心配そうな様子で私を見てるハレダスさんに気付いて、私は気持ちを切り替える事も出来ないままにとりあえず笑った。ハレダスさんに心配かけるのは、本意じゃ無いから。
「ねー、天候ボールの事、教えてよ!」
「簡単に言うな!コレは我がウェザリアの大発明なのじゃ!!悪用すれば極論、世界を混乱させる程のな!!」
怒りからか心配そうな雰囲気は霧散する。それに内心でホッとした後で、少し考えてみた。
ハレダスさんからは戦争に行く前にも少しだけ教えて貰ってたけど……紐の威力とはそうなると桁違いの筈。だとするならこの天候ボールは……。
「……もしかして、武器になる?」
「コラコラ!!危ない事を言うな!!駄目じゃ!!」
ハレダスさんが使う紐は、結ばれてるそれを解くだけでもそれなりに武器となる。なら……それを作れる人がいて、これだけ危険だと騒ぐアイテムがあるなら……クリマタクトの強化が可能よね。
思わずにやにやと笑ってしまう。早くハレダスさんともっと仲良くならなきゃ、私、クリマタクトを強化したい。
「ニヤニヤすな!!」
「ハレダスさん、私、武器が無いと……この先、生きて行けないわ」
上半身をハレダスさんの方に意識して突き出す。それに動揺するハレダスさんを、私はうるっとした眼差しで見つめて小首を傾げた。
「む?」
「あの戦争みたいな事が、この先沢山起きるのはわかってるもの。うちの船長は、相手が誰でも気にせずに戦っちゃうから……。そんな時、私にまともな武器が無かったら……」
肩を落として、半分本気、半分演技で震えて見せるとハレダスさんが焦り出す。そして、武器を作るのは難しいが武器にはなると言ってくれたので、クリマタクトについて見せながら説明する。
それによりハレダスさんは頭を抱えたけど、預けてくれるなら組み込んでやると言ってくれた。それにお礼を言ってクリマタクトを預けると、私は外に飛び出して行く。
時間は有限である。少しでも時間を有効活用しなくては。
そう思って私は短剣を引き抜くと1人で舞い始める。その時、何処かからルフィの声が聞こえたような気がして空島の端まで駆けて行った。
覗き込んでも見える筈も無いのに、その先にルフィがいるような……そんな気がした。まだ新聞が出てないから、今ルフィは泣いているのでは無いかと、そんな気がして……同時にロビンの声が聞こえた気がしては、どれだけセンチメンタルになってるのかと思わなくもない。
でも、私には聞こえた気がしたのだから、仕方ない。これが空耳でも、想いだけでも届いて欲しいと……そう願って唇を動かした。
「聞き間違い」
音を確認する為に笛を吹くと、私はルフィを思い浮かべる。伴奏が終わると唇を笛から外して、想いよ届けと願うように祈りながらそっと歌い出す。
「ーーー」
離れているからかな。それとも風のせいかな。
皆の声がよく聞こえないのよ。何を私に、伝えようとしてくれてるの?
