※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

251 / 462
手紙

 2人が海岸に到着すると、そこに居たのは〝冥王〟レイリーその人であった。その姿になんで居るのかと驚くルフィに対して、あまりにも想像を超える人物の登場に小刻みに震えるしかないジンベエがいた。

 そして3人で暫し会話をした後、見舞いにと姿を見せたハンコックのお陰で少しばかり空気が変わる。やはり女性陣がいる事は潤いなのか、レイリーは優しい空気を出すとハンコックが用意した食事を口にしながら、その場にいる全員にルフィがここに居ると思い至った経緯を伝える。

 それから食事を続けるルフィの背中に向かい、レイリーは話し掛けた。その瞬間空気が変わる。

 同じ過ちを、失敗を、ただ繰り返す為だけに再び集うのか?と問われたルフィが寒気と共に血の気を引かせると、レイリーは静かな様子で提案した。それはルフィに決めろと言いながらも、それに従わないなんて事は有り得ないと確信している男の言葉でもある。

 その提案を受けて戸惑うルフィに、レイリーは封筒を二通(・・)取り出して意味ありげに笑う。それだけでルフィは食事の手を止めて、ふらりとレイリーに歩み寄った。

 吸い寄せられるようにその封筒を見詰めるのは、見慣れた封筒であるからか。それとも、他に何か思う所があるのかは不明だが。

 

 「その、封筒……」

 「あァ、ナミちゃんからだよ。片方は戦争で死んだ場合(・・・・・・・・)に渡して欲しいと頼まれた物でね。もう1通はそれ以外(・・・・)の時にと言われている。……さて、ルフィはどちらを読みたい?」

 「両方俺のだ」

 「……何故、そう思うのかな?」

 

 レイリーの問い掛けにルフィは首を傾げる。何故そんな事を聞かれるのか、分からないとでも言わんばかりに。

 

 「ナミが俺に書いたんだろ。なら、俺のだ」

 「……正論だがね。まァいいが、それよりも……ルフィはナミちゃんが生きてると思うのか?」

 

 その問いにルフィは顔色を僅かに変えて、目を瞑る。それだけ本気で悩んでいるのだろう。

 ルフィはまだ戦争に関する新聞を見ていない為に、あの場でその後何が起きたのかを知らない。戦争が、どうやって終わったのかを知らないのだ。

 それでも、ルフィは微かに苦しそうな顔で、瞼を強く瞑った後で静かにその目を開く。瞳を見せたルフィに、迷いは既に無かった。

 

 「ナミは、生きてる。あの場所にはサボが居たし、よいのオッサンもいた。鷹の目のオッサンと、ミンゴもいた。……それだけいて、ナミを死なせる筈ねェよ」

 「……これはまた、的確な事を言う」

 

 レイリーの言葉にルフィは微かに俯く。それから自嘲するように笑ったが、その心は本人にしか分からないだろう。

 

 「そのメンバーの中に居るのは、サボ以外は全員、ナミに惚れてる。ンなもん少し見てりゃ分かるからな。……ナミはなんも分かってねェけどさ」

 

 そう言って寂しそうに笑うルフィに、レイリーは二通の封筒を差し出して、無言で読むように促す。それは封を開けられた様子等無いのに、内容を理解しているようにも見えてルフィは首を傾げた。

 それからそっと封を切って中身を取り出した。その瞬間にその場に広がったのは、蜜柑の香り。

 急くような思いに駆られて、ルフィは震える手でその手紙を広げる。それはナミが〝死んでいた〟時に読んで欲しいと、そう言われていた方の手紙だ。

 

 『親愛なる船長へ

 この手紙をルフィが読んでいるという事は、私は頂上戦争で命を落としたのね。でも、それならエースは生きてる筈だから、嘆かないで、悲しまないで、先を見据えて進んでください。

 私は後悔していません。この世界に生まれたのだと理解した時から、この日を想定して生きてきました。いつか、ルフィの為に何ができたら、そう願って来たから……正直本望です。

 だってね、そのままの未来に進んだら、ルフィがエースを喪い壊れる事も、そして苦しみの中で耐える事を選択した事も、私は知っていたから。それは、ルフィには簡単に話したよね。私は、その未来をどうしても変えたかったの。

 新しい航海士は、海賊女帝に言えば誰か1人くらい都合つけて貰えると思うから、相談してみて。大丈夫よ、海賊女帝ならルフィに悪いようにはならないから。ハンコックは美人さんで、優しくて強いから、きっとこれからもルフィを支えてくれる。大切にしてあげて。

 ルフィに悲しまないで欲しかった。ルフィが傷つく未来も、悲しむ未来もいらないと思ったの。

 私にとって、ルフィは世界そのものだから。あ!蜜柑の樹はロビンに世話して貰ってね。それで実った蜜柑は皆で食べるのよ。喧嘩はあまりしないようにね。

 お風呂も出来たら3日に1度は入って、毎日少なくとも寝る前には歯を磨く事!面倒とか言わないのよ、衛生管理は人として生きるのにどうしたって必要不可欠な事なんだから!

