人で頷き合う。それにより私とエースは顔を見合せ、同時に首を傾げる事となった。
2人の話を総括すると、あの戦争の後サボは革命軍のメンバーと共に戦線を無事に離脱。戦場にどうやって現れたのかは、変装して海軍の1人として紛れ込んで居たと教えられた。
後に落ち着いてたら私とエースが騒ぐだろうから、教えてやって欲しいと、エースが必ず目覚めると確信してその言葉を残してくれていたと知る。それから、エースは悪魔の実の能力を完全に失い〝火拳〟のエースとしては死んだとする他無いだろうとの事だった。
ロギアの能力に代わるだけの実力を得るか、代わりの悪魔の実をその身に宿すまで……対外的にはエースは死んだ者として世間には思わせておく必要がある。その為、このまま白髭さんと共にエースの葬儀を執り行い、エースには何処かで修行をしていて貰う予定だと言う。
「あの、僭越ながら1つ、提案がございます」
「「「ん?」」」
3人の声と視線が私に向けられる。それにビクリと揺れる体は、確かに本調子ではなさそうだなと自覚した。
でもこれはずっと考えていた事で、もしもの時はそうするつもりで巫女様やお爺ちゃん達と話をしたのだ。だからもう、ある程度の準備は出来ている。
「私は、葬儀の後、空島に帰る予定で居ます。その際、エースを預からせて頂けませんか?」
「空島に、帰るって……どういう事だ?」
ベックが珍しく動揺するから、私は頭を真上に向ける形でその胸に頭を預けてベックを仰ぎ見る。ベックの膝に座ってて、この身長差って凄いわよね。
「どう話したらいいか困るんだけど……」
そう言って私は話し始める。ルフィは今の実力では〝新世界〟では生き抜け無いだろう事から、修行をすると言い出すだろう事を説明した。
そして、その期間は恐らく2年。その期間私は空島の1つで修行をする事に決まっていて、その迎えが葬儀の後で来る手筈になっている事を伝える。
それを聞いたイゾウさんが、半年……と呟いた。それに顔を上げると真剣な眼差しとかち合う。
「恐らくティーチの奴が力をつけて〝親父の遺したもの〟を奪いに来るのに最低半年はかかる。その時、エースに参加するなと言えばそれこそ手に負え無くなるだろう」
「当たり前だ!俺も戦「そこで、半年……エースを預けたい。その後はいつ攻めてこられるかわからねェし、こちらとしては無益な争いはしたくもねェ。本来……守れるなら、それだけでいい」」
エースの言葉を遮り、イゾウさんが続けた言葉に何となく覚えがある。曖昧な記憶だけど……確か……。
「〝落とし前戦争〟」
「ナミ?」
ベックに名を呼ばれて、ハッとする。余計な事を言った気がするわ。
けれども口から1度出た言葉は戻せないし、その時部屋の入口に居たらしいマルコさんと、シャンクスが部屋に入って来ては逃げ場もない。人口密度が上がれば、続くべき言葉を飲み込む事は許されなくなった。
ベック1人でも誤魔化せたら奇跡なのに、イゾウさん、シャンクス、マルコさんが居るのだから誤魔化すなんてこの世の誰にも出来はしないだろう。それは、そう……幼い時にノジコに問い詰められたあの時の事を彷彿とさせられる。
「……私が、未来を夢で見るのは、ベックには話したわよね?」
「あァ、聞いてる」
「その中で〝エースの死後〟1年が経過した時〝白髭の残党〟と〝黒髭海賊団〟が大規模な戦争をして、それの名前が通称〝落とし前戦争〟だったと……それしか、私は情報が無いの」
まさか、白髭海賊団の側が惨敗したとは、言えない。でも、マルコさんは静かに息を吐き出すと困った様子を見せた。
「成程ねぃ。俺達は負けるのか」
「……マルコさん!?」
「ナミは、賢いが愚かだねぃ。〝白髭の残党〟と〝黒髭海賊団〟と聞けば分かる。俺達が勝ったのならば、元白髭海賊団と黒髭海賊団の戦争と呼ばれる筈だぃ」
その言葉に、私は何も言えなくなり、そんな私をベックが強く抱き締めてくれた。それだけで身体が震える。
甘えてる場合じゃないと分かっているのに、何故か力が抜けそうなる。そして、私を見てその場にいる全員が息を飲み、困ったような顔で笑ったのだった。