「ーーー」
ただ隣にいるだけで、見透かされてるような気分になるのは、大切な人達の共通項ね。空島にいるのに、まだまだ高い所に空がある不思議。
「ーーー」
いつもルフィの瞳は輝いて、まだ見ぬ島や宝、冒険に心踊らせていた。皆もそう、目標の為に、夢の為に瞳が輝いている。
私にもそんな夢はあるのに、共に居て良いのか不安になるの。こんなにも幸せで、どんな酷い未来が待ってるのかと、不安になるのよ。
「ーーー」
皆同じように、夢を目指して足を止める事無く歩いてる。私達はまだ、旅の途中……だからこそ、優しく支え合って行きたいと願うの。
せめて、支えたいと願うのよ。私には他に何も、出来はしないのだから。
「ーーー」
哀しみに、絶望に世界が彩られても、涙を流してもその煌めきを失わないで。皆には、皆にしかない力があるのだから、それを誇って進んで欲しい。
「ーーー」
1人ではどうにもならない暗闇に閉ざされて、瞳を曇らせても、星が輝くような僅かな希望は残ってるんだよ。1人が無理なら、私が梯子になって星空まで登れる道を作るから……。
「ーーー」
自分の不甲斐なさに崩れ落ちそうな時、無力感に押し潰されそうな時にも、私の聞き間違いでないのなら、風の中で大丈夫とそう言ってくれた声が届いてた。どれ程距離が離れていても、心は皆傍にいてくれてるね。
「ーーー」
皆が起きるには少し早い時間に、そっとベッドを抜け出しては、皆を起こさない様に、夢を叶えやすくなるように海を見詰めた。私は航海士だから、少しでも皆の夢へと続くその道標とならなくてはとずっと思ってるの。
皆の航海士で、いさせて欲しい。皆を導けるように、頑張るから……。
「ーーー」
1人でお金を集めていた頃、すれ違う肩がある度心が冷えていた。助けを求める方法さえ分からなくて、夏祭りの屋台にある金魚すくいで、掬われてしまった袋の中の金魚のような気分だったわ。
苦しくて、狭くて、視線が怖くて。自分では何1つ環境も何も変えられなくて……ただ、観賞される存在。
「ーーー」
望む未来と、足りない実力。そんなボタンを掛け間違えてるみたいな状況下で、夢だけが輝いていたけど、それだけじゃ生きていけなかった。
「ーーー」
大切な人に傍にいて貰う為の戦いは時に厳しくて、だからこそ私は人としても道を踏み外してしまう。でも、それでもいいと思えるくらい愛してるのだと、旅の途中で気付かされる。
盗作なのはわかってるけど、後悔は無い。大切な人に、生きていて貰えて、笑って貰えるなら私はどんな罪でも背負って行ける。
「ーーー」
ふわふわの雲に乗るなんて、想像だって普通は出来ないのに、ここではそれが叶ってしまう。毎日予想外の事があって、変な顔になりながら進んでるよ。
「ーーー」
巫女様とエースが並んで私に手を差し伸べる、優しい日常。頑張る理由なんて、それだけでも充分に思えてしまうけど、ルフィや仲間の為に頑張り続けたいと私が望んでるんだと気付く。
「ーーー」
素直で明るいだけで人には価値があると、本当にそう思うわ。ルフィもエースも存在するだけで、周りを照らして包んでいるのがその証拠でしょ。
「ーーー」
エースが生きてる事に歓び、頬が緩むのを感じる。今、私にしか歌えない歌が沢山あるから、私は歌っていたいと思う。
心のままに、想いを乗せて。大切な人に、少しでも届くといい。
「ーーー」
暗闇に心閉ざされて、その美しい瞳が曇る日は、今度は私が支えるよ。だからどうか、独りだと思わないで……私はいつでも傍にいるよ。
「ーーー」
私が闇の中にいた時、当たり前だと叫んでくれた時、その言葉の中に〝大丈夫〟と、そう言われた気がしたの。泣くしか出来なかった私に被せてくれた帽子の感触を、今でも忘れられない。
「ーーー」
あの時、ルフィの言葉に頷いただけの皆からも〝大丈夫〟そう言ってるように聞こえたの。戦いに向かって行く皆の怒りが、私の為に怒ってくれたその心が、私には何よりも尊かったのよ。
……だから今度は、私が守るの。支えられるような強さを、必ず手に入れて見せるわ。
歌い終えてから、笛で少し音を出す。それも終わった時足音が聞こえて振り向くと、そこには巫女様がいた。
「……ナミちゃん、貴女が誰なのかずっと考えてたの」
