※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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思いがけない再会

 それからいったいどれくらいの間、私はエースに抱かれたのだろう。必死になって押さえていた声は、既に抑えるまでもなく音にならない。

 殆ど力の入らない体で、必死になって寝てるエースの横から這い出るとそっと壁際にある投げ捨てられたバスタオルを手にして巻き付ける。そのまま動く度にエースにより出されたモノが流れる不快感をそのままに、建物を出た。

 するとそこには、脱衣所に置き去りにしてしまった武器と手荷物があって、メモが1枚付けられていた。巫女様の手だと即座に理解して目を通せば笑ってしまう。

 

 『お風呂では興奮し過ぎて、ごめんなさい。ちょっと理性が家出してたの。服は洗って部屋に返しておくわね。それ以外のはとりあえず、返しに来たけど入れない感じだから、ドアの所にまとめて置いておきます』

 

 どうやら巫女様はエースとの真っ最中に来たらしい。今後巫女様と顔合わせにくいななんて、そんな事を考えながら自分の部屋として用意されてる建物を目指す。

 けれども身体が余り言う事をきかなくて、そんな時に覇気によりエースが建物を飛び出して私を探してる事に気付いた。これは不味いと慌てて足を動かした時、足を縺れさせてしまった私は、坂を転がり落ちて行く。

 途中でタオルを失い、下にあった天候ボールの上に落ちると、短剣がうぃーんと音を立てて揺れる。何事かと視線を向けた直後、目眩のようなものに襲われ、意識が混濁していくのを感じた。

 意識がハッキリした時、私は見知らぬ場所にいる事に気付いた。小さな……船の、なか?

 それは明らかに小舟で、乗れて2~3人が限界だと分かる。今は乗ってる人は見当たらないけど……てか、裸なのは困るわね。

 状況確認の為に陸に移動したいけど、流石に裸体でという訳にはいかない。そんな時、人の声が近付いてきて私はどうしようかと辺りを見渡すけど、隠れられる場所も見付からずに焦る。

 あったとしても動けたとは思えないけど。そんな時聞こえた声は、どうしてか聞き覚えのあるもの。

 

 「…………ナミ?」

 

 声に導かれるように視線を向けると、そこにいたのはある意味で物凄く見覚えのある姿をした、ロシーがいた。近くには幼いローちゃんがいて、2人を交互に見てから、混乱する自分を自覚する。

 だって、なんで、ローちゃんが小さくて、私、大人の姿で……でも、あれ?

 

 「ロシー……?」

 

 声を出してみたらすんなり出せたのは、あの光に包まれた影響なのかな。だとしたら、この倦怠感も軽減してくれたら良かったのに。

 

 「あァ、とりあえず、挨拶の前にこれ羽織っててくれ。服、用意してくるから」

 

 ロシーはそう言って私にコートをかけると、ローちゃんに昔馴染みだと言って去って行く。……色々、待とうよ。

 整理しよう。私は巫女様とお風呂に入って、エースに犯されて、そして……逃げ出して、坂から落ちたわ。

 そこまでは何も問題ない。イヤあるけど、そんなのは現状的に言えば微々たる事よ。

 それで、その後……?

 改めて自分の姿と持ち物を見てみると、少しヒビが入った天候ボールが1つと、いつもの武器。いつもの手荷物があって、私は裸だわ。

 目の前には明らかに小さなローちゃんが、不機嫌そうに私を睨んでいる。つまり、私は何らかの理由で過去の時代に移動したのだろうか。

 確かにロシーの姿は、シャボンディ諸島で会った時よりも若い気がしたわ。でも、だとしたら何故ロシーは私を知っていたの?

 待って、そうよ、ドフィも確か幼い頃にって言ってたわ。今の姿は明らかに幼くは無い様子で……だとしたら、私はこの時代に飛んだルートとドフィ達の幼い頃に飛んだルートがあったという事?

 ……それもおかしい。そうよ、私が初めてロシーに会ったウォーターセブンで、会う度に初めましてだとか言ってたわ。なら、私はこの後更に幼い頃のドフィとロシーの時代へ飛ぶと、そういう事になると考えるのが妥当。

 いつ、どうして、どうやって、時を遡ったのか。そしてまた遡るのか。

 それが分からないと不安だわ。何より、どうしたらルフィ達のいる本来の時間に帰れるのかな……。

 最悪の場合何年も普通に時を重ねて生きて、約束の時まで待つって手法になるわね。その時ロシーとドフィの幼少期からだと何十年よと考えて、背筋が冷たくなるのを感じた。

 それでも何もしないでボーッとしてるのは時間の無駄だからと、手荷物に天候ボールを入れる。そんな私に向けられた訝しむ声。

 

 「……海兵じゃ、なさそうだな」

 「え?」

 「コラさんの昔馴染みなら、同僚か部下かと思ったんだが……違うな」

 「ロシーの職業を……」

 

 既に、ローちゃんがロシーの正体を知ってる。なら、もしかして、もう悪魔の実の情報が入って来た後なのかな?