 私の海図とか、地図は……ルフィの好きにして。次に仲間になる航海士にあげてもいいし、売ってくれても構わないわ。私が死ぬと私のお金は麦藁の1味が自由に使えるように準備してあるから、その辺はサンジ君やロビンに任せてね。全てお肉にするとか、そんなの許さないんだから!

 色々書いたけど、ルフィなら必ず海賊王になれるわ。自分を信じて、前に進んで世界の真実に辿り着いてね。私はもう手伝えないけど、ずっと応援してるわ。

 最後になっちゃったけど……ルフィ、私の最愛の船長。集合の約束を守れなくてごめんなさい。私の事は、忘れてね』

 

 「……ナミは、馬鹿だ」

 

 ルフィはそう言ってその手にしていた、未開封の手紙を落とすと空を見上げた。そこにナミが居る等とは、知らない筈なのに。

 そんなルフィにレイリーは静かに問い掛ける。生きていると確信していた様子なのに、死んだ方だけを読み動きを止めているから。

 

 「もう1通は、読まないのかい?」

 「ん、読む」

 

 そう言ってルフィが地面に落としていた次の封筒を手にすると、それ迄読んでいた手紙がその手から逃げるように落ちる。その落ちた手紙をレイリーが拾い、それを読むと肩を震わせた。

 それが笑っているのだと気付いたハンコックが怪訝な顔をして、その手にある手紙に手を伸ばす。だがそれをレイリーは許さない。

 

 「レイリー!その手紙を「これはルフィ君の仲間が、ルフィ君へと書いた物。君が勝手に読む権利はない」レイリーは読んでいたではないか!」

 

 叫ぶようなそれに、レイリーは薄く笑う。そして、肩を竦めてみせた。

 レイリーが意地の悪い顔をしていても、ハンコックは言えば見せてくれると思っていたのかも知れない。助けてくれた後、共に過ごしていた間、レイリーは随分よくしてくれたから。

 

 「これは、私も読む事を本人から許されているのだよ。託す為の手紙にその事が記されていたんでね」

 「だが、ルフィはナミと言った。つまり、その手紙の送り主は女ではないのか!?ならば、ルフィを想う妾も読む権利がある筈じゃ!寄越すのじゃ、レイリー!!」

 「あァ、確かにナミちゃんはルフィ君の〝女〟だよ。だが、今の君にそれをとやかく言う権利は無い」

 「妾の方が美しく、妾の方が強かろう!ならば……!」

 「美しさは、個人の趣味もあるだろうから難しいが、確かにハンコックの方が美しいだろうね。そもそもナミちゃんは可愛い系だよ。強さについては……どうだろうね?」

 

 そう言ってレイリーはルフィに視線を向ける。それにルフィは首を傾げると、当然のように言い放つ。

 

 「ナミは、戦ったとしても、負けねェと思うぞ。勝てもしないとは思うけどな」

 「……妾と、同等の強さがあると言うのか?」

 「んー?普段なら、ハンコックのが強いと思うぞ。でも、ナミは戦うと決めた時と、怒りが振り切れた時と、守る為に他を全て排除した時で強さが違うからよ」

 

 ルフィの言葉にハンコックが首を傾げると、ルフィは懐かしそうに笑った。その顔は何処か優しい。

 

 「守る為に全ての感情排除したナミには、誰にも勝てねェ。多分、シャンクスよりも強い。怒りが振り切れた時は、今の俺とどっちが強いかなァって感じで、戦うと決めた時は、それなりに強い。普段は基本的に弱くはねェって感じなんだよ」

 「それは、どう言う……」

 「どの状態でも、まずナミを捕まえられるかだけが問題だな。捕まえられれば、勝てると思うぞ。ただ、逃げ足すんげェ早いけど」

 