「巫女様?」
「私の……天使……っ!間違いない、貴女なのね……!」
そう言って私に抱き着いてきた巫女様は、返事を求めてなんかいなかった。恐らく、ナミちゃんを天使と言ったのではなくて、過去の私を巫女様は見てる。
姿が変わって、元々誰だったのか分からなかったと言うのならば、巫女様はやはり全てを覚えているんだろう。だとするならば、どれだけ苦しかっただろうか。
自分の死を覚えている……それは常に崩れそうな崖の上にいるような不安感を齎すと分かるから。それも、私の過去と関わりがあったなら、縋りたくなるのもわかる気がした。
「ごめんなさい……!ごめんなさい!私、守ったつもりだったのよ……!!苦しめて、ごめんね」
泣いている巫女様に、私は何も言えなかった。知らないからってだけじゃなくて、今ここで私が何を言っても、巫女様の心には刺さらない気がしたの。
だからそっと巫女様を抱き締めて、その頭を撫でる。鼻水とか涙とかで汚れる事が気にならないくらいには……今の私は巫女様が大切なのよ。
過去の私と巫女様がどんな関係だったのか、巫女様が何を謝っているのか、そんなのは分からない。けど……そんなに泣かないでと思うくらいには、今の私として、巫女様と私は友人なのだと思う。
震えながら泣き続ける巫女様を誘って、気分転換にとお風呂に向かう。その直後、僅か数分後に1緒に入らなければよかったと後悔する事になるとは、この時当然わかっていなかった。
「ふへへ……ナミちゃん、洗ってあげましょうねぇー……」
「やだ!やめっ!……ゃ……!ちょっと、どこ触ってんのよ!?」
「嗚呼、滑らかな肌、たわわな果実、温まってほんのり色付いたその肌と、それに伴い増した蜜柑の香り……」
「ちょっと、ねぇ、お願いだから帰って来て!」
半泣きで巫女様に声をかけるけど、血走った眼で私を見てる巫女様は止まらない。両手をワキワキと動かしながら迫って来るそれに、思わず強く目を瞑って巫女様とほぼ同時に私は叫んだ。
「綺麗にくまなく洗ってあげるわぁぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁぁ!!エースぅー!!」
最近何かあるとエースが間に入ってくれてたから、思わず名を呼べば風呂場に突入してきたエースが私を巫女様から助け出してくれた。何も着てないとか、そんな事は忘れてエースに震えながら抱き着くと、エースが巫女様をじっと見詰めて言った。
「ありがとう。……邪魔するなよ」
「何?エースも揉んでほしいの?」
「なんでそうなるんだ!?」
言いながら巫女様は焦るエースの背後を取り、腕を回して抱き着くとエースの胸を揉み始める。それにエースが止めろー!と叫ぶけど、巫女様はその顔をにやけさせるばかりだ。
そんな巫女様を振り払い、エースはヒョイっと源泉の出ている岩の上に飛び乗りべー!と巫女様を挑発する。それに巫女様がしっかりと反応して叫ぶのだから、悲しくもなろうというものだ。
「は!?ちょっと、私のナミちゃん返しなさいよ!これから揉み揉みして、なでなでして、可愛く鳴かせるんだからぁぁぁぁ!!」
「……ナミ、巫女様と風呂このまま入るか、俺と部屋に戻るか、どっちがいい?」
「エースと部屋に行く……!」
巫女様にそっちの趣味は無いらしいけど、悪戯も程々にして欲しい。とりあえずもう泣き止んで色々落ち着いたみたいだからと、私はエースと共に脱衣場へ向かい、バスタオルで身体を拭こうとした。
そこでそのバスタオルをエースに奪われて、腕ごと巻き付けられるとそのまま抱き上げられて部屋へと連れて行かれる。そんなに急がなくても巫女様も早々追いかけて来ないと思うけどと首を傾げる私に、エースは困ったように笑う。
「本気で、なんもわかってねェな、ナミは」
「えっと、巫女様から助けてくれてありがとう」
そう言えばお礼を言ってなかったと気付いて、少し慌てて言えばエースが動きを止めた。それから天を仰ぎ、何やら1人でブツブツ言い出したと思った直後、エース用にと用意されたその部屋に驚く程の速度で移動を開始したのだった。
でも、エースの部屋だと私の着替えがないから困るんだけど……。そんな私の思考は、エースには全く届かなかった。