 雪が降ってないから、問題の島ではないと思うんだけど……。どうなんだろう……?

 

 「知ってる。実際俺は今も変わらずに、海兵を含めた政府関係の人間は大嫌いだ。……でも、コラさんは、違う。あんな愛情深い人を、俺は嫌えない」

 「そっか……ローちゃんは、いい子ね」

 

 そう言って頭を撫でた時、鋭い視線が私を貫いた。そして私の手を振り払うと、警戒する子猫のような態度を取られてしまう。

 

 「あんた、なんで、俺の名前知ってんだ。コラさんは俺の名を呼ばなかった。俺も、名乗ってねェ!!」

 

 しまった……!そう思った私に短剣で襲いかかって来るその技術は天晴なもので、身体がろくに動かせない私は簡単に船の中で押さえ付けられてしまう。

 力も、子供とは思えない位あるし、手加減が皆無な分、大人のローちゃんよりも厄介かも知れないわ。そう思った時、ローちゃんの力が微かに緩んだ。

 

 「……お前、襲われて逃げ出してきたのか」

 「え……?」

 「……まァ、可愛い顔してるし、体型も稀に見る良さだからそうだよな。ドフラミンゴの所から俺達を連れ戻しに来た工作員にしては、弱過ぎる。……ナニモンだ?」

 

 顔を覗き込んでそんな事を聞くローちゃんに、私は困ってしまう。そんな時ロシーが帰って来て、何してるんだと喉に短剣を突き付けるローちゃんを引き剥がしてくれた。

 

 「ロー、何があった」

 「こいつ、俺の名前知ってたから、間者かと思って調べようかと」

 「彼女はナミ。夢で自分の関わる相手をたまに見る事があるらしい。人の名前を知ってる他は役に立たないが、先読みの能力を持ってるんだ」

 「悪魔の実の能力者か?」

 

 ある意味で当然とも言えるローちゃんのその問いに、ロシーは違うと言って笑う。それによりローちゃんは私のを見ると、呆れたような顔をした。

 

 「男から狙われる為だけに存在してるような女だな。弱くて、可愛くて、スタイルも良くて、ほんの僅かでも未来を知る事が出来るなんて」

 「ロー……お前な……」

 「ついさっきまで、男に犯されてただろ。お前」

 

 その言葉に身体が勝手に反応してビクリと震えると、ロシーが私を見て慌てて服を押し付けて来た。それをありがとうと言いながら受け取ると、心配そうな眼差しでロシーが私を見ているのに気付く。

 でも、何も言えなくて俯くと、ロシーは頭を軽く撫でて着てくれと言う。なので私はそれに素直に頷いた。

 2人に背を向けて服を着てしまうと、その間にロシーはローちゃんからどうしてそう思ったのか等を聞いて、私はその会話からやはり2人が既に仲良くなっている事に気付く。それと同時に、ローちゃんが医者の息子として生きていたのだと痛感させられていた。

 

 「鬱血痕も身体中にあるし、雄の放つ特有の臭いがある。下半身に震えがあって、裸体で震えてりゃ犯されて逃げて来たとしか思えねェだろ」

 「ドフラミンゴから、教わったのか?その辺の知識は」

 「父様からも少しは聞いてたし、実際そう言う患者を保護した事も少なくねェ。……自暴自棄になって女に暴行する奴らも、一定数いたからな」

 

 その言葉で息を飲まされる。他と戦う事で仲間意識が高まり、中では比較的安全に生きてきたのかと思ってたけど、確かにそれも有り得るのだと漸く気付いたから。

 それは同時に、他で戦った興奮を抑えられずに襲う人間もいただろうとわかる。そうなれば、あの悲劇の中で無垢と呼べた時代でさえローちゃんは凄惨なそれを当然として見て育っていたのだろう。

 

 「……2人は、これから何処へ行くの?」

 

 脳裏では泣き叫ぶ子供達と燃え盛る炎がチラつく。それを誤魔化すように問い掛けると、ロシーは医者を探しているんだと答えた。

 それを聞いて、まだ悪魔の実の情報は入ってないのだと気付き、口を開いたその時……ロシーの電伝虫が鳴り響いた。それにロシーが出れば、聞き慣れた声が聞こえて来る。

 

 「『俺だ……コラソン。コラソン、お前だな』」

 

 ロシーはそれにトントントンと3回電伝虫を指で叩く事で答える。ローちゃんは黙っていて、私は脳内を整理しながら話を聞く。

 この電話の時、ローちゃんが初めてロシーをコラさんと呼んだ直後だったと思ったけど、何か違うのかな?