 それは、どんな人物なのか。そう言いたげなハンコックにルフィはにししっと笑うと、小さく何度も守られて来たんだと呟くように言う。

 それによりハンコックは、随分長い付き合いがあるのだと気付く。故郷を思うような穏やかな空気で、ルフィは静かに空を見てから手紙に視線を戻す。

 

 「ナミは、俺には誰よりも輝いてるし、誰よりも愛しい。可愛くて強いのに、脆くて……目が離せねェんだ。もう、1人では泣かせたくねェって思ってる」

 

 その言葉にハンコックが唇を噛むが、それをレイリーもジンベエも気にしない。そして、ルフィも。

 ふらりと身体を揺らしたハンコックを支えるように妹達が側に行き支えるが、その姿はあまりにも痛々しい。恋する相手に、特定の異性が居るという現実は、確かにつらいものがあるだろう。

 それも、ルフィの口から直接聞いたのだから。他には何も見えないとでも言えない程に、愛しさをその瞳に宿して……。

 ルフィが開いたもう1通の手紙には、先程とは全く違う事が書かれていた。それにルフィは微かに驚いたような顔をする。

 

 『ルフィへ

 この手紙を読んでるなら、私が生き残ってしまったのね。なら、エースはどうなったのかな。……生きていると、良いのだけど。

 私もルフィも最善を尽くしたとは思うわ。でも、それに結果が伴わないのならば、私の存在意義はなんだったのかしらね。

 それでも、私は生きている限り、ルフィの航海士よ。必ず2年後に、再会すると約束するわ。

 安心して、ルフィ。皆も無事よ。

 あの時バーソロミュー・熊が皆を飛ばしたのは、ルフィとその仲間を守りたかったからなの。分かっていて、私は彼に何も返せないけどね。

 ……駄目ね、生きてるなんて想定外過ぎて、何を書いていいのか分からない。でも、生きてるなら多分私は、シャンクスと居るわ』

 

 そこまで読んでルフィは首を傾げる。その様子に、レイリーとジンベエが注目してる事等気付かないままに。

 

 「なんで、ナミがシャンクスと居るんだ?」

 「あァ、あの戦争を止めたのは、シャンクスだったからだろうね。……そうか、ナミちゃんは、そうなる事を知っていたのか」

 「え?」

 

 レイリーがルフィの言葉に答えれば、ルフィはレイリーに視線を向ける。それによりレイリーは戦争の終幕について、映し出されていた事から分かる範囲で説明した。

 その話を聞いたルフィは、その場に座ると身体を震わせた。それはそうだろう。

 ルフィが意識を保てなくなったその後、恋人でありクルーでもあるナミが1人で、兄エースを蘇生させようとしていたのだと聞かされては、己の不甲斐なさに泣きたくもなる。それを分かっていてレイリーは告げたのだ。

 兄のエースが生き返った保証は無い。寧ろそんな可能性は、殆ど無いだろう事は誰にでもわかる事だ。

 レイリーはルフィが全てを知り、その後どうするのか、それを見定めたいと思っているのだから。そしてそれはハンコックやジンベエも知らなかった事であり、自然と言葉を失う。

 

 「ナミ……!……早く、強く、ならねェと。ナミを支えないと、ナミが、壊れちまう……!あの時みたいに、壊れちまう!!」

 「……どういう事かな?」

 「ナミは〝守る為〟なら〝誰よりも強い〟けど、それは本当はナミが誰よりも弱いからなんだ。ナミが、エースの死を受け入れて壊れずにいられる筈ねェ!」

 「それは、心配するだけ無駄だろう」

 「なんだと!?」

 

 叫ぶように問い掛けたルフィに、レイリーは冷静な瞳を向けた。ともすれば冷たくさえ見えるその瞳で、ルフィを真っ直ぐに見据えて、ルフィが直視したくないと思っているだろう現実を突き付ける。

 情けも容赦も無く、突き放すように真実を告げる。それは、シャンクスと言う〝少年〟をよく知っているからでもあるのだろうが。

 

 「ナミちゃんは、シャンクスと居るのだ。アレは彼女を壊したままにはしないから気にする必要は無い」

 「おっさん……?」

 「シャンクスが惚れてる相手だ。壊れたまま治らないのならば、そのまま囲うだろう。そしてそこまで弱い女は、ルフィ君の邪魔にしかならない。捨てるべきだよ」

 

 冷淡な声。冷淡な言葉。

 それを受けてルフィは拳を震わせる。そして、レイリーを強く睨み付けて言葉を放つ。

 