 確かに原作ではただ電話だと言って起こしてたけど、アニメだと食事出来て、それから起こしてたから、何か小さな違いはあるかもしれないわね。

 

 「『お前らが飛び出して、もう半年だ……。ローも1緒か?』」

 

 トントントンと3回、ロシーからドフィへ返事が返される。それにドフィは嬉しそうな声を出す。

 恐らくドフィは、本当に嬉しいのだろう。なんと言っても、可愛い弟と将来は片腕にと考えている少年の安否が分かったのだから。

 

 「『そうか、2人共無事で何よりだ……!!いい医者はいたのか……?』」

 

 トントンと、ロシーが返せばドフィはだろうなと低く返す。ドフィも2人が共に居た時、調べたりしたのだろう。

 治せるモノなら、恐らく片腕にと願ったローちゃんの為に、その医者を用意するくらいはしただろう。けど、状況は変わった。

 半年、情報が漏れずに海軍が攻めてこない日々が続いた時、それ迄は子供嫌いだと誰もが思っていた男が子供の為にと姿を消した。疑わしい事この上ない状況下で、ローちゃんを治せるアイテムが手に入ったのだから……どう転んでも損のない計画に使うのは当然とも言える。

 もしかしたら、ローちゃんが船に荷物を取りに行こうとした所でロシーが目覚めて、例のコラさん?と言う嬉しそうにしてたシーンの会話をしながら2人でここに来たのかも知れない。だとしたら、ここまでは原作通りと言う事になるわ。

 

 「『ローを連れて船に戻れ!!……病気を、治せるかも知れない……!!』」

 

 ドフィの言葉に反応するロシーに、ドフィはそれとは知らずに情報を与える。けれども、ドフィの中で疑わしいとなったその時から、ロシーを殺す事は決めていたのだと気付かされてしまう。

 その命と引き換えに使える能力を、弟に使わせる事を決めたのだから。そして恐らくは本当に、ドフィにとってそれは誰よりも大切な存在にやらせるつもりであった事なのかもしれない。

 誰よりも大切で、誰よりも信頼できるから、その地位を託して、最後には自分の為に死ねと……そう、言うのだろう。だからこそ、その地位は〝コラソン〟……心臓、心を意味するのだろうと思う。

 ……歪んでるわ。でも、それが何故か酷く悲しい。

 ドフィが齎した情報は、海軍が取引する予定の悪魔の実を奪うという物だった。通話が終わるとロシーはローを抱き上げて、喜びながらその場で回り始める。

 そして続くやり取りの後、ロシーは私を見てごめんと呟くように言った。その謝罪の意味が分からなくて首を傾げると、ロシーは困ったような顔で私を見る。

 

 「兄弟で仲良くするように言われてたのに、今じゃ敵同士だ。ごめん」

 「……違う人間だもの。仕方ないわ。でも、お願い……その情報を〝報告〟する時、取り引きを妨害する者がいるかもしれないからと言う程度の警戒に止めて!1網打尽にするような計画では、ドフィにロシーの裏切りを決定付てしまうわ」

 

 ドフィが悲しむのも、ロシーが追われて傷付けられるのも、私は嫌だと思う。兄弟であるのに、殺す姿も、殺される姿も、見たくは無い。

 もしかしたらここで私が言ったこれにより、2人は無事に逃げ出せて、原作では生きていなかったロシーが、私の過去であり彼等の未来である時の出会いに繋がったのかも知れないわ。そう思ったら、必死にもなる。

 そんな私を見て、ロシーは静かに頷くと、寂しそうに笑う。それは痛みに耐えているようにも見える。

 

 「ロシー?」

 「知らなくても、愛してくれるんだな」

 「知らなくて、ごめんね。でも、甘いって言われても譲れない事はあるの」

 「分かってる。……ナミは、賢いのに馬鹿で、残酷な程に優しいのは……よく知ってる」

 

 そう言って抱き締めてくるロシーに、色々気になる単語はあったけど今は黙るしかないかなと大人しく抱き締められる。そんな私とロシーの様子を静かに見ていたローちゃんが呆れたような顔をした。

 

 「疑うのにも疲れて来た。……ナミ、1つ言いたい」

 「なぁに?」

 「俺の性別を知ってるなら〝ローちゃん〟と呼ぶな!」

 

 突然の怒号に驚き、同時に困ってしまう。だって、私の中では既にローちゃんと言う生き物なんだもの。

 それを言ったら怒られそうなので、善処するわと言ってみたけど、多分改善できないだろうなと自分でもちゃんと分かってる。ロシーが離れた瞬間に、そっと手を伸ばせば、疲れたように溜息を落として近くに来てくれたローちゃんの頭を撫でれば、ロシーはその様子に少し嬉しそうな顔で笑った。

 それからロシーは深呼吸して、そっと電伝虫に手を伸ばした。もう1人の父親に、連絡を取る為に。

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