 「それなら……」

 「ん?」

 「仲間を捨てるくらいなら!俺は冒険なんかしねェ!壊れたから、弱いから、そんな理由で辞めるくらいならそれは仲間じゃねェ!」

 

 ルフィの言葉の強さにその場が瞬間的に静まる。ルフィの言葉に嘘偽りや打算はない。

 素直に、心のままに、躊躇いもなくその言葉を口にする。何よりも優先すべきものが何であるのか、ルフィは知っていて、だからこそ違える事は無い。

 

 「ルフィ……」

 

 ハンコックは名を呼ぶが、ルフィはレイリーしか見ずに言葉を続ける。その言葉が、どれ程レイリーの心に衝撃を与えるかも知らずに。

 無意識で放つ覇王色の覇気。それが空気を震わせるが、それさえレイリーには楽しいとでも言わんばかりだ。

 

 「俺は、仲間を捨てるくらいなら、夢を捨てる!海賊王になるより、俺は仲間を選ぶ!この海で、1番自由な奴が海賊王だろ!……1緒にいたい、死なせたくないそう思う相手だから仲間なんだ。その仲間を捨てないとなれないようなのが海賊王なら、俺はならねェ!!」

 「……試して、悪かった。ならばルフィは、ナミちゃんが誰と何をしていても、捨てないと言えるんだな?」

 

 静かな声が、ルフィに届く。それにより先程までの怒りは何だったのかと問いたくなる程に、静かな様子でルフィは口を開いた。

 

 「シャンクスに食われてるってんなら、そりゃそうだろ。シャンクスは昔からナミを愛してる。多分、副船長もな」

 「知っていたのか」

 

 予想外だったのか、レイリーはその瞳を微かに大きくするとルフィを見る。ルフィはそれに当然だと言わんばかりに頷いた。

 

 「見てれば分かるだろ。そんくらい。2人とも、ナミしか見てなかった。俺しか知らないと思ってたナミの癖も、全部2人は知ってたんだ」

 「ルフィは、その2人のモノになっても、構わないと言えるのか?」

 「……俺のせいだって分かってて、責める権利なんかねェよ。ナミは俺の為に戦場に来て、俺を庇って戦場に残ってくれたんだ。そんな時にナミが自分を保護してくれて、守ってくれる、自分より強い最初の船長に抵抗なんか出来る筈ねェし、それを求めたら俺は人として駄目だろって思う」

 「ほぉ……」

 

 面白そうにレイリーが笑えば、ルフィはバツが悪いとでも言わんばかりに顔を背けた。そして、少しだけ寂しそうに言葉を紡ぐ。

 

 「妬いてるけどな。……ナミも、シャンクスや副船長の事は特別だから。今は俺の名前呼んでくれるけど、前はシャンクス、ベックって呼んでた。ナミが、助けを求める(・・・・・・)のは、そいつになら自分の全てを託せると思ってる相手だけだ」

 「よく、見てるな」

 「ナミは、俺の初恋だもんよ。……そもそもナミは自分が助けを求めるような相手になら、笑って殺される。そういう奴だから、俺がちゃんと守らないといけないんだ」

 

 ルフィの様子を見て、レイリーは笑う。そして、答えを分かりきっていながらルフィに問い掛けた。

 

 「ならば、乗るか?私の提案に」

 「あァ!宜しく頼む!おっさん!」

 

 そうしてルフィは手紙に視線を落とす。まだ読めていない続きがそこにはあったから。

 だが、開いたそこに続く文字を読み、ルフィは止まった筈の涙を1筋落とした。先程の手紙には、書かれていなかった言葉を見付けて。

 

 『だからどうか心配しないで。シャンクスは私を傷付けない。私は大丈夫。心配しないで。

 ルフィ、2年後にまた逢いましょう。それ迄、少しの間、さようなら。

 だけどどうか忘れないで。どれだけ離れていても、何があっても、私の心はルフィのもの。

 弱くて、ごめんね。それなのに、私はルフィを、愛しているの、他には何も見えない程に。ルフィじゃなきゃ、嫌だと思う私の我儘を許して。

 最愛の船長、ルフィへ。私は、貴方を愛しています』

 

 それを見てレイリーが人の悪い笑みを浮かべている事に気づかぬまま、ルフィは手紙を強く握り締める。そして、涙を見せるルフィの姿に、苦しそうな顔でハンコックが視線を向けていたが、それもまたルフィには気付く余裕等無かった。




1部分かりにくい表現になっていた所を修正致